期待しないで読んでください。
「ねぇ、こっくりさんって知ってる?」
「……何、その使い古された怪談の導入みたいな」
「やめて! 話の腰どころか踏み出した足首からへし折るのやめて!」
そんなこと言われても。
「こっくりさんってあれでしょ、十円玉で霊と交信するとかいうやつ」
「そうそうそれそれ」
「じゃあ私はここで」
丁度教材も詰め終わったので机の上の鞄を肩に掛ける。今週末は予定ないし、家でゴロゴロできる、やった。
「ちょっ、興味もって!?」
「だって怖いの嫌だし」
「そんな堂々と言わないでよ! ここは煽られて『はぁ!? 怖くないし!?』って言ってやってくれるやつでしょ!?」
そんなテンプレは知らない。嫌なものは嫌だ。言葉にしないと伝わらないというか言葉にしない限り何も考慮してくれないこの友人に対抗するためにはこうやって先手を打つことが必須だ。これテストに出る。
あと、別に私は怖いの苦手じゃない。目的の為なら嘘を吐くことも必要だと思う……。
「ねぇ~! や~ろ~う~よ~!」
「ごめん小銭持ってないから」
「大丈夫。私十円玉五十枚持ってる」
滅茶苦茶重いじゃん。
「おい跳んでみろよ」
「ひぃ……わ、わかりました」
ぴょんぴょん。
「「…………」」
「……あ、財布鞄の中だ」
「帰るね」
「待って待って待って」
もう話すことはない。さらだばー。
「お願い! 一回だけ、先っちょだけだから!」
「先っちょって何の?」
指先? 十円玉に触れる面積の話?
「使った十円あげるから!」
「何か呪われてそうだしヤダ」
「じゃあ使わなかった四九枚」
「やろう早くやろう今すぐやろう」
十円からいきなり四九〇円なの中々頭おかしいよね。
「じゃあ取り敢えずこの紙を広げて……」
友人が鞄から取り出した紙を広げて……
「いやデカイって」
模造紙そのまま使うことそんなないよ?
「だってさ、こっくりさんって大体机の上に乗るサイズの紙でやってるじゃん?」
「うん」
「でもさ、それって何人も十円玉に手を重ねると狭いじゃん」
「紙より十円玉のサイズの問題じゃない?」
「狭いと動きずらいじゃん」
「聞いてる?」
「だからよろけたときとかに指がピュッて動いて十円玉がシュッでなっるじゃん」
「なるね」
「だから模造紙」
「なるほどわからん帰るわ」
「ステイステイ。ほら、十円玉だよー」
寄越せ、その十円玉。
「はーいこれをここに置きます」
広げられた紙の鳥居の絵が書かれた部分に十円玉が置かれる。こっくりさんのスタート位置だ。神社から出てくるって神聖な感じするけど、ホラーだと大体ロクなやつ出てこないよね。そもそもこっくりさんってお稲荷様じゃないっけ。ただの狐の霊だったっけ? 狐に何を質問するんだ。
「ほら、指置いて」
「はいはい」
さっさとやってさっさと十円玉を貰わなければ。四九〇円ってデアゴステ〇ーニの創刊号買えるからね。大金だよ。デ〇ゴスティーニしたことないけど。
「こっくりさん、こっくりさん、聞こえていたらお返事下さい」
尚、呼び掛けは適当に考えたそれっぽいやつである。
すると、十円玉が『はい』の文字へと動、動……
「力込めるな」
「な、何が???」
「白々し過ぎる」
私が十円玉を動かせまいと押さえつけると、同じく十円玉を押さえるもう一本の手は力んだようにプルプル震えている。ちょっと面白いからやめてほしい。
「小学生じゃないんだからやめなよ」
「中学生だから、中学生だからまだセーフ!」
「そういう問題じゃないでしょ」
そも中学三年生だから。中学生としては小学生から最も遠い位置だからね?
「ほら、もう力抜きなよ」
「別にずっと押さえてなくたって良いじゃん」
「私が手、離した瞬間またやり始めるでしょ」
「何故バレた……!」
「貴様程度の知略で我を欺けると思うなよ」
ふはは、片腹痛いわ。
……あの、片目押さえてその手をもう片方の手で掴むのやめてもらって良いですか。心の古傷が痛むので。生傷じゃないです、もう治ってます。……たまに瘡蓋が剥がれるけど。
「たまに滅茶苦茶ノリ良いよね」
「乗るも乗らないも気分次第だから。そんなことより早く力抜いてよ」
「え? もう疲れたし手離したけど」
「え?」
「え?」
……じゃあ、何でこの十円玉は動こうとしてるの?
「……そういえばさ」
「なに?」
「こっくりさんって、キツネ、イヌ、タヌキで狐狗狸さんって書くらしいよ」
「へー……で?」
「それだけ」
「そっか」
「「…………」」
この十円玉すごい暴れようとしてる。さっきからマッサージチェアの最高レベル並みに振動してる。腕が、腕が疲れる……!
……マッサージチェア座ったことないんだよね、どんななんだろ。
「よし、この鳥居周辺の紙ちぎって」
「おお、ナイスアイデア」
こうすればこっくりさんは何も意思表示出来なくなる。つまり私たちの勝ちだ(?)。
「せぇいっ!」
「私がコイツを押さえている間に……早く……!」
私を置いて先に行ったら許さない。化けて出てやるからな。
というかビリビリうるさい。ハサミないんかな、ハサミ。
「あとちょい……」
「はやくー」
この十円玉そんなに強く動かないし、正直ちょっと飽きてきたから早く終わってほしい。
「よし、ちぎったよ」
「これで終わりか」
十円玉も抵抗を止め、遂に大人しくなった。良い達成感。
「早く帰ろ」
「そだね」
『待って』
「いやもう帰ろうよ」
「そうそう、思ったよりこっくりさんがガッツリ出てきたから疲れたんよ」
『待って』
「あーもーめんどくさいなー」
「早く帰ろうよー」
『いや待ってって』
だから待たな……誰?
『遅くない?』
コイツ、脳内に直接……! 喰らえ、十円玉!
『まあ霊だしね。口がない以上聴覚に訴えるのは無理だから……十円玉投げないでよ』
「そうだね(?)」
「なるほど(?)」
『霊だからもの投げても当たんないけど危ないよ? 紙ちぎられたから儀式台無しだし』
「別に帰って貰っていいんですけど」
「うん」
『私も帰りたいけどそういうルールだからさぁ』
「ルールかぁ」
「死んでも世知辛いんだね」
『現実なんてそんなもんだよね』
中学生風情で人生語って良いものか……まあいっか。どうせ大人になろうが変わらん変わらん。幽霊だってこんなノリだし。
『で、ルールだからあれだけど、何か質問ある?』
「掲示板……?」
『おー今度やってみよ』
ハイテクだ。今は霊もネット掲示板に書き込む時代か……掲示板は古いかもしれない。こっくりさんなうってインスタに……なうも古い? じゃあもうどうすれば良いんだってばよ!
『じゃなくて質問をさー』
「じゃあなんでこっくりさんなんてやってるの?」
「確かに」
そもそもこっくりさんが何してるのかはよくわかんないけど。
「選ばれたとか?」
『そうだねー』
選ばれし存在……? かっこよ。
『いやー生前ずっと授業中船漕いでたからあだ名がこっくりさんでさー。気づいたらこっくりさんやってたね』
前言撤回かっこわる。なら私も死んだらこっくりさんなれるわ。
『じゃあ後輩じゃん』
「私も授業中寝ようかな……こっくりさんなりたい」
何を思って志願してるの?
『こっくりさんは良いよー。最近はあんまり多くないけど、子供に呼ばれたときに出ていって十円玉適当に動かせば良いんだもん』
「職務怠慢では」
「ちゃんと答えてあげなよー」
『だってさぁ、ずっと人のコイバナ聞かされても……たまにとんでもなくドロドロしてるのあるからね』
「子供なのに?」
『子供なのに』
最近の子供はませてるなぁ。私も隣の友人も浮いた話なんて一つもないよ。何でだろうね。
『中三でこっくりさんなんてやってるからじゃない?』
ぐぅの音も出ません。
「そろそろ帰る?」
「そうだね」
『私も質問答えたし帰ろっと』
あ、そうだ。
「十円玉寄越せ」
「あ、そっか」
『私が操ってたやつも拾っときなよー』
そういえばその十円玉どこやったっけ。さっき投げたからどこ行ったかわかんない。
「探そ」
「うん、そこら辺にあるでしょ」
『私は眺めてるね』
私たちが這いつくばって十円玉を探すのを見下ろすこっくりさん……なんかムカつく。まあいいや。
「お、あった」
思ったよりすぐ見つかった。拾、拾……
「拾えない! こっくりさん悪戯ストップ」
『何もしてないよ?』
「「え?」」
『え?』
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ。
やめろ動くな気が散る。
「じゃあ何でこれ動いてるの?」
「うん、こっくりさん以外それっぽいことできそうなのいないよ?」
そうそう。私も友人もそんな主人公になれそうな能力持ってない。
『儀式を変に中断したから、とか?』
それはつまり、本来とは違う結果……例えば、呼ばれるべきじゃないモノが呼ばれた、とかそういう……。
『あ』
「「え?」」
動いた十円玉は、確かにちぎれた紙の上に乗っていて、その下には『はい』と書かれていた。
「っていう夢見たんだよね」
「夢落ちとかクソじゃん」
クソじゃん。