君がこっちに手を伸ばしたんだよ。 作:大日陰山
ところで、VTuberの中には、大人と子供を、あるいは人間と魔族なんかを行き来するモノがいる。
いやまぁ九割設定なんだけど。
どういうことかと言うと、なんだ、飴を食べる、刀を持つ、夜になる、口調を変えるetc...で、そういったトリガーを作る事で、一人のVTuberでありながら二つのアバターを有す者達。
彼ら彼女らのソレが設定であることなどリスナーは分かり切っていて、けれどそういうRPだと、そういうモノだとして楽しむ。
私はそれを利用する事にした。
「じゃあ四麻忖度無し役満耐久天和地和人和以外出すまで追われま千! やっていくよー」
「あ、今は
「36じゃねえよ24だよバーカ」
「何時まで、だぁ!? んなもん終わるまでにきまってんだろーが!」
とまぁ、こんな感じで。
頭が良くて、スレてて、大人っぽい言動するのは全部水鳥亜美に任せる事にしたわけです。
まぁ、任せると言っても、別に意識はあるし。封じ込められている、みたいなファンタジーなことはないし。
ただなんか、ちょっというつもりのない事言っちゃうくらいで、あんまり支障はない。
どの道来年には高校生に上がるのだ。
出来る事も、やれることも増える。R18なことやオサケはダメだけどね。
「おぉ、最初から……これは!!」
{三萬}{六萬}{八萬}{一筒}{六筒}{一索}{五索}{八索}{東}{南}{北}{白}{中} {中}
「十三不塔!? 十三不塔じゃないかRydeen!!」
「してるわけないんだよなぁ」
「定期あざ~」
まぁ、正直言って。
今回の件を経て、配信スタイルが変わったとか、そういうことはあんまりない。
その大人と子供の設定が付け足されたのと、妥協の方を隠さなくなったくらい。
本来は、というか、大体のVTuberは大人が子供のフリをして始めて、でも色々やれる幅を増やすために大人の身体を手に入れる、という事が多いけれど、私は逆。
子供がちょっと解離性同一症だったから、もう一つに大人を押し付けた感じ。
なんでややこしいというか、リスナー達は前者で考えがちなせいで、お酒やタバコがいけるクチ、だと思われてしまう。だから「飲み会参加しないの?」とか、「お酒何飲んでるの?」とか。
所謂アルハラ、になるのかな?
そう言うのに対しては、けれど水鳥亜美がちゃんと対処してくれる。
"配信でヘマするの怖いから飲まない"とか、"下戸だから無理"とか。
飲んだことがないのでお酒事情はわからないのだけど、そういう知識もちゃんと裏打ちしているらしいので流石だ。私の知らない所で調べてるんだろうなぁ。
「あ、そうそう」
ん。また私の言うつもりの無かった事を。
「こんど、DIVA Li VIVAのあの人とハイパーウサギメンのコラボするから」
「そうそう。ailaさんねー」
え。
知らないけどそれ。
知らないけど。
「あ、ちなみにその時は子供モードで行くから……お前らわかってるよなぁ?」
知らないけどそれ。
知らないけど。え、コラボするなら自分でやってよ。
とか、よりも。
「神秘的は、無い。あの人普通にお……姉さんだよ。ケッコー普通の人」
「国士ないすー」
自分の言葉が出た。
ああ、なんだろ。ヘンな感じだ。本当に。
これさ、紛う方なきトクベツじゃない? ビョーキだから、あんまりプラスな方向には捉えられないけど。
……ゲームコラボ。
実況者時代となんら変わらないけど、まぁ、まぁ。
いいでしょう!
相手はあのailaだし。ゆくゆくは、もっと凄い事をやるのだろう。
その"凄い事"の一部はちゃんと、企画として進行中だし。
「……やべ、飽きてきた」
「忖度無しって言ったよなぁ!?」
というワケで。
私の配信事情も、私の心の事情も、こんな感じです。
こんな感じで、そんな感じで。
私は違う方法で、先に行かせてもらうからね、二人とも。
ГГГ
と、まぁ。
そんな綺麗には問屋が下ろしてくれないのです。
「……そうか。すまない、私が先に気付くべきだった」とか。
「ごめんなさい。病院に行け、という言葉は、突き放すものだったわね」とか。
「大丈夫、なんですか?」とか。
「……」とか。
事情を知らないリスナーと違って、裏方はお通夜ムード。
別にいいのになぁ、自己完結したのになぁ、という思いとは裏腹に、そういうことを言う度、告げるたび、ごめんなさいだのすまないだの大丈夫? だのが帰ってくる。
こんな時にアイツがいればなぁ、と思ってしまうのは、仕方がないと思うんだよね。
「……なんにせよ、だ。砂川とお前の……その、別人格? が推し進めていたイベントは、決行する。あれだけの技術、あれだけの規模感。成功する確信がある。ただし」
「真意を聞いてから──ですね」
まぁ、そういうことなのだ。
要するに、私を乗っ取ろうとしていた水鳥亜美が、私に隠して推し進めていたこの企画。
それには何か──たとえば、MINA学園projectに害を齎す可能性のあるもの、だったり。あるいは、リスナーに、演者に、何か変調を来す可能性のあるものであったり。
実は巧妙に隠されていたリスクがあるのではないか、という。
そういう、問いだった。
「ないよー、別に。"現実のその先へ"行く、ってHIBANaが行ってたから、座して待つだけのあの子より先に、自分のアイデアで行ってやろうって思っただけだし」
「意趣返し、ということかしら?」
「意趣返しっていうか、じゃあ聞くけどさ、悔しくないワケー? 卒業しました、もう戻って来ません、けじめですー、で涙のお別れの後に、スカウトされたので歌だけ続けます、大企業です、もっともっと多くの人に歌を届けられるし、感動を響かせられますー、って。ズルいじゃん、そんなの」
ズルイ。
そうだ。それは、同意する。
そうだ。ズルイ。
「それは」
「MINA学を捨てて私も行きたい、とかじゃないから、変な杞憂しないでねー、遥香さん」
「う、あぁ、すまない」
「雪さんは分かってくれると思うんだけどねー。あの、流されるだけで自分から行動してない奴が、先に行く、とか。私達はこんなにも足掻いてるのに追いつけない、とか。はぁ? ってならない?」
「なるわ。全面的に同意する。なんなら半年前、あの子にはそれをぶつけてる」
「じゃあ行動しようよ。マンネリしてるんだって。たとえ悪意溢れた世の中に苦言を呈すのが雪さんの目的だったとしても、やってることが変わらなければ何も変わらないよ。おんなじ力で押したって相手は疲れないよ。もっともっと強くならなきゃだし、もっともっと重くならなきゃ」
「……それは、そう、ね」
人気者になりたいと。
インフルエンサーになりたいと。
今の場所を、守りたいと。
何をするにしても、行動は大切だ。現状維持では守れないものがある。何故って、あらゆるものは風化していくから。
同じことを続けていれば、目新しさはなくなるだろう。新規を受け入れる気はもうない、なんてカッコつけたって、古参や常連までもが離れて行くのなら焦るだろう。
何かをしなければ。何かをしたい。
何かを出さなければ。何かをやりたい。
マンネリが嫌だ、というのは、嫉妬でも妥協でもなく──恐怖だ。
だってこんなところにいたら、ズルイとも思えない。羨ましいとも思えない。
届かんとするから、届かんと頑張るから、ズルイと思うのだ。
口先だけで何もしない奴に、私も私も、なりたくはない。
「じゃあさ」
「じゃあ」
言葉が重なったのは、なんと湊元ちゃんとだった。
私達は一度顔を見合わせて──声を紡ぐ。
「成功させようよ、このイベント。私が考えた奴じゃないけど、凄い……未来がある」
「私は私に出来る事をしたいです。その、解離性同一症とか多重人格とか、よくわからないけど……どっちも亜美ちゃんだし、ななちゃんに思えるから。その手伝いをしたい。ううん、手伝いじゃなくて、一緒に頑張りたい。私には……水鳥亜美ちゃんが、私達に何か害を与えるような存在だとは、思えないですから」
「だってさ」
「なんで俺を見るんだ八尋」
「織部さんが一番心配してたからですよ」
「まぁまぁ、お二人とも」
MRとSRを使った、個人グループがやるにしてはあまりにも余りにもな規模感のイベント。
それはやっぱり、私達が一緒になって、初めて成功するものだ。
仲間外れにする癖、やめなよ、とは。
誰かさんも言っていた事だし。
「リーダー」
「うん。じゃあ、このイベント……『DESINENCE』。絶対成功させようね!」
「おー!」
というところで、私のお話は終わり。
あの子達のお話の、端っこの端っこ。
誰も見てない、誰も気にしていなかった私の、そんなことがあったんだよ、って。
いつかあの子にも、笑って話せるくらいの──二人のお話。
ГГГ
「……そういえば、某匿名骸骨仮面……もう言っちゃうけどHIBANaが『鏡の奥の私』を送りつけてきたのって、そういう事だったのかな」
「いや偶然だろ。だって送り付けられたのは湊元だぞ」
「それはそう」
ГГГ
/GBO EJTL - 1←
ああ、そうそう。誰と誰が、という話
誰と誰が、恋をしていたのか──
それは勿論、私と、私が