妹を奪われ、釣り上げた相棒と共にテイワットを旅する旅人、空。
神々が統治するこの世界で、彼らは何を見るのか______

____あれ、違う。
______様子のおかしい彼らの抱えたものとは一体_____()


【注意|オリキャラが出てきます】
(ハーメルンでは)処女作です。
シリアス濃いめのネタ小説です。
脳みそを家出させて読んで下さい。

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魔神任務第二章第二幕までと、各キャラクターのストーリー、伝説任務のネタバレを含みます。

この小説は夢小説ですが、夢主達とキャラの間には一切の恋愛感情はないです。そう見えるかもしれませんがそんな意図はないです。

誤字脱字はご愛嬌でお願いします。


イレギュラーの多いこの世界で⦅もがく誰かの、足跡。⦆

「この間依頼された分はできたぞ、持っていけ」

「ありがとう、ワーグナーさん」

 

依頼していた仕上げ用魔鉱を受け取って眺める。

透き通っていて、鉱石らしい輝きを発したそれは使いやすそうだ。

丁寧なカットと研磨に、これをひとつ3分で作り上げたワーグナーさんの腕を感じられて、

にこにこと笑ってしまう。

 

「お、旅人じゃないか。相変わらずいいもん作って貰ってるなぁ」

 

聞き覚えのある声に眺めるのをやめて顔をあげると、ニコニコと…

いや、ヘラヘラと?笑って手を振るガイアが立っていた。

 

「ガイア?おはよう、今日は公務じゃないの?サボり?」

「おいおい、信用がねえなあ。俺ほど真面目な人間はそうそういないと思うぜ?」

「…………」

 

相変わらず胡散臭いことこの上ない。

しかし、空はこの態度がガイアの自衛であると“知っている”。

 

「…すまんすまん、公務中だよ。今日は見回りなんだ。

………だからその顔やめてくれないか?」

「えっ、俺変な顔してた?」

「懐かしい、って顔だな。いたたまれない」

 

…顔に出ていたらしい。

まずいな、これはバレると困るのに。

 

「兄としての感情が反応したのかも…?」

「…お前の妹さんこんなんなのか…?」

「は?蛍は良い子だからそんなことしない。あと自分をこんなんは駄目でしょ」

 

まったく“前”と変わらず自己肯定感が低いらしい。

自信満々に見せているが節々から漏れ出る本音に嘆息したくなるほどだ。

あと引き気味に聞くな、蛍は絶対そんなこと言わない。

 

「ええ…」

 

少々食い気味に返答したせいか珍しくガイアの顔が引きっている。

顔がありありと「やべえコイツシスコンだ」と語っているのが笑えてきた。

 

「悪かったなシスコンで。

…俺からしたらガイアのお義兄ちゃんの方がやばいと思うけど」

 

赤色の彼を思い浮かべてそう言った瞬間、空気が冷える。

(あっやば、これ“今回"ガイアから聞いてな___)

 

「その話。

何 、 処 、 で 、聞いたんだ?」

 

ん?と笑ったまま首を傾げられるが、この顔は駄目だ。

尋問している時の顔。

ガイア風に言うなれば、"おもしろいこと”が起こった時の表情。

 

(どうしよう、2人の事を知ってるのは当事者達と、ジン団長と、ワイナリーの人達…)

 

顔は困惑の表情のままひたすら思考を回す。

誰か、誰かから聞いていないか?”今回”は、

 

(あ。)

 

そうだ。

この間、ディルックさんの【好感度】が6になったから、聞いている。

この間0.3秒。俺は意外に頭の回転が早かったらしい。

 

「えっ…普通に本人に聞いたけど」

「…は?本人?」

「うん。あと、アデリンさんも心配してたし帰ってあげたら?」

 

よかった、正解だ。

ガイアの不穏な空気は消えて、困惑の表情が残る。

あとは、少し申し訳なさそうな苦笑い。

アデリンさんも心配してた、という単語に反応しているのだろう。

 

(多分、ディルックさんにバレた以上、前みたいにのうのうと話すことはできない……ってところかな)

 

「はは、検討しておくぜ」

「うわ。俺知ってる、そういう奴は行かない」

「よく分かってるじゃないか、ところで______」

 

 

 

 

「空ーーーーーー!!」

 

「へっ?い"っ…!」

「お腹空いたぞ!!」

 

唐突な衝撃…というか豪速球の重量に耐えきれずこける。

…地味に痛い。

 

「パイモン…痛いんだけど」

「はっ!うぅ、ごめんな……で、でもお腹空きすぎて死にそうなんだ!!」

「そんな大袈裟な…」

 

 

ぐぎゅううごごご〜……

 

(………いやどんな音??)

 

「ははっ!こりゃ面白いな、どんな音だよ」

「う、ううるさいぞ!!まず魔鉱をとってくるだけだったのにガイアが空を呼び止めるから

こうなったんだ!」

「おっとそれは失敗。心から詫びさせてもらおう」

「絶対思ってないだろ!!!!」

 

ギャーギャー叫ぶパイモンを笑いながら受け流すガイア。

いつもの見慣れた光景だ。

まあ、パイモンのお腹がすごく減っていることはわかったので、退散させていただこう。

 

「ごめんガイア…鹿狩り行ってくるね」

「えぇ〜!オイラ空の料理が食べたいぞ!」

「わ、わがまま…!!」

「相変わらずだなあお前ら。じゃあ、邪魔者は退散させてもらうとするぜ」

 

楽しそうに笑って手を振るガイアに「今度埋め合わせするからー!!」と叫んで、パイモンと歩く。

 

行き先は、塵歌壺だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

「パイモンありがとう助かった!!」

「ふふん、オイラも役に立つんだぞ!」

 

さっきは本当に危なかった。

即答出来なかったから少し疑われたかもしれない。

 

 

さて、俺旅人こと、空とパイモンには絶対バレるわけにはいかない秘密があるのだ。

 

「それにしたって……やっぱり、おかしいよな?」

「……パイモンもそう思う?」

「まずモンドで初めてトワリンと戦った時、吟遊野郎の声以外に知らない歌声がしただろ?

オセルを倒した時、“前”は爆風で港に少し影響があったはずなのにそれもなかったし…」

「それにさ…………」

 

 

 

 

 

「べペラルって」「翠鶴って」

「「誰  だ  よ  !  !」」

 

俺たち2人は、同じ世界の、同じ時間軸を、もう一度旅している。

 

 

 

______________________

 

 

 

そうは言っても、この世界の人は生きているのだから、

同じ時間同じ世界同じ事件でも、

一言一句同じセリフとか、全く同じ行動をとる、なんていうことは一切ない。

 

ただ、旅してきていた経験上、言いたくはないが、主要キャラとモブキャラ、というのは存在する。

そして、同じ世界の同じ時間軸には、何かの介入がない限り、主要キャラの面子や人数は同じはずなのだ。

 

なのに、イレギュラーが既に2人。

 

モンド城所属、風元素の弓使いでウェンティの親友、「ベペラル」。

璃月港所属、氷元素の法器使いで甘雨の親友、「翠鶴」。

今知っている情報といえばこれぐらいだ。

 

何故かというと、

 

「それにしても……好感度を数値化するなんて嫌なことするよ…」

「たしかにな…好感度には上限なさそうなのにあるもんな…10って…」

 

俺たちは、あと少しで天理に手が届く、というところで、飛ばされてしまったのである。

過去に。

 

最初は過去に戻っただけだと思っていたのだ。

だ。

 

 

 

_________________________

 

 

『俺のこと信用してないみたいだね』

『あ、うっ…ごめん、優秀な騎士としてあるまじき言動だったね…

 謝るよ、えっと…見知らぬ、その…尊敬できる旅人さん』

『やっぱりぎこちないぞ……』

『騎士団ガイドにはこう書かれてるの!!』

 

アンバーにあって、やっぱり前と同じだと思っていたその時。

 

____{アンバー ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を取得しました}

 

『は?』

 

目の前にテロップが現れた。急に。

その表記はどう見てもガチャのレアリティのそれだった。

 

『どうかした?』

『い、いやなんでも……ねえアンバー、持ってる弓の名前って何…?』

『これ?“西風猟弓”っていうの!騎士団の弓だよ』

『う、うんありがとう…』

『?』

 

目線を合わせたアンバーから出てくるテロップには西風猟弓、としっかり書いてあって眩暈がした。

 

因みにガイアやリサさんと仕事した時も、

 

__{伝説任務 孔雀羽の章第一幕が解放されました}

や、

 

__{◆元素視覚を使って痕跡を辿る}

とか、

 

__{◆冒険者協会で情報を聞く}

とか、

 

__{ガイア ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を取得しました}

とか!!!!

 

 

これだけでも卒倒ものなのに、まだあるのだ。

ジン団長と話して、よし神殿に行こうと部屋を出ようとした時。

 

__{【祈願】が解放されました}

 

『は??』

 

第二回である。

祈願ってなんだよ。と思いつつ、もはや軽く慣れてタップすると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____{杯に注がれた詩 ウェンティ ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

           バーバラ  ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

           香菱    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

           フィッシュル⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

   

   奔走世間    ジン   ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

           ディルック⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

           モナ   ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

           刻晴   ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

           七七   ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

   初心者応援祈願 ノエル  ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

   神鋳賦形    アモスの弓⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

           西鷹剣  ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

           鐘の剣  ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 等}

 

 

 

 

 

 

卒倒した。

鐘の剣だけなんで等なんだ急に雑すぎるだろというツッコミも、

俺の知り合いを物みたいに扱うなという怒りも、

奔走世間のpick星5しかいないじゃんという呆れも全てほっぽり出して、

空はその時派手にぶっ倒れたのである。

 

そしてバーバラの所へ運び込まれた結果、ばっちり知恵熱との診断をもらった。

前はライアーを返しに来た時が初対面だったから情けなさすぎて虚しかった。

そのあと結局ライアー壊したの返しに来たんだしどっちもどっちか、と思い直すことにしたけども。

どっちも全く良くないが。

 

 

____________________________

 

 

そういった訳で、知らない人の情報を知ろうと思った時、1番いいのはその人をガチャで引く、という事になるのだ。

 

「しかもなんでガチャシステム搭載しやがったんだ……お陰様で俺イベント以外でロサリアとモナと喋ったことないんだけど」

 

しかも、おそらくメインストーリーやイベントなど、色々あるのだが、その人をガチャで引かなければ、ストーリー以外の時_______

____普通に暮らしてる時とか____

に、会うことが出来ない。

 

「なんとも限定的な…」

「それになんで…なんでこの2人星5なんだよ!!」

「翠鶴は今pickなんだから引けばいいだろ……」

「だってこないだ先生きたしどうせすり抜けるよ!!」

「オマエは運良いだろ!」

 

それはそうだ。

一度旅の途中でソシャゲをしたことがあったが隣で蛍が

「いやあああああああダブったああぁああ!!!」

と叫んでいたことがあったので、七七が…凸?しただけの自分はいい方だと思う。

 

「まずベペラル育てた方がいい気がする」

「急に正気に戻るなよ…怖いぞ…」

「だってすでに枯渇始まってるしそれに不審人物だしボイス聞いた方が良くない?」

 

大英雄の経験は残り400。

今から新しい人を育てれば間違いなく枯渇するだろう。

え?なんでベペラルを引いたかって?

だってウェンティが楽しそうにベペラルとのセッションの話をするから…!!!

 

あとは、天理が仕向けた人間ではないかどうかを確認するためだ。

好感度が上がれば上がるほど、その人の事情は教えて貰える。

ガイアは、“前”の時はスパイだったことを教えてくれたから、結構重要な事でも教えてくれるはずだ。

まあ…ガイアは面白くなりそうだから言っただけかもしれないが。

 

「そうだけどおまえ、翠鶴の雰囲気好きって言ってなかったか?」

「いやさっきも言ったけど俺だって引けるなら引きたいよ?けど運が…」

「ああもうしつこいぞ!!もう1週間は悩んでるだろ!?」

「うっ…でも次のpickって多分エウルアだもん…お世話になったし引きたいだろ…?」

 

「……空、ガチャ画面開いてくれ」

「なんで??」

「いいからーー!!」

「え、う、うん…」

 

なんだか迫真すぎるパイモンに釣られてガチャ画面を開く。

途端木々は止まり、世界は灰色になって……正面に、テロップが現れた。

 

混迷無辜(こんめいむこ)

〈半仙の獣〉  翠鶴 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

〈雪消の跡〉  重雲 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

〈万民同行〉  香菱 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

〈月を覆う天権〉凝光 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

ここ一週間で見慣れてしまった画面だ。

いつも“半仙の獣”に反応して璃月であった七七とのやりとりを思い出して笑ってしまう。

 

「それでパイモン、一体何を___」

 

疑問を口に出そうとパイモンの方へ向いた瞬間、

 

「ぽちっとな!!」

「ああっ!!!!!!」

 

パイモンはボタンを押した。

なんのかって?勿論、ガチャの。

しかも、10連の。

 

「ああああ"ぁぁ…!!50連分しかないのに……」

「ぐずぐず悩んでる暇があればとっとと引くべきなんだぞ!!ほら金に光ってる!」

「うそ!!?!?」

 

慌てて目を向ければ、確かに金色に光っている。

これはまさか…

 

「龍血を浴びた剣…冷刃……理屈責め…」

 

ドクドクはねる心臓を抑えてタップを続ける。

 

「龍殺しの英傑譚…冷刃…まだ…!?」

「焦らして来るな…」

 

震え始めた指に、深呼吸をする。

大丈夫。俺なら引ける。

 

「…………!!…ジン団長…!!!」

「…あぁ…!」

 

テロップと同時に映るのはジン団長だった。

ああ、すり抜けた。

わかってたから引きたくなかったんだ。

心の中の天理が嘲笑って来る。あの人絶対笑わないけど。

溜息をつきながら画面をタップする。

 

 

__{新しいキャラクターをゲットしました}

 

 

「……へ?」

「…おっおい!見ろよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

__{翠鶴 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎}

 

「…や、」

「や、」

「「やっったあああああぁぁぁ〜!!!」」

 

出た。

天理が大爆笑してくる。

…いや俺の頭の中のこの人おかしくない?

 

「ありがとうパイモン!!」

「ふっふーん、感謝するんだぞ!」

 

興奮のままパイモンを胴上げする。

まさか、10連で出るなんて、会ったこともないのに余程好かれているらしい。

それともジン団長に引きずって来られたんだろうか…。

 

「いやあよかった…当たらなかったらパイモン一週間おやつ抜きだったよ」

「なっ!?な、なんて恐ろしいことを…!!」

 

あはは、と笑いながら流す為にひたすら画面を連打する。

 

翠鶴を引きたかった理由としては三つあった。

前述した、天理からの刺客か確かめる為と、雰囲気が好み、という2つ。

あと一つは、翠鶴について聞いて回っていた時の、鍾離先生、魈、甘雨の話していた内容のせいだ。

 

鍾離先生は、

 

「翠鶴…?…あぁ。辰砂楼の店主か。彼女には昔から世話になっている。

……しかし、彼女は責任感が強いんだ。

俺が死んでいる事になった時、大丈夫だったかどうか心配ではある…」

 

と眉を下げて言い、

 

甘雨は、

 

「…旅人さんなら言ってもいいでしょうか…。

翠鶴ってば酷いんですよ、仕事しすぎ、って私の事を月海亭から引きずり出してまで休ませるくせに、自分はずっと薬を作っているんです。

それに、休みになった時に訪ねたら、事前に言っていたのに寝ていたんです!

…え、似た者同士?た、確かに…そうかもしれません…。

…とにかく、翠鶴に会えたら構ってあげてください。彼女は実は独りが嫌いですから。」

 

と愚痴を交えて心配そうに言い、

 

魈に至っては、

 

「…彼奴の事はよく分からぬ。

昔、我が魔神の支配下にあった話はしたな。

その時、我は彼奴の羽を根元より切り落としている。

我に恐怖を抱いているのだろう、故に…まだ、両の手で数えられる程しか話した事はない。

だが、彼奴の種族を考えれば……いや、戯言だ」

 

と罪悪感しかない声で語った後なにかを誤魔化す始末だ。

 

しかも、煙緋まで「翠鶴先輩を知っているのか!彼女は大変面白い方だぞ、例えば__」と翠鶴がしたことを語り出す。

具体的な事を聞き出せたのが圧倒的に仙の者しかいないこの人を気にならないわけがなかった。

 

「うわあああああぁぁぁぁぁ!!!」

「えっちょうるさい、なに?」

「まっ待て、タップ止めろ!画面見ろよ!!」

「へ?別に何も…」

 

___{龍血を浴びた剣⭐︎⭐︎⭐︎

  冷刃⭐︎⭐︎⭐︎

  理屈責め⭐︎⭐︎⭐︎

  龍殺しの英傑譚⭐︎⭐︎⭐︎

  冷刃⭐︎⭐︎⭐︎

  ジン⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

  翠鶴⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

  黎明の神剣⭐︎⭐︎⭐︎

  文使い⭐︎⭐︎⭐︎

  翠鶴⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎}

 

………ん?

 

いや待って、ちょっと目がおかしくなったかもしれない。

目を閉じて、目を擦って、目を開ける。

 

 

_人人人人人人人人人_  

>  翠鶴⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ <  

 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄

 

 

うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 」

「そっ、空あああああああぁぁぁ!!!」

 

卒倒した。(2回目)

 

 

_______________________

 

 

 

なんやかんやと、翠鶴を1凸で引いてから約1か月。

好感度も4になって、交流も増えてきたお陰で、翠鶴の性格も把握できてきた、のだが。

 

「旅人、終わりましたよ」

「あ、おつかれ甘雨。……翠鶴は?」

「……死んでます」

「…やっぱり?」

 

翠鶴は見た目は魈と同類に見える。

胸あたりまである黒髪を左肩に流した吊り目美人。

身長は甘雨とさして変わらない程で、甘雨よりも大人びた雰囲気を感じる人だった……のだが。

 

「我に手当は要らぬ。鍾離様の手当を先にしろ」

「ひぇ…い、いや鍾離先生本人が降魔大聖を治療しろと…」

「…鍾離様が先だ」

「いや重症で…」

「鍾離様が、先だ」

「いっ…、いや、」

「こら魈、お前が先だ。大人しくしていなさい」

「…はぁ」

「ピッ」

 

この通り、魈にビビり続けているのが件の翠鶴である。

表情こそあまり変化していないものの、雰囲気は獣に威嚇された小動物のそれ。

最初に抱いたイメージとは全く掠りもしないこの風景。

まあでも、ここまでなら気が弱いのかな、とか、魈が言ってたみたいに怯えてるのかな、とかあるのだが。

 

翠鶴に、魈について聞いてみた時翠鶴は、

 

「え、降魔大聖を怖がる理由?

…私は彼本人はすごく尊敬しているし、優しい素晴らしい仙人だと思ってる。

ただ……凄く顔が良いでしょ?あの顔で凄まれると眩しいっていうか…美人が怒ると怖いっていうでしょ、そんな感じ。」

 

と言ったのである。

 

…限界ファンか??

 

因みに、羽の事を聞いたら、どうやら魈がやった事は知らないらしく、なぜ魈の話の続きに出てきたのか不思議そうにしていた。

気が弱くないと悟ったのは甘雨と白朮について聞いた時だった。

 

「甘雨ね〜、良い親友だけど…………

…そう、この間薬を煎じてる時に来たから冷蔵庫にある杏仁豆腐食べて待っててって言ったのに美味しかったって置き手紙だけして帰ってったんだよ。

絶対今度帝君グッズ見つけても教えてやらない。

…え、甘雨じゃない?」

 

「白朮ぅ〜?私あいつ大っ嫌いなんだよね。嫌味ったらしいし。七七ちゃんだけ置いてさっさと辞めてくれないかな。

まあ、それはそれとして私が死んだらあいつくらいしか私の役割受け継げないだろうから全部丸投げするけど」

 

これである。

白朮について聞いた時の顔は潰れたイモリを見た時の顔だった。

どれだけ嫌いなんだ。腕は買ってるみたいだけども。

後はどの人に対しても似たようなもの。

強いて言えば、もう少し口調が優しかったくらいだ。

 

褒める時は褒めて、落とす時はまっったくオブラートに包まずズバズバ発言する。

本人的には気を使っている方らしい。

 

…好感度の問題で内容が分からない、“妹について”と“弟について”を聞くのが怖すぎる。

 

「お、終わった…甘雨、帰っていい?帰っていいよね?」

「旅人が先程最後だと言っていたので良いと思いますよ」

「降魔大聖、鍾離先生、旅人、お疲れ様です。

では!」

 

言うが早いか。

戦っている時の冷静さはどこへやら、逃げる様に走り去って行く翠鶴に甘雨は溜息をついている。

日常茶飯事であろう事は予想がついた。

 

(今回初の秘境だから、知り合いで固めたの良く無かったかも…せめて魈じゃなくて煙緋を呼ぶべきだったかな…)

 

甘雨がなんとか説得して、渋々承諾してくれた直後、今回のメンバーを見た時の顔は酷かった。

申し訳なくなるほど凄まじい表情をしていたので、空は少々反省する。

 

結局、なんというか。

翠鶴は魈と同類のように見えて違うどころかほとんど真逆と言ってもいい性格だ。

似ているところと言えば、口の悪さと___

 

「それにしても……強いね、翠鶴」

 

強さだろう。

 

「本人はダメージ全然与えられて無いでしょって言ってましたけどね…」

「彼奴の役割は攻撃ではないだろう。なぜ比べる」

「うっわぁ!…びっくりした、聞いてたの?」

 

意図していなかった会話の参加者に驚く。

いつも思うけど、その誤解を招きそうな言い方少しはどうにかならないのだろうか。

 

「たとえ分野が違ったとしても、自分よりも凄い人がいると自分を卑下しちゃうものなんだよ」

「…ふん。人の考えはわからぬな」

「えぇ…いや、翠鶴仙人だろ?半分はそうかもしれないけどさ」

 

“前”はわからなかったであろう不思議そうな表情の魈に呆れつつそう返す。

半仙だから、半分は人だろうと半分は仙人な分、思考は仙人寄りだろうに。

すると、今度は甘雨が不思議そうに口を開いた。

 

「旅人…もしかして、知らないんですか?」

「え、何を?」

 

この話において思い当たる節が全くなく、困惑する。

すると甘雨の中で決着がついたのだろう。

「あ…」と言った後口を噤み、しばらくして

 

「認識が違っているようなので、訂正させていただきますね。

翠鶴は確かに半仙の仙人ですが、あの姉弟は特殊なんです。

生来より仙の血が混じっている者のうち、思考や価値観が殆ど…いえ、“完全に人”なのは翠鶴とその弟妹くらいです」

 

と、さらっと言った。

待って、情報が多い。整理させてほしい。

 

「ごめん、質問していい?甘雨って半仙だよね?思考って違うの?」

「ええと…これは例えにくいので、直接聞きますね。比較対象として降魔大聖も答えてくれますか…?」

「なっ…我は、」

 

「では俺もしよう」

「やろう」

「鍾離先生!」

 

デジャヴを感じつつも驚く。

先程からくるくると岩元素生成物を弄んでいた先生がいつの間に後ろにいたらしい。

人じゃない人達は意図せず驚かすのが得意なんだろうか。

 

(魈は魈で一瞬で掌返しすぎだろ…絶対最初断ろうとしたよな??)

 

「ありがとうございます!では…皆さん、自分の大事な人が傷つけられたらどうしますか?」

「大事な…」

 

大事。

そう聞いて思い浮かぶのは勿論、蛍だ。

 

(蛍が、傷つけられた時……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ!!!!!」

 

そう考えた途端に、言いようもない激情が湧きあがって空は歯を食いしばる。

蛍が飲み込まれて、手は、届かなくて。

 

(殺す…!!確実に、今度こそ…また戻されようと何回だって殺してやる、蛍を、俺の妹を傷つけた、殺そうとした、あいつは絶対殺_______)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トンっ、と感じる衝撃にハッと意識を戻す。

…危なかった。“おちる”ところだったらしい。

他の二人は気づいていないようだが、魈だけは此方を覗き見ていた。

肩に手が乗っている。

 

……心配そうだ。

 

(あ……やっちゃった)

 

魈は鈍感そうに見えて敏い。

申し訳なく思いながら、大丈夫という意味合いを込めて笑いかけると、納得したのか視線を戻していた。

 

「俺は…恐らく怒る…のだと思う。あまり経験が無いから分からないが」

「俺も怒るかな。結構な感じで」

 

鍾離先生の問いを聞き、残りの魈の方を向く。

難しい顔をして首を傾げているのを見つつ、やっぱり魈には分かりづらいのかな、と思った。

鍾離先生とかで想像すると分かりやすいかも……と考えて、いや無いな、と考えを振り払う。

怪我とか想像つかない。

 

「我は…分からぬ。…が、良い気はしない」

「ですよね。私もです。 

では、言っておきたい事やシェアしたい事を言ってくれますか?」

「しぇあ…?」

「あっ、ええと、相手に伝えたいと思う事柄を…」

 

(シェア通じないんだ…。鍾離先生もわかってないな不思議そうにしてるし…)

 

恐らく現代用語に近いからだろう。

鍾離先生はともかく、魈は俗世にあまり干渉しない。

だから聞いたことが無いのは想像がついた。

 

「空」

「なに?」

 

少し戸惑いながら(表情には欠片も出ていないが)、話しかけてくる魈に、昔の蛍の面影を感じて思わず頬が緩む。

小さい頃は、こうしておずおずと近づいてきていた。

 

(おっとっと、また魈から凄い目で見られるから気をつけないと______)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…殺戮は我の得意分野だ。お前が殺せない時、我を呼べ」

「…はい?」

 

予想だにしない単語が飛び出てきたことで、思考が止まる。

え?殺戮?殺戮って言った?今殺戮って言ったよね?

 

「王難、賊難、火難、水難、羅刹難、茶枳尼鬼難、毒薬難が我が対応できる七難だ」

「?????」

「なるほど。そういうことか、旅人」

「あっうん何?」

「「取引」の決まりは「契約」であり、その基準は「公平」だ。契約を結ぶ際、この事を決して忘れるな。公平を失った契約は、嘘の証拠になるからな」

「は????」

 

 

ちょっと待ってくれ、何もわからない。

ねぇ魈、先生、シェアってそういう重い事言わない。

あと羅刹難ってなに?だきにき難って何??

っていうか魈毒薬の対処できるんだ??

普通伝えたいこと聞いてそういうこと言う??

頭を回る「?」がおさまらず全く思考が終わらない。

 

「た、旅人〜戻ってきてください…」

「…はっ、…一回考えるのやめよう…」

「わかりましたか?感覚というか、とにかく違うんです」

「うん。身を持って。」

 

「因みに、翠鶴にこの質問をした事があるんですが、彼女は新しく出た武侠小説の話をしていました。面白いそうですよ」

「さっきまでの話聞いてたら凄い安心する…ありがとう甘雨、なんとなく分かったかも」

 

大変わかりやすかった。

なんというか…仙人は0と100しかないのかもしれない。

いや、先生もだから、仙人っていうか…人じゃ無い人達?

……今考えるのはよそう。頭がこんがらがってきた。

それにしても。

 

(やっぱり、翠鶴は刺客じゃ無いのかな………天理が仕向けたなら、先生が多少反応したっていい筈……でも今日対面した時のあの目は甘雨を見てる時と同じ目だった。それに、事情だって)

 

「ん?おっ!探したぜ!あんたが姉御の見込んだっていう旅人か?」

 

思考を切り上げて、聞こえる声に顔を上げる。

こちらに向かってくるのは、見覚えのある船員服の人間だ。

思い浮かぶ心当たりに浮き足立つ。

 

「確か…海龍さん?」

 

間違っていなければ、彼は北斗さんの船の船員だった筈だ。

舵手として常に舵の近くに居たのを覚えている。

 

「はははっ、かの英雄殿に名前を覚えられてるなんて光栄だ!」

「ってことはまさか…!!」

 

「ああ!艦隊の補給作業が完了したんだ。だから姉御にあんたを探すよう頼まれた訳さ!」

「待ってました!」

「やっぱり北斗は約束を破らないな!!」

 

いつの間に姿を現したパイモンといぇーい!とハイタッチ。

ついに、稲妻に行くことができる。

お世話になった綾華やトーマ、ゴローや宵宮。実はいい奴である裟羅など、久しぶりに会うことができる。

 

…まあ、“初対面”なんだけどね。

“前”はあんまりな扱いに大分怒っていたものだが、今回は早めに引き受けても良いかもしれない。

勘定奉行の手紙は千里さんの以外は受ける気ないけど。

 

「船はもう孤雲閣に泊まってる。璃月にお別れしときな、じゃあ伝えたから俺は先に戻ってるぜ!」

「うん、ありがとう!また後で!」

 

よし。ここまでは順調だ。

ベペラルや翠鶴というイレギュラーは確かに存在しているものの、大筋は変わらない。

今度こそ、やれる。

 

「…と、いう事で、俺稲妻に行ってくるね」

 

「思っていたよりも早かったですね…流石北斗さんです」

「神の心は無いし、大丈夫だとは思うが俺はあまり稲妻に立ち入るべきではないだろう。

…少し、寂しくなるな」

「…先程も言ったが、殺戮の時は、我を呼べ。必要以上にお前が手を下す必要も無い」

「心配してくれてありがとう、魈。でも向こうには妖魔よりも多分、人が多いと思うから」

「…そうか」

 

“前”の稲妻は、海乱鬼という盗賊に近い人間や、野伏が多かった筈だ。

今回も同じかは分からないが、まあなんとかなるだろう。

 

「それに、あっちにもワープポイントはある筈だから。お手伝いはお願いするかもしれないや。

塵歌壺だって好きに出入りしてもらっていいし」

「ああ、そういえば。失念していた」

「翠鶴にも言っておいてほしいな。多分言いたいことがあったら手紙を送ってくれると思う」

「了解です。稲妻ですか…一度くらいは、温泉に入りに行ってみたいです」

 

目をきらきらさせながらそう呟く甘雨に同調する。

あれはだめだ、気持ち良すぎて堕落しそうになる。

というか、入ってるとだんだん眠くなってきて溺れそうになるんだよね。怖い。

 

「…行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「遅れはとるな」

「あはは、分かってるよ。先生、公子にもよろしく言っておいて」

「承知した、行ってくるといい」

「うん、またね!」

 

 

______________________

 

 

 

死兆星号は、孤雲閣からなかなか遠い。

故に、泳ぐか山の頂上まで登って風の翼で飛ぶか。そのどちらかが一般人にできることだ。

足元の地面を踏みしめて、ここまで連れてきてくれた万葉に礼を言う。

 

「万葉、ありがとう」

「なに、行き先が同じであるのに断る必要はござらぬ。拙者の分野で無いことは確かであったがな?」

「うっごめん…」

 

なかなか遠回しにいじられているが、甘んじて受けておく。

崖の途中で自分を抱えて元素スキルを使って欲しいと、結構無茶なお願いをした自覚はあるので。

まあそれ以外の行き方は前述した2つしか無いため、流石にきついものがある。

 

…ポケットワープポイントを設置しておけばよかったかもしれない。

 

「…あはっ、冗談でござるよ。似たようなことはよくしている故、そう小さくならずともよいでござる」

「したことあるんだ…」

「なら空をいじめるなよ!」

「どうやら気負っていると見えた。多少は解れたのではないか?」

「…ありがとう」

 

返答を聞いて万葉はにっこり笑う。

魈に続いて万葉にも心配させてしまったらしい。

 

そういえば、モンドにいた時もベペラルに少し心配されたことがあった気がする。

ベペラルは、なんかこう…申し訳ないけど、若干の薄気味悪さを感じてあんまり得意じゃない。

優しそうなのに。

 

「ベペラルや魈に続いて万葉まで…オマエは風元素の奴に心配される特性でもあるのか?」

「パイモン、今いい空気だったじゃん空気よんでよ」

「急に口悪くなりすぎだろ!怖いぞ!」

 

「ベペラル…?」

 

「万葉?どうかした?」

「…いいや、聞き覚えがあっただけでござる。それより、先程からずっと待っているのだが、姉君の所には行かぬのか?」

「あっ」

 

その言葉を聞いて、本来の目的を思い出す。

そうだ、稲妻に行くのに会いにきたのに世間話に花を咲かせてしまった。

慌てて船頭へ向かうと、恐らく海の調子を見ていたのであろう、北斗さんが此方に気づいて振り返る。

 

「遅れてごめん、北斗さん」

「よぉ、やっと来たか。話は盛り上がったみたいだな」

「うっ、お待たせしました姉御!!」

 

申し訳ないと万葉の時同様に思いつつ、誠意として船員のように思いっきり礼をしておく。

別にネタではない、決して。

すると少しツボにハマったのだろう、北斗さんは笑いながら許してくれた。

流石心が広い人だ。

 

「じゃあ人も揃ったことだし、そろそろ_____

 

雷雨に包まれし「永遠」の国へ向けて、出航だ!!」

「「しゅっぱーつ!!」」

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

「おおおぉ〜…!!」

 

嵐の吹き荒ぶ地帯を抜けて少し、見え始めた稲妻に思わず感嘆する。

二度目だとしても、これは何度見ても圧倒されることだろう。

 

(あそこが神里屋敷で、あそこがからくりのいた遺跡、稲妻城…ああ、懐かしいな。

あ、たたら砂も見える。…結局たたら物語は出来たの見れなかったなあ…)

 

「稲妻は初めてであろう?」

「万葉」

 

おかしいな、“前”は万葉、船の端で黄昏てて、話しかけてこなかったのに。

いつもの気まぐれだろうか。

 

初めてだよ、と答えなければいけない事が少し悲しい。

万葉とだって、なんなら今から会うだろうトーマにだって、知っているのにもう一度、「はじめまして」と言わなければいけないのだ。

時々虚しくなるときはある。

 

でもおくびにだって出してはいけないのだ。だって、バレちゃ駄目なんだから。

 

「うん、そうだね。初めてだけど…将軍からしたら密航者だし、気を引き締めて行かないと」

 

「…お主がなにか抱えていようと、拙者は聞かぬ。お主が思う通りに行動すべきであるからな。

だが、お主を助けてくれるものはいる。そう気負うものではござらぬよ。」

 

「…バレた?」

「お主の周りの風が揺れておる。気づいておるのは、他の神か拙者くらいでござる」

「じゃああの2人にはバレてるんだあ…」

 

頭に2人の“元”神達がよぎる。

今日先生が契約の話をしたのは俺がグラついてたのがバレたのかもしれない。

…ただの天然かもしれないけど。

 

「うん、大丈夫!ありがとね万葉!」

「元気になったようでよかった。さて、ついたようであるな。捕まっては困る、拙者はこれで」

「行ってくる、じゃあ」

 

揺れなくなった船体は万葉の言う通り着いたらしい。

手を振る万葉に手を振りかえして、北斗さんの所へ向かうと、パイモンと揃って立っていた。

 

「ごめん、俺待ちだったよね。お待たせ」

「遅いぞ!」

「荷物は持ったか?戻るのは無理だからしっかり確認しておけよ」

 

「大丈夫、持つのは剣くらいだから」

「えっ…ご飯は…!!?」

「塵歌壺にはいつだって戻れるんだからな?まさか忘れてないよね?」

「………えへっ」

「いやえへって何だよ!!もう!

 

…………満足?ほら行くよ」

「へへ〜♪オマエなら乗ってくれるって分かってたぜ!」

「はいはい」

「相変わらず、仲良いなお前ら」

 

そんなことをぐだぐだと話しながら最終確認を終わらせる。

忘れ物はなさそうだ。

歩きながらも、気合を入れ直しておく。

ふぅ、と息をついて視線を上に戻すと、

 

「………」

 

木箱の上に座って、暇そうにモラを弄んでいるトーマがいた。

…心なしか、目が死んでいる気がしなくも無い。

 

(あー…、待たせちゃったのかな。前は公子に似てるなって思ってたけど…ガイアにも似てるかも…)

 

なんて思いながら近づくと、此方に気づいたトーマが、飼い主を見つけた犬のように笑って駆け寄ってきた。

……ただ死ぬほど退屈だっただけらしい。

 

「よっ!やっときたな、「璃月の姉御」。待ちくたびれてたところだよ。それに2人の密航……ンン"ッ、客人も。」

「おい今密航者って言おうとしただろ…!」

 

「まあ許してくれ。あんた達の将軍様のせいで稲妻近海の雷雨と暴風が強くなってやがるんだ……

と、そうだ。紹介しよう、こいつはトーマ。最近知り合った商売仲間だ」

 

「君達に会えるのを楽しみにしてたよ、よろしく」

「こっちこそ。俺は空、それで、こっちがパイモン。俺の非常食だよ」

「よろしくなトーマ!…って、オイラは非常食じゃない!さっきの根に持ってるのか!?」

「アハハッ、聞いてたよりユニークな客人だな。」

 

堪えきれないと言ったように笑い出したトーマを見て変わらないなあと実感する。

笑い方が公子に似てるけど公子が笑ってた時より胡散臭くないしウザくない。

 

あ、なんか頭の中の公子が凄く「相棒??」って言ってくる。

俺はお前の相棒になった覚えは一度もないしめちゃくちゃ殴りたい相手はお前だ。

 

「空、なにか困った事があればこいつ訪ねるといい。安心しな、もしこいつが不埒を働けば、次稲妻にきた時アタシがあんたの代わりにこいつをシメてやる」

「流石姉御…!!」

「正真正銘のイケメンだぞ…!」

「はははっ!すごい既視感のある感想だな!」

「安心してくれ、オレ達なら仲良くやれると思うよ」

 

多分大丈夫だろう。

だって、“前”だって仲良くしていたのだから。

まあ、少しイラッとくる事もあったけど。

 

「さて、そろそろ時間だ。アタシの船にはまだ「お尋ね者」が乗ってるからな。長居はできない」

「ああ…」

「また会おう!稲妻でどんな「荒波」に遭おうが、乗り越えて見せろよ、旅人!」

 

2回目の、この言葉。

既に体験した自分からすれば、更に勇気をもらえる言葉だ。

しっかり心に刻みつけた上で。返事は、

 

「もちろん!」

「またな〜!北斗船長〜!」

 

北斗が離れていくのを見送って、前を向く。

 

 

 

 

___{魔神任務 鳴神不動、恒常楽土が解放されました}

 

稲妻の、開始だ。

 

「それじゃ、まずは審査所で登録手続きを___」

 

来た。

トーマの聞き覚えのある言葉にそう思う。

“前”と同じく、頷こうとした瞬間。

 

 

 

「あー!!ちょい待って、私も行くから!」

 

 

 

耳を劈く知らない声に、頷きかけた首が固まる。

 

誰だ。話し方は、宵宮に近い。

…が、宵宮の声はこんな声質ではないし、もう少し高い筈だ。

音程としてはウェンティが近いだろうが、彼は勿論そんな喋り方はしない。

“前”は知らなかった、所謂モブの人だろうか?

色々な思いを抱えつつ振り返ると。

 

「おお〜、君が空君?で、そっちの子がパイモンだよね?よろしく!万葉から聞いてるよ〜」

 

服装を見て、一瞬で悟る。

 

ストレートの黒髪をポニーテールにしていて、服装は宵宮に似ているが、サラシでは無く綾華のような鎧に近いものを身につけている。

着物にあしらわれている柄は万葉の着物に通ずる所があり、言葉通り万葉との関係性が深いのだろう。

見た目としては、万葉と宵宮と綾華を足して割った感じ。

 

あ、この人主要キャラだ。

パイモンと揃って固まる。

 

「ん?あれ、トーマくんだ!久しぶり、背伸びた?」

 

「…えっ」

「いやえっじゃなくて。名前は紅葉だけど、“狐隠れ”やで」

 

「…は!?尚更なんでここに居るんだ!?」

「えっそりゃあ万葉が旅人をよろしく頼むって言うから…」

「なっ………んでそこ直らなかったんだ…!」

「だって万葉の言う事ならなんでも聞きたくなる…ンン"ッ、ほらだって立場上聞かなきゃ駄目でしょうよ」

「あーうん、相変わらず万葉が大好きなんだな」

「恩人やからな」

 

いやトーマと知り合いなの???なんで?

いやでも“前”にトーマが万葉の親友のこと知ってたしありえるのか?

 

「こほん、あー、というわけで、空君、パイモン、はじめまして!

私は紅葉、肩書としては…そう、死兆星号の雑用係の、万葉の親友や!よろしくな?」

「あ、うん…よろしく……」

「…やっぱりちょっと怖いよな。うん、ごめん。とりあえずはトーマの方に付いてってくれる?私は私でやる事があるから」

「分かった」

 

あれ、もしかして、いい人なのか?

いやいや、まだ判断は早い。

そう、ガチャが来て、事情を聞いてからじゃないと______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__{祈願 夢を追う血石に変更されました}

 

 

「はぁ???」

「えっなに?」

「あっごめんなんでもない」

 

まさか、と思う。

怪しまれないように、パイモンと示し合わせて、そっと祈願を開く。

いつも通り、波のさざめきが消えて、世界が灰色に染まり。

 

 

 

|夢を追う血石

〈狐隠れの槿花〉紅葉 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

〈万民同行〉  香菱  ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

〈無冠の龍王〉 北斗  ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

〈騎士道の花咲〉ノエル ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

 

ガチャ画面が現れた。

夢を追う、血石か。うん、物騒だけど良いガチャ名…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから誰だよ!!!!!」

「「「旅人ー!!?!?」」」

 

 

卒倒した。(3回目)

 

 

______________________

 

需要があるか分からないので短編です。

(ハーメルンでは)処女作です。




需要があるか謎なので短編です。


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