トレーナーはウマ娘に……。   作:あさのひかり

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気が向いたので続きを。
この主人公、闇堕ち要素ある。


空中戦

短距離のウマ娘に必要なものとは何だろう?

そう聞かれたとき、トレーナーは三者三様の言葉を思い浮かべるだろう。

 

一つはスピード。

何者にも追いつけないほどの速さ。走るウマ娘に最も必要なものだ。

 

一つは瞬発力。

短い距離でトップスピードに持っていける鋭さ。

はじける発条のように力を解放できる筋力。

 

一つは精神力

誰にも負けない。速さという恐怖を克服する精神。

どうなってでも最速でいたいという気持ち。

 

どれか一つでも持っていれば、才覚があると言っていいだろう。

だが彼女は。

 

「すごいわね。神は二物を与えないというけど……」

 

一筋の閃光のようにゴール版を駆け抜ける彼女は、何食わぬ顔で笑顔を見せる。

 

「二物とは言わず、三物を持ってると言ってもいいわ」

 

適性を見るために走らせたとはいえ、ダート1200mのタイムが1分14秒。

芝のタイムは1分12秒。

正直言った話、今すぐにでもデビューできる。

なんなら、重賞レベルの実力を持っていると言ってもいいだろう。

それでいて走り方や筋肉が固まっていないのだから、これが完成したら怪物レベルだろう。

春秋スプリント制覇も夢ではない。

 

「逸材ですわね」

 

隣で一緒にトレーニングを見ていたマックイーンも息をのんでいた。

 

「でも驚きましたわ。突然連れてきたと思ったら、チームに加入させる。と言い始めるんですもの」

 

チームメンバーは驚いただろう。

まるで降ってきたかのように短距離のウマ娘を拾ってきたのだから。

 

「でもいいタイミングだったでしょう? 勝負まで時間がなかったのだから」

 

「確かにそのとおりですわね。カレンさんの実力なら、勝てる可能性もありますわ」

 

「確かのその通り。ただ……」

 

結果的にはよかったのだが……。

個人的には心に引っかかる部分もある。

 

「この勝負のために、カレンさんを利用してると思われないか、複雑なのよね」

 

深くため息をつく。

もちろんこの勝負だけでカレンを投げ出すつもりはない。

勝負の先のトレーニングメニューも、すでに頭の中で構築済みだ。

 

「カレンさんはそんなこと気にしてないと思いますわよ?」

 

「そうね。私もそう思いたいけれど……」

 

噂話や周りの評価というものは精神に効く。

結果レースや体調面に影響を及ぼす者も出てくる。

それもまた駆け引きの一つになることもある。

 

幸い、カレンはSNS慣れをしている。どんな批判でも気にしないだろう。

おそらく俺の考えも杞憂に終わるだろうが……。

 

「環境が、レースに対する精神面にどう影響してくるのは分かるわよね?」

 

「えぇ、痛いほどに」

 

「大勢の観客。多数のウマ娘。応援の音。そういった環境を一度でも経験した者と、そうじゃない者。どちらが有利か」

 

「経験は何物にも代えがたい……ですわね」

 

「そう、重賞やレース経験が豊富だから、そういう意味では相手に利があるわ」

 

レースに対する心構えもある程度はできてるだろう。

精神的な余裕が違う。

 

「いくらトレーニングを重ねても、経験という差は埋めようがない」

 

もちろんそれ以上に能力が突出していれば話は別だ。

あと一年。いや、半年あればおそらくカレンは短距離の優秀な走者になるはずだ。

しかし、今回に限って言えばそんな時間がない。

勝つためには少し飛び道具的な作戦を考えないといけないだろう。

 

「悪い顔ですわね? 何か策があるんですの?」

 

「うーん……無いと言ったらウソになるけど……」

 

正直、正々堂々という意味では外れてしまう作戦は思いつく。

 

「使いたくはないのだけれど……。相手も正道を外れての勝負を挑んできたのだし」

 

……この際、使える物は全部使うことにしよう。

勝負はすでに始まってるのだから。

 

「と決まれば、さっそくやってみようかしら。カレンさーん!」

 

俺は手を振ってクールダウンを行っているカレンを呼んだ。

 

………

……

 

王様の耳はロバの耳。

噂話の浸透というのは早いものだ。

特に学園という閉鎖された環境ではなおさらの事。

さらに言えば、近年では生活にSNSが切っても切れないものになっている。

文字通り、世界中の噂が光速で伝達する時代なのだ。

 

「何よこれ……」

 

ラッキーシグナル。

彼女もそれは例外ではなく、SNSのある動画を目にしてしまった。

カレンチャンの最強への道!という内容の配信のアーカイブだ。

内容はカレンチャンが走者として初の勝負を行うことが大々的に発表されていた。

そして、その相手が自分である事もしっかりと説明されていた。

 

「っ……」

 

ラッキーシグナルは息をのむ。

見なければいいのに、好奇心が抑えられなかった。

アーカイブのコメント欄を見てしまった。

そこにあるコメントはカレンチャンへの応援メッセージ。

コメントの数は数千を超える。

ラッキーシグナルへの批判こそなかったが、一つのコメントが彼女の目にとまる。

 

『ラッキーシグナルなんかに負けるな』

 

軋む

普段の彼女にとっては戯言の一つだっただろうが、挑発的に勝負を仕掛けたのはこちら側。

慣れてるわけではないヒール役に、後ろめたさがなかったわけではなかった。

それゆえに刺さるコメント。

重賞ウマ娘のプライドも相まって……

 

「なによ『ラッキーシグナルなんか』って!」

 

心を抑えようとしても我慢できなかった。

彼女はここまで大々的は"バズり"を体験したことはなかった。

ゆえに濁流のような情報、自分へのコメントに耐性がなかった。

彼女は掛かってしまったのだ。

 

 

それから崩れるのは早かった。

調べなければいいのに気になって仕方がない。

SNSで設定された #カレン最強 というハッシュタグで検索してしまう。

出てくるのはカレンチャンへの応援メッセージ。

ヒールである自分への批判的な意見。

話題を作ったという意味では成功したと言えるだろう。

もちろん、自分への応援メッセージもあったが……。

批判の方が脳裏に残る。

 

彼女は罠にとらわれた。

 

………

……

 

正直、ひどいことをしたと思う。

カレンのインフルエンサーとしての力を利用しての空中戦。

カレンはSNS慣れをしている。もともとそういう活動者であったためだ。

批判コメントの心理的対処法も心得ている。

それが今回の対戦相手であるラッキーシグナルと違うところだろう。

 

「見て見てお姉ちゃん! 視聴回数が100万回を超えたよ!」

 

ルンルン気分でカレンが報告してくる。

これだけ拡散されれば、いろいろな意見が集まってくるだろう。

ヒトもウマ娘もだが、自分への意見というものは心に残るものだ。

批判的な意見ならなおさらの事。

見ようとしなくても目についてしまう。

 

一つでも彼女の批判的意見が目に付けば……。

精神面で罠に落とすことは可能だろう。

タダでさえ、彼女はヒールなんて慣れないことをしているだろうし、それも合わせれば精神的な効果は計り知れない。

 

「これじゃどっちが悪役か分からないな……」

 

我ながらひどいことをした。

だが、レース経験のないカレンを勝たせる方法は正攻法では無理だ。

埋めようのない経験の差を埋める方法は一つ。

 

精神的に揺さぶり。

相手にはこちらのフィールドまで下りてきてもらう。

勝負はレース前から始まっているのだ。

 

そして知らしめなければ。

 

勝負を支配しているのは、挑んだ側ではなく私達であると。

 

 

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