【注意】オリキャラが二人ほど登場します。男主人公です。名前はありません。以上が苦手な方はご注意ください。

あることがきっかけで走るのをやめた元陸上部の低血圧系主人公と、その主人公の走りをまた見たいと思った仗助の話です。友達的な付き合いです。
好きに書いていますので、なんでも許せる方のみよろしくお願いします。

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第1話

ダッシュで行けば間に合うか。学校ぐらい大したことない距離だし。でも入学して早々遅刻とか気分悪いし、バス使うかな。そっちが手っ取り早いよな。バス停まで思いっきり走ろう。

 

顔を洗いながら考えた自分の通学ルートに背中を押されるように、学ランも適当に着たまま、ローファーも適当に履いて家から飛び出した。新調したばかりの制服に汗はかきたくないし、ローファーだって形が悪くなる。でも走った方が間に合う可能性があるから、思いっきり走っていた。

四月になったばかりで、ベッドから起きた時こそ肌寒いけど、こうやって走ってると一気に熱くなる。朝は目覚めが良い方じゃないから、歩くより走る方がむしろ目が覚めてちょうど良い。

 

家から出て二分もたたないうちに、バス停が見えた。あそこで待ってればすぐにバスが来る。

と思って角を曲がろうとしたらヤンキーが集団でたむろしていた。

うわ、最悪だ。走っていた足を減速させて止める羽目になった。

どうやら真ん中で一人の生徒を囲んでるらしい。先輩後輩の縦社会みたいなあれ。場所考えてやれよ、とか思っていたら声が聞こえてきた。

 

「一年B組…東方仗助です」

 

あぁ、真ん中に居るのリーゼント頭のやつか。同じクラスになったし、見た目があれだから目立ってて印象が深かった。

バスはもうすぐ来る。早くバス停の前で待たないとバスに乗れなくなるのに、そこで喧嘩をおっ始めそうな集団がいるせいで全然行けそうにない。

これ以上ヤンキーの喧嘩を待ってるわけには行かないし、俺は結局バスに乗らずに横を走り抜けた。

一旦止まってからまた走り直すのって結構体力使うから嫌なんだけどな。あいつらがいなきゃバス乗れたのに、と思って横目でさっきの集団を見た。

ちょうど真ん中のリーゼントと目があった。あ、と思ったけど俺には関係ないことだし急いで前を向いてそのまま走った。

 

 

 

その次の日からはバスに乗れるようになった。

遅刻もしないように余裕を持って学校に行ってる。今日のホームルームで席替えするらしくて、クラスが浮き足立ってるのがわかる。

やっぱりみんな、あのリーゼント頭のやつの隣に座りたいらしい。特に女子は争奪戦って感じで、女子同士でいがみ合ってるような感じがひしひしと分かる。

席替えは番号が振り分けられているあみだくじで決めるらしくて、俺は自分の名前を書きながら隅の席がいいなとか、早く済ませたいとかそんなことを考えていた。

この時はまさか隣に座るとは思ってなかった。

 

「じゃあ、決まった席に座り直して」

 

クラス委員の声でみんな一斉にガタガタと動き出す。

名簿順の席気に入ってたんだけどな。一番窓際の席。ここから動きたくないな。最後まで渋ったけど、次から俺の席に座るやつが来たから仕方なしに退いた。

俺が新しく座る席は…リーゼント頭の隣だった。騒がしいやつの隣にだけは行きたくないと思ってた分、ショックがでかい。リーゼント頭のやつがうるさいんじゃなくて、周りに座る女子がうるさいから憂鬱だった。おかしいだろ、リーゼントの隣は俺だけどその周りは女子が囲ってるなんて、本当に運で決まったのか?偶然か?

 

「一学期の終わりまでこの席でいきます」

 

とどめみたいな一言で女子が阿鼻叫喚になった。

周りの女子が俺を凄い顔で睨んできていた。そんなに言うなら席変わってやるよ、と思って前に座る女子の背中を叩こうとしたら、終業のチャイムが鳴り響いた。

 

 

ある日の体育の授業で50メートル走を走ることになった。二人並んで計測するらしくて、その時も運悪く俺は東方と走る羽目になった。女子は当然東方への応援に熱が入ってるし、俺のことは勝手に負けると決めつけている。

…まあなんでもいいけど。イケメンを目立たせた方が良いんだよな。それはわかるんだけど、俺は走ることが好きだからなぁ。どうしようかな、と考えていたらスターターピストルが思い切り鳴いていた。

 

足で地面を蹴って、ただ交互に足を入れ替えるだけ。走ることは何も難しくない。風が向かってきて、涼しくて走ってるだけで気持ちがいい。何も考えなくて良いから走ることは好きだ。50メートルって一瞬だけど、一瞬だからこそ楽しくもある。

あっという間に白線を通り過ぎていた。あぁ、もう終わったんだ。と思ったら、背中をバシンと誰かに叩かれた。

 

「はぁ…っ、速えーな!あっという間に追い抜かされちったよ〜」

 

横から出てきたご立派な頭に、うおって驚いちゃったけど、「どうも…」とだけしか返せなかった。でも嫌味なくかけられた言葉は新鮮だった。俺のタイムは6秒4で、東方のタイムは6秒5だった。戻ってきた俺に、女子のヒソヒソ声が聞こえてくる。「なに本気出してんの?」「仗助くんも早かったし」「たまたま勝てたくせに」…まあ、分かってた。そんな反応が来ることぐらい。だから今度走る時は手抜くから。

 

「は?急に7秒台ってなんだよ!前は超速かったじゃあねーか!」

 

次の体育の授業で手抜いたら、なぜか怒られた。

 

「調子…悪かったんで」

「はぁ〜?この間6秒台で全然息乱れてなかったやつが何言ってんだよ」

「前はたまたま勝てただけなんだ」

「嘘だね、だってお前、どこも調子悪くねぇだろ。足捻ってるわけでもなさそうだしよ」

 

だって本気出して走ったら女子にぐちぐち文句言われるのは俺の方だし、っていうことなんてきっと知らないだろう。とりあえずこの場は「下痢腹だから」で貫き通した。

 

 

 

四月も半ばに来た頃、入部届を出す時期になった。本音は陸上部に入りたいけど、中学時代の嫌な思い出があるので高校は帰宅部になると決めていた。走ることは大好きだ。でも別に部活に入らなくても他に走る方法はあるから、また嫌な思いしてまで入る必要ない。

 

「へー、その嫌な思い出ってなんスか?」

 

結局俺はあの後席を変えてもらえなかった。周りの女子に声かけたら、女子は女子なりに色々あるようで、自分が譲られると周りの目とか、空気感とかいろいろあるからダメだと断られた。

わがまますぎて面倒だなと思って、そのまま隣の席になっている。

その隣から、「部活何すんの?」と聞かれ、帰宅部と答えたら「へー!陸上部だと思ってたぜ」と当たり前のように言われた。

 

「陸上部疲れるし…」

「えっ、でもあんだけ速ぇのに?勿体なくない?」

「別に…」

「なんでだよ〜、陸上入りゃ良いじゃあねーか!びゅーんって走って行くお前カッケーと思ったけどなぁ」

 

別に俺が陸上入ろうが入るまいがどうでも良くないか?と思いながら、正直に入らない理由を答えたら肝の部分まで聞かれた。重い話したらドン引きしてくれるかなと思ったんだけど。

 

「別に話して聞かせるようなものでもないし…」

「…まあ、俺にはあんまり関係ないっちゃないっスけど…でもそんな話し方されちゃあよぉ、余計気になるってもんだぜ」

 

…本当に、話して聞かせるようなものじゃない。自分の夢を追いかけてたら他人の夢をぶっ壊したってだけの、挫折とかそんなドラマのあるものじゃなくて、俺が自己嫌悪しただけの話。

今でも覚えてる。俺がいなかったら友達は代表選手として選ばれるはずだった。夏のインターハイに向けて必死で練習してた。たったコンマ1の差で、俺が選ばれてしまった。

友達はその時に腱を痛めて、もう二度と走れない身体になった。友達は気にすんなって言ったけど、周りはそれを許してくれなかった。

選手を潰す走りをするやつだと言われて、そのインターハイを走った後は退部した。

走るのは大好きだ。退部しても鈍らないようにずっと走り続けた。俺がインターハイに出たかったように、友達だって出たかったはずだ。それを潰してしまった、潰すどころかもう二度と走れないまでにしてしまった。

自分に関係ないって無責任に思ったり、俺があの時走らなかったらって責めたり、そういうのいちいち考えるのがウザくなった。

 

「…だから部活に入るのはもう良いんだ。めんどくさいから」

 

こういう話すんのもほんとは鬱陶しいんだけどな、って言うのは心の中に留めておいた。うげー、なんスかその重い話、とかどうせ思ってんだろ。

 

「その友達って、同高?それとも別?」

「…別だけど」

「そいつとまだ連絡取り合ってるのか?」

「まあ…」

「ふーん、絶交したわけじゃあねーんだな。なぁ、ソイツの足治してやるよ。そしたら友達も走れるようになっし、おめーも気兼ねなく走ることができる。お互いハッピーにならねぇ?」

 

何言ってるんだ、治してやるって何を?根性を?

 

「いやいや、マジで足治してやるって言ってんスよ!今週の土日に話つけて予定合わせてくれる?そんじゃ、よろしくね〜」

「えっ、ちょっと待って、」

 

じゃ、また明日!と手を振りながら東方は教室を後にした。結局俺は、治してやるって言葉を信じて真面目に予定を合わせた。久しぶりに連絡を取った友達は、俺が思ったよりもあっけらかんとしていた。そういうことだから、会って欲しいんだけどって言ったら『良いけど、お前ってそういうの信じるたちだった?』と笑っていた。

 

 

「あ、ども。連絡してもらった東方っス」

「ども」

 

友達は本当に気兼ねなく東方と挨拶を交わすと、「んじゃ、今から治すからちーっとばかし外で待っててくれる?」と東方は俺の背中を押して部屋から追い出した。追い出された俺はずっとドアの前で立っとくのもなんだったので、近くのオーソンでジュースを買いに行くことにした。

 

 

部屋の中で自分とアイツの友達と二人になった。なんで俺がここに来たのかの理由をいろいろ説明したら、「そういうことね」と笑っていた。

 

「…ふーん、アイツまだ気にしてるんだ」

「らしいっスよ。走れなくしたのは俺のせいだーって言ってた」

「気にしなくて良いのに」

「まあ、俺もそう思うぜ」

「走れないって分かった時はショックだったけど、アイツの走りをそばで見て諦めついたんだ。あんなに早く走ってるやつに追いつけねえやって思って」

「俺もこの間授業で走らされたんスけど、コンマ1差で負けちまったんだよなぁ〜」

 

話を聞いてて思ったのは、そこまで考える必要ないのにってことだけど、やっぱり本人が受けた周りの非難っていうのは本人にしかわからない辛さがあったんだろうなとも思った。

でもあんなに爽やかに綺麗に走ってるの見たら、またああやって走って欲しいと思った。

授業で隣を走った時もそうだけど、入学して間もない頃、バス停を諦めて走って行ったアイツのことを見た時もすごい足の速いやつだって思ったし、何より走ってる間の横顔がすごく綺麗だと思った。

だから、アイツが勝手に壊したと思ってる人の夢を、俺が治してやればまた走るんじゃないかと思った。

 

 

ジュースを二本買って戻ってきたら、部屋の中から楽しげに話してる声が聞こえてきた。とりあえずドアをノックしたら、「あ、もう終わったっス!入ってきて良いよ」と東方の声が返ってきた。ドアを開けたら、友達が俺の顔を見て「治ったよ」と開口一番に言ってきた。

 

「治った、って…」

「うん。ちょっと足触ってもらったらマジで治った!なんかツボ?押したらしくてさ、」

「じゃ…じゃあ、走れ、んのか?」

「さっきお前が戻ってくる前に走ってみたんだけど、全然走れる!マジでどうやったんだろ?今までのリハビリより一番効いてる!」

 

友達が足首を回して嬉しそうにしていた。インターハイ前の姿と重なって、思わず泣きそうになった。

 

 

 

 

「いやー、よかったスね!友達の足が治って」

 

帰り道を歩きながら、そうだねと返した。あと、ありがとうと言った。人は見た目で判断しちゃダメだなって勉強になった。

 

「良いッスよ別に、俺はまあ、アンタが走らねーの勿体無いなって思っただけだし」

「…そんなに走らせたいのかよ?」

「だって走るの好きなんだろ?さっきおめーのダチが言ってたぜ。中学の時は走るのが好きだったって」

 

まあ、後は、綺麗に走る姿をまた見たいだけだしと東方は付け足した。綺麗に走るって何だそれと思ったけど何に対して言ってるのかわからなかったから反応するのはやめておいた。…俺に向けられた言葉じゃないと思うし。

 

 

入部届を出した。

陸上部希望、って書いた。友達は陸上のマネージャーやってるらしいけど、走れるようになったからまずは併走トレーニングしてるって聞いて、本当に足が治ったんだって改めて信じた。

 

『あ、この間のヤンキーにありがとって言っといてな』

「分かった」

『お前、陸上やれよ?』

「…お前も言う?」

『だって本当は走りたいんだろ?もう俺のことなんて気にしなくて良いし、お前の走りが見たいって言ってくれる人もいるんだから。俺のせいでお前が走らねえっていうのも後味悪いだろ?』

 

そんな友達の言葉もあって、入部届を提出した。

提出した帰りに、東方に会った。

 

「おっ、部活決めた?」

「…うん。陸上入る」

「お…おーー!じゃあよ、これから試合とかいっばい出るよな?俺応援行って良いスか?」

「そ、そんな話まだするなよ。俺より速いやつだって他にいるし、」

「まだそんなこと分かってもねーのに話すなって!」

 

な!と俺の背中を遠慮なく叩く。そんな時に向こうから「仗助ぇ〜」と誰かが近寄ってきた。

 

「億泰!」

「あのセンコー、説教が長えっつーんだよ…聞いてなかったらまた最初から話し始めるんだぜェ?あーも、腰が痛ぇ」

 

そう言ってパキポキと首を鳴らした誰かが、俺のことを「あん?」と見下ろした。

 

「仗助ェ、コイツぁ誰だ?」

「俺のクラスで一番足速いやつ」

「うぉ!?マジか?てめーが噂の?」

 

噂ってなんだ、と反応に困っていたら、東方が「こいつ隣のクラスの億泰な」と紹介してきた。二人並ぶと威圧感がすごくて俺は思わず尻込みした。足が速いやつがなんかすごい、みたいなのって小中高関係なく男子の中にはある。足が速いやつがモテるみたいなのと同じもの。噂するほどかよとか思ったけど。

 

「億泰も隣のクラスじゃ一番速ぇんだっけ」

「おうよ。6秒7だったぜェ、この間の体育」

「ほー…なかなか速いじゃないの億泰君」

「噂のヤローは何秒だったんだ?」

「この間の手抜く前のやつは…確か…俺とコンマ1差だったから、6秒4だった!…よな?」

「6秒4ンン!?」

 

俺のことはそっちのけでわいわいと盛り上がっている二人に同時に50メートルの記録を叫ばれる。別にほとんど変わらないだろと言ったけど二人は納得していない。

 

「おめー…どっからそんな速さが出んだよ…さては不正じゃあねぇよな?よし、ツラ貸せぇ!オメーの速さが本物か、この億泰様の目で見極めてやる」

「まっ、…ちょっ…」

 

億泰、ってやつが俺の制服の襟を掴んでずりずりた引きずっていく。首が締まりそうになりながら、運動場に連れて行かれて、その日は億泰が納得するまでずっと走っていた。やっぱり俺は走るのが好きだと、久しぶりに心の底から思った。

 

 

 

 

後日、部活動が本格的に始まって放課後に練習をしていた。

50メートル走5本を走り終えた後、タイムの平均をとって確認していると、校舎から声が聞こえて、手を振っているのが見えた。

仗助と億泰だった。「練習頑張れよー!」と大声で喚いているのが分かる。応援は嬉しいけど、大声すぎてみんなが二人の方をじっと見ている。誰に向かって言ってるんだ?そんなふうにみんな周りをキョロキョロと探していた。

タオルで汗を拭きながら軽く身体の前で小さく手を振り返したら、応援が止んでしまった。

 

 

 

「あいつ…今こっちに手振りかえしたぞ仗助…」

「おう…初めて見た…明日は槍が降るかもな…」

 


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