ほんとうはB兄貴チルドレン的に全話一括投稿しようと思ったけど、
全然終わらないので途中投下します。
月一ペースぐらいになりそうだけどがんばるZOI!
小説でたまにある有名作品の引用文
あのキノコがまずかった。
伸ばしっぱなしの黒髪を垂れ下げて、少女はふらふらと歩く。茫漠としたクリーム色の眼は、映したものを認識しているかも怪しい。
黒髪の少女――ウルは瓦礫に這いつくばったまま、胃の中にある吐き気の渦を吐き出そうと試みる。胃の中で暴れているものが食道まで昇った瞬間に力を籠め
そういや、
走馬燈のように脳裏をよぎる記憶に、おかしさすら湧いてくる。前世のことを考えるなんていつぶりだろうか。
TS転生なんてファンタジーを経験したのに、生まれた瞬間に赤子のまま売り払われ、どうにか逃げ出した後もスラムをふらふらとさまよって、元日本人の心が擦り切れるほどのものも食べたあげく、果てに口にしたのは毒キノコ。
――こんなにつらいなら、何で転生なんてしたんだ。あのまま一度きりの人生でよかったじゃないか。
うずくまって腹をおさえる。腕で腹を押して中身を押し出そうとする。ぐるぐるぐるぐる暴れているくせに、中からちっとも出ていこうとはしない。
吐き出したい。楽になりたい。もう苦しいのはいやだ。
尺取虫のように尻を高く上げ、必死に力を籠める。目がぎゅうと痛くなり視界が曲がる。
「ん! んごぼぉ、ごばぁ!」
吐き気が一層強くなった。これを
驚いて口を閉じようとするも、弾力のある筋に負けて口が大きく広がる。胃の中はまだぱんぱんなのに、口からはどんどんと太い筋が這い出てくる。
ごぎん、と音を立て顎関節が外れた。筋はどんどん湧き出る勢いを増し、顎からまっぷたつに裂けそうな痛みが走る。ぶちぶちとなにかが千切れる音が聞こえてきた。
筋の至る所から見憶えのある真っ赤なキノコがぽこぽこ生えてくる。鼻先にあたって、キノコがばふんと胞子を散らす。目にも胞子が入りそうで、あわてて目を閉じる。
直前まで息を詰めて気張っていたせいか、もう酸素が足りない。苦しい。頭がぼやけていく。すーっといろんな苦しみが薄れ始める。
――もう、いいか。
諦めよう。全身から力を抜くと、意識がだんだんと遠くなり、ふわふわと浮遊感に包まれる。
死ぬときのあの苦しみが今回はない。これは幸いなんだろうか。
「ごぼぉぉおおおおおお!」
安らかな意識が、急激に内臓全部が引っこ抜かれたような感覚に襲われて目を見開いた。
涙ににじんだ視界の先で、かわいらしい少女が、必死の形相でウルの口から灰色の筋を引っこ抜いていた。
体の中を占めていたものがなくなった虚脱感とともに、ウルの体中に新鮮な空気が回りだす。
「焼いて!」「了解!」「リーダー、ポーション!」
リーダーと呼ばれた少女はキノコでいっぱいの筋を投げ捨てると、手早く仲間からビンを受け取る。乱暴に蓋を取ると、緑に淡く発光している液体をウルのおおきく開いた口に流し込んだ。
「これ飲んで! ポーション!」
酸素を求めていたはずなのに、大量の液体を流し込まれて喉がバグる。一度つっかえるも、無理矢理押し流されて胃にねじ込まれる。
酸素の代わりに液体が喉に詰められたことがとどめとなって、いい加減酸欠が限界に達した。
なにもかもが遠くなり、すーっと意識を手放す。
「え、ちょっと! 目閉じないで! 開けて!」
ウルの意識には、少女が焦りながら頬を叩く感覚が最後まで響いていた。