女装した傭兵団長とキノコにまみれたTS娘   作:甘枝寒月

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この前ケモに目覚めたので初投稿です。
シスターキャラをノープランで進めててどうしようと思ってたら、DIKY屋の仔白沢ガチャがかわいかったからつい。
でも子供の面倒を見てるワーハクタクとか、各方面に失礼な専用ボディそう(風評被害)


第9話 リスタート:広がる1歩ー2

「じゃあシュユ、お会計おねがい!」

 もう全部終わった、とウルは元気よく声を出す。

 あらためて云うが、その格好は上半身水着エプロンの露出過多(ろしゅつかた)である。

「ウルちゃん、それ、はちょっと、まずいんじゃないかな……?」

「ウルよ。家で着るならともかく、出歩くにはすこし破廉恥(はれんち)だと思うよ」

「え」

 ウルの中では、ファンタジーといえば、ビキニアーマーとかの肌出しマシマシ当たり前なイメージ。だから、自身もこの格好で日がな一日過ごす気満々だった。

「そのまま出歩けば、通りすがりに見られることになるだろうが、いいのか?」

 道行く人に(きわ)どい格好をじろじろ見られる。それを想像するとなんだか不快な気分。いままでの視線を向ける側では思わなかったけれど、受ける側になると、じろじろ下卑(げひ)た目を向けられるのは気分のいいものではない。

 ――では、なぜザクウの時だけいい気分になったのか。

 そこにはさっぱり気づかずに、「……この服は仕事着にします」と落ちこんだ。

 さて。これでまた、困ってしまった。普段着る服が振りだしに戻ってしまった。

 また悩んで服を手持ちぶさたにめくっていると、さすがに見かねたのか、シュユがひょいひょいと服を出して見せてきた。

「お前、こういうのは好きか?」

 薄手で袖の無い涼しそうなパーカーと、三段ふりふりの重なったスカート。一瞬パーカーの洗濯の面倒さがよぎったが、せっかくの好意、「えっ……と、好きだよ」と返した。

 実際、着させてもらえば気に入ったのだから単純である。

「ほかにも似合いそうな服見繕ってやるか?」などと云われてしまえば、それはもう満面の笑みで、「ありがとう! よろしく!」ほーっと安堵のため息をついた。

ほんとうに隙だらけだな

「シュユ、なんか云ったか?」

「いや。ザクウの見る目は正しそうだと思っただけだよ」

「? リーダー、なんか吹き込んだ?」

 じと目でザクウを睨めつけると、彼はあわてて手と頭をぶんぶん振る。うーん? なにを察されたんだろう、オレ。

「これくらいでよいかの」

 シュユの声に意識を戻すと、その手には大量の服が抱えられていた。

「え? いや、そんなには要らないって。3、4着もあればじゅうぶん」

 ほんとうは、たまの休日用に1着あれば充分だけど、量に圧倒されて3、4着と云ってしまった。

「だが、あまりすくないとリコリスのやつがまた騒ぐんじゃないか?」

「うぐ。それは、その……」

「ふふふ。上下はどう合わせてもいいようにしておいたから、組み合わせでしばらくはしのげるだろうよ」

「あ……アリガトウゴザイマス」

 折れて、ポケットから財布を出してお会計。山のように積まれた洋服を見て、ああ、ずいぶんと衣装持ちになってしまった。

「お前、ポケットに財布は不用心だろう。ほら、カバン。あと靴も履きな」

「あ、ありがとう。じゃあこのお金も」

「サービスだよ。サービス」

「え、いや、払うよ」

「いらぬよ。気持ちよく受けとるのが、サービスへの一番の礼だよ」

「あ、はい、ありがとうございます?」

 そう云われてしまうと、受けとるほかない。いいのかな、と戸惑いながらも、カバンをたすき掛けにし、真新(まあた)しい靴を履く。

「そうだ。ついでにこの服はお前たちのアジトまで届けてやるよ。何かほかにも用事があるんだろ?」

 ザクウの背負っている大きな麻袋を見て、シュユはさらにサービスを重ねた。

「いやいや、持って帰れるって」

「……実を云うと、さっきの服のストックは倉庫にしまってあってな。取りに行くのを後でまとめてにしたいんだよ」

「あ、そうなん?」

 打ち明けるように云われたせいで、ウルはあっさり信じて、そういう事情ならおねがいしちゃうか、ところっと手玉に取られる。

「じゃあ、おねがい。急がなくていいから」

 とシュユの思惑どおりにウルは配達を頼んで、ザクウのほうへと向き直ると、「じゃあそろそろ行こうか」

「うん。じゃあねシュユ」

「きょうはありがとなー」

「まいど、だよ」

 

 シュユの店を出て、通りまで戻る道すがら。

「いい人だったな」

 ウルは、すがすがしく呟いた。

 気分として、たしかに服選びという難題(なんだい)を終わらせた解放感もある。だが、それ以上に、さっきまでの思い出が、楽しかったな、と反芻したくなるような、透き通ったいい心地にさせてくれた、その思いのままするすると呟いたのである。

 平生の緊張を取り払い、へにゃりと笑う彼女に、ザクウも「そうだね。シュユはいい人だよ」とだけ返し、しばし無言で市場通りまで歩いた。

 

 市場通りの喧騒(けんそう)から遠く離れ、今度は閑静(かんせい)な区画に足を運ぶ。大きな通りを選んで歩いてきてもらったけど、道はやっぱり憶えられてない。もういちどって云われたら、たどり着けるかなぁ。

 しかし、その心配は杞憂(きゆう)だった。

「ウルちゃん。ここが教会だよ」

 ザクウが指差した2つ目の目的地は、前世と変わらぬ教会然とした――教会なのだから、ある種当たり前なのかもしれないけど、大きく荘厳(そうごん)な建物と、その脇に大きな樹がそびえ立っていた。

 街のどこからでも見えるだろう大樹を、ウルはぽかんと口を開けて見上げた。芝生だけでベンチすらない広場の中心に生えているせいか、大樹はどっしりとした存在感を纏っている。

「リーダー。この樹は?」

「ん? あー、女神記念樹だよ。なんか女神さまが植えてから、この街といっしょにずっと育ってきたんだって」

「はえー、すっごいおっきいなー」

 なおも見上げながら、感嘆(かんたん)の声をのんびりあげる。

 こんなに大きく生い茂った、世界樹とでも呼びたくなるような樹を見るのは初めてだった。テレビとかではそれこそ1000年以上の樹なんてものもあったけど、しょせん小さな画面の向こう側のものだったし、生で見るような樹はもっと背の低い、がんばれば枝に手の届く――

 ぎゅん。目が軋み、めまいが起きる。視界が明滅(めいめつ)してマーブルに染まる。

 一瞬、その向こう。大樹の枝に、ぶらりと(くび)れた人影が見えた。

「うぐぅ」

 たたらを踏んで、一歩二歩。視界が回復し、体勢を立て直す。

 もういちど樹を見上げても、当然、(くび)れた(むくろ)なんてない。

「だいじょうぶ?」

「ああ。だいじょうぶ」

 ザクウの心配にも生返事して、三度樹を見上げる。

 さっきの人影は、なんとなく、あれは、自身の墓標(ぼひょう)のような気がした。

 この世界にはない死体。あの世界にもない死体。だけど、それのため、手を合わせて祈りを捧げる。

 黙禱(もくとう)ののち、あらためてザクウのほうを向いてきひひと笑う。

「それじゃ、行こうか」

「う、うん……」

 樹のそばを離れ、ウルたちは教会の中へと入っていった。

 木製の扉をくぐり、短い廊下を歩く。いくつか飾られていたモザイク画のひとつに、なにやら大仰(おおぎょう)に描かれた人が小さな樹に手をかざしているものがあった。外の樹のことだろう。ほかの画も、なにか曰くがあるのかな?

「ここ」と部屋の前まで案内され、ドアノブに手をかける。ガチャコン、と大きな音が出てびっくりした。そのせいで気勢(きせい)を削がれ、自然、そーっと扉を押し開ける。

 広く高く静謐(せいひつ)な、がらんとした礼拝堂。石畳の上に長椅子が並び、その奥に神職(しんしょく)のためだろう、2、3段の階段で高くなった場所に机がひとつ。そのさらに奥、壁際には神の場所、ステンドグラスを背にした大きな像、いや、像のかたわらに誰かいる。

 白くてしっぽが大きい動物が、腕先(うでさき)脚先(あしさき)だけ空色に染めて、レッサーパンダのような2足歩行で像を拭き清めながら、顔だけこちらに向けていた。

 獣人(じゅうじん)らしく、目鼻立(めはなだ)ちこそ人間風なものの、輪郭、喉元のふさふさした毛、頭から指先まで伸びたケモ耳、それらが動物らしくいろどっている。

 ――いや、こんなんじゃいつまでも伝わらない。遠回しに表現するのはよそう。

 かわいいケモノっ子がそこにいた。

 青空を想わせるふわふわした毛並みの、ちいさく愛らしいケモノっ子が、ステンドグラスで色づいたあたたかな光のなか、まっすぐこちらを見つめていた。

 本来なら、こちらが出向くべきなのだけど、ウルは愛らしさについつい、ケモノっ子がてちてち、てちてちと歩いてくるのを、はらはらと、そしてほんわかと見守ってしまった。

 正気に戻ったときは、ケモノっ子に涼しげな声で「どーしたの……?」と呼びかけられていた。目をくりくりさせて、ギザギザの歯を覗かせながら心配され、またトリップしそうになる。

「あ、ご、ごめん。あまりにもかわいくて、見惚(みほ)れてた」と浮わついた気持ちのまま口を滑らせる。

「そー? うれしいな。えへへ~」

 ケモノっ子が両手をほほに当て、にっこりとほほえむ。明るい笑顔がまぶしくかわいい。

 あんまりにもかわいくて、照れくさく、ウルは目線をそらしながら、それでいてちらちらと目を動かして、

「オレ、ウルって云います。あの、名前、聞かせてもらっても……」

「ラチナはラチナだよ。ハクタクの獣人!」

 ハクタク、というのはよくわからないけど、とにかく獣人らしい。

 すっと差し出された手に握手を重ねれば、手のひらにはやわらかくふわふわとした肉球が、そして指先にはさらさらと、そしておなじ言葉でもまったく違う、ふわふわとした毛並みが触れ、それだけでしあわせになる。猫を吸いたい、という気持ちがわかる気がする。

「ふおおぉぉ……!」

 声が漏れてしまった。

 あわててラチナの様子をうかがえば、彼女は?顔でなされるがままになっている。

 このままでもいいか、と肉球に手のひらを何度かバウンドさせたところで、無垢(むく)につけこむオレは、もしかして痴漢と云うのではないか、と気付き、名残惜(なごりお)しく手を離す。洗いたくない。

「あれ、もーいいの?」

 やはり、バレていた。

「いや、それは……」

「じゃあ、またこんどね!」

「え、いい、の、か?」声が喉に絡む。

「うん! もちろん!」

 あんまりにも明るくて、欲望で触ったことを後悔する。ふわふわの身体は気持ちよかったぶん、罪悪感は増すばかり。わたわたとごまかすように、ザクウの持ってた荷物をひったくって、ラチナに手渡す。

「あ、こ、これ! リコリスとスイからの、服の寄付。孤児院の子たち、に。オレが借りてたんで、遅くなって、ごめん、です。……ラチナに渡しちゃっていいんだよ、な?」

「うん。ありがとー」

「あのね、ウルちゃん。ししょ「ラチナだよ!」……ラチナさんは、この教会で一番えらい人なんだよ」

「あ、そうなのか!? ……あ、じゃあ、敬語とか使ったほうが、いいん、です、か、ね……」

「んーん。ラチナぁ、ウルとはお友達になりたいなぁ。だめ?」

 あざとく両手を組んでまんまるきらきらの瞳で甘えてくる。当然断れるはずもない。

「オレが、友達で、いいの?」

「うん! ラチナとウルは、友達! だよ!」

 ともだち。

 生きていて、前世から数えても、はじめての、ともだち。

 心がうきうきする。

 こそばゆいニヤケが出そう。

 ありがとうという衝動のまま、抱き締めてしまいたい。

 そして、頭の奥から声がする。

 ――どうしてそんなに喜んでいるんだ?

 ――前世でも、仲がよかったと思ってたやつはいたよな? ほら、同級生の、楽しそうに友達に囲まれてた、アイツ。

 ――話しかけられて、たまに笑って。お前は友達だと思ってた。お前だけは。

 ――でも、違った。だろう?

 ――アイツと常に親しかった友人とは違って、お前とは浅いその場かぎりの冗談だった。知り合いへの愛想だった。社交だった。

 ――ほら、お前さ、自分の身体を見てみろよ。

 ――いまお前がやさしくしてもらえるのは、お前が小さな女の子だからだ。一定の愛嬌(あいきょう)が保証されているからだ。騙しているからだ。相手が根明(ねあか)で、知り合ってすぐでもやさしさを振りまいてくれるからだ。

 ――()()()()()()()()()()()()

 自分の思い上がりに、ようやく頭が思い至り、くしゃりと顔を歪ませ、痛む(しん)(ぞう)をそっと押さえ、目頭が熱くなるのをぐっとこらえた。

「どーしたの?」ときょとんとしたラチナを見て、ああ、彼女を悲しませてはいけない。落ち込むのはあとでひとりでやれ。いまは、ただ、彼女のあどけない笑顔を曇らせないようにしなければ。

「いや、な。かわいい友達ができて、感動しちゃってな。きひひ」

「そー、なの?」

 本意ではあるけれど、喜んでもらえるかとおべっかのように使う。(かんば)しくはなかった。

 じゃあ、とカバンにごそごそ手を入れて、

「そうそう、今日はラチナのために、お土産を持って来たんだ!」

 ぶどうを取り出して、ラチナの手に乗せる。つやつやとみずみずしい、粒の大きなぶどう。ふたつ。

 寄付する予定の服を、オレに貸すために遅らせた、と聞いたから、そのぶん手土産のひとつくらい、とここにくる途中で果物屋によって買ってきたやつだ。

「ウルちゃん。そのために寄り道したの?」

 ザクウが驚く。店先に売ってたのを見て、思いつきで買ったから、云ってなかった。

「これ、皮ごと食えるらしいんで、子供たちと、どうぞ。……あ、好みとか、だいじょうぶか?」

「うん! くだもの、だーいすき! ありがとー」

 ギザ歯をほんのり開いたほくほく顔。かわいらしいうれしそうな顔。ラチナのその顔が見れたなら、買ってきて、よかった。

「ここじゃなんだから」とラチナに案内され、別の部屋に行く。ラチナが前を歩くと、大きなしっぽがふりふり揺れる。ぶどうでごきげんになったからだと、いいな。

 すれ違いに、子供が「お! ぶどう? ぶどう?」と騒ぎ始め、それを聞きつけた子供が来ては騒ぎ、けっきょく居住スペースの部屋につくころには、全員集まった、らしい。

「ウル。ごめんね。ちょっとザクウ借りてっていーい? お話があって」

「あ、うん、どうぞ?」

 ラチナはぶどうを2、3粒むしって肉球掌(にくきゅうてのひら)で転がし「これだけもらってくね。みんな。ウルにありがとーって云うんだよ」

 子供たちに云い残して去っていくラチナを見送り、目を戻すと、待て、をしている子供たちの目が見つめていた。

「ど、どうぞ」と促すと、子供たちはわっとぶどうをつつき始める。

 いや、女の子がひとり、まだおろおろとしている。

「どうぞ、食べな」と、今度は手振りも含めてやると、女の子は「ありがとうございます」とおずおず1粒手に取った。

 

 ザクウはラチナの後ろを粛々(しゅくしゅく)とついていき、屋根裏の、ラチナの部屋まで連行される。小柄なラチナにちょうどいい、ザクウにとっては小さく手狭な部屋で、必然、ふたりは短い距離で向かい合う。

「座って。どーぞ」とイスを勧められたが、ザクウは座らず、そして、

「ご無沙汰しています、師匠」と頭を下げた。

 ハクタクの獣人、ラチナ。彼女の名前、いや、伝説は世界中に(とどろ)いている。

 曰く。災害級の魔獣を単独で(ほふ)った。

 曰く。狂った魔獣を産み続ける闇世界樹をなぎ倒した。

 曰く。天より降りてきた神を名乗る侵略者すら殴り堕とした。

 曰く。彼女こそ女神の使いである――いや、これはラチナが引退して神職に就いてから教会が流したんだったか。

 とにかく、ラチナと云えば一般の人々にも膾炙(かいしゃ)された、生ける伝説なのである。

 彼女の活躍を間近で見た、この街近辺の人の戦闘職はもちろんのこと、今でも遠くからやってくる挑戦者とかは、一度はラチナにぼこぼこにされて、伝説を身をもって知るのが定番。

 ほかならぬボクたちアイスフリル傭兵団も、血の気の多いケイオスを筆頭に、全員、たまにラチナがなまらないために特別な稽古と称してぼこぼこにされている。

 その、伝説の『黄昏空(たそがれそら)のハク』ラチナは、両ほほをむにりと押さえてぶんぶんしっぽを振り、「かわいーなんて、はじめて。うれしーな~」と照れていた。

 ぶどうを噛んで、「あっまい!」とまたぶんぶんするラチナは、云われてみれば、あざとい、かわいらしそうな仕草をしている。伝説、最強、その印象が強く、かわいい、という角度から見たことはなかった。

 こういう時、ウルちゃんはすごい。

 たぶん彼女は、師匠の偉業は知らないのだろう。けど、見慣れればこそだが、獣人を初対面で人となりを見、かわいいと感想を抱ける人は少ない。

 いや。師匠だけではない。ガーゴイルでありながら高貴なレディであるシュユ。もちろん、女装をしているボク自身だって。ウルちゃんは、()()()()()()()受け入れてくれる。

 すべてを鵜吞(うの)みにして呑むのではなく、彼女の常識があるうえで、その常識から外れた人を受け入れる。その姿勢を、すごいな、と思う。

「ウルの話は聞いてたけど、いー子だね。ほんといー子だね」と、ラチナは真面目なトーンでぶどうをつまんで口に放り込む。

「……わざわざこんなのも持ってくるなんて、聞いてたとおり気にしーなんだね」

「うん。もうちょっと好きに過ごしてほしいっては云ってるんだけどね」

「あー。ラチナと友達ってなったときも、急に落ちこんじゃったし」

 ウルがなにかうれしがって、明るい表情を見せる。直後、なぜか暗くなって蒼褪(あおざ)める。ウルの謎の1セット。

 見慣れてはしまったけれど、なんとかしたい、屈託(くったく)なく笑う彼女が見たい。

 それに。彼女のその沈みグセの結末は。

「なにか、あったの?」

 ラチナの声。

 そうだ。ラチナは、強さももちろんだけど、聡い、洞察力がある。

「話してみて」

 師匠に促され、ボク自身の、誰かに相談したい思いもあり、気がつけば今朝の家出事件を話してしまっていた。

「思いつめて、家出」

「うん。なんでかはどうしても話してくれなかったけど。それに」

「それに?」

「あの時のウルちゃんには、死相が浮かんでた。もしかしたら、ウルちゃん、思いつめて」

「うー。……でも、今は生きてて、元気ではある。ザクウがなんかしたんだよね?」

「すがりついて引き留めただけ、だけど」

「でもえらい! はなまる!」

 戦闘ではもらったことのない花丸をもらってしまった。

「でも、元気になったらこんどはちょっと、距離が近すぎちゃって」

「どーしたの?」

「うっかりその、スカートの中見ちゃったりしてからかわれたり、さっきは胸を見せてきたり、ちょっとエッチにからかわれて」

「……」

 ラチナが相槌をやめ、真剣な顔で眉をひそめる。

「ねー。ザクウ。それ、反応したり、した?」

 威圧感を出しながら問われて、ちょっと怖い。

「え、そ、それは」

「こたえて」

「……はい。見ちゃいました」

 含羞(がんしゅう)の顔で答えると、ラチナはますます眉間を深く刻み、長い耳を指でいじる。

「ちょっと、まずーい、かも?」

「どういうこと?」

「ウチの子にもね、ひとりいるの。気にしーの子。その子がね、よく手伝いしてくれるんだよ。なにかやってるときでも、疲れてても、体調が悪くても」

 憶えがある。もともと、あの家出事件の発端は、ウルのオーバーワークだったから。

「あの子は、自分が役に立つよって、価値があるよって、だから見捨てないでって、云ってる気がするの。おんなじように、ウルは、()()()()()()()()で、価値があるって云おうとしてるの、かも」

 違うとは、云えない。

 はじめて話した日、彼女は自分の価値を処女以外ないと云い捨てていた。

 次の日も、ルティアが制したとはいえ、自分を肉便――うう、と云おうとしていた。

「それは、ダメだよ。やだ。――師匠。ボク、どうすればいい?」

「もちろんだよ。――まずはね。そういうエッチなアピールには反応しない。成功体験(せーこーたいけん)を積ませない。その上で、ウルのわがままを聞いたり、叱ったりしながら、見捨てないよって全身でアピールしたげるの。いーい?」

「はい!」

 ちょうどその時、外から子供たちの声がした。

 女神記念樹の広場で、子供たちが笑いながら遊んでいる。

 ウルも、いた。

 ぎくしゃく動いては、ほかの子供に「違うって! こうだよ、こう!」と注意されて、頭を搔いて笑っている。

「よし! ボク、がんばります!」と宣言すると、ラチナが背中を叩いてくれた。

 いたい。気合いが入る。ありがとう、師匠。

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