女装した傭兵団長とキノコにまみれたTS娘   作:甘枝寒月

13 / 16
ひさびさの祝日がうれしいので初投稿です。
サブタイ思いつかない、思いつかない……。


第10話 ただいま

「えっと、ただいま?」

 アジトに帰る。帰る場所である。そう云っていいのか、照れくさく、ただいまと素直に云えない。

「おかえり、ウルちゃん!」

 後ろからザクウが、肩にぽんと手を置きながら迎えてくれる。袖なしのパーカーだから、普段は人肌に触れない二の腕に手のひらが触れる。すこし皮の厚い、筋ばった感触。ぬくもりがあたたかく、じんわり広がる。

 くう。

 緊張が取れ、腹が()ってしまった。

「え、えーと、きひひ」

「おなか空いちゃった?」

 ザクウが、いたずらっぽい顔で聞いてくる。

「……はい」

「まあ、今日はウルちゃん初めてのことばっかりだったから、大変だったでしょ。どうする? なにかおなかに入れちゃう? それともみんなが帰ってくるまでひと休みする?」

 寝穢(いぎたな)いから、休むって提案は魅力的だったけれど、普段のにぎやかさとは違う、このおだやかな時間が、なにかもったいなくって。

「いや、もうすぐみんな帰ってくるだろ? 待ってるよ」

「そう?」

 ザクウは小首を(かし)げて、「じゃあ、干し芋でも持ってくるから、食べよう」

「あ! それなんだけど」

 ごそごそとカバンをあさり、真っ赤なリンゴをひとつ取り出す。

「えっと、これ、果物屋でおいしそうだったから、つい買っちゃって、これ食べちゃわない、か?」

 ほんとうは。オレのこと拾ってくれてありがとうって、今日、オレのこと追いかけてくれて、いないとさみしいって云ってくれてうれしかったって、そう云いたくて。それで買ったもの。

 だけど、オレのために使いなと色をつけてくれたのを使って、贈り物を買うのは、いいのか悪いのかわからずに、そこで何か自分のために買って好意に(むく)いることもできず、フルーツ山盛り買ってみんなにふるまうこともできず、半端に1コだけ買ったせいで、本当の理由が云えなくなった。

「あっ」

 半端に1コだけ買ったせいで、分けられない。

 切ればいいんだけど、刃物は料理人(タリスマン)の命って聞いたことあるし、勝手に使うのもな。

 おろおろ、おろおろ。

「リーダー。これいっこしかないから、食っていいよ」

 分けるのを諦め、手渡す。

 ザクウは「んー? え、ウルちゃんのぶんは?」

「いやー、なんとなく買ったからいっこしかなくって」

「そーお? じゃあ」

 と、受け取ったザクウ、おもむろにリンゴを両手持ちして、親指をヘタに突っ込んだ。

 まさか、と思う間もなく、乾いた音とともに、ザクウの手でリンゴがまっぷたつ。

「お、おー……」

 まさかそんな光景を見る日がくるなんて、と思わず声が出る。

「あ、すごい! このリンゴ、いっぱい蜜があるよ!」

 はしゃぐザクウ。ついさっきリンゴを素手で割ったとは思えない、かわいらしいはしゃぎかた。

「はい、ウルちゃん!」

「ん。ありがとな」

 

「たっだいまー! っス!」

「ただいま」

 リコリスたちが元気よくアジトに帰ると、中にいたウルがぱっとイスから立って「おかえり」と返してくる。

 ウルの表情には、今朝のような(かげ)りはない。

 元気になったみたいで、よかったっス。

 朝なんとなくしょんぼりしてたから、なんか気にした視線を向けてたリーダーを問い詰めて、今朝の事情は聞き出していた。

 秘密にしておいてほしい、というのも聞いてたから、表立って心配できずに、不自然にならない程度にしか元気づけられなかったけど、すっかりいつも通りになってて、よかった、よかった。

 むしろ、いまリーダーと2人で流してた雰囲気の名残(なごり)は、どこかあった、ウルの遠慮(えんりょ)がすこしだけ薄れた気安いものだったみたいで。

 ここをおうちだと思ってくれたら、いいっスね。

 それに。

「ウルちゃん、いい服選んだっスね! かわいいな」

 ノースリーブのパーカーに、フリルのティアードスカート。淡いパステルカラーでまとまってて、センスもいい。露出こそちょっと多いけど、そのぶんムダ毛処理とか、そういうのも教えやすそうで、またかまえる。

「あ、ありがとう、きへへ」

 なんか歯切れが悪いなーと思ったら、「……じつは、シュユに選んでもらいまして」と服をつまんで自白した。

「わかるっス。シュユさんは選ぶのじょうずっスからね。勧められるとつい買っちゃうっス」

 本当。と同時に、ウルに、今日は成功だったと思ってほしいのもあった。

 その考えが通じたのか、スイも乗ってくる。

「私も。シュユに選んでもらった服、いっぱい」

「そ、そーなのかー。きひひ」とウルはもういちど、照れくさそうに服をつまむ。ほんのりとだけど、自信を持ったみたい。あんしん。

「ウル、シュユからの、これは?」

 スイが異次元バッグから、大きな袋をいくつか取り出した。帰る途中で会ったシュユから預かったものだ。

「あ。それも、シュユに選んでもらった服、とか」

「おー!」

 なんだかんだ、ウルはあまり服は買ってこないだろうと思ってたから、いっぱいでうれしい。

「どんなの買ったっスかー? ……あれ、これって」

 手近なひとつを開けてみると、シュユの店で塩漬けになっていた、ロリコン領主の置き土産。

「それは、オレが選んだんだ! どう、かな?」

「いいと思うっス! 好きな服着るのがいちばんっス!」ととっさに云えた自分を()めてあげたい。

 着てる服も肌が出てるなとは思っていたけど、ウルちゃん、肌の出る服が好みだったっスか? いや、でもこの服はさすがに。いや、うん。

「これ、どこで、着るの?」スイの声も戸惑いが満ちている。

「シュユにもリーダーにも云われちゃって。アジトの中だけってことで……」

 あ、そこはよかった。さすがにっスね。

 けっきょく、袋のうちほとんどは、その置き土産で、ウルの私服はひと袋だけ。でも、そのパーカーやTシャツ、ミニスカートにショートパンツをウルの身体にあてて、簡易的な着せ替えを楽しんだ。ほんとうは一着一着着てほしかったけど、遅い時間だし、疲れてるようにも見えたから、それはいざ着た時のお楽しみ。

「あれ、もう一着、ある」

 全部出して遊んでから、みんなで畳んで袋にしまおうとしたとき。スイが気がついて取り出した。袋がくたっとしていたせいで、折り目の奥に隠れていたらしい。

 取り出してみると、それもまたパーカーで、まっしろな生地にパキッとした黄色や水色の(ほし)が大きく描かれている。

 あれ? こんな服、シュユの店で見たことないっスよね。

「リコリス。これ」

 スイがちらっと例の置き土産を見せてくる。それにも☆があしらわれているのを見て、(さっ)する。

「シュユ、きっと」「仕立てた、っスね」

 ウルちゃんの様子から、きっと勝手にやったのだろう。素直じゃない、シュユさんらしいっス。

「ウル、この服、好き?」

「んー? お、いいねこれ」

「なら、よかった」

 ウルのために(つく)られたパーカーを受け取って、彼女がうれしそうに、おーと感嘆(かんたん)の声をあげた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。