女装した傭兵団長とキノコにまみれたTS娘   作:甘枝寒月

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猫アレルギーなので初投稿です。
猫を吸う、そんな体験がしたいだけの人生だった。


第12話 あぶなっかしくてしっかりしている

 今日は、はじめてのお休み。だけど、いつもとそう変わらない時間に起きる。とてもねむい。

 しかし、いつもは毎日みんなを見送っているのに、休みになったとたんにぐーすか寝こけて見送りもしない、というのは体裁が悪い。それに、やっぱりみんなの顔を見ておきたい。

 それで、ウルは休みなのに早起きをした。ねむい。

 ザクウにちょいちょいもらっているナッツをひとつまみして、ぼりぼりと噛んだ後、もう着替えてしまうことにする。前世では友人がいないのも手伝って、一日中寝間着で朝寝(あさね)昼寝(ひるね)夕寝(ゆうね)も珍しくはなかったけど、傭兵団のみんなは勤勉に、休日だろうと出かけていくので、ぐーたらするのは気恥ずかしい。

 黒地に白糸が目立つ大きなパーカー、襟ぐりのやたら開いたたまご色のシャツ、そしてパリッとしたスカート。よくわからないけど、ヨシ! の精神で選んで、着る。相変わらずファッションはちんぷんかんぷん。

 大きなパーカーの中二病っぽい格好良さにくるくる回っていると、ふと尿意を感じた。男のときと違って、女の子の身体では能動的に我慢しないと、ほんとうに『緩む』のをスラムでさんざんに経験したので、さっさとトイレに行くことにする。

 排尿のあと、手をばしゃばしゃ洗い、顔もついでに洗って、そして鏡を見る。いつもの疲れ切った顔はともかく、服は、これは、どうなんだろう? よくわからないから、自信がない。

 トイレから出ると、ちょうどザクウが洗濯をしているところだった。リーダーなんていちばん偉いのに、休みの日のかわりをするなんてどうなの、とは聞いたけど、「雑用リーダーだからね!」という謎の返事を返されてしまった。

「あ、ウルちゃん。おはよう」

 ザクウはこちらを見て、にっこりとあいさつすると、「きょうは私服だね。かわいいね」

 服装を褒められる、という、あまりにも意外な出来事に、シュユのおかげだということも忘れ、「そ、そうか……? き、ひひ」と照れ笑い。

 ほんとうは、自信がないから、褒められることなんてないんじゃないかと思ってたけど。

「この格好で、変じゃない、んだよな?」

「うん! とっても似合ってる! かわいいよ!」

 冷静なら、云わせてるとか思うのだろうが、その時はただうれしくて、服をつまんでにやけていた。

 ――そのすぐあと、それをうっかりしゃべったら、「そ、そんな、っス! ウルちゃんの私服褒め一番は私がやりたかったっス!」と悔しがるリコリスがいたのだけれど。

 

 

「ラチナー」

「はーい?」

 ある日の昼下がり。子供に呼ばれて、ラチナはてちてちと歩いていく。

「どーしたの?」

「となりの芝生で、この前のぶどうのねーちゃんが寝てる。すっげーだらしなかった」

「ウルが?」

 どしたんだろー? と表に出てみれば、たしかにウルが転がっていた。オーバーサイズのパーカーをはだけ、強調された華奢(きゃしゃ)な身体をさらし、シャツの(すそ)に手をつっこんでおへそを見せている。口のはしっこからよだれをまっすぐ地面まで垂らす姿は、たしかにだらしない。

「ウルー?」

 呼びかけると、「うぅ……ん」とうめいて、寝返りをうつ。今度は腰が丸見えだし、パンツだって見えそうになってる。

「ちょ、ちょっとぉ、ウル?」

「うー?」

 あわててぶんぶかゆさぶる。おかげでさすがに起きたものの、両手をついて上半身だけもぞもぞ起こし、寝ぼけまなこでラチナをぼんやり。

「わーい。やったぜ」

 そう云うと、ウルはラチナのしっぽに抱きついてきた。あまりにも堂々と、大胆な行いに、困惑しながらも受け止める。ラチナの胡乱な視線も気にせず、ウルは「すぅぅぅうう。はぁぁぁああ」と音を立てて、しっぽを抱きしめ深呼吸。なまあたたかい吐息がラチナのしっぽに立ち込める。

 すー、はー。と何度も繰り返したあと、ウルは突如ぴたっと止まり、ゆっくりと離れた。

「これ、夢じゃない可能性とか」

「現実、だよ?」

 とりあえずばっさり切り捨てながらほほえむと、ウルはおもむろに地面に手をついて、頭を下げ、土下座した。

「ご、ごめん! 前から吸いたいなって思ってたから、つい夢に出たんだと……」

「うーん? いーんだよ。顔上げて」

 持ち上げられたウルの不安そうな顔に、しっぽをふんわり叩きつける。

「そんなにラチナのこと吸う? したいんだったら、云ってよ~」といたずらっぽく笑う。

「え、い、いいのか?」

「うん。もちろんだよ」

 ウルはおっかなびっくり、やがてすこしずつ遠慮をなくし、ラチナのしっぽを手櫛(てぐし)したり、しっぽの毛並みに隠されたおにくをなでてみたり、もちろん抱きしめて吸ったりもしたあと。

「ああ~太陽のにおい~」

 ラチナの、かつて血にまみれた全身で、こんなにも安心してくれるなんて。なんでそんなになのかはわからないけど、とってもほんわか。

「あ、あの。もしかして、おなかに顔埋めたいって云ったら、おこる?」

「んーん。……ここじゃ恥ずかしいから、中で、ね?」

「や、やったぁ……ありがとう。ほんとうに、ありがとう」

 

「で。どーしてあんなところで寝てたの?」

 吸う、を思うぞんぶんに堪能(たんのう)してもらい、しっかり満足してもらってから、ラチナは問いかける。

「いや、今日、初めてお休みもらったんよ」「うんうん」

「それで、普段はわりと早起きしてるから、そのぶんのんびり昼寝でも、と思って」「うんうん」

「でも、ほかのみんなはわりと休みもみんな出かけてて」「うんうん」

「だから、アジトで寝てるより、出かけて日向ぼっこしてました、のほうがカッコつくかなーって?」「うんうん。……それで?」

 ここでようやく、質問されているのでなく、詰問(きつもん)されていることに気がついたのか、ウルはあわてふためいて、

「い、いや、ほら、部屋で寝てました、だと、ぐーたらって感じじゃない。でも、芝生で日向ぼっこしてました、だと、ぜーたくな時間だなって、ならない、かな」

「うんうん。わかるよー」

 これ以上深堀りしても意味がない、と察したラチナは、ウルの両ほほをつまんでひっぱる。痛くないようにはするけど、遠慮せずむにむにやわらかほっぺを手伸ばしする。

 ウルと初めて会ったときは、手土産とか持ってきてずいぶん大人(おとな)らしかったから、思ってもみなかった。

「ウル。ウルは、自分が女の子だって自覚、持とっか?」

 懸念(けねん)してた、女の子を利用して居場所を作ろうとするより、もっと(あや)うい。無警戒。自分を大事にしていない。ザクウはあれでヘタレだし、ないだろうけど、もし誰かに頼まれたら、頼まれるがまま無防備に身体を差し出してしまうかも。

「え。いや、知ってるよ、さすがに。ちんちんついてないし」

「そーいうのを口に出さないの!」

 両ほほを今度は押し込んで、むにむに潰す。歯まで伝わるほど思いっきり潰しながら、精精(せいぜい)怖い顔を作って、じっとり見ながらぐにぐに捏ねる。

「肉球が気持ちよかった」

 終わってから、そんなことをつぶやかれた。反省してほしいんだけどなぁ。

 ラチナは真剣な顔でウルに向かい合う。

「あのね。この街だって、特別治安がいいわけじゃないの。だから、むぼーびに寝てて、あられもないかっこさらしてちゃ、怖い人に(おそ)われちゃうの。ヘンタイがこっそり近づいてきてウルを連れ去ったら、ラチナたちはすっごく悲しむし、がんばって助けに行っても無事に助けられるとは限らないの。だからね。――

 こんこん。こんこん。膝詰(ひざづ)めの説教。

 

 しばらく。

 ――ウルも、もーすこし()()()()を持って、ヘンな場所でむぼーびにならないこと! いーい?」

「はい! わかりました!」

 ぜったい分かってない返事をして、ウルはなぜかにこにこ顔。心配してるのに、わかってるのかなぁ。わかってないのかなぁ。

 ふー。しかたないかぁ。

「ねむいときは、勝手にはいってきて、ここで寝ちゃってていーから。だから、外では寝ないで」

「え。いや、神聖なとこでねこけるのって、いいのかなって」

「それは、ダメに決まってるけど。でも! それでウルが襲われでもしたらもっとやだ。だから、だいじょうぶだよ」

「あ、うん。ありがとう……?」

 いまいち事の重大さがわかってないみたいだけど、とりあえず急場はしのげた、かなぁ。性教育を教えるのはゆっくりになりそうだけど、危ないのはなんとかできた。

「じゃあ毛布持ってくるから。おやすみ」

「あ、ありがとな。おやすみ」

 礼拝堂から居住スペースに行き、ごそごそ押し入れを探っていると、礼拝堂のほうから声がするのを、獣人としての並外れた聴力が聞き取った。

『ねーちゃん、ごめん! まさかあんなに叱られるとは思わなくて』

『あー? いいんだよ。うれしかったし』

 ガミガミ叱ったあとだから、もしかしたら嫌われたかも、と思ってたところだったのに。まさかの言葉に、耳をそばだててしまう。

『叱られてうれしいって、なに? ヘンタイ?』

『いや、真剣なラチナもかわいかったけど、そうじゃなくて』

『じゃなくて』

『あんなにまっすぐ叱られるのって、ほんっとに貴重なんよ。大人になると、妙なことしてても避けられるだけだし、叱られても、それは心配とかじゃなくて、自分の思う通りに踊れって打算だったりするし。だから、まっすぐ真剣に叱ってくれたことが、うれしくて、ありがたくて。しかもまだ会って2回目なのに! ラチナは高潔な、すごい人だよ』

『そういうもん、なのか?』

『なのだよ』

 会話が終わり、子供のほうの気配が去っていく。すこし置いて礼拝堂に戻れば、もうウルは長イスに転がって寝息を立てていた。

 そっと毛布を掛けてあげると、ラチナはそのむぼーびな寝顔をながめ、「ほんとーに、不思議で、魅力的な子、だね」とささやいた。

 危うくて、でもしっかりしたところもあって、大事にされてるのに気づかず家出なんか企んじゃうのに、叱られたらうれしがって。傭兵団のみんながかまうのもわかる。惹かれてしまう。目が離せない。

「えへへ。まいったなぁ」

 仲良くしてあげてほしい、という頼みで軽く友達になったけど、今はラチナ自身の望みとして、心に湧いてくる。

「ラチナとウルは、ともだち。よろしくね」

 まただらしなくよだれを垂らしはじめたウルに、ラチナはあらためて友誼(ゆうぎ)を結んだ。

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