お盆だらだらしてたら、あっという間に終わってたぞ……。
ウルが、サナギのように壁にへばりついていた。
スイが、オフの日に貸本屋に向かったはいいものの、楽しみにしているシリーズの新刊がもう借りられていたからと、冷やかすだけで帰ってきた、その時。
遠くにぽつんと見えるアジトで、なにやらパステルカラーの染みがもぞもぞ動いている。怪しい。
不思議に思って、魔力で目を
それも、窓枠に
スイは即座に身体強化魔法を使って、急いで街中を駆け、最後の角を曲がると同時、強く地を蹴り、浮遊魔法で重力の
「あ」ウルが、足を踏み外し落下する。
瞬間。スイが抱き留めた。
手を伸ばした状態で固まっていたウルは、自分がふわふわと浮いていることに気がつき「あ、あれ」と蒼い顔できょろきょろ。
「なに、やってたの、ウル」
「わ、ス、スイ!? ……あ、魔法」と、そこで自分が浮いている理由に気がついて、へにゃへにゃ力を抜いて「ありがとな。助かったよ」
「それは、いいん、だけど」ぶすっと
スイはウルの細く
「あー。いや、ほら、あそこ」と、ウルはぱたぱたとさっきハタキを伸ばしてた場所を指差して、
「あそこにクモの巣張ってるから、気になって、つい」
確かに、
「ふぅ。あんまり、あぶないこと、しないで」ウルの後頭部に顔を埋めながら、祈るように願った。
「いや、だいじょうぶかなーって思って……はい、気をつけます」
しょんぼりするウルを抱いたまま、高度を上昇させ、クモの巣の近くまで連れていく。
「これで、届く?」
「あ、ありがと」
クモの巣をあっさり払うと、ウルは遠慮がちにだけど、「あーっと……実は、あっちにも気になる汚れが」
「ん」
ススーと横移動。そこでウルがまた雑巾で汚れを清め、また移動。
ウルに云われるがまま、ウルをずっと抱きしめながら、上に下に、アジトを一周。
その甲斐もあって。
「おお。きれい」
地上に降りて見上げれば。見慣れたアジトが
「ありがとう! いやー、魔法って、便、利……」
ウルはまた蒼褪めて言葉を詰まらせる。今度は、なにに引っかかったのだろう。
「ご、ごめん。使い立てしちゃったけど、魔法ってもっとすごいものだったり、する?」
「すごい、って?」
「こう、神聖とか、崇高とか……」
「そういうのは、ない、よ?」
歴史になるほどの昔にはそういう考えもあったらしいけど、今はもう魔法のメカニズムの研究も進んでいるし、魔道具やそれ由来のものも生活に根づいている。そのため、魔法は神聖、という考えはずいぶんと下火。ウルこそ、どこでそんな話聞いてきたのだろう。
「それなら、いいんだけど。いや、やっぱり、スイががんばって憶えた魔法を、掃除とかに使わせるのって、どうなのかなーって」
「いいよ」
「うぇ?」
もともと、弓一辺倒だった私が魔法やそのほかの
「魔法は、みんなの役に立ちたくて、それで使えるようになった、から。だからね。ウルの役に立てるなら、いいの。気にしないで。どんどん、お願いして」
「そう、か。……まぶしいなぁ」
ぽそり、と漏らした彼女の瞳は、憧れと諦めの混じった、かつての自分と同じもの。まわりが誰も彼もすごそうに見えて、焦っていたあの時の瞳。
もしかして。あんなあぶない掃除をしてたのも、掃除で役に立たなきゃ、という焦りだったのかな。
入団したころの私は、弓の腕こそ憶えがあったものの、体格も小さく、
今胸を張って云える、魔法や斥候の腕のほかにも、そのころからメイスをぶんぶん振って活躍していたリコリスに近接戦闘を教わったり、タリスマンに獲物の解体を教わったり、事務作業や、家事をやっていた時期もある。
最終的には魔法で大型獣に対しても戦力になっているけど。でも、あのチャレンジを支えてくれたみんながいたからこそ。そのチャレンジで自信を手に入れられた。
だから。今のウルが自信を持てるものがまだ少ないのなら。
自信の源になる、なにかを身につけるまで。見守りたい。
――落ち着いて考えれば、そうまとめることもできるのだけど。
その時は、勢いこんで、ウルのぷにぷにほっぺややわらかい髪をくしゅくしゅ撫でながら、
「私、ウルがなにか、挑戦したい、って、思うなら。応援する、から! だから、遠慮なく、云って、ね」
と声をかけるのがせいいっぱいで。ウルも面食らって「お、おう」と呑まれた返事。
うう。もうちょっと、うまくしゃべって、ウルといっぱいおしゃべりしたい、な……。