漆黒の鋼鉄   作:うづうづ

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やっぱりちょっと短い。でも投稿することが大事だってばっちゃが言ってたので投稿します。




第六十一話 いざイギリスへ

 帰省を終えて遠征に向けて準備を整え、いざ英国へと言うことで今私は朝一の空港に来ている。チームスピカの皆と他にもレースで一緒に走ったことのある数人が見に来てくれている。ちなみに今回はトレーナーさんが海外遠征に付き合ってくれるようだ。通訳に関しては現地集合ということになっている。

 

「皆さん、お見送りありがとうございますぅ……」

「テウスちゃん、大丈夫? 今にも寝ちゃいそうよ?」

「時差の調整でちょっと……現地でいきなり合わせるわけにはいきませんでしたし」

 

 ちなみに今、私は超絶眠い。イギリスとの時差を調整するために寝る時間をイギリスに合わせてしまったので、現在日本は6時だがイギリスは前日の22時、いつもならとっくに寝ている時間だ。

 

「まあ、イギリスまでは15時間弱掛かるし搭乗したら少し寝ればいいんじゃないか? 煩くて眠れないかもしれないが……」

「そうします……私、飛行機乗ると何というか、離陸の時の加速で眠くなって寝ちゃうんですよね」

「ねえ大丈夫なの? それ気絶してない???」

 

 テイオーさんが心配そうにこちらを覗き込んでくる。大丈夫、着陸前にはちゃんと起きるから……

 

「そうだ。ねえブラックプロテウス? 英国長距離三冠走ったら戻ってくるの? 戻ってくるならもう一度ダートで、JBCで走らない? またあなたと走りたいわ」

 

 そんな寝ぼけている私に話しかけてきたウマ娘はホクトベガさん。鹿毛のウマ娘でちょっと吊り目が特徴的な高等部のウマ娘だ。フェブラリーステークスにも出走し悠々と一位を掻っ攫った今ダートで一番熱いウマ娘と言っても過言ではないウマ娘だ。

 でも、寝ぼけているからか言ってることが半分くらいしか耳に入ってきていない。BC……? ブリーダーズカップのことかな……? 

 

「そうですね……走れるなら走りたいですね。じゃあBCも出ようかな……」

「ええ、そうしなさい、JBCで待っているわ。ふふっ、これは帝王賞では余計負けられなくなったわね」

 

 そうして話を終えて別れ、搭乗口に向けて歩き出す。手荷物検査ももう終わっているし、後は早めに保安検査場を通って出国手続きをして……

 

「テウスー!? そっちじゃないそっちじゃない! こっちの窓口だから!」

「ああ、すみまふぇん……ふわぁあ……ぐぅ」

「寝るなー!?」

 

 そんなこんなでトレーナーさんに介護してもらい何とか待合室に着く。 そうしてうとうとしながら待合室で出発を待つ。あー、もうだめ、寝ちゃう……

 

「んー……お休みなさい……」

「ああもう……はあぁ、後で起こしてやるから気の済むまで寝てろ」

 

 トレーナーさんにもたれかかって目を閉じると意識が遠退いていく。トレーナーさんのお言葉に甘えて少しだけ眠らせてもらうことにしよう……

 

 そうして眠った私が再度気が付いたときは機上の人だった。しかも機内食も既に終わって後5時間程度で着陸予定時間。なんと10時間ほどぐっすり眠っていしまっていたらしい。隣の席を見るとトレーナーさんがアイマスクをつけて寝ている。

 

「ふわ……」

 

 トレーナーさんが寝ているのを見ていると何だか私もまた眠くなってきた。飛行機が飛んでる時の音って何か眠くなるんだよね……私だけだろうか? 

 

 とりあえず到着まで時間もあるし、もう少し寝よう。そうしてもう一度目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきて、そのまま眠りに落ちた。

 

 

 

「イギリス、到着しましたね!」

「お前15時間殆ど眠りこけて居ながらよく身体痛めないな……俺は時々身体伸ばしてたからマシだったけどさ……」

 

 そんなこんなでイギリス着である。トレーナーさんにはジト目で文句を言われるが気にしない。さて、通訳さんは何処かな……? 

 辺りを見回すもそれっぽい人はいない。首を傾げたのちトレーナーさんに目を向けると、彼も首を傾げてメッセージを送り始めた。

 

「……はぁぁ……マジかよ……」

 

 そうしているといきなり頭を抱え始めた。一体どうしたことだろう? 

 

「どうかしました?」

「通訳に頼んでた人が身内が倒れたらしくてドタキャンしてきた。事情が事情だけにあんまり強く言えないな……どうするか」

「うーん……どうしましょう。あ、こっちの伝手を頼ってみてもいいですか? 交渉次第で多分大丈夫だと思うんですけど。向こう深夜だから出てくれるかな……」

「いったい誰に頼むつもりだ? テウスの伝手……ああ、あの人か。大丈夫なのか?」

「報酬次第では飛びついてくれると思いますよ? ちょっと連絡してみますね」

 

 事ここに至っては致し方ないということで代替案を検討するととある人物が脳裏に浮かんだ。多分大丈夫だと思うけど、連絡を入れてみる。件の人物は数コール後に出てくれたので、少し交渉を始めてみる。

 

 

 

「──ということなんですけど。どうにかなりませんか?」

「そうですねえ……そちらに居る間の独占取材権ですか。こちら側にも十二分にメリットがありますし、いいですよ。編集長にはこちらから話を通しておきます。ふふふ、密着取材……胸が躍りますね!」

「ありがとうございます、乙名史さん」

 

 そう、7か国語が話せるマルチリンガルの才女こと、乙名史悦子さんである。当然英語も修めているようでこちらの依頼を快諾してくれたので、トレーナーさんに共有する。

 

「独占取材権かあ、結構吹っ掛けられたな。お前の独占取材とか記者にとっては喉から手が出るほど欲しいだろうし」

「そうですか? よくわかりませんね。オグリさんみたいに熱狂的な人気でもあれば話は別ですけど、私はオグリさんほどではありませんし」

「まあ今は少しブームが落ち着いた時期だからな。それでもお前のグッズはかなり売れている方だぞ」

 

 そんなものだろうか。ウマ娘ブームと言えばオグリさんで、どうしても彼女と比べてしまうので自分がどれくらいの人気があるのかどうしても把握し辛い。ファンサービスは欠かしていないつもりだが、それもファル子さんとかには劣ると思っているし、中途半端な気がしてならない。

 

「乙名史さんは朝一の便を取って来てくれるそうです。今日はホテルでゆっくりしましょうか」

 

 今は大体16時くらい。少し気が早いが、とりあえずホテルでゆっくりして明日から動き始めればいいだろう。コースの状態も見てみたいし。ゴールドカップの前に一戦、ヘンリー二世ステークスにも出走する予定だ。あまり調整期間がないが、どうしても早めに走っておきたかったので無理を押して出走予定を入れてもらった。

 

「あの人もフットワークが軽いな……まあ仕事だしそれも当たり前か」

「仕事が出来る女性って格好いいですよね!」

 

 

 そうしてその日はトレーナーさんとお喋りしつつ、次の日の夕方乙名史さんが来るまで大人しくホテル内で座学でコースの復習などを行い過ごすのだった。

 

 

 

 

 

『GⅡ ヘンリー二世ステークス。2マイル50ヤード(約3264m)で行われます。出走人数は14人。今年は遥々日本から遠征してきたウマ娘が居ます。さて、極東のウマ娘がここイギリスの地でどれほどの結果を残せるのか?』

 

 そうして期間を置かずにヘンリー二世ステークスが始まった。思ったよりは出走人数がいるなあというのが第一印象だ。欧州では長距離レースは廃れ気味だと聞いていたのでもっと少ないかと思っていたのだが、結構人数が居る。

 

『あれがブラックプロテウス……思ったよりは小さいのね』

 

 興味深そうにこちらを見てくるウマ娘がほとんどだ。何かを言っているウマ娘も居る。多分、注目されてる……のかな? 英語はさっぱりなので正直どんなことを言われているのかよくわからないので、曖昧な微笑みを返しておいて、さっさとゲートに入る。ゲートの構造自体は日本とそう変わらない。地面は何だかとてもふかふかしているというか、柔らかいというか、何とも言えない芝質だけどこれくらいなら多分問題ないだろう。

 

『さあ、本日のメインレース。バ場状態は良。今スタートしました! 出遅れたウマ娘はなし、おっと、黒い影が一人飛び出している。日本のウマ娘ブラックプロテウスだ。かなりのペースで後続を引き離していきます。これぞ大逃げと言わんばかりの逃げっぷり、気持ちがいいですね』

 

 ゲートが開き、走り出す。芝が足に絡みつくというか、沈みこむというか。札幌よりもっと重い芝質だ。これで良バ場だというのだから不良バ場だと殆ど泥に近いのではなかろうか。

 いつもよりスピードは出ないが、その分パワーを込めて走れる。結構私の脚には向いている芝質かもしれない。私の性格的にはスピードが出るいつもの硬い芝の方が好きだけれど、走りやすい感じがするのはこっちだ。感じなので気のせいかもしれないけれど、気分は大切である。

 

『あっという間に5ハロンを通過、通過タイムは1:02.3。大体1ハロンあたり12秒から13秒と言ったところでしょうか。5ハロン6ヤードの平均ペースが1:01.6ですからかなりハイペースで走っていますね。最後まで果たしてこのペースで持つのか? 後続は遥か後方、現時点でも約3秒は差がついているでしょうか。今日出走のウマ娘の殆どが差し、追い込みの後方まくり勢ですから差が開いているように見えてしまいますね』

 

 走る、走る、走る。うん、段々慣れてきた。このままなら多分走り切れるだろう。もう少しスピードを出せるかもしれない。このコースでどれだけスタミナが持つかわからないけれど、このペースを保ってみてゴール時に余裕があるようなら次走で調整しよう。

 

 そんなことを考えながら走っていると残り5ハロン、約1005mの標識を駆け抜ける。イギリスやアメリカはヤードポンド法なのでハロン棒は201.168mごとに立っている。フランスはメートル法なので日本と同じだが、イギリスやアメリカで走るときはちょっとここだけは気を付けないといけないなあ……

 

『さあ残り5ハロン。通過タイムは2:16.1。先ほどと同じくらいのペースでずっと逃げ続けていますブラックプロテウス! 後続は遥か、遥か、遥か後方! これはとんでもない大逃げ! 果たしてここから届くのか!』

 

 少しだけ後ろを振り返る。誰も居ない。いや、正確には結構離れたところにいるけれど、多分6秒くらい、40バ身は離れている。これなら追いつかれる心配はないだろう。でも、最後まで油断はしない。ここからスパートをかけるつもりで足にさらに力を籠める。

 

『なんとびっくりここからさらに加速していくブラックプロテウス! もうゴール板をくぐっていくぞ! これは最早文句なし! ブラックプロテウス一着、他のウマ娘はどこにも見えない! まさしくエクリプスのヒートレースを見ているかのようだ!』

 

 そうして楽しいレースの時間は終わりを告げた。スタミナは……うん、後800mくらいなら走り切れるだろう。アスコットレース場がどうなっているかにもよるが、このままのペースで走れば問題なさそうだ。

 

『涼しい顔で悠々と走り抜けました、ブラックプロテウス! ゴールタイムは3:19.5! 圧倒的レコードタイム! 向こうでは彼女のことを超長距離の魔王と呼ぶものがいると聞きましたが、まさしくこの走りは魔王そのもの! 東洋の魔王が今、名だたるステイヤーたちを蹂躙し尽くした!』

 

 実況のセリフが聞こえる。英語だから何を言っているかわからないけど、盛り上がっているからヨシ! 悪口だったら嫌だな……後で乙名史さんに聞いてみよう。デストロイとか聞こえた気がするし……

 

 そんなことを考えつつ、周りと話すことも出来ないのでウイナーズサークルでいつものようにお辞儀した後、ささっと引っ込むのだった。




ちょっと海外レース場はレコードタイムが調べ辛かったですが参考タイムとしては英語版wikiの最速タイムが3:29.93だったのでそれを10秒上回るマジキチペースで走ってもらいました
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