練習場のトラックの一つの芝のコースの一角に、六名のウマ娘が集まっている。
これから始まる三人対三人のチーム対抗レースを前に、どこか緊迫した空気が流れる。
彼女の間にはすでに会話はなく、軽くストレッチをしながら各々集中力高めている。
ヒダカベルベットに賭け試合を挑まれた後、一旦は『チームに確認が必要だから』と、その場では断ってみたものの、どこから情報を仕入れたのかチーム対抗戦を申し込まれたのを逆にボーガンに確認の連絡があった。
そしてなぜかチームの皆はそれに乗り気だったため、トントン拍子に段取りが決まる。
そして善は急げと言わんばかりに、その日の当日の放課後に、行われる事となった――。
誰が合図したのでもなく、レース出走者は次々とスタートラインに並び立ち、その開始の時を待つ。
「――スゥ、ハァ」
ボーガンは一度深呼吸した後、己が精神を研ぎ澄ませるために目を瞑る。
今回の件、色々と納得出来ていない部分が多い。
しかし周囲が勝手に盛り上がってしまい、すでに引くに引けない状況……。
だが受けてしまったのなら……もはや、やむなし。
試合とあらば、それを背に見せる真似は、自分が許せない。
それにチームのみんなも言っていたが、『勝ってしまえばそれで済むこと』――その一言に尽きる。
どんな勝負であれ、最初から負ける前提で考えたりはしない。
準備万端――胸の内に燻る闘志をたぎらせると、先にスタンバイを終えているルーブルとマーチに無言のアイコンタクトを交わした後、一番最後に配置についた。
それぞれ並び順は抽選の結果、コース内側からマーチ、ボーガン、相手チームの二人が続き、次にルーブル、そして一番の外枠は敵将ヒダカベルベットとなっている。
競うコースは、約トラック一周半かけて競い合う、王道の距離といえる芝の二〇〇〇メートル。
今回は題目としては練習試合ということになっておりゲートなどは使わない。
スタートとゴールの位置を示すサポート係が居るだけで、スタート開始は旗による合図での発走となる。
そしてそのサポート役――スタートの号令を務めるのは……試合に出走しないオーサムラフインの役割だ。
「
その大役を果たすラフインは、首から『スタート』と書かれたボードを下げながら、旗を振り上げる。
ラフインの合図を受け、両者のチーム揃い踏み、一斉に構えを取る。
「――
旗が振り下ろされると、皆勢いよく飛び出す。
各人出遅れもなく、揃って綺麗なスタートを見せる。
戦いの火蓋は今切って落とされた――。
◇◆◇
これまでの静寂を引き裂き、大地を蹴り上げる音がかき鳴らされる。
レースはまだ始まったばかり……しかしすでに試合は大きく動いていた。
「――いくぜえええっ!」
修羅を一騎駆け。
バニータルーブルがまるで敵陣に向かって斬り込むが如く、勢いよくスピードを上げて加速する。
先頭は自分以外譲らんと、我先にて突き進む。
逃げ脚質を得意とする彼女の常套手段だ。
「おりゃおりゃおりゃあ――!」
長い髪を振り上げながら、開幕からものすごい剣幕で吠えるルーブル。
ああやって叫ぶ力があるなら、体力に回した方がいいと思うもかもしれないが……こうやって雄叫びを上げた方が、むしろ彼女の調子が上がるのであった。
だがその躍進も僅かの間だけであった――。
序盤の位置取り争いの勝敗は決したか……誰もがそう思いかけた時、相手のベルベットチームのウマ娘二人が左右から回り込んで、ルーブルの進行を塞ぐように目の前に立ち塞がる。
(チッ……ガチガチにマークされてんなあ……)
出鼻をくじかれる結果となり、内心不機嫌そうにごちる。
だがそれとは裏腹に、どこか楽しそうにほくそ笑む。
「んなら――こじ開けるまでだあッ!」
内から行くか、外から行くか。
フェイントを交えながらルーブルはコースの内側から攻めると見せかけて、アウトコースへ向ける――。
「「――――ッ!!」」
「……チィ――ッ!」
が――ダメ。
相手の方が上手であった。
二枚の壁をうまく使い、互いにフォローしながら見事な連携で、ルーブルの動きを阻止してくる。
左右どこから来ても、二人で確実にブロックできるようゾーニングし、万全に備えられていたのだ。
(……どうやら、ただのモブってえわけじゃあ、ねえみてぇだな……)
個人個人は恐らくそれほどではない。技能や経験だけでいうならば、GⅠを制覇しているルーブルのほうが上位ランクだ。
しかしチームレースというのをよく心得ている。
力量を上回る相手に、互いの足りない部分をカバーし合い、
ひとえに、これまで積み重ねてきた鍛錬の賜であろう。
(たぁく、楽しませてくれるねえ……)
別段舐めてかかっていたわけでもないが、自分がこうも簡単にいいようにされるとは、夢にも思っていなかった。
敵ながらお見事……ルーブルは内心、感嘆と称賛を送る。
そして獲物を前に舌なめずりするのは辞め、ギラギラとした鋭い本気の目つきへと、変貌させた。
◇◆◇
(よし……上手く抑え込めましたわ! ナイスですわ!)
一番後ろに控え、先団の様子を伺っていたベルベットは、采配が見事にハマった手応えを感じる。
ここまではすべて彼女の作戦通り――。
もっとも警戒すべきは、やはりあの『赤い狂犬』と呼ばれるバニータルーブルであった。
ボーガンの所属するチームのデータは事前にリサーチを済ませており、トリプルティアラの一つ――オークスを勝利したあのGⅠウマ娘がチームの要であると見抜いた。
当然、格上の存在だ。
並大抵のマークではたやすく突破されてしまうのは目に見えていた。
そのための――二人がかりである。
逃げ作戦主体のボーガンたちのチームは、一番の実力者である彼女を完全に抑え込んで、先頭をキープしてしまえば、全員動きを封じたのも同然。
主導権を掌握した後は、ラストスパートで、ベルベットの持つ自慢の末脚で差しきる――そういう筋書きだ。
もっとも、これはあくまでチーム戦だからこそ、取れる動きだ。
個人個人のレースでは、ここまで思い通りにならないであろう。
だからこそ……チームレースには無限の可能性があると、ベルベットはそう信じて疑わない。
これまで自分たちは、このチーム戦というものに、重きにおいてきた。
ほとんどのチームに所属するウマ娘たちは、あくまでトゥインクル・シリーズで活躍するのが主旨であり、直接戦歴にカウントされないチームレースを重視するというのはかなり珍しい。
トゥインクル・シリーズに専念したいからと、そういったものには見向きもしないウマ娘も多い。
だがベルベットは違った――。
難なくメイクデビューを制し、ジュニア時代にいい成績を残し、クラシック三冠やティアラ三冠へと目指す……そんな誰しもが思い描く、”王道”から外れてしまったからこそ、余計に強く願う。
個人ではダメでも、チーム一丸となれば……一人では叶わないことでも、チームだからこそ成し遂げられるものがある――と。
トレセン学園では、トゥインクル・シリーズの他にも様々なレースが行なわれている。
チームレース部門でも、毎年大きなの大会が開催されていた。
いつかそこでトップを取るのがベルベットの夢であり、目標だ……。
今はまだ出走できる参加人数にも届いてもいないが――。
それに、誰でもいいというわけではないが、メンバーは全然足りていない。
そういった意味でも、彼女に認めてもらうため、このレースを勝利で飾って必要性がある。
何より自分たちの力が通じることを、チームの実力を証明するためにも――そう奮起するのであった。
◇◆◇
大体コースの半分あたりの距離をすぎた頃合い――。
もう少し進めば第二コーナーに入り、そこを抜けたらすぐにトラック一周分となる。
レース展開は依然、ベルベットチームの二人が先頭を往く。
順位は変わらず、うまくルーブルを封じ込めたままの状況を維持、膠着となっていた。
(……はがゆいねぇ……)
ルーブルにも少し焦りと、疲労の顔が見える。
これまで何度となく先頭を奪おうとアタックを仕掛けてみたが、全て塞がれ、徒労に終わっていた。
このままでジリ貧……流石にうっとおしくなってきた。
だがそれは向こうとて同じこと――。
ならば意地と意地のぶつかり合い、どちらかの集中力が切れたほうが負け。
根性比べと洒落込むか…………否、そんな堪え性を持つ
「――しゃらくせえっ!」
第二コーナーの直前。
しびれを切らしたか、ルーブルが強引にブロックを突破しようと、これまでより大きく外をブン回して、掻い潜ろうと打って出る。
「「させない――ッ!」」
読まれた。
まるで後ろに目がついているかのように先頭の二人は即座に反応し、そうはさせるかと、潰しにかかる。
完全なタイミングで進路を塞がれてしまい、ルーブルの渾身の一擲が水泡に帰す。
万事休す。
もはや打つ手はない、これまでか――そう思われかけた。
「……なーんてな」
ニヤリと口元を緩める。
彼女たちはもっと早くに気づくべきだった。
自分たちが二人がかりでルーブルを抑え込んでいるように、相手も
「行け――マーチ!」
ルーブルに釣られる形で大きく外側にずれたため、そこにはぽっかりインコースに絶好の隙間が出来ていた。
「やあああぁぁぁ――っ!!」
そこに迷わず弾丸のような猛スピードで、黒髪のポニーテールの少女――アントレッドマーチが、突っ込んできた。
話が全然動かないので、巻いてレースシーンに
みんな大好きモブロックな回。
アプリのモブたちも特殊な訓練を積んでいた可能性が・・・。
コースについて勘違いがあったので、コーナーの番号を修正(2022/8/6)
構成変更のためサブタイトル修正(2023/5/28)