「いえ~、いえ~い! ボクらのチームの勝利ッス!!」
人一倍大きくラフインが歓喜の声を上げながら、走り終えてゴールインしてくるチームメンバーたちと、さながらホームベースに戻る選手たちを出迎える監督のように、ハイタッチを交わしていく。
ただ忘れないでほしい。
さも『自分も関わってます』といった雰囲気を醸し出しているが、一般通過ウマ娘と何だか変わりないという点を。
彼女のその様相ときたら、今回のレースで何か自分で功績を上げたわけでもないのに、「うえーい! うえーい!」と、物凄いはしゃぎようであった。
そんな騒ぎすぎたところで案の定、ルーブルに「調子に乗んなっ!」と引っ叩かれた。
幸運なことに、試合に勝ってルーブルの気分がよかったのか、いつもよりは痛くなかった。
実のところ、手加減されていたといっても、痛いのには変わりはなかったのだが……。
(――よし……ッ)
ボーガンはレース後のクールダウンを済ませながらも、先程ラフインと交わしたハイタッチした手のひらを握りしめ、小さくガッツポーズを作る。
一着でゴールした後、これまでに感じたことのない、不思議な感覚を覚えていた。
本番のレースではないただの練習試合にすぎない、ましてやチーム戦なので自分一人の力だけで勝てたわけでもない……。
けれども心の中で、何か充実感めいた物を得ていた。
慣れないチーム戦……。
慣れない位置取り……。
いつもは、ただ先頭を取るのを目指し、後はひたすらゴールまで突っ走ることだけを考えて走っていた。
けれど――作戦を立て、役割分担を決め、力を合わせる。
こんな走り方もあるんだ……ルーブルの戦術が凄かったというのもあるが、ボーガンはどこか感動すら覚えていた。
そして何より、同じ目的に向かってもぎ取った栄光は、この前一人でレースに勝利した時よりも、ずっと嬉しく思えた。
(なんか、こういうのも良いなあ……)
始まりはともあれ、結果的に今日のチーム対抗戦をやってよかったと、ボーガンは感慨にふける。
この高揚感にしばらく浸っていたい気もしたが、それは後でもできる。
まず先に、共に駆け抜けたチームメンバーを労うため、ルーブルたちの元へ小走りで向かう。
「お疲れ様です、ルーブル先輩!」
「おう、お疲れさん!」
先輩の貫禄といったところか、まだ余裕しゃくしゃくといった風で、ルーブルは威勢よくボーガンに応じる。
「マーチもお疲れ! おかげでゴールまで飛ばせたよ」
「う、うん~……、やったねえ~……」
マーチは、力いっぱい走り抜けたせいかまだ呼吸が整っておらず、「にへへ」と、はにかんだ笑顔で応えた。
「それもこれも、ルーブル先輩の作戦通りでしたね」
「ま、てえしたことあるっての、ねえっての!」
おだてられて悪い気はしなかったのか、上機嫌そうに白い歯を見せるルーブル。
「いやぁ~、さすがはルーブル姉御ッス。見事な采配ッス!」
そこにスッと割り込んでくる白い髪の少女――オーサムラフイン。
あまりにも自然に混ざってくるので、つい最初からそこに居たのかと錯覚してしまう。
「……なんでおめえが、しれっと混じっていやがんだ?」
「も~冗談きついッスよ。ボクもチームの一員じゃないッスかぁ。みんなの勝利なら、ボクの勝利も同然ッス~♪」
皮肉たっぷり詰め込んで言い放ったルーブルの言葉もなんのその。
全く動じず、ラフインは上機嫌そうに、両手でそれぞれルーブルとボーガンの肩をパンパンと、何度も叩いた。
流石にそのあまりにも自分本位な振る舞いに、「ブチッブチッ」と、何かが千切れる音が鳴ると、とうとうルーブルの堪忍袋の尾が切れた。
「……だからてめえは何もしてねえだろうか、このトンチキしょうめ! またケツしばきあげられてぇかあ!」
「ちょ――なんでまた怒ってるんッスかーっ!」
本日二度目の光景――。
試合開始前と同じように、また二人のしょうもない追いかけっこが、繰り広げられたのであった。
その珍騒動を聞きつけたわけでもないが、対戦相手チームのヒダカベルベットがやってくる。
「お疲れさまですわ、皆様方。お見事なチームワークでした、こちらの完敗ですわ……」
そうやって素直に負けを認めるベルベット。
だが負けて悔しいはずもなく、その表情はいつもの自信たっぷりな様子はない。
「それと、お昼時には野暮なことを申してしまったみたいですわね。大変失礼いたしましたわ」
そう言ってボーガンに謝罪の意を表明する。
あれだけのチームとして結束力を発揮したのだ。
確固たるチームの絆がなければ、とても出来るものではない。
名残惜しくはあるが、ベルベットはボーガンを引き抜くのは諦めることに決めた。
「まあ、ちょっと無理やりだったけど……。ああやって誘ってもらえたのは、少し嬉しかった……かな?」
照れくさそうに頭をかきながら、その件に関してはもう気にしていないと、ボーガンは伝える。
昼休みのあの出来事――。
もしもベルベットのチームが勝ったらボーガンがそちらに入る――などと、一時は盛り上がったが、そもそも本人の意志と関係なしにチーム移籍させるのは学園の規則的に不可能であり、まったく強制力のないものだった。
終わってみればただの茶番。
しかしいい経験をさせてもらった……その感謝の印として、ボーガンは右手を開いて相手に向け、握手を求める。
「何にせよ……いい勝負だったよ――ヒダカベルベット」
「ヒダカベルベットですわ――って合ってますわね……」
いつも名前を憶えてもらえないので、条件反射で自分の名前を訂正してしまったが、取り越し苦労でポカンとする。
そのあっけに取られてしまっているベルベットの姿を見て、つい笑ってしまう。
「あはは、流石にもう覚えたよ」
「……まったくお調子がよいことで」
お返しにクスリと笑うと、ベルベットはボーガンの手を握る。
「この雪辱はまた改めて晴らせていただきますわ。貴方のチームにも負けないぐらい強くなって――ね」
「うん、楽しみにしてる。受けて立つよ。それと――」
あのレースで最後に発揮したヒダカベルベットの末脚……。
有利な展開でかなりのアドバンテージがあったが、もしもあそこで気を抜いていたら、まくられていたかもしれない。
それほど後ろから迫りくる彼女の圧は、目を見張るものを感じた。
そんな彼女と、トゥインクル・シリーズでいつか競い合いたい――そう欲が湧いてくる。
「次、ターフの上で会った時は、お互い全力でやろう!」
「――ええ、望むところでしてよ!」
お互い、握りしめた手のひらに力が入る。
その意志は固く、次勝つの自分のほうだと、そう主張しているかのようであった。
互いに違うを道を征く者たち。
されど誓った勝利は等しく同じ――。
二人の道がまた交錯する日があらば、その時の誓いを果たそう。
その日がやってくるのを、心から待ち望む……。
こうして新たな絆となり――ライバルとの出会いとなった。
◇◆◇
そんな二人の様子を、遠くから眺めている者が居た。
その者は、ずっと彼女らのレースぶりを、手にしたスマートフォンに記録し続けていた。
「ふぅーん、なるほどね……。結構良いデータが取れたかな……」
彼女を知るものなら普段聞いたことのないような低い声でそうぼやくと、もう要は済んだのか、録画停止を押して、懐にしまう。
風にたなびく、短い栗色の毛。
顔はニコニコと微笑んでいるが、その纏う雰囲気はとても穏やかなものではない。
やがて、いつも細めているその目が少しだけ開く――。
「悪いけど……
後編に続く。
※サブタイトル回収は後編で
構成変更のためサブタイトル修正(2023/5/28)