私は気ままにデュエルがしたい   作:紙吹雪

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リンバス7章最高だったので初投稿です。
中途半端な長さになりそうだったので2話に分割。

遊佐視点



幕間 シンクロ次元編 1/2

 

「ああっと、柚子ちゃんが投げ出されてビルに……!?」

 

「……あっちは任せても大丈夫か」

 

 まさか、そこ原作通りになるとは思わなかった。

 素良きゅんがいるから無事ではあるもの、今はそれより!

 

「……あれ? 藤野明美選手、先程から動いてないような」

 

 明美、気絶してる……!

 一応オートパイロットとは言え、このままじゃ流石に危険だ。

 何とか止めなくてはならない。

 

「ちょ、あれ大丈夫……って、相方がまた居ない!? 何処に……あ、あれぇ?」

 

 私はコース上、明美の通り道に待ち構えている。

 ヘリからフリーフォールする感覚は悪くないものだった。

 理由は簡単。

 

 

 

 

 無理矢理あの暴走バイクを止める為。

 

 

 

 

「桃色魔法少女に出来て私が出来ないとでもっ、ふん!」

 

 なるべくふんわりと直進するバイクを受け止める。

 結構苦労したけど……無理な事でもない。

 少しだけ後退ったけど、無事に止める事が出来た。

 ……トラックだと流石に止められなかったかもしれない。

 

「……明美、ごめんね」

 

 やっぱり、彼女の参加を何としてでも阻止すべきだった。

 こんな危険な目に遭わせるつもりはなかった。

 まさか、ロジェの野郎がこんな事をするとは想定していなかった。

 これは紛う事のない私の責任だ……

 

 私は両手で明美を優しく抱き上げる。

 余裕で片手で持ち上げられそうな程軽い身体。

 無理をさせてしまって本当にごめんね、明美……

 

 私が明美を連れて行こうとすると、体格の良い運営側の男性共が集まって来た。

 人数は七人……明らかに多い。

 狙いは私ではなく、気絶した明美だろう。

 

「東堂遊佐、藤野明美を明け渡せ」

「この人数差に、いくらお前とは言えど対抗は出来まい」

「大人しくすれば危害は加えない」

 

 などと宣う敵意満々な野郎達。

 こいつら、絶対ロジェの手の者だろ……クソが。

 仮に明美を奪われたら絶対エロ同人みたいな事されるに違いない。

 ええい、予想はしてたけど鬱陶しい!

 

 確かに私と言えども両手が塞がった状態じゃ満足に戦えない。

 聖剣明美カリバーを振り回すのは流石に気が引ける。

 仕方ない、ここは大人しく逃げるか。

 後で覚えとけよマジであんにゃろう……!

 

 幸いにも立っているコースは橋の部分。

 逃げ場が無い訳じゃない。

 

「断る」

「……仕方ない。全員、かかれ!」

 

 一斉に私に向かって飛び掛かる男共を躱し、橋から身を乗り出した。

 以前なら自殺行為だけれど、生憎鍛え過ぎた今なら着地も問題なく行える。

 

「な、嘘だろ!?」

 

「この高度から落ちて傷一つないとは化け物め……!」

 

 

 おいコラ聞こえてんぞ。

 女性に対して失礼だな全く……

 

 はぁ、しばらくは逃亡生活だよ。

 素良きゅんにも力貸して貰おっと。

 

 今はともかく明美を安全な場所に連れて行かなくちゃ。

 責任、取らないとだ……起きたら絶対に謝らないと。

 気安く参加させるんじゃなかったね……はぁ。

 

 

 

 そして、追手を巻きながら素良きゅんと決めていた場所まで明美を運んだのは良いが……

 

「柚子が居ない……」

 

 これでもなるべく急ぎ足だったのに、目覚めるの早過ぎるでしょ……ストロング呼ばわりされるだけある。

 ……どうしよう、この場で待機しようかな?

 ううん、アニメ観たのはもう大分前だけど薄ら覚えてる。

 コースの真上にある橋みたいな場所に行ってる筈。

 

 ……本当ならここで柚子ちゃんとも合流するつもりだったけど、追手を巻くのに時間を掛け過ぎたかもしれない。

 さて、どうするべきか。

 

「明美をここに置いて行く……明美の体調を鑑みると危険か?」

 

 ただでさえ虚弱なのだ。

 明美の身体はスペランカー並だと思って行動した方がいい。

 ……アレの後遺症の所為だとは言え、本人に自覚は薄いな。

 

「まあ良い。とにかくロジェに確保される前に柚子ちゃんと合流をしなくちゃ」

 

 結局明美はどうするべきか……と私が悩んでいた所。

 この場に向かう足音が聞こえて来た。

 多分、これは……

 

「あれ、遊佐?」

「やっぱり素良か」

 

 ……よし、決めた。

 柚子が居なくなった事を説明して、素良に柚子を探して貰うか。

 私は明美と共にこの場に立て篭もろう。

 明美が起きるまでは行動を控えよう。

 

 下手に動いて原作通りの流れが無くなるのも怖い……セルゲイを物理的にぶっ壊しておいてなんだけど。

 しかし、やはりセルゲイは復活しているのだろうか?

 ロジェにあまり動揺が見られなかったし、そう考えるべきかもしれないな……

 やはり、柚子やセレナが一度奪われるのは覚悟しなくてはならないか。

 一応素良にアドバイスはしておいたけど……期待薄かな。

 

 ……ああ、これも全部明美を出場させてしまった私の所為か。

 

 まだ何とかリカバリーが効く範囲だと信じよう。

 やはり、問題は融合次元編か……

 ざっくりとした計画は立ててたけど、まさかこんな所で想定外が発生するなんて。

 

 ……明美との再会は嬉しかったな。

 小学三年から大学卒業まで、一緒に暮らしてたんだから。

 でも、卒業してからは明美が自立して。

 私の元から離れて行くのがとても寂しかった。

 

 私と明美は家族同然、とも言えるのかもしれないね。

 初めての出会いこそ悲しかったけど……明美は私の事どう思ってるのかな。

 

「……」

 

 気にしてても仕方ない、か。

 兎に角、明美の様子を見守ろう。

 早く目覚めて欲しいな……

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 翌日。

 そう、翌日。

 何とジャックと遊矢の決勝戦が始まる時間になっても明美は起きる気配すらない。

 

 ……このまま目が覚めなかったら。

 

 そんな考えが過ぎるが、それをどうにか振り払う。

 大丈夫、この子は……明美は悪運だけは強いんだから。

 

「全く、寝坊助さんなのは変わらないんだから……」

 

 一晩中、寝ずに看病していたから流石に眠い。

 幸いにもアカデミアもセキュリティも襲われなかったのはいいけど……

 ううん、いい加減に動かないと流石に不味いかも……

 

「私だけじゃ次元移動が出来ないからねぇ」

 

 今後の物語に介入するには、次元転送装置を使う必要がある。

 ロジェの野郎をとっとと制圧して早いとこ融合次元に行きたかったけど……

 私の見通しが甘かったと言わざるを得ない。

 

 ズァークとか次元の統合とか、果ては遊矢シリーズと柚子シリーズとか最悪放棄してでも。

 明美を、守らないと……幸運にも再会出来たんだ。

 絶対に失いたくない。

 

「……」

 

 もう、何度目かになるけれど。

 こうして死んだように眠り続けているこの子は、まるであの時と同じようで……

 

「……そろそろジャックとのデュエルも終わるかな」

 

 テレビが無いので確認出来ないのは名残惜しいけど、明美の安全には変えられない。

 ジャック、気持ち良く負けたかな?

 

 思い返すと、ジャックには世話になったなぁ。

 私がこの世界に来た時には既に彼はキングだった。

 出会った時はいきなりデュエルを仕掛けられてびっくりしたっけ。

 

 ……そのデュエルは引き分けた。

 それで、いきなり秘書になれとか言われて。

 断る理由もなかったから、それを快諾して。

 うん、こうして考えると夢小説みたいだね?

 

 ま、別に甘い関係ではなかったけど。

 

「……さて、そろそろ本格的に決断しないとだ」

 

 ハッピーエンドを諦めて明美を守るか。

 それとも……

 

「考えるまでもないよね。私にとっては明美が一番大事」

 

 たしかに原作の最後は正直ちょっと……うん。

 結末を変えたいと言う気持ちは依然としてある。

 でも、明美と天秤にかけらなら……どちらに傾くかは決まってる。

 

「仕方ない、諦めて……」

「ここは……?」

「明美!?」

 

 目が覚めた!?

 顔色はお世辞にも良いとは言えないけど、本当に良かった……

 私は安堵で思わず胸を撫でた。

 

「大丈夫、調子はどう? 喉は乾いてる? お腹空いてる? 何処か怠いとか痛い所とかない?」

「……私はたしか、デュエルしてて」

「落ち着いて、深呼吸を」

 

 私が最後まで言い終えるよりも先に、明美の顔色が更に悪くなる。

 

「私は、柚子に……ああ……」

「……ロジェが洗脳装置を使ったんだ。明美は悪くないよ」

「だとしても。謝らないと」

 

 ……罪悪感で押し潰されそうになってる。

 明美のこんな顔、初めて見た。

 

「……お願い、柚子の所まで連れて行って」

「駄目、まだ安静にしてないと」

「……どうしても?」

 

 うっ……この目には弱いや。

 どうにか説得したいけど……

 ええい、女は度胸!

 

「分かったよ、連れてっててあげる。貸し一つだからね?」

「……危険なのは何となく察してる。でも、ありがとう」

 

 そう言って、明美は両手を伸ばしてくる。

 ……ああ、なるほど。

 

「ほら、掴まって」

「ん……」

 

 明美をおんぶして、私は街の中を駆けて行く。

 明美をこんな風におぶるのは初めて出会った時以来かもしれない。

 懐かしいね……本当に。

 

 

 

 明美と出会ったのは私が10歳の大晦日の晩、両親と一緒に外食に出掛けた帰り道だ。

 

 父は大企業の社長で、私の家庭はかなり裕福だった。

 様々な企業が利益を上げて成長し、中には潰れてしまう経済競争の中で大成功したのが父だ。

 家族仲も良好で、とても楽しく豪勢な夕食を堪能した私達が川沿いの道を通った時の事だ。

 

 私は何となしに窓の外を見つめると、川に入ろうとしている人が見えた。

 外は真っ暗だったのに、気付けたのは奇跡だったかもしれない。

 私は不審に思って車を運転していた父に車を止めて貰い、共に確認に向かった。

 

 

 ……私が見たのは、明美とその両親が入水自殺を図ろうとしていた現場だったんだ。

 

 

 私は慌てて引き留めようと、真冬の冷たい川水を掻き分けて手を掴もうとした。

 だけど、明美の両親までは助けられなくて……私が掴めたのは明美だけ。

 その明美も信じられない程身体が冷えていて、まるで氷に直接触れているみたいだった。

 

 救急車を呼ぶよりも先に、明美が力付きてしまいそうだった。

 幸いにも父の知り合いがいる病院があったので、車で明美だけでも運ぼうとしたんだ。

 けれど、道路が事故で塞がっていて車では通る事が出来ず……

 

 私は明美をおぶって病院まで走った。

 冷たくて冷たくて、今にも離したくなってしまいそうだった。

 心まで冷えてしまいそうだったけど……私は何とか病院まで辿り着いた。

 

 明美はその時の影響で、記憶が一部損失したらしい。

 また、運動機能にも深刻な後遺症が残った。

 身内を失い、行く宛もなくなった明美を……私達家族が引き取ったんだ。

 

 名目的には養子……ではなく、単なる同居者みたいな扱いだった。

 それでも、私は明美の事を家族同然だと思ってた。

 養子として引き取れなかったのは、きっと……

 

 ……とにかく、明美とはその頃からの付き合いだ。

 中学も高校も同じだったし、大学も卒業するまでは一緒だった。

 独り立ちして、もう大丈夫だと思って……少し距離を離した時期。

 

 私はこの世界に誘われた。

 

 寂しい思いをさせてしまったよね、明美。

 ごめんね……会いに行けなくて。

 

 だけど、こうして再び巡り会えたんだから。

 絶対に手を離さない。

 出会ったあの時から、ずっと……離すもんか。

 

「手、あったかい」

「明美は体温低いからね」

「……何だか、安心する」

 

 ……さて。

 柚子ちゃんとまともに会話できる時間を取れたら良いんだけど。

 今は信じて進もうか。

 

 しかし軽いな明美……体重30キロくらいしかないんじゃないかこれ?

 





先生が居ない間の出来事は大体原作準拠
セルゲイVSジャック戦が消えたくらいで特に変わりはないです
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