男の子ってこういうのが好きなんでしょ?
「な、なんだアレは!?」
「とてつもない圧力を感じるぞ……」
「い、一体、何が起こるってんだよ!」
ざわざわとどよめく声が聞こえてくる。
内心、私も少し困惑している。
少しばかり特別なモンスターだからって、豪華な演出だね。
……こういう時はこの世界に来て良かったと思える気がする。
気の所為かもしれないけれど。
「何が起こってるの……?」
「こいつの召喚条件は通常のエクシーズ召喚の他にもう一つある。それは、『エクシーズモンスターが戦闘を行うこと』。その条件を満たしたターン、自分のエクシーズモンスターを素材にエクシーズ召喚を行える」
ワイルドボウがバチバチと雷が鳴り渡るエネルギーの渦へと身を投じた。
恐らくパイロットにでもなったのだろう。
多分、きっと。
やがて……渦の中からそれは現れた。
まず顕現したのは足から。
この時点で周囲の建物より余程大きな体躯を誇っているのが分かる。
巨大な機械の両足が大地を、この星を盛大に揺らす。
着陸した振動が足元から頭のテッペンまで伝わってくるのを感じる。
それから腰、胴体、両腕と次々にその姿を現していく。
肩の部分には翼のようなパーツが付いている。
エネルギーを噴射させて移動するのだろうか。
これなら空も……いや、宇宙でさえも自在に動けるに違いない。
やがて、頭部を含めた全身が露わになった。
超巨大な人型の機械。
それがこのモンスターの正体だ。
「降臨せよ、ランク12。神をも殺す最終兵器……『
天霆號アーゼウス ATK 3000
デカイ、説明不要。
ここが建物の中なら確実に崩れていただろう。
それはとてつもない威圧感を放っている。
使役する側の私ですら気を抜けば気圧されてしまいそうなくらいに。
「「「……」」」
しばらくの間、沈黙がこの場を支配した。
正確に言うと皆呆けているのが正しいかもしれない。
……やる事やってターンを返そう。
「ドランシアの効果発動。オーバーレイユニットを1つ使い、フィールドの表側表示のカード1枚を破壊する。私は『アマゾネスの里』を破壊する。これで私はターンエンド」
アマゾネス
アマゾネスペット
「……な、何このモンスター!?」
「見れば分かるだろう?」
何処からどう見ても巨大なロボットだろ。
アカデミアが頻繁に使ってる
ああ、もしかしたら恐怖感を与えてしまうかもね。
エクシーズ次元の人達はそのモンスター達に侵略されたから。
「か、かっけぇ……!」
いや、なんか目を輝かせてる男の子が居たよ。
杞憂でしかなかったらしい。
……他人なんてやはり気にしない方がいいね。
「さて、お前のターンだ」
「格好良いのは認めるけどね……私のターン!」
相手がドローをする頃には、周囲の観客達も落ち着き始めていた。
そんなに興奮するとは思わなかった。
エクシーズの入るデッキに困ったら取り敢えず入れておくカードだし。
「なあ、なんでドランシアの効果で先にフィールド魔法を破壊しなかったんだ?」
「アマゾネス
だからもう先生じゃないとどれだけ言えば分かるのだろうか。
いちいち訂正するのも面倒だからもう放っておこう。
多少鬱陶しいくらいで別に支障はない。
「あら、姉さんったら意外と遊矢を高く評価してるじゃん?」
「……別にそんな事はない」
「やだもう、照れちゃって」
「ええい、違うと言っているだろう!」
……なんかムカついてきたな。
「遊矢、お前を頃す」
「と、唐突にどうしたんだ先生!?」
「言い間違えた。さっさとデュエルを進めろと言いたかった」
「何をどう言い間違えたらそうなるんだよ! しかも、デュエルしてる相手は俺じゃないだろ!?」
ちっ、うるさいな。
「天霆號アーゼウス……明らかに他のモンスターとは一線を画す迫力ね。でも、攻撃力は3000……決して手が届かない程じゃないわ」
アマゾネスの擁するモンスターなら、確かに打点を越す事自体は難しくはない。
大型モンスターと言えど、所詮は『マハー・ヴァイロ』が『デーモンの斧』を付ければ超えられる程度の攻撃力だからね。
更には、強力な耐性が付いているわけでもない。
相手の手札は今通常のドローで引いた1枚のみ。
盤面に出ているカードで不明なカードは無い。
それが判明してしまえば……そこで勝敗は把握できるだろうね。
「私は魔法カード『
ふぅん……ここでそのカードを引くのね。
なるほど、これは土壇場で強いタイプだ。
思っていたよりはやれる相手なのかもしれないが……
これならもう私の勝ちは揺るがないだろう。
しかし、まだ早い。
もう少しやりたいようにやらせてやろう。
どうせ結末は決まっているからね。
「墓地の『融合』1枚と融合素材となったモンスター1体を手札に加える。私は墓地から『融合』と『アマゾネスの剣士』を手札に加え、そのまま『融合』を発動して手札に加えた『アマゾネスの剣士』とフィールドの『アマゾネスペット虎』を融合する!」
……いや、よく考えたら『ガーディアン・キマイラ』が出てきたらやや面倒だったかもしれない。
それと増G投げるのを忘れていた。
今回は特に問題は無いが、次回から気を付けるとしよう。
「牙剥く密林の野獣よ! 勇猛なる剣士の力を得て、新たな猛獣となりて現れよ。融合召喚! 出現せよレベル7、『アマゾネスペット
アマゾネスペット虎獅子 ATK 2500
攻撃をトリガーに攻撃力を下げる効果だったか。
アマゾネス女王にはアマゾネスを戦闘破壊されなくする効果を持つ。
つまり、彼女の狙いは……
「そうか、アマゾネス女王の効果で戦闘じゃ破壊されないから……」
「アマゾネスペット虎獅子の効果で無理矢理突破するつもりね」
「ふふ、そう言うこと!」
多少のダメージは覚悟しているらしい。
まあ、デュエルにおいては当たり前ではあるが。
どうにか状況を打破しようとする姿勢だけは評価してやる。
だが……何もかも足りない。
その程度には、私の命には指一本届かない。
私の首に手を掛けるような相手は何処にいるのだか。
「さあ、そのでっかいロボットをぶっ壊してやるわ! まずはアマゾネス女王で攻撃!」
大きさが違い過ぎるが、それでもアマゾネス女王は一切怯えずに突っ込んで行く。
勇敢だね、感動的だね。
はぁ。
「もういいか?」
「な、何よ急に……」
「無駄な足掻きはそれで終わりかと聞いているんだ」
「無駄だとは言ってくれるわね。たとえ無駄だったとしてもやり切るわ。理屈じゃなくて感情でやった行動だからよ!」
……ドランシアの効果はもういい。
「無駄なんだ、何をしても。何をしようが結果は変わらない。それなら……最初から熱意なんて持たずにするのが最善の行動なんだ」
「それじゃ、全てを諦めて生きるってわけ? そんな事ができる人間が居るとでも?」
「ここに居るさ。私には苦痛しかないからな」
最初からそうなるものだと思えば、何も感情は湧き上がらないから。
「いいや、それは違うわね」
「何?」
「少なくとも……貴方にはデュエルで語りたいものがあるんでしょう? そうじゃなきゃ、わざわざデュエルしようとはしない筈よ」
「……」
私がデュエルに込める感情?
そんなの決まっている。
「この虚無感が、この苦痛が少しでも取り除かれる事を願ってる。今も、そしてこれからも思い続けるだろうね」
「楽になりたいなんて誰もが考えてもおかしくない。だから、それは貴方の本心じゃないわね。そんな理由しかないようなつまらない奴に私は追い詰められたりなんかしない」
「ゴチャゴチャと……うるさいな!」
初めて語気が強くなった。
どうしてそんなにも私に触れようとしてくるのだろう。
所詮は他人なのに……薄っぺらい同情に何の意味がある。
私のことなんか、もう放っておいてくれ……!
「鬱陶しい! 無駄なんだよ……いくら手を伸ばしたって空が落ちはしないし、夜は必ずやって来る。当たり前だ。変わるわけないだろう……!」
「やってみなければ分からないんじゃないかしら。勿論遊矢もそう思うよね!」
「ああ、勿論だ」
遊矢の反応にグレースは喜色満面の笑みを見せる。
心なしか姉の方も満足そうだ。
ぷつり。
何かが切れる音がした気がした。
「そんなに砕け散りたいのなら……お望みとおりにしてやる」
あの忌々しい自信に満ちたあいつの心をぶっ壊す。
もう二度と舐めた口の聞き方をしないように。
跡形もなく消し去ってやる……!
「アーゼウスの効果発動! オーバーレイユニット2つ使い、自身以外のフィールドのカード全てを墓地に送る!」
「なっ!?」
アーゼウスが無慈悲に右腕を振り上げる。
拳には破壊的な力が込められていた。
全てを壊さんとする程の力が。
「ぶっ潰れろ……
拳が振り下ろされる。
字にしてしまえばただそれだけ。
なのに、実際に見てみればそうも言えなくなるだろう。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ぐうっ……!」
多種多様な悲鳴が響くが、それも衝撃波で生じた轟音に殆ど掻き消された。
ソリッド・ビジョンでこれ程の破壊力の込められた一撃が放てるのなら、軍事利用するのが賢いと思える。
私だけは何故か吹き飛ばされなかった。
対戦相手の次に近い位置に居たのに。
これは偶然なのか、はたまたカードが私に気を遣ったのか。
チラリとアーゼウスを見やると、アーゼウスも私を見つめていた。
……不思議な感覚だ。
まるで、鏡を見ているかのような。
「くっ……」
「お前の手札は0。フィールドは空。墓地で発動できるカードもない。とっととターンエンドしろ」
「……ターン、エンド」
「私のターンドロー。このままバトル。アーゼウスでダイレクトアタック!」
アーゼウスの肩部に付いたパーツが動き出す。
そこから数十はくだらない程のミサイルが発射される。
相手を殲滅することだけに特化した兵器。
ああ……そうか。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
グレース LP 3000 → 0
彼女は倒れ伏した。
見えていた結果でしかない。
なのに、何故こんなにも落ち着かないのか。
答えはもう、分かってる。
「なぁ、遊矢」
「……先生?」
私はずっと勘違いしていたのかもしれない。
周囲のあらゆる物に対して無関心でいるつもりだった。
儚く消え行く私が何を感じたって、虚ろになるしかない。
そう思っていた。
だけど……目を離さずに眺めてはいたから。
手ずから植えて丁寧に育て、芽生えさせたものじゃないとしても。
生じたものもあった。
そして、少なくともその一つは今ハッキリとした。
「こんな私にも、僅かに残っていたものがあるらしい」
微かにだけど、それでも確かに私の中にある感情。
燃え盛る炎のように身体の内側から全身を焦がす。
どうしようもなく湧き上がってくるその感情の名は——
「怒りだ」
「先生……」
「私にも感情は残っているのかもしれない。まあ、だから何だって話だろうけど」
他人にとってはどうでもいいことだろう。
私も……所詮は人間だったってことか。
アーゼウスの一撃に込められていたのは、私が抱いた怒りだったのかもしれない。
私の感情を代わりに汲んでくれていたのかもしれない……
流石に考えすぎかもしれないが。
でも、そんな気がしたんだ。
「すっげーデュエルだったな!」
「ええ、そうね……ちょっと感動したかも」
「俺たちもいつかあんな風になれるかな。いや、なろうぜ!」
「一人じゃ無理でも、以前までは敵だった連中が今は復興を手伝ってくれているんだ」
「希望を持とうよ、皆!」
観客達は満足したように散っていく。
皆、前向きな表情だった。
上っ面だけを気にする奴ら。
……無性に苛立ちを感じてしまう。
その根源には羨望であり、絶えることのない嘆きでもある。
私はもう満たされる事はないだろうから。
妬みと怒りが行き場を求めていたんだろう。
ずっと……他人の皮を被ることで忘れたつもりになっていた感情だ。
『笑顔を赦せないが為に湧き上がる怒り』
幸せである相手を奈落に叩き起こさなければ気が済まなかった。
私の苦しみを知ろうともしない人が憎くて仕方がなかった。
諦めて忘れてしまえばまともに息を吸っていられたのに……
私の中でずっと埋もれていた感情と向き合うのは……まだ少し掛かりそうだった。
この辺りから明美の自分探し編が始まります。
トゥーンの新規が思っていたよりも強いですね!キングダム君にはお世話になりましたがさよなら。
いや、『さ』はさよならの『さ』じゃないかもしれない……
さつがいの『さ』かもしれない。