私は気ままにデュエルがしたい   作:紙吹雪

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どうも、先攻を選んだ時に限ってフワロスが手札に来ることに定評のある決闘者こと紙吹雪です。
肝心な時のドローが灰流うららなことにも定評があります。
それから盆回しとピン積みしたフィールド魔法を同時によく素引きします。
さらに少数だけ積んでいる通常モンスターがめっちゃ初期手札に来ます。


…………


このような類の厄祓いはどの神社がお勧めですか?(泣)


後半は遊矢視点となります。




60話

 

 

「……くっ」

 

 私はふらつく身体を支え切れずその場で座り込んだ。

 硬い地面はお世辞にも座り心地は良くない。

 はぁ、はぁ、と。

 デュエルが終わり辺りが静かになって、初めて自分が肩で息をしているのに気が付いた。

 

 脳に酸素が足りてないのか時折視界が霞む。

 意識は何とか保てているのが不思議なくらいだ。

 何かを欲するかのような渇きが私の身体を激しく巡っていた。

 

 思っていたよりも消耗してしまったらしい。

 今日のところはもう何もできないだろうね。

 このクソみたいな気分を抱えたままで居たくないのに……

 

 やはり、世界はままならない事だらけだ。

 だから……私は今もこうして惨めな姿を晒しているのだろう。

 どうしようもない流れだから。

 大いなる流れは、手のひらだけでは変えられない。

 

 私の力だけじゃ……世界を覆せないんだ。

 

「けほっ……もう、良いだろ。私の事はもう、放っておいてくれ……」

 

 私の溢した言葉に、エドは反論した。

 

「……貴女は、それで良いのか。どうして幸せになりたいと思わないんだ。絶望と苦痛が入り混じったような表情をしている癖に、何故誰かに助けを求めないんだ」

「私が幸せになる事を望んでいないから。生まれた時から幸せだなんて知らなかった私には、幸せになる方法も目指す理由も分からないの」

 

 いつかの記憶。

 後になって思い出してみれば、幸せだった瞬間はあるのかもしれない。

 でも、それに意味はない。

 

 

 

 『幸せになれないが為に流れて行く楽しみ』

 

 

 

 全ての感情は塵となるのが常であるが故に。

 私には意味のない物だから。

 そう自分に言い聞かせて来た。

 

 それでも、どれだけ見て見ぬふりをしても……

 結局、一度味わった欲望は忘れられなかった。

 

「いいや、違うね。私の幸せなんてもう何処にも見当たりはしない。消えてしまったんだ」

「先生!」

 

 エドに駆け寄った遊矢は私に向かって叫ぶ。

 沈痛で切実な気持ちが込められたその声に、私は思わず目を背けた。

 無駄だと分かっている。

 私の中で確かに埋められていた感情は既に掘り起こされてしまった。

 

 本当は分かっていたのかもしれない。

 こうして、ふとしたきっかけで思い出してしまえば。

 それはもう求めずにはいられないんだ。

 

 たとえ、ほんの一瞬だけだとしても……求めずにはいられない。

 僅かな時間だとしても、この疎ましい苦痛を忘れられるのなら。

 喜んで私はそうするだろう。

 

 それは、決して抗う事のできない快楽だ。

 

 誰だって分かる絵空事。

 考えなくても分かる、実現不可能な望み。

 荒唐無稽で膿み腐った夢。

 

 一度は諦めた、私が初めて自分の言葉で表現した欲望。

 

「先生……俺、よく考えたら、先生の事何も知らないんだよ。どうしてあんなに元気だったのかも、どうして今そんなに苦しそうにしてるのかも。話してくれないか……俺たちに、先生を理解するチャンスをくれよ!」

 

「……やめてくれ」

 

 掘り返さないでくれ。

 これ以上、私に構わないで……

 もう止められないかもしれないけれど、せめて。

 

 

 

 誰かの前で、醜い私の本音をぶちまけたくなかった。

 どうせ呆気なく散るだけの結果に終わるだろうから。

 だから、ずっと心の奥で眠らせておいたのに。

 

 

 

「先生……なんでだよ!」

「私にはもう、誰かと共に生きる理由なんてない。私が、本当に心の底からの望んでいるのは━━」

 

 私が、言いかけたその時だった。

 この場に……大量のアカデミア兵士がやって来たのは。

 

「くそっ、あの女は何処に……!?」

「探せ! この次元に必ず居る筈だ!」

 

「お前達は……?」

 

 エドが戸惑っている。

 と言うか、ここに来てから見てきた兵士とは少しだけ格好が異なる気がする。

 彼が率いているのとは別の隊の者なのかもしれない。

 

 発言から察するに……誰かを追っているのか?

 

「エド、あれは一体……?」

「僕の隊ではないな。おそらく、融合次元から来たのだろうが……」

 

 その兵士達は、エドの姿を見つけるとすぐに駆け寄って来た。

 デュエルしたばかりの彼は疲弊していた為、それを見た兵士は驚いている風に見える。

 自分達の上官が膝を突いてるんだから……おかしな反応でもないか。

 

「総司令殿!? どうされたのですか……」

「気にするな。それより、何かあったのか?」

「そ、それが……我々はアカデミアで滅茶苦茶に暴れ回った挙句、逃走した女を捕らえる命を受けたのですが……その女が手強く、この次元にまで逃れられてしまいました」

「何だと? そいつは何者だ?」

「ひょっとして……柚子か!?」

 

 ……いや、それはいくら何でもストロングが過ぎるんじゃないか?

 流石にそれはないと思うんだけど。

 

「その者の名は?」

 

 

 

「確か、『遊佐』と名乗っていました」

 

 

 

 何、だと?

 

 

 

「僕の知らない人物のようだな」

「その名前って、確か……」

「知っているのか?」

「ああ。それは先生の友人の名前の筈だ」

 

 私は疲れた身体に鞭を打って立ち上がる。

 遊佐が、ここに来ているのなら……会わなければならない。

 今は、何かをしていなければ気が狂いそうだったから。

 

 私が立ち上がるのを見た遊矢が、またこっちに近付いて来た。

 

「先生、まさか探しに行く気か?」

「……」

 

 私はそれに答えずにその場から去ろうとする。

 しかし、遊矢は私の手を引いて止めた。

 

「離して」

「駄目だ、先生の身体はもうボロボロだ。立ってるのもやっとじゃないか!」

「……もう一度だけ言うよ。離して」

「いやだ!」

 

 

 

 ……はぁ。

 

 

 

 もう止めだ止めだ。

 最早、繕う余裕もない。

 他人の皮を被り、空虚な人形でしなかった私の外面。

 

 その更に下には醜悪で度し難い心情しか埋まっていなかった。

 このような苦しみを持つのが私1人だろう。

 ただ、その事だけが悲しかった。

 

 それでも、遊佐だけはそんな私に手を差し伸べようとしてくれたから……

 せめて彼女だけは助けないといけない。

 たとえ、今の私の姿を見て悲しんだとしても。

 

 ……私がまだ人生を手放してないのは、遊佐が理由だから。

 

 私は遊矢の皮膚に爪を食い込ませた。

 私の握力では大した傷にもならないが……一瞬、遊矢は手を引っ込めた。

 

「いっ……先生、せめて休んでくれ。今の状態じゃ無茶だ。先生の大切な友人は俺達が探してくるから!」

 

 遊矢は再び私の腕を掴んだ。

 今度は同じ手は使えそうもない。

 私の握力じゃもう抜け出せない……

 

 そう思っていたら。

 私の耳が足音を捉えた。

 音がした方に視線を向けると、そこには……

 

 

 全身を傷だらけにした遊佐が居た。

 

 

 

「っ、遊佐!」

「あはは……明美。情けない姿を見せちゃったね」

 

 

 

 遊佐は廃墟の壁に体重を預けながらこちらへと近付いて来た。

 いつもと比べると明らかに精彩を欠く動き。

 あの怪我をしても翌日には大体完治してた遊佐が、だ。

 

 ……深く考えなくても、アカデミアの仕業だろうね。

 

「貴方は……たしか、セレナと一緒に……その怪我は何があったんだ!?」

「遊佐……」

「ごめん、ね。また、はぐれちゃって……もう二度と、放したくなかったのに」

「そう……なら、良かった」

 

 私が気を失ってる間に何かがあったのは、もう分かってる事だ。

 なので、私は遊佐の謝罪を受け取る代わりに、此方の様子に気が付いたらしいアカデミア兵士に向き直った。

 その視線には、明らかな敵意が宿っている。

 

 交戦は避けられない、か。

 一瞬だが、此方に気付いてすぐにディスクを弄っていた。

 多分、仲間を呼んだんじゃないだろうか。

 

 ……まあ、いい。

 

 やってやろうじゃないか。

 この胸の内に溜まった糞みたいな気持ちから解放されるなら、な。

 

「……明美?」

 

 

 

 

⬛︎ ⬛︎ ⬛︎

 

 

 

 

 先生の様子は、ここのところずっとおかしい。

 前みたいに笑わなくなっただけじゃない。

 秘めている感情が、ずっと暗いものばかりみたいだ。

 

 深く重たい記憶。

 この街……ハートランドに住んでいた人達と同じだ。

 でも、先生の方がもっと沈んでいるような気がする。

 

 ……故郷をこんな事にされた人よりも落ち込んで見える先生の姿は、見ていられなかった。

 俺にはまだ全ての人を笑顔にさせる力はない。

 でも……身近な人に、自分が世話になった人くらい、幸せな気持ちになって欲しい。

 心からそう思う。

 

 今の先生はとてもじゃないが、見ていられないんだよ……!

 

 せめて、先生の過去を知れたら……

 

 

 

「お前がアカデミアを滅茶苦茶にしてくれた東堂遊佐だな?」

「……出来れば、見つかりたくなかったけど。明美を見て、放っておけなかったからね」

 

 遊佐さんは先生の友人で、先生の事をよく知っているみたいだ。

 先生も、遊佐さんの事は嫌っていないようだ。

 もしかしたら、先生の過去について教えてくれるかも知れない。

 

 その為にも、まずはアカデミアから来た奴を何とかしないとな。

 エドなら説得してくれると思ったが……駄目だ、俺が思っていたよりもさっきのデュエルのダメージが大きい。

 最後の1ターンだけであいつにそこまでのダメージを与えるなんて……

 やはり、先生は凄いな。

 

 でも、先生だってデュエルの連続で満身創痍だ。

 これ以上の負担はかけられない。

 ここは俺が何とかしないと!

 

「総司令殿に応援を要請する必要は無さそうだ。今ここで捕らえてくれるわ!」

「やめろ、もうこの次元において戦いは……ぐっ」

 

 やっぱり、戦いは避けられないか。

 でも、デュエルの中でなら分かって貰える筈だ。

 エドとも分かり合えたんだから、今度も出来るさ。

 

 

 

 だが、俺が一歩前に出る前に先生がアカデミアに面と向かって立ちはだかった。

 

 

 

 いくら何でも無茶だ!

 俺は勿論先生を止めようとした。

 したんだけど……

 

「ぐぅ……!」

「っ、大丈夫か!?」

 

 遊佐さんがその場で崩れ落ちそうになったのを咄嗟に支える。

 この人……身体中傷だらけなのに、よく立っていられたな。

 よく見たら、骨が折れてるんじゃないかって思える傷もある。

 こんな状態でアカデミアから逃げ出して来たのか……!

 

「遊矢は遊佐を頼む」

「でも!」

 

 先生は俺の返事も聞かず、静かにデュエルディスクを構えた。

 相手のアカデミア兵も先生のことを敵だと判断したらしい。

 そのままデュエルが始まった。

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 くそっ、今の先生の体調じゃ……!

 

 ……あれ?

 

 ふと、俺は妙な事に気が付いた。

 先生の身体、さっきまでは疲労でかなり精彩を欠いていたのに……

 今は疲れなんか感じてないみたいに威風堂々としてる。

 一体どうしてだ?

 

 誰でも分かる。先生はとても虚弱だ。

 デュエルの上手さで分かり難いが、信じられない程身体能力が低いんだ。

 特に体力なんかはアユ達以下だって断言できる。

 

 それなのに、どうして……?

 

「まさか、また別の兵士がこの次元に来るとはな……」

「うーん……説得するには少し気が立ってそうね」

 

 タイラー姉妹が俺の近くまで近付いて来た。

 よし、ここはこの人達に遊佐さんを任せて先生の援護を……!

 俺は一旦二人を追手のアカデミア兵が見えないところまで行く。

 

 怪我をしている所為もあって、遊佐さんを運ぶのは少し大変だった。

 ……意外と筋肉質なんだな。

 口には出さないけど、結構重い。

 

「二人とも、この人を頼めるか?」

「彼女の援護をするつもりなのね」

「ああ。いくら先生とは言え、今の体調じゃ無茶だ!」

「私もそう思うよ、遊矢。でも……」

 

 グレースが壁からそっと顔を出して先生のデュエルを覗きながらそう言った。

 その横顔には、明らかに怯えがあった。

 彼女とはまだそんなに長い付き合いがある訳じゃないが……

 こんな表情をするような人じゃないと思う。

 

 ……先生は、どんなデュエルをしているんだ?

 

 俺も先生の様子をこっそりと窺ってみる。

 そして……思わず俺は絶句した。

 

 

 

『フルール・ド・バロネス』

『黒熔龍騎ヴォルゲニシュ』

『凶征竜ーエクレプシス』

 

 

 

「……私はこれで、ターンエンド。エンドフェイズ時、私は『超再生能力』の効果でデッキからカードを5枚ドローする」

 

 ちょっと待ってくれ。

 俺たちが遊佐さんを運んでいる僅かな間に何がどうしてそうなった!?

 どうやら、たった今先生のターンが終わったらしい。

 最初のターンみたいだけど……

 

 先生のフィールドは盤石。何故か手札の枚数も互角。

 ……本当に俺が手を貸す必要はあるのか?

 

 俺は思わずそう自分に問いを投げかけた。

 

「お、俺のターン……ドロー!」

 

 相手のアカデミア兵も完全に萎縮してしまっている。

 これはもう……先生の勝ちだ。

 勿論、身体が持てばの話だけど。

 

 ……そうだ、やっぱり先生の身体はもうボロボロの筈!

 

 多分だけど今は気力だけで持たせている状態に違いない。

 そう長くは続かないだろう。

 これ以上の無茶をさせないように、やはり行かないと……!

 

「けほっ……待って、遊矢くん」

「遊佐さん? いや、でも……」

「先に聞かせて。明美に何があったの?」

 

 怪我をしていても、どうしても聞きたかったのか?

 質問をしてきた遊佐さんの眼は真剣そのものだ。

 本当ならすぐにでも駆け付けたいんだけど……

 俺はどうしても無視できなかった。

 

「明美があんなに感情的になってるの、ありえない。だってあの子はずっと……うっ!?」

「落ち着いてくれ遊佐さん! つまり、何が気になってるんだ?」

「……あの子はずっと感情を抑えてた。他人……私のフリをしたり、人形みたいに振る舞ったりしてね」

 

 その言葉で、俺はふと思い浮かんだ。

 もしかして、スタンダード次元にいた頃の先生は……遊佐さんの真似をしていたのか?

 でも、何でわざわざそんな事を……?

 

 俺が悩んでいると、遊佐さんも悩んでいる風にしながら口を開いた。

 

「明美は子供の頃、家族と心中しようとしていたんだ」

「何だって!?」

「心中って、まさか自殺!?」

 

 あの先生が……まさか、そんな。

 

「……あり得るかもな。あいつのデュエルは、自分の身を顧みないものだったから」

 

 グロリアの言葉に、俺は咄嗟に何か反論しようとした。

 けれど……何も返す言葉がなかった。

 先生……

 

「正確に言うと、両親の会社が倒産したから心中を決めたのは明美の両親。今でも覚えてる。大晦日の夜、私が家族と夕食に出掛けた帰り道。真冬の冷たい川の中に身を投げようとしている姿を見た瞬間の事は……」

「もしかして、お前が藤野明美を助けたのか?」

「……無茶するのは私の昔からの悪い癖だね。私は車を止めて貰ってから急いで川へ飛び込んで三人を探した。結局、まだ子供だった私が救えたのは明美だけだったんだ」

 

 そう語る遊佐さんの雰囲気はとても暗かった。

 もし、あの時ちゃんと三人まとめて救えていれば。

 そんな事を考えているような気がする。

 

 ……真冬の川なんて、下手したら凍死してもおかしくはない。

 まだ子供だったのなら尚更だろう。

 それなのに躊躇なく人を助ける決断をした遊佐さんは……凄いな。

 

 






余談ですが、明美を救った後の遊佐は数日風邪を引いて寝込みました。
と言うかそれだけで済みました。子供の頃から頑丈にも程がある。

一方明美は身体能力に甚大な後遺症が残る羽目になりました。
二人の間には随分と差が付いてしまいました。
悔しいでしょうねぇ。

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