王直属護衛軍が余の胃を殺しにきてる 作:小指の魔術師
どれほどの読者が待っていたか分からないけれど、待っていた方には長らく更新もせずにいて申し訳ない。
なんか一区切り着いた気分でいた事と、この先を書くにしても原作の更新を待つしかないから悩んでいたんだ。
あと王が強すぎる。と言うかこれに尽きる。
なのでこの先は思い付いた話を気まぐれに投稿したりしなかったりしながら原作が進むのを待とうと思います。
気分的には長い後日談のような形だ。
あれ以来プフが毎日のようにそれとなく暗黒大陸の情報を流してくるようになった。寿命が伸びる米だとか万病を癒す香草だとか時の権力者が唆りそうなリターンを提示して遊園地に行きたい子供のように暗黒大陸に行こうと誘ってくる。
まずどこでそんな話を拾ってきたんだプフ。答えろプフ。顔を逸らすなプフ。こっちを見ろ、逃げるな卑怯者。
「やってくれたなネテロ」
「ワシ悪くないもん」
いや悪いだろ。
自分が死んだ事になっている以上息子であるビヨンドが表舞台に出てくる事は必至。派手に暗黒大陸行きを決めるのは目に見えている。十二支んに遺言を残しているものの生きてるし自分で行った方がきっと面白いことになる。ウキウキのビヨンドが実は生きてた自分を見て呆気に取られる様を想像しただけで腹がよじれる。byネテロ
「何を食べたらそんな性格になる」
「よせやい照れるぜ」
「褒めてないが……」
しかしこのまま何もせずのんびりというのは据わりが悪い。生き残る事に成功した以上その先を見据えることが肝要であるのは理解出来るし、暗黒大陸という厄ネタの塊を放置し続けるというのはよろしくない。
これでもネテロとの戦いを経て最強念能力者の一角を担っている自覚と自信ができたのだ。ほんの少しだけ。
であれば暗黒大陸に対処するのは私の仕事なのかもしれない。身に余る力を持った責任とか王としての責務だとかそういった理由、あと原作の流れから逸脱させた転生者としての役割。
バタフライエフェクトで暗黒大陸の厄災が一挙総出で出てきたら人類滅亡ルートに一直線。命を拾って人類滅亡は本末転倒なのでこれはもうしょうがない。
「ここは口車にのっておくか」
「そのお言葉を待っておりました我が王メルエム様」
「現金な奴にゃ」
ピトーに摘まれながら帰ってきたプフはその状態のまま恭しく頭を下げる。剽軽になったのはどう考えても隣でニヤつきながら髭を弄っている爺の影響だろうがいくら何でも毒されすぎだな。いい傾向だと思いたいが。
「ではまず暗黒大陸の足掛かりとして
なんて?
「ビヨンド
「余に黙って何をしている?」
「では此方も相応、いえそれ以上の準備が必要でしょう。なので密かに各地に広まるキメラを結集させ王の臣下として侍らせるのです」
無視かこの野郎とは思うものの、正直この提案には旨みしかない。広まるキメラを回収し統治すればそれだけキメラ=アントへのヘイトが減る。正直手遅れだがしないよりマシだろう。
あと個の力だけではどうしようもないこともある。組織力が足りないのは明白なのだからこれを機に増兵するのは悪くない。ただ護衛軍以外のキメラの忠誠心に対して一抹の不安を覚えるな。ヂートゥやレオル、ザザンを筆頭に我が強くて自尊心が高い連中が何処まで言うことを聞くか。
ピトーがラモットへ対して鼻っ柱をへし折り畏怖と尊敬を集めたという前例があるが、師団長クラスではどうだろう。表面上の忠誠は組織内部で暴走された時に厄介この上ない。キメラ内では雑魚でもそこらの念能力者より強い者が殆どだからな。
「同族とはいえ信用に足るかというメルエム様の懸念は重々承知しております。ですが、失礼ながら申し上げますと杞憂にございます」
「杞憂と、そう申すか?」
「女王の胎から産まれた直後の御身と今の御身とでは格が違うのです。殆どの者は会った瞬間ひれ伏すが道理、愚か者であってもオーラを向けられては5秒と持たないでしょう」
贔屓目を考慮してネテロに問いかけても癪だと言わんばかりに顔を歪めて肯定する。もう大魔王じみてきた。今のは《練》では無い、《纏》だ。
「良かろう其方の案を採用し余の元に軍団の設立を許可する」
「速やかに……何人かの師団長を捕捉出来ました」
速い。仕事が速い。あれが欲しいこれが欲しいと言えばポケットから出てきそう。絶対予め用意してたな。却下してたらどうするつもりだったんだ。
「誰だ?」
「ヂートゥです。基本走り回っているので容易く掛かりました」
いきなりアクが強いキメラが見つかったな。
「余が出た方が手っ取り早いな」
「御身が出るほどでは」
「よい折角の師団長クラス。1番手がとなれば重要であろう」
いきなり最終面接は心臓に悪いだろうがまぁヂートゥだし大丈夫だろう。ゼノ相手にあの余裕だった死。
「じゃあワシも」
「座れ」
ぶーたれる爺はユピーに預ける。
「案内せいプフ」
「御心のままに」
◇◆◇
とうきび畑を真っ二つにした道に巻き上がる砂煙を見つけた。凡そ人間が出せる速度ではない。車と言うには小さくバイクと言うには煙の立ち方が不自然だ。地面から伝わる反応では地面を足で踏みしめる音が感じ取れる。間違いなく生物。
「ヂートゥか。確かに早い」
「御身には及びませんが」
「余は例外中の例外よ。護衛軍を除いたキメラにしてあの瞬足、賞賛に値する」
隣からギリィと異音がしたが気にしない気にしない。
「だがそうだな。余とて己が脚がどれほどアレと開きがあるか興味がある。着いてこれるかプフ?」
「この身が砕け散ろうとも!!」
「……それはやめておけ」
気を取り直して遠くにあるヂートゥの姿を捉える。どうやらアレで素の身体能力らしく纏うオーラは大人しい。いやちょっと荒いな。雑とも言う。
手足を解し、軽く跳躍。深呼吸を数回。
「往くぞ」
プフの返事を待たず踏み出す。煩わしい風きり音と共に景色は加速する。早回しでもしているのか疑問に思うほどのスピード感。しかし確かに自分の身体で前へ進んでいる実感がある。
思わず笑みが漏れてしまう。高速道路でも体感できない速さでしかもまだ余力も残ってる。もしかしたら声まで漏れてるかもしれない。それほどまでに高揚してる。今までが今までだったが故に気付かなかった。
超人スペックで思いっきり身体を動かすのは爽快だと言うことに。
標的を目前と捉えた。その時ヂートゥと目が合う。驚愕と恐怖と言ったところか、顔は歪んで見える。前に向き直ったヂートゥはオーラを昂らせて再加速した。だがじわじわと差は縮まるばかり。
「あちらは念を使ったか。然らば余も」
抑えられていたオーラを一部解放。足の裏が岩盤を砕き爆ぜる。その小爆破は私を前へと運ぶ。前へ前へ前へ。身体にベタりと張り付く風を斬るためオーラで膜を貼り更に鋭角に変形。
そして気付けばヂートゥは前にいなかった。
「嗚呼成程、これはいいものだ。ランニングはこんなに素晴らしかったのか」
前世では仕事が忙しかった分健康に気を使う同僚も多かった。運動不足解消でスポーツをしたりランニングや筋トレを日課にしたりと一般的なものだが。正直私はどれも物臭で行っていなかった。仕事で疲れるのになぜ身体を動かして更に疲れなきゃならんとか、今にして思えば呆れ果てる大人としてどうなんだ。
結果やってたことといえば食事とか、いやそれも母親が献立を組んでくれてたし私が実施してたと言っていいのか自信が無い。あれ、もしかして私自己管理全く出来てなかった?
「王!」
「……どうしたソレは?」
「ヂートゥです」
「いやそれは分かる」
息も絶え絶えなヂートゥがプフに引き摺られて連れて来られてきた。まぁ思いっきり走れば息も切れる。だが現在進行形で顔色が悪くなるのはどうしてだろうか。首を締めててるわけも無いのに。
「王との対面に喜び過呼吸でも起こしているのでしょう」
「なるほど」
絶対違うな。
「殺される殺される殺される殺さr」
うん絶対違う。
「ヂートゥよ如何にして怯える?」
「どうしてアンタ、前に?」
「うむ? 其方を追い越して行ったからだが」
白目剥いてるセットで泡も。私はなにか間違えたのか。
「メルエム様に何を見せているのですか!? 起きろ起きなさいヂートゥ!」
プフの往復ビンタ。ヂートゥは目を覚ました。
「ここは何処? 私は誰?」
「駄目です自分を手放しました」
キャンディを強請ってくるあたり記憶障害と電波を受診したか。ちょっと気付けでもしてやろう。
「オーラ解放」
「あばばばば!? はい!はいッ!! もう大丈夫です戻りました!」
元気が良いな。新鮮だ。
未だ青い顔は変わらないが少なくとも話は出来るようになった。やはり無闇にオーラをあてる訳にはいかなそうだ。多分すごい威圧感が襲ってるのだろう。
「早速だがヂートゥ、貴様に提案がある。余のもとに来ないか?」
「部下になれってことか。あ、いやですか?」
「楽に話せ。別に断ってもよい但し枷は掛ける」
人を食うな襲うな侵すなさえ守ってくれたら基本自由を約束する。衣食住もどうにか確保してやってもいい。破ったらまぁ想像に任せるがろくな事にならないのは確かだな。
「部下って何すんの?」
「余のために働いてもらう。雇用条件も後程書類にまとめさせる。正式に迎えるのはその時だ。問題は貴様の意思ゆえ此処では興味の有無を問いたい」
「いやもう拒否したら終わりじゃん……」
完全に牙が抜かれてる。クソガキっぽさが微塵も無いヂートゥはヂートゥじゃない。そういうのはウェルフィンだけでいいと思うの。いや別にウェルフィンもノブ化させる気は無いんだけどさ。
「そうか、だが案ずるな直ぐにその腑抜けた顔も喜色に染まる」
「え? どうして尻尾で捕まれて、なんで翼生え、え、え?」
「では帰るぞ」
「えぇえぇええぇええっぇええええ──」
今の心地ならこの高速飛行も楽しむ事が出来る。照りつける太陽の輝きも、それを反射する雲海のうねりも、ちらりと覗くパノラマも全て美しい。つい昂って加速してしまう。
風きり音で良く聞こえないがきっと走るのが好きなヂートゥも喜んでいると思う。尻尾から伝わる振動からしても結構はしゃいでる感じだ。
「其方もこれくらいで走れるようになる。きっとな」
念の修行を頑張ればこの速度くらいは余裕な筈だ。一緒に頑張ろうなヂートゥ。目標は音速だな。大丈夫こっちには念のスペシャリストが居るんだ。毎日感謝の走り込みでもすればきっともっと速く走れる。
可哀想なヂートゥひとえにてめぇが遅いせいだが……
この話3年前に書き終わってたからヂートゥが何を思っているのか作者にも分からない。可哀想なヂートゥ(ry
あと需要があるか分かりませんが何故か没になっていた文を此処に供養しておきますね。