すべては君のために   作:eNueMu

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2年次1学期期末実技試験:その3

 

 「(散ってた子たちが集まって…!この先!)」

 

 出久たちの追跡からどうにか逃れつつ、配管の陰に隠れたエリアに固まっていた残りのメンバーたちの前に姿を現した被身子。『読心』により司令塔が八百万であるということを即座に看破し、『塵』と『密度』を以て彼女をダウンさせに掛かる。しかし…

 

 「むぅ…!!」

 「いきなり正面からッ!!中々熱いじゃないスか、渡我先輩!!」

 「八百万はやらせねえ!!」

 

 割り込んできたのは、切島と砂藤。八百万に大きな怪我をさせない程度の威力であったため、2人には容易く受けられてしまう。即座に拘束し、彼らを脱落させようと試みた。

 

 「ぬおっ…」

 「こんちくしょおおっ!!」

 

 『切島鋭児郎、OUT!』

 「クッ…悪い皆、後は頼む!!」

 

 砂藤は強引に塵の拘束を打ち破ったものの、切島は単独での脱出が出来ずに脱落。その隙を突いて被身子が八百万に近づくのと同時に、芦戸と青山が前に出て攻撃を仕掛けた。

 

 「やああっ!」

 「隙アリ☆」

 

 どちらも『塵』に対して有効打となり得る個性。被身子はひとまず後退し、躱して距離を取る。が、すぐさま頭部を瞬間的に塵化させた。すり抜けるように彼女の顔から飛び出してきたのは、複数のハト。

 

 「『読心』の対象は人間だけじゃないのです。隠してる訳じゃないけど、知ってる人そんなに居ないみたいですね」

 「うぅ…」

 

 自身の個性によって力を貸してくれた彼らの存在にも気付かれていたことに思わず怯む口田だが、八百万にとっては想定の範疇。寧ろ作戦の大詰めはここからだ。

 

 「口田くん、下がって!!解除!」

 

 麗日が声を上げ、両手の指を合わせる。個性解除の合図と共に────被身子周辺の金属管が一斉に崩れ落ち始めた。

 

 「(凄いね、お茶子ちゃん。でも、これも分かってましたよ)」

 

 薄い膜のように広げた塵が、金属管の倒壊及び落下を止める。しかし、生徒たちの拘束には踏み切れなかった。

 

 「わお。火炎放射器ですか、びっくりなのです」

 「全然びっくりしてねえ!!マジで八百万の言った通りじゃねえか!!」

 「読み通りとも、言えるけどね!」

 

 後方に隠れていた峰田、尾白には、予め八百万が創造した小型の火炎放射器が持たされていた。もちろんこれで勝負を決めるという意図は無く、どちらかといえば被身子の『読心』を逆手に取った牽制の意味合いが強い。

 

 「(4()()しか創れませんでしたが、効果は十分!先制で塵による拘束を仕掛けてこなかったのは大きい!下手に塵を広げて粉塵爆発が起きた場合…最大のリスクを背負うのは渡我先輩!『読心』の性能を高く見積もっておいたことは、間違いではなかった!!)」

 

 自分の知る過去の心詠や被身子の活躍を思い返し、『読心』の詳細な性能を推測していた八百万。少なくとも、ただ感情を読み取るのみには留まるまいと考えていたことが功を奏したようだ。一方の被身子は、かなり厳しい展開になっていると感じつつあった。

 

 「(この辺りの子でまだ手の内を見せてきてないのは梅雨ちゃんに透明の子、後は────)」

 

 

 しかし、攻撃の手は止まない。

 

 

 「『レシプロターボ』!!!」

 「!!」

 

 暗がりを引き裂く一条の光。エンジンのギアをフルスロットルにした飯田が、被身子に肉薄する。ギリギリで反応し側頭部への飛び蹴りを交わした彼女は、すぐに背後に向き直った。そこにあるのは、やはり暗闇…だけではない。

 

 「居ますね」

 

 被身子は塵を飛ばしてそこに潜む気配の主たちを捕らえようとして────思い止まった。そのまま這うように移動した彼女の頭上を、複数の炎が掠める。

 

 「イエース!私たちも持ってるよっ!」

 「不意をつくのは、難しいかしら」

 

 八百万の火炎放射器を手…と舌に携えた葉隠と蛙吹。両者とも暗がりに己の個性で溶け込み、常に被身子の裏を取っていた。

 

 「けれど、十分時間は稼げたわ」

 

 続く蛙吹の台詞に顔を曇らせる被身子。彼女自身、後輩たちの狙いは理解していた。

 

 「追い着いたぜ3連覇ァ!!ここで終いだァ!!」

 「ッ…!!」

 

 出久、轟、爆豪の到着。最早、万事休すと言っても差し支えは無かった。…その場に居るのが、被身子以外の雄英生であったなら。

 

 「一網打尽ですッ!!!」

 「!!みんな、退いて!!」

 

 『密度』によって強化された被身子の拳が、地面を粉砕する。辺りが激しく揺れ、それによって体勢を崩した生徒を被身子は手当たり次第にダウンさせていく。

 

 『青山、口田、麗日、葉隠、峰田、八百万OUT!2-A、あと半分!』

 「ま、マジかよ…!!」

 「大丈夫よ砂藤ちゃん!()()はきっと最終手段!だって、初めからこうしていれば戦局は渡我先輩に傾いていた筈だもの!!」

 

 動揺する砂藤を落ち着かせる蛙吹。事実、被身子の行動は苦肉の策であった。

 

 「そういうこった蛙吹!!3連覇、てめェその技使い慣れてねえだろ!?今の一瞬で一気に動きが粗くなってきてるぜ!!!」

 「…構いませんよ!残り少ない時間で、みんな倒しますから!」

 

 

 

 ────被身子の必殺技、「複合変身」には重大な欠陥が存在する。複数の人物に同時に変身するという現象に無理があるのか、それぞれの個性の発動にムラが生じ、練度も大きく落ちてしまうのだ。変身時間が経つほどにそれは表面化し、この状態で個性を発動させることは極めて望ましくない。

 さらに、変身解除の際には同時に全ての変身が解けてしまう。つまり、相手が変身先の個性に疎く、短期決戦に臨む場合での使用が現時点では理想であり、今回はそれでも「複合変身」を使わざるを得なかったA組の実力を称賛すべきだろう。

 

 

 

 「『メテオシャワー』!!!!」

 「『デトロイトスマッシュ』『ワイオミングスマッシュ』!!」

 

 拳の乱打を正面から迎え撃つ出久。片腕を止め、もう片腕を上から殴りつけようとしたが、塵化による回避を許してしまう。攻撃の嵐が止んだ隙を狙うのは、轟と爆豪だ。

 

 「死ねェェ!!」

 「死にません!!」

 「クソッ!速い…!!」

 

 しかしながら彼らの攻撃も、塵化からの高速離脱に対応できない。逃走経路を潰そうと蛙吹と尾白が火炎放射器から炎を放つが、瓦礫の塵によって形成された壁に防がれる。

 

 「ハッ…!!ハッ…!!」

 「うおおおおおっ!!!」

 「!!」

 

 息を荒げる被身子に振りかぶられる配管。砂藤が1人で持ち上げ、振り回している。そして、これを躱した彼女への急襲。

 

 「『アシッドマン』!!!」

 

 芦戸が酸を纏い、被身子に飛びかかる。被身子は、今度は回避を選ばない。

 

 「それは、甘いですよ…っ!!」

 「あう゛っ」

 

 拳を繰り出した風圧で酸を弾き飛ばし、鳩尾に一撃。彼女をダウンさせ、再び目の前の6人に目を向ける。

 

 『芦戸三奈、OUT!』

 「()()()()!!!」

 「(あと、9人…9人?)」

 

 声を張り上げて接近してくる出久とぶつかり合い、頭突きを塵化で躱しながら己の思考に疑問を持つ被身子。

 

 

 

 ふと、飯田が戻ってきていないことに気付く。

 

 

 

 「(!!!後ろ────)」

 「『ハートビートサラウンド』!!!」

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「気をつけてね。『音』は、私の最大級の弱点だから」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 「うぁ…」

 

 被身子の塵化が、揺らぐ。

 

 

 

 広く知られることとして、小さな粒子は振動を受けて細かく震え、相互に分離するという特徴を持っている。これによってあたかも流体のように振る舞う砂などを目にすることが出来るが…重要なのは、「音」は「波」であり、「波」は「振動」であるということ。

 大きな音を受けた場合、『塵』の個性は塵化物が振動し、麻痺したような挙動を示すことで────僅かな時間ながら、機能不全に陥る。

 

 

 

 「『徹甲弾(A・P・ショット)』!!」

 

 

 2度目の「徹甲弾」は、しっかりと塵化したままの被身子の肩を貫いた。

 

 『渡我被身子、OUT!そこまで!実技試験終了!』

 「…負けちゃいましたか」

 「よっしゃァ!やったなお前ら!!」

 「痛ちち…ま、まだ立てない…!てか、爆豪たち凄いね!大活躍じゃん!」

 「ハッ。端から勝つ気だったんだ、たりめーだろ」

 「あぁ…ただ、1対1じゃこうは行かなかった」

 「うん、そうだね…。……あの、渡我先輩も凄かったです。数的不利をここまで覆すなんて、正直驚きました。まだまだ、学ぶことも多そうです」

 「ふふ、ありがとうございます。ところで、お名前教えて欲しいのです!」

 「え!?あ、はははい!ぼ、僕、緑谷出久って言います!!」

 

 終了の合図とともに、空気が少し弛む。残ったメンバーが他の気絶したクラスメイトを起こしつつ、全力を尽くした彼らは、各々の思いを吐き出していった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「……警戒してた、つもりだったんですけどねぇ」

 「!…先輩も、ウチのことを?」

 

 最後の場面。耳郎は、2人で障子と戦況を把握しながら移動していたのだが、頃合いを見計らって無線機での連絡を行い、受信者の飯田と合流して3人で最短距離を通って戦場まで駆けつけたのだ。

 

 「ヤオモモ…あの、ポニーテールの女の子が。先輩の『複合変身』には、絶対に弱点がある。ウチの個性が、切り札になるって…それで、皆作戦通りに動いたんです。無線機で飯田と合流できたら、障子と飯田の個性で滑空しながら最速で目的地まで到着できる。後は、ウチの必殺技に巻き込めたらきっと隙が生まれるから、そう言ってました」

 「ふむふむ…あの子も中々鋭いですねぇ」

 

 自らが作戦の主軸で良いのか。そんな不安を抱えながら、それでも仲間を信じた耳郎。結果としては概ね八百万の想定通りに事は運び、見事2-Aは勝利を掴んだ。

 

 「よし、全員居るな。正式な評価は後日伝えるとして、とりあえず簡単な講評だけしとくぞ」

 

 そこにやってきたイレイザーヘッド。A組に被身子を加えた21名は速やかに彼の方を向き、言葉を待つ。

 

 「まずは渡我。『複合変身』の発動が早すぎる。発動時の状況もやや悪い。未完成の技を使うなら、もうちょっと工夫が必要だったな。とはいえ、全体的に見れば特に目立ったミスは無かった。多分お前の評価は問題無いだろう」

 「なるほどです」

 

 イレイザーから見た被身子の立ち回りは、悪くは無かった。20対1、それも歴代でもとりわけ優秀な彼らを相手にこれだけ戦えたというのは、十分高評価に値するだろう。

 

 「続いてA組。上鳴と瀬呂」

 「「…ウッス」」

 「覚悟しとけよ」

 「「…ウッス」」

 「常闇も多少怪しいが…後はまあ、特に問題無い。八百万の采配も即席にしちゃ良いもんだった。全員が全員派手に活躍する必要は無い…相性なんかを考慮して、自分が出張り過ぎないってのはプロになってからも一二を争う程に重要な心構えになる。思ってたよりも、ずっと良かったぞ」

 「「「ありがとうございます!!」」」

 

 イレイザーはそう述べたが、早々に脱落した3人も限定的状況下で最善を尽くそうとしたのは間違いない。赤点と断じるにはまだ早い…かもしれない。

 

 こうして、2-Aと渡我被身子の1学期期末試験は幕を下ろした。余談だが、被身子はこれを機に年下の友達が少し増えたようだった。





B組には一応心操が編入している想定ですが、流石にそこまでは書けないです、申し訳ない(というか今回の話に関しても障子の影が薄過ぎる。やっぱり沢山のキャラを動かすのは難しいですね)。結果の方に関しては多分トガちゃんが勝ちます。多分。
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