ゲラート・グリンデルバルド成り代わり主がDC世界でスーサイドスクワッドに入る話 作:抹茶アイス大好き
大阪コミコンで想像力を補充できたので活動再開します。
「おい、ビビってんのか」
一人黙々と銃のチェックを行っていたフラッグに、デッドショットが声をかける。
覚悟は決めた。作戦は立てた。あとは万全を期すだけ。
だというのにこの男は、気の利いたジョーク一つ言うことなくただ作業をするだけ。まるで初めて戦場に出る新兵のような立ち居振る舞いにデッドショットはちょっかいを我慢できなかった。
そんな彼にフラッグはゆっくりと顔を上げると唸るように言う。
「ビビってると思うか?」
「あぁ、思うね。楽にしろよ。別のことでも考えたらどうだ。例えば──なんかあるだろ、ほら」
強張った顔つきのフラッグを少しでも楽にさせようとデッドショットは気楽に振舞うが、場の空気は好転しない。
フラッグにとってここ数日は悪夢のような日々だった。
恋人、部下、上司。悪いことは続けて起こるというが、今回は少しばかり度が過ぎている。最近の出来事はどれもこれも重く心に圧し掛かっていた。そしてこれからすべきことも。
「世界を救う。ジューンを助ける。あとウォラーも」
「おい、最後の女のことは忘れろ。変なことは考えんな、あっちを見てみろよ」
デッドショットはハーレイと何やら話し込んでいるグリンデルバルドを顎でしゃくる。
バットの素振りをする彼女とそれに柔らかい笑みを浮かべながら話す男の姿はまるで孫と好々爺だ。
だが、その好々爺こそが作戦の要であり自分たちの最高戦力だと思うと、自分たちの
あだ名がしっくり来てしまう。
スーサイド・スクワッド
自殺部隊
自分たちが今から行うのは正しく自殺行為だ。たったの7人で軍隊を返り討ちにした怪物を殺そうとしているのだから。
覚悟を決めておくべきなのだろう。自分が死ぬことの。
現にカタナは覚悟を決めたのか、先ほどから自分の刀に向かって咽び泣いている。黙って刀を見詰めるのもどうかと思うが、何やら日本語で語り掛けているさまはハーレイとはまた違った狂気を感じさせる。
刀から立ち上る冷気が部隊の視線を集める。
しかし彼女はそれらになんら反応を示すことなく、夫への変わらぬ愛を囁き続ける。
そうして彼女の覚悟と共に、シャンッと妖刀は鞘へと納められた。
それを見たフラッグは立ち上がり、面々を見渡し言う。
「よし皆、行こう」
フラッグを先頭に進むスーサイド・スクワッド。
彼らの作戦はいたってシンプル。
バケモノたちの駆逐、正体不明のメタヒューマンを倒す、そして魔女をぶっ飛ばしてフラッグの恋人を助けてやる。
侵入者を排除するべく這い出てくるバケモノたち。ウォラー救出の際、数の暴力で彼らを窮地に追いやった強敵は、今度は相手にもならなかった。
グリンデルバルドの杖の一振りで現れた蛇を形取る炎が柱の間を縫うように動きバケモノたちを焼き尽くす。
それを潜り抜けたとしてもディアブロの炎が全身を、弾丸が頭蓋を、ブーメランが首を刈り取ろうと嬉々として襲い掛かる。
そして止めは刀とバット。
彼らの足取りは変わらない。
次々と崩れ去るバケモノたちは決戦前を彩る舞台装置に成り下がった。
そうしてスーサイド・スクワッドは地下神殿にたどり着く。
彼らを待ち構えた魔女の前へ。
彼女の真の力を知らずに。
人生において“もしも“は過去への後悔、もしくは未来への夢想に常に寄り添おうとしてくる甘い毒だ。
ふとした瞬間に考えてしまう妄想。当然、それが叶うことはない。
それが後悔なら時を戻すことなんてできないし、未来を思って言っているのなら妄想なんて下らないことをせずさっさと努力しろという話になる。
そう。だから
エンチャントレスがスーサイド・スクワッドに見せた幻覚は各々の夢を適切に表していた。
娘との幸せな生活とバットマンに勝てる強さを求めたデッドショット。
恋人との愛の結晶を抱きしめ、平凡な生活をするハーレイ。
大量の札束と財宝に囲まれお気に入りのテディベアを傍らに置くブーメラン。
各々が自分の幸せを見ていた。
エンチャントレスは望むものを見せると言った。
だがそれは偽物だ。
死んだ人間にはもう会えないし、過去は変えられない。
偽物はどこまでいっても偽物だ。
勝ちたかった、勝てなかった相手に勝った。他人から与えられた力で。
それになんの価値がある。
ふざけるな。馬鹿にするな。
あぁ、腸が煮えくり返る。
余りにも不快な幻覚をすぐさまシャットアウトし、フラッグたちを置いてエンチャントレスの前に出る。
後ろでは幻覚を破ったディアブロがみんなを鼓舞する声が聞こえる。
どうせエンチャントレスが彼に見せたのは彼の家族との再会だろう。酒場での会話で彼の後悔は痛いほど聞いた。
だが、彼は過去を破った。罪を背負って前へと進む覚悟を決めた。
そんな男の罪をなかったことにするのは最悪の選択だろう。
再起した部隊の面々に先んじて前に出た私をエンチャントレスが見る。
エンチャントレスは嗤った。
「何だ、気に食わなかったか」
「自分の望みは自分で叶える。与えられた偽物を楽しむ趣味はない」
「ハッ、いいだろう。従わぬなら殺してやる。弟よ、お前は奴の後ろの連中を相手にしろ」
そう言うとゆっくりと動き出したエンチャントレス。兵器に使われていた魔力がこちらに向けられているのが分かる。明らかな戦闘態勢。こちらも全力で相対しなければ命はない。
頭のスイッチがパチリと入れ替わる。慢心もお遊びも魅せプもない。100%のガチだ。
悪いね、フラッグ。
頑張るけど恋人の身体、ぶち殺すつもりで行くよ。
二人は示し合わることなく、同時にゆっくりと歩き始めた。
グリンデルバルドの仲間たるスーサイド・スクワッドも、エンチャントレスの弟たるインキュバスも二人の間に入ることなどできない。
片やかつては神と崇められた、封印されたとはいえ数千年を生きる魔女。片や数多の信者を生み出した、最悪の犯罪者に名を連ねる魔法使い。
カツリッと革靴がレンガの地面を叩く音と共に歩くグリンデルバルド。それとは対照的にヒタリ、ヒタリと静かな音を鳴らしながらエンチャントレスは歩く。
徐々に詰まっていく二人の距離。
10m
エンチャントレスの着ていたドレスは空気へと溶けるように消え、フラッグの記憶にあった薄暗い雰囲気を伴った姿に変わる。
5m
グリンデルバルドは手を広げ、袖から飛び出した杖を掴む。
そしてエンチャントレスが両腕を広げると腕から生えるように現れた剣を2本、その手にしっかりと握っていた。
互いに武器を持った状態にも関わらず二人とも表情一つ変えることなく歩き続ける。
3m
予兆はなかった。
予備動作なしで彼我の距離を一瞬でゼロに変えたエンチャントレスが目の前の男を屠るべく剣を振るう。
常人には目に捉えることすら許されない速度で振るわれる剣戟。
エンチャントレスから繰り出された二つの斬撃は容易く敵の命を奪うはずだった。
空を切る二本の剣に目を見開くエンチャントレス。そんな彼女の背後で空間が歪む。
バシッという音と共にエンチャントレスの背後に現れたグリンデルバルドはすぐさま杖を振るう。
神速という他ない杖さばきで一瞬にして放たれる3本の光線。
背中に迫る緑の光をエンチャントレスは体を無理やり捩じり、避け、切り裂く。
目標を見失った光線が遠くで地下を揺らし、細かく裂かれた光線が壁を、地面が抉る。
開戦早々の不意打ちを防がれたグリンデルバルドだったが、その動きは止まることを知らない。杖を振るうたびに光線が、動物の姿を模った炎が、水が、土屑が、次々と嵐のようにエンチャントレスへと向かう。
だが、エンチャントレスも負けてはいない。
次々と襲い掛かる呪文の数々。一つ、一つに込められた呪いは人一人の命を容易く奪う、凶悪極まりないものばかり。
炎は指先一つでも掠れば人体は灰塵に帰し、水はその物量で敵を押し流し息の根を止め、土屑は鋼鉄の塊をも容易くかみ砕く強靭さを持っている。
しかし炎はエンチャントレスの肌を僅かに焦がすのみ。呪われた水は容易く振り払われ、土屑の怪物たちは次々と切り砕かれ、エンチャントレスの剣はグリンデルバルドへと迫る。
二人の立ち位置は目まぐるしく入れ替わる。
エンチャントレスから放たれた剣戟が、グリンデルバルドの放った魔法が、原型を残していた廃墟を残骸へと変えていく。
そんな中土屑の蛇が二匹、遂に剣戟を潜り抜けエンチャントレスの両腕に喰らい付く。その牙はエンチャントレスの肌に僅かに食い込み血を滲ませるのみ。
だが、例えそれが幻のように短い時間だったとしても、エンチャントレスの動きは確かに止まった。
怒涛の勢いで襲い掛かる呪文がエンチャントレスを派手に吹き飛ばし壁に叩きつける。
銃弾では傷一つつかない肌が焼けただれ、ボロボロと一部が崩れ落ちる。さすがの再生力かその傷はすぐに再生を始め、数秒もすれば傷一つない柔肌が姿を現す。
だが幾千年ぶりの傷はエンチャントレスの攻撃をより苛烈にした。
地下が揺れる。
災害のように二人は破壊をまき散らしながら神殿を模した広い地下空間を思う存分使って戦い続ける。仲間に被害が及んでいないのはただの偶然だった。
最早二人にそのような雑念を入れる間はない。目の前の敵を倒すこと。それだけが二人の心を支配し、迸る戦意が互いの距離を自然と詰めていく。
そうして遂に剣の間合いに入ったグリンデルバルド。呪文を放つという動作が基本の魔法使いなら中・遠距離戦こそが本領の見せどころ。近接戦は不得手のはず。
だが杖から放たれる青白い電撃を振るい、エンチャントレスの剣劇に食らいつく。
剣と杖がぶつかり合い、甲高い音と共に散った火花が、目まぐるしく動き続ける二人を照らす。
外れた呪文が、斬撃が、二人の後ろで破壊の限りを尽くしている。
しかし、二人ともそんなものは見えていない。互いの瞳に映るのは自分の前に立ちふさがる敵だけ。
互いに瞬間移動を交えながら戦いの場を変え続け、戦場を横断する二人。
その戦況は膠着状態になる──ことはなかった。
瞬間移動とは何か。
それは異なる地点同士を別次元を介して無理やり繋ぎ、その繋ぎを通ること。(当然、例外も多数ある)
異世界もののワープゲートだったり、スターでウォーズな世界のハイパースペースも時間はかかるがそれに入るだろう。
間にある距離も、かかるはずの時間も、魔力という人知を超えた力で無視する。それがハリー・ポッターの姿現しだ。
故に原作では“ばらけ”なる事象が存在したし、遠距離の移動ではポートキーが使われていた。それは単純に、凡百な魔法使いでは目的地への距離が遠いほど作った繋ぎが細くなり、ばらけてしまうからだ。
さて、こんなに危険な姿現し。これを行使者の視点から見るとどうなるか。
想像してみてほしい。瞬きした瞬間、全く別の場所の風景が視界に入るのだ。瞬間移動すると分かっていてその場所を想像していたとしても、戦闘という命のやり取りをしている最中にするのは自殺行為に近い。
よっぽど慣れ親しんだ場所でもない限り状況把握に少なくとも数秒は要するだろう。
では私はどうか。今世で幾度と繰り返した姿現し。それによる慣れで確かに瞬間移動後の状況把握は早く、戦闘中の視界内の移動に限っては一秒と掛からず次の行動に移ることが可能だ。
しかしそれでもこの身が人間という区分にある限り、その呪縛からは逃れることはできない。
姿現しをし、視神経が情報を脳に伝達し、その情報を脳が処理するまでの僅かな時間。ごくごくわずかに、この体に発生するタイムラグ。
これが、エンチャントレスにはない。
神として祀られた魔女。
元の身体が人間であっても魔女の心臓がその身に入った今、その体の機能は確かに神に届きうるものになっている。
そうして勝負の天秤は極々僅かに、しかし着実にエンチャントレスへと傾き続ける。
そしてその傾きが素人目にも分かるようになった瞬間、エンチャントレスの攻撃が私の身体を捉える。
「──ガッ」
近接戦を選んだのは間違いなかったはずだ。わざと敵の土俵で戦うことで相手に新しい手を出させにくくする。事実、エンチャントレスが魔法を使ってくることはなかった。だが剣に目が行き過ぎた。
剣戟の合間に放たれた、エンチャントレスの人間離れした身体能力が繰り出す蹴りが、何とか体との間に挟んだ左腕をへし折り、そのままやせ細った体にねじ込まれる。
生々しい音と共に肋骨がへし折れる。内臓が抉れ、折れた骨が肺に突き刺さる。すでに重傷を負った体は、エンチャントレスの蹴りで軽々と宙へと浮かぶ。
まあ派手に飛んだのは自分が衝撃に逆らうことなく、後ろに飛んだからだろう。もし踏みとどまろうとしていたらもっとグロいことになっていたはずだ。
こみあげる血反吐を吐きながらも、壁とキスをする前に何とか姿現しをしてエンチャントレスから少しでも距離をとる。
戦場から少し離れた地下鉄の線路。先ほどまでの戦闘音でイカれた耳にあまりにも静かすぎる空間が身を包む。
「
ボキッと折れた時と同じ痛みを放ちながら元の位置に戻る左腕と肋骨に、もう一度込み上げた血反吐を吐き捨て壁に寄りかかりながら立ち上がる。
全快とはいかない。回復魔法はもっと適切な場所で時間をかけてやるものだ。
少なくとも線路の上で、ケガの原因になった敵の前でやるものじゃない。
苦し気に点滅する照明によってうっすらと照らされる線路の先に、魔女がいた。
先ほどの開けた地下空間とは打って変わって、動きが制限される狭い場所。
電車の来ない線路の上で、ラウンド2が始まった。
誤字報告で気づいたんですけど、フラッグの恋人の名前ってジェーンじゃなくてジューンだったんですね。ご指摘ありがとうございます。全話見直して修正します。
ところで話は変わるんですが異世界スーサイドスクワッド楽しみですね。ハーレイめっちゃ可愛い。