後半主人公目線、ストーリー進めます。
【追記】2022/01/23
誤字報告ありがとうございます、訂正させていただきました。大変助かります。
七海
「この人形、誰が作ったんだろう」
挽歌が男の右腕を見て、疑問を口にした。
呪力による洗脳に近い、“安心感”の空気も薄れ始めている。
「現代の呪術師が容易に作れるものじゃない。
「古い呪術師……。呪骸
「アナタは飴玉以外食べないんですか」単純に疑問に思い訊ねると、挽歌がポケットから一本取り出す。「そういえば、食べたことないね」と言われた。
「別に、食べたところで満腹になるとかじゃないんだけど。人間でいうところの、煙草やアルコールに近いかも。頭がスッキリするというか、落ち着くというか」
「そんなノリで寿命を食べるな」
押し入れの近く、崩れた壁下に男が転がっているため、七海は近寄る。しかも呪骸憑きだ。嫌気がさす。
もはや溜め息も出なかった。
上半身を起こさせ、動けないよう捕縛する。既に右腕は肉が食い荒らされている。これはもう、寄生虫のようなものだな、と思った。
男の襟首を掴んで持ち上げる。そして、窓際の挽歌を見た。
「何をしてるんです」相手の方向を見遣り、身体を少し傾け、声をかける。「アナタ、何しに来たんですか。今のままでは封印処置の延期を申し出ても、上層部は納得しませんよ」と男を差し出す。
挽歌はそこで漸く自分の立場を思い出したらしく、七海を見た。手元に視線を向けた。「あ、持つのか。僕が持つのか。いいよ。いいのか分からないけど」
「何かする気があるんですか」
「え?」
「いいのか分からない、と言ったでしょう。その男を殺すつもりが?」
挽歌は一瞬、何を言われているのか分からないようで、「無いけど、でも」と言った。遅れて、七海の意図を察したのか、「いや、何でもなかった。術式が勝手に発動することは、もうないから、任せて」と言った。
「まあ頼りにはしてませんが」
「そんな」
力が弱く、軟弱に見えた呪霊だったが、予想に反し、思ったよりも男を引きずる様子はなかった。左腕を男の腹部に回し、大きな荷物を抱えるようにしている。
七海は、挽歌に先に出るように促す。両足の膝から下と踵だけが引きずられ、その部分だけ埃が削り取られるので、道ができている。
いくら呪霊といえど、身長およそ百七十センチメートル、成人男性の身体を持てば、床が軋んだ。
縋るような目を向けてくる呪霊を無視し、七海は思考する。
「……あの、七海、僕はどうしたら」挽歌は、七海に質問してきた。興味や好奇心の類ではない。このまま見放されるのを、恐れているのだ。「この人重いんだけど。あれかな、僕は鉱山のカナリアみたいな使い方、されてるのかな」と、男を持ち上げたまま、戸惑っている。
七海は無言で、辺りの気配を探った。
やはり、低級呪霊しかいない。この家屋に飛び込む前に幾つか立ち入った家々にも、僅かな低級呪霊しかいなかった。
ここまで廃村全体が、異様なまでに淀んでいるのは何故か。
“反魂人形”の暴走だけで説明できる問題か。できる訳がない。
どうして呪詛師の男は低級呪霊の侵入を許し、挽歌のような、濃い呪いを持つ呪霊の侵入を恐れたのか。
「────もしかして」
そこでふと、許したのではないのかもしれない、と思い当たった。
強力な呪霊を拒む、という条件の元に、全低級呪霊の侵入を許さざるを得なかったのではないか。
嫌な予感が膨れ始めた。警戒心を強める。「なに、どうしたの」と挽歌が不安そうに言ってきた。
「……アナタは、人が『死ぬのが怖い』と考える気持ちが聞こえるんですよね?」
「え、ああ、うん、聞こえるよ。さっきの話のこと? この家に辿り着いたのも、外で聞こえたからだよ。この人間の声だったみたい。呪骸に食われるのが、怖かったんじゃないかな」と、自分に言い聞かせるようでもある。
七海は、なるほどそういう考え方もあるか、と思った。「ならあの、動機の不明な結界は何だと思いますか」
「あれは……呪骸の侵食を遅くさせるため、とか」
「自己暗示による遅延なら、まだ分かります」七海は神経を尖らせる。「では、弱い呪霊の侵入を許したのは何故ですか。アナタのような、濃い呪いを持つ呪霊のみの侵入を拒んだ理由は、何だと思いますか」
最初は訝る顔つきだった挽歌も、次第に顔を顰め始める。
「……思えば、確かに、異常なほど怖がってたよね。呪骸についても、訊かれてからやっと答えるくらい、優先順位が低かった」
七海は言った。「その男は、村にいる何者かから隠れるために、籠城していた」
□
隕石が落下するような、恐ろしい音が鳴ったのはその時だった。
目の前の景色が突然光り、呪力の熱線によって、階段どころか壁までもが消し飛ばされ、半壊した。
外側から攻撃されたのだ。地響きがした。森の木まで薙ぎ倒されたのかもしれない。地面を大きな匙で抉り取ったかのような跡が見える。
嫌な予感がした直後、咄嗟に挽歌の襟首を掴み、後ろに飛び退くことができたのは、不幸中の幸いだった。
突然の崩落に、七海も挽歌も身体を硬直させた。
「……あぁ……え、なに今の。廊下と階段は、あれ?」
挽歌は、力んだ拍子に呪詛師の腹部をきつく絞めたらしい。意識のない呪詛師が呻く。先程の考察を忘れているかのように目をしばたたかせ、外と直結した面から顔を覗かせようとする。
大きな音が鳴った。また攻撃を受けた。
七海は素早く、挽歌の襟首を持ったまま、その場を踏み壊す勢いで地面に飛び込んだが、そうしなければもしかすると、家ごと身体が吹き飛んでいたかもしれない。
続けてもう一発、撃たれる。飛び退く。数秒前まで立っていた場所がまた破壊され、木片やら土塊やらが大量に飛び散る。即席の目眩しよろしく、視界が更に悪くなる。
砲撃のような攻撃が一時的に収まった頃を見計らい、倒壊した家屋の陰に隠れた。
術式でもなんでもなく、ただの呪力の光線を飛ばしているだけなのに、異常なほどの破壊力がある。
そこで挽歌の襟首を離すが、突然の自由に対応できず、挽歌は膝を着いた。呪詛師を落とす。こんな状況なのに寝こけるなど、いい身分ではないか、と七海は過去の行いを棚に上げた。
舌打ちをする。防戦一方ではキリがない。
このままでは間違いなくどこかのタイミングで、挽歌は死ぬ。死ぬのは構わないが、その代償の矛先が七海に向く事態は避けたい。想像するだけで、何倍にも難易度が膨れ上がった気がした。
“反魂人形”の回収と、特別指定呪霊の査定のみが今回の任務内容だった筈だ。しかし現状はどうだ。事前告知以上の、獰悪な呪霊が居るではないか。「ほら、ウチの上層部は腐ってるからね」と事ある毎に口にする男の顔が浮かんだ。
まさかな。嫌な仮説が脳を過る。
「な、七海、あの呪霊」挽歌は縮こまって言った。「見たことが、いや、殺されたことがある、気がする」
「……殺された?」
彼は壁越しに、背面にいる呪霊を観察するようにして、
思い当たったのは、数ヶ月前、虎杖が派遣先で死亡した任務の報告書だ。英集少年院に、高専一年生三名が派遣された、最悪な事件。
その一文が蘇る。<特級仮想怨霊>と。
「────まさか、両面宿儺の指を取り込んだ呪霊、とでも言うつもりですか」
「言うつもり、というか」と挽歌が、先程よりも恐怖が滲む顔で口に手を当てる。「絶対そう、というか」
七海はがばっとその場に立ち上がる。後ろを振り返る。仕掛けるとすればそろそろか、と思ったからだ。
まさに、白く隆々とした筋肉に黒い模様の入った呪霊が突進してくるところだった。引き締まった体格の人型で、明らかに手強く、濃い呪いを感じる。
挽歌も遅れて反応し、頭を抱えるようにして地面に伏せた。
七海は、やはり特級相当だな、と内心で舌打ちしながら身体を回転させ、そのタックルを躱し、すれ違いざまに鉈を振るう。特級呪霊の腕にそれが掠り、追撃を仕掛ける暇もなく、驚いた様子で距離を取られる。
「何かできますか」と七海は攻勢に出る前に、隣にいる挽歌に声をかける。嫌味ではなく、本心からの質問だった。「あの呪霊に対して、まともに戦えますか」
「戦えますかって」挽歌は、呆然とした雰囲気を纏ったまま言った。「あいつ相手に?」嘘だろ、とでも続けそうだ。
その術式は飾りか、と七海は吐き捨てたくなるが、一方で、「呪霊と共闘」は自分の中では想像できない光景だなとも思い、更には、この面倒な体質の挽歌がいる方が自分は不利になるのではないか、と危惧する。
「……その呪詛師と下がっててください」七海は言う。
使えようが使えまいが、危険分子は退ける必要がある。何かあってからでは遅いからだ。
打てる手は限られている。あの広範囲の呪力砲はどうにか避ける他ない。目を凝らし、相手の挙動に意識を集中させた。
「っ、まって、僕もなにか」
「駄目です。足手纏い、邪魔です。早く撤退を──」
遠くの瓦礫の上に立ち上がっていた特級呪霊が、挽歌をじっと見て、興味深そうにしている。まずい。挽歌の肩を蹴り飛ばす。ダメージを与えるものではなく、突き放すためのものだった。
蹴り飛ばしたタイミングで、敵は呪力を弓のようにしならせ、先程まで七海たちがいた場所を穿いた。
息をつく暇もなく特級呪霊は接近してきた。
力が強く、呪力の籠った両腕で突かれただけで、七海は滑るように後退ることになり、跳躍して体勢を整える。
更に七海に拳を振るってくる特級呪霊を、地面を蹴るようにして避ける。それからバックステップの要領で後退した。
挽歌が奥で立ち尽くしている。
「────撤退しなさい!」
七海は特級呪霊の注意を引くように、呪力を漲らせる。
通路上で二人で特級呪霊を挟む形だった。七海は鉈に呪力を込める。柄を強く掴んだまま駆け出す。しっ、と風を切る音がした。伸ばされた腕に向け、叩き斬ろうとしたところ鋭く右手を蹴り上げられる。斬撃が遮られてしまう。
七海の舌打ちが地面に落ち、小さく弾み、気化して消える。
怯ませるために左の拳を、特級呪霊の顎に向けて突き出す。相手は避けようとするものの、頬でそれを受けた。硬い感触がした。瞬間、拳に痺れが走る。面倒な、と七海は思う。
吹き飛ばされた勢いで起き上がろうとする特級呪霊だったが、急にかくん、と膝の力が抜けた。何だ?
いつの間にか家屋の瓦礫の上に移動していた挽歌が、左腕をこちらに向け、空間を掴み取ろうと指を広げていたのだ。ぐぐ、と引き抜こうとする。
つんのめるように特級呪霊が向かってくるため、七海は身体を横にし、翻るようにして避けた。敵は膝をつき、四つん這いに近い姿勢になり、首だけで振り向く。
「何をしているんですか!」集中力を切らさぬように、と気を張りながら、できるだけ手短に言った。
「このまま封印されるのは嫌なんだってば!」
挽歌が平静さを失っているのは、声だけで理解できた。気迫はあるものの、意識が定まっていないようだったからだ。
「何しに来たんですか」「封印処置の延期」「上層部は納得しませんよ」「足手纏い」「邪魔です」心当たりの泡が、ぱちんと連続して弾ける。窮鼠猫を噛むというか、背水の陣というか、後に引けないというか、とにかく挽歌は焦りに焦った挙句、思考が飛んでしまったようなものだろう。
特級呪霊は呼吸で身体を大きく動かしていた。冷静さを取り戻しているのか、どうすべきか考えているのか。
その時、特級呪霊の呪力の乱れに気付き、七海は思わず瞠目した。
はっとして、「術式の効果は」と訊ねると、「奪う。きついけど、あの呪霊から寿命を」という声が聞こえてきた。
返事をしようとしたところ、目の前を影が過った。
ドン! と音がした。遅れて砂埃が舞う。
七海は自分の真上を通過し、特級呪霊が挽歌の元に向かったにもかかわらず、瞬きの合間に突風が吹いたのかと思った。
背後で爆音が轟き、家屋が拉げた。真上から潰されていた。
あれは間違いなく死んだな、と七海は顔を顰め、蘇った彼が瞬時に追撃される未来を警戒したが、そうはならなかった。
家屋から十数メートルほど距離をとった位置で再生し、地面に寝かせていた呪詛師を回収するように走り抜け、七海の側に滑り込んだのだ。僅かに冷静さを取り戻したらしい。
「……死にましたか」
「痛かった」
でしょうね。
茂みの裏に呪詛師を寝かせた挽歌が、自身の
呪力による再生を待つ前に、一度死んでゼロから構築する方が、仕組み的には楽らしい。観測していた限りでは、挽歌は事前に飴玉を一本口にしている。
つまり危険なのは、これ以降だ。
「アナタは最低限、これ以上死なないようにしてください」
「一度だって、好きで死んだことはない」
瓦礫の山から降りてくる特級呪霊を睨む。
呪力の弾丸が挽歌目掛けて、放たれた。挽歌はそれを避けるために身体を傾ける。
七海はすかさず相手に向かって走り出した。手加減なく、勢い良く、鉈で薙ぐ。体勢を崩し、敵は素早く後ろへと移動し、瓦礫にぶつかり、音がなり、高く積み上げられていた民家の残骸が落ちた。
同時に、相手は漲る呪力の範囲を広げるように、ドーム状に膨らませる。地面がばちばちと爆ぜ、砕けた。特級呪霊が、その範囲に七海を取り込もうとする。
七海は大きく飛び退いた。直後、目の前に特級呪霊が急接近する。
かろうじて右腕が間に合った。突き出された拳が、鍵型に曲げた腕に激突する。痛みと衝撃。よろけそうになるが、振り上げられたもう片方の拳が翳されるのは明らかだ。
七海は身体を回転させ、その場を外れて地面に転がった。すぐに立つ。
そこで特級呪霊に、再度呪力の乱れが見えた。七海の頭を狙うべく放たれた足が高く上がる前に、軸足がかくんと折れる。ギギ、と何かに耐えるように、剥き出しの歯を擦る音もした。片手で胸を押さえようとする、隙ができた。
七海はそれを逃さない。死角に回るように身体を移動させると、崩れたばかりの瓦礫にぶつけるように、特級呪霊を殴り飛ばした。
廃村だろうが都会だろうが、相手が特級を冠する呪霊ならば容赦してはいけない。
相手がよろけて、瓦礫の山に衝突すると、七海も走り出す。後方で呼吸を乱す、挽歌の声が聞こえた。
左手の拳を素早く前に突きだす。相手の脇腹を狙ったが、それは右腕で防がれた。が、“縛り”の解けた労働時間外の七海にとって、それは好都合だった。
ぱん、と破裂するような音と共に、肘から先が弾ける。生暖かい液体が頬に付着し、眉間に皺が寄った。
すぐに右の鉈を、今度も横腹を狙って、振る。当たった、と思ったが身体をずらされ、瓦礫を砕く。
相手は敏捷だった。焦りはあるのだろうが、七海の動きをよく見ている。
呪力が放たれる予感があった。
相手が今にも口を開きかけるところだった。七海は強くその場を蹴り、飛び跳ねるように、特級呪霊から離れる。
挽歌のいる茂みを左側に、横に大きく逸れる。先程、拳を受け止めた右腕に痛みが走る。右手から、鉈が滑りかける。
咄嗟に強く握り締め、攻撃に備えた時、自分の身体の正面、その方向に呪力の砲撃が放たれる。射線上の地面を抉り、木々が倒壊する。焼き尽くされていた。
背筋に冷たいものが走る。あれが直撃したらひとたまりもないな。
────いや待て、挽歌は?
あの呪詛師共々、巻き込まれた?
相手が歩いて近寄ってくる。消し飛んだ腕は回復していた。七海は鉈を握り、腰を落とした。
同時に、頭の中で挽歌の術式を警戒していたが、もちろんそうしている間にも、特級呪霊は攻撃してくる。
上段蹴りが来たかと思えば、呪力の弾が飛んできたり、拳が下から突き上げられたり、と次々と仕掛けてくる。
七海はそれらを躱し、一つを防ぐのと同時に反撃を繰り出し、一つを振り払うやいなやもう一つを叩き落とし、と頻繁に攻守交替する。
しかし一向に、挽歌の術式の反動が来ない。
交戦する七海と特級呪霊の殴打音はするが、対象を無差別に生贄にする気配のない空間は緊迫したままで、ギイイと相手が、忙しなく歯軋りする音が、困惑を引き立たせる。跡形もなく消え去ってしまったのか、と僅かに考えてしまう。
それは、突然起きた。
特級呪霊が悲鳴に似た高音を洩らし、ぴょんぴょんと距離をとるので、不可解に思った。
何だ、と警戒した七海は気配を感じ、はっと振り返れば、挽歌が呪詛師を背負ったまま、右手を突き出している。傷を負った様子はない。
直撃する前に撤退していたのか!
胸を撫で下ろす心地がしたのは、あの厄介な術式が発動しなかったからに違いない。すぐさま挽歌の方に、近付く。特級呪霊は、完全に殺したと思っていた相手が生きている事実に、驚愕と混乱で停止していた。
挽歌は至極真剣な表情で、隣に来た七海を見上げる。
「むりだ、七海。あの呪霊は強すぎる、もうおわりだ」
「表情と言葉が釣り合ってませんよ」
「全く掴める気がしない」
「いつも通りじゃないんですか」
「攻撃手段として使うのは初めてなんだ」
「そうですか」と七海は呟く。腕時計を見れば、随分と時間が経っていた。「まあいいでしょう。そのまま続けて、隙を作ってください」
「どうするつもり」と挽歌は声を高くする。
しばらくして七海は、「私の術式は対象を七対三に線分し、強制的に弱点を作り出します」と口にする。
「それは」挽歌は言った。「術式の開示でしょ、確か前にも……、逃げようよ七海」
「逃亡を許してくれる相手ではない」
頭にあったのは、一年前の京都百鬼夜行。七海が挽歌に、邪魔だから離れていろ、と戦闘から遠ざけた際のことだ。
何しに来たのか、と追求した七海に対して、挽歌は説明した。「お祭りやってる、って同僚に騙された」「このお祭りには何の関与もしてない」と自分は巻き込まれただけなのだという。
その割には、「疲れてるだろ、手を貸すよ」「
まさに、あの時と似た状況だ。過程は違うが、挽歌は七海の行動を懸念していた。
────だから今は、少しでも自分が「こっちの方が良い」って思った方に、行動してる。
「手を貸してくれるんじゃないんですか」
挽歌は、七海の口の動きをぽかんと観察する。そこで七海は、また呼んでみることにした。京都で再会したあの日以来、一度も口にしたことはない。
「挽歌」と。
七海は前を向き、挽歌に背中を見せる。そして一歩、足を進めて、踏み切った。
その日、情報が広まるのが早かったからか、里桜高校の周りは人で溢れていた。
雨は降っていないのに、周囲一帯が湿っているように見えた。じめじめとして、夜に沈んでいる。校舎はどこも黒く見えたし、校門の外の野次馬は全員、淀んでいるかのようだ。
七海が到着した時は、丁度七時頃だったのだが、道路に次々と車が到着するところだった。
警察の「keep out」のテープをくぐり抜ける。入口の目の前に、所々地割れや擂り鉢状に空いた穴があって、その先が本校舎となっている。荒れた校庭は、昼頃の戦闘の記憶を色濃く残しており、惨く、最悪としか言いようがない。
数分も経たない内に、体育館に辿り着いた。
七海は冷静さを保って、足を体育館の入口の前へ移動させ、そこから扉を、現場を必要以上に荒らさないよう気をつけながら、ゆっくりとスライドさせた。
湿気の臭いなのか、それとも、「死」の臭いなのか、冷たくて少し甘い臭いが、七海の鼻に触れる。息を止めた。
体育館の中に慎重に踏み入った。入口から順番に、壁や床も含めて調査したかったのだが、胸を掻き立てた感情に急かされ、部屋の中央に向かってしまった。
放射状に広がった残穢があった。
自分の目でこの現場を確認したのは初めてだったが、補助監督から聞いた話は、不気味なものだった。
直前まで大量の毒に犯されていた男子生徒や、昏睡していた生徒たち、途中まで意識があった教師。いずれも苦しんだ様子もなく、穏やかに入眠するようにして、気付いたら死んでいる。
話を初めて聞いた時、七海は、「今までの言葉は嘘だったのか?」と論点から遠ざかっているのは承知しているのに、苛立ってしまった。
思うに、自分はあの呪霊に対して、必要以上の期待を抱いてしまっていたのだ。
その時の気持ちを言葉にするとしたらきっと、失望に違いない。
「──うん、うん! 任せて、七海」
だからその言葉に危うさを感じて、七海は思わず、「本当だろうな」と文句を言いたくなる。
思考とは裏腹に肩の力が抜けるのが、自分でも分かった。
意識を切替える。
私情に塗れた思考が終わり、視界が良くなる。頭の中は空になり、やるべきことが明確になる。
七海は鉈を構えて、飛び出す。
特級呪霊のすぐ側に、まだ崩れ落ちていない家屋が見えた。踏み切り、近付く。
混乱していた相手はようやく冷静になり、拳に呪力を纏ったところだった。中腰で、ぜえぜえと肩を揺らしている。何かと思えば、挽歌の術式が先程よりも研ぎ澄まされ、特級呪霊の呪力操作を、大幅に妨害しているのだ。
七海はすぐに、家屋に接近し、その後で、振り翳していた鉈に呪力を込め、躊躇せず、釘を打ち込むかのような自然さで、壁面を打ち砕いた。
十劃呪法、瓦落瓦落。
虹を目撃した子供が驚愕するかの如く、敵は口を開き、その後に自分に降り注ぐ瓦礫に籠った呪力を見て、目を丸くする。その隙を逃さず、七海は右足、左足、左腕、右腕、と間髪入れずに、鉈を振る。
四肢の自由が失せ、バランスを崩した特級呪霊の真上から、タイミングを見計らったかのように瓦礫が落ちる。
地響きと轟音が辺りに波となって伝播し、七海は、風を遮るように右腕を翳す。
勿論、これで終わりだとは考えていなかった。
たかが一瞬、されど一瞬、呪力の消耗と体力消費に、力が抜けた。呼吸を整えるために、ふう、と吐き出す。
呪力なのか、もしくは本能的な危機察知能力なのか、肌がちくりと刺激を訴えた。
特級呪霊が突進し、七海を潰すように剛腕を振り上げてくるのと、横から何かが飛び出してくるのが同時だった。
□
ただ、七海は特級呪霊ではなくて、飛び出した挽歌をじっと見ていた。瞬間的な出来事だったが、七海ははっきりと視認した。
敵が起き上がり、地面を蹴り、七海を沈めようと腕を突き出した時、挽歌は咄嗟に駆け出し、七海に身体をぶつけるようにしたのだ。ポケットの中身が零れ出していた。
まさにそれは、危難や厄災から友人を守るために、犠牲になるかのようだった。本当に、一瞬の判断だった。
七海はその判断を目の当たりにして、衝撃というか、驚きというか、看破というか、とにかく、はっとした。「なんだ」と思った。「なんだ、変われるじゃないか」
封印されたくない、死にたくない、を基準にした訳ではないだろう。挽歌は無意識に、七海を庇おうとした。それこそが挽歌の本音とも言えた。
彼は風船が吹き飛ぶかのように視界から失せ、姿を消した。七海は瞬時に特級呪霊から離れる。相手は何が起きたのか分かっていないようだったが、それでも誰かを殴った手応えを感じた様子だった。
飴玉が、血液の代わりを務めるように、地面に散らばっている。風に吹かれる
七海は躊躇わなかった。全力で接近し、特級呪霊の真横に滑り込み、顔面目掛けて、拳を放った。相手はそれを避けるために上体を傾ける。七海は身体を反転させ、今度は鉈で首を狙った。
斬った。
すぐに、首から出血が始まる。口を絞ったホースから、水が飛び散るように血が吹き出した。
特級呪霊が片手を首に添え、もう片方の腕を振ってきた。七海はじっと目を凝らす。腕の流れが、拳の軌跡が、肉眼で追えた。
上半身を後ろ側に反る。空気の流れで、拳と呪力の勢いを確かめながら、やり過ごす。片手で地面を突き、伸び上がるようにして、相手の顎を蹴りつけ、身体を回転させて距離をとる。
特級呪霊が後退る。
その瞬間。
七海はじわりと、地底から水が湧き上がってくるかのように、足元から馴染みの深い気配が沁み込んでくるのを感じた。
何だ、この本能的に受け入れ難い感覚は、と訝しがり、そしてすぐに分かる。
「死」だ。
「死」の感覚が、襲ってきた。
目を見開くが、依然としてその気配は消えない。発生源はどこだ、と眼球だけで左右を見つめる。これの原因はどこからだ?
そこで七海は視線を戻し、自分と同じく、硬直した特級呪霊を真正面から見つめた。見た途端、背後から仄暗い空気を感じた。
────
全身の毛が逆立って、感覚が鋭敏になる。直感的にこれは放置しておけない、と分かったが、足を動かすことができない。
足元の黒い水が辺り一帯を覆い、それが七海の靴に浸透すると同時に、蝕もうとしてくる。暗い液体が広がる。風が吹いたのか、森がさざめいた。唸るように重々しく擦れる木の音は、心臓の鼓動を急き立てる。おいで、おいで、と手招くようだった。
流石にまずいと確信し、まさに、鉈を背後に向かって投げようとする瞬間だったが、その時になって、
一瞬、何が起きたのか分からず、七海は思考を働かせるが、すぐに理解する。
特級呪霊の様子が変だった。先程と同じ位置に立っているものの、もがき苦しんでいた。地上で溺れるかのようだ。七海の足元に漂っていた分の暗澹たるものが、全て移動し、呪霊を呑み込み、暗い水底へ引き摺り込もうとしている。
「……あぁ、成程」
七海は右手に持った鉈を前に向ける。隠れた刀身を、宙に線を描くかのように前に向け、振った。
特級呪霊の右腕を狙った。七対三が見える。二の腕を叩き斬る。呪力で守っていたのか、途中で鉈が止まりかける。すぐに呪力を重ねて、斬り離す。
特級呪霊が苦しみ喘ぎ、残った左腕で、一度自分の胸の辺りを掻き毟った。
アアア、と目の前の相手は喉を震わせると、闇雲に左腕を振った。そして、足元に満ちた黒い呪力を眺める。眺めてる暇がある訳ないだろ。
七海は左へ身体を回転させ、左の拳に一段と呪力を込める。
相手は取り乱している。身体を屈め、呪霊の脇下に潜った。左手を思い切り、振り上げる。呪霊の左肩に拳を叩き込んだ。
肉を抉るように、足を踏み込む。呪力の装甲を通過し、筋肉を断ち、貫通するのが腕に伝わる。
呪力が鋭利に、
言葉にならない悲鳴を、目の前の呪霊は上げた。足元の呪力の方は途端にかさを増した。空いた穴に流れ込もうとしているのだろう。
首ががくんと折れる。特級呪霊がその場に倒れ込んだ。うつ伏せのまま両足をばたばたと、弱々しく動かしている。小刻みな震えが、次第に収まり出した。
するとその呪霊は何かに手繰り寄せられるように、すうっと生気が抜かれていく。
掴み取られたのか、と七海は思う。
既に身体が空気に溶け出している。胸の辺りから、核となっていた指が姿を現し始めた。
「────ななみ」
背後からひどく穏やかで、場に似つかわしくない声がした。女性的で幼い顔つきの呪霊は、挽歌は、語り掛けるように言った。
七海は無言のまま、視線だけを向ける。
「よかった、無事で。呪力が拡散しちゃって、範囲を絞るのが大変だった」挽歌は絶え絶えに言ってくる。消滅し掛けている特級呪霊の亡骸を指差した。「僕だって、キミの力になれるって、少しは思ってもらえたかな」
特級呪霊が黒い塵となって、風に吹かれて散っていく。置き去りになった一本の指から、果てしない呪力が伝わる。
「焦ったよ。七海の足元にまで呪力が溢れちゃうから、慌てて全部向こうに集めたんだけど──」
「
そこで七海は声を投げかけ、特級呪霊が居た辺りに歩み寄る。一本の、恐ろしいほど呪力が詰まった指を、拾い上げた。
近頃はよく見るな、と思った。数週間前に吉野順平の家から回収されたのを含めれば、これで二本目となる。
「精度が低いから、と言えばそれまでです。現に私は死んでいませんし、一度は庇われている。加えて言うならば、特級相当の呪霊を軽症で祓うことができたのは、アナタの術式があったからです」
七海はゆっくりと彼に向き直るが、俯いており顔が見えない。赤みがかった珊瑚色の前髪の向こう側に、どんな表情が浮かんでいるのか。
「その上で訊きますが、私を、殺そうと考えましたか」
挽歌は答えずに、足元の飴玉を一本だけ拾い上げた。包み紙を引っ掻き、両手で握り締める。七海の記憶にもあるが、あの飴玉には個体それぞれに色の違いがあって、寿命が詰まっている筈だ。
「……一回も考えたことがなかったら、それこそ呪霊じゃないよ」挽歌のその言葉は本心というよりは、彼なりのユーモアに思えた。
七海は回収した指をポケットに入れながら、「続けてください」と返事をしていた。言置きや言い残しを引き出すためではない。私情の延長線だ。「殺意はあった。それで?」
「言いにくいことなのに……」挽歌が苦々しく、口を曲げた。それから、独り言なのか、七海への言葉なのか分からない声で、「七海が死んだら」と言った。「僕はなんて思うのかなって、ずっと考えてたよ」
「そうですか。私に向けた術式を止めた理由は?」
七海は、すっと視界が晴れる感覚を思い出しながら、問いかけた。あの瞬間、間違いなく挽歌は術式を止めた。
「殺せば良かったでしょう」
「実は最後に一回だけ、試してみた。
挽歌の口調は、後悔したり、誤魔化したりするようなものではなく、どちらかと言えば、喜色が篭ったものに感じられた。
「は?」
「何故か分からないけど」挽歌ははっきりとした声で、言った。「キミに死んで欲しくないって、思っちゃった」
言葉を切ると、挽歌はにっと頬を押し上げて、笑った。風が抜ける。いつの間にか朝日が滑り込むように、上り始めていた。
今回の任務に、疑問点は幾つかある。が、とにかく今は早急に仕事を終わらせたかった。
「そうですか」と七海は答えながら、挽歌の横を通り過ぎた。淀みを浄化させるかのように、陽の光が辺りを照らす。「任務は完了です、行きましょう」
「え、ああ、うん。ちょっと待って」
挽歌が慌てて足元に散らばった飴玉を集め出すものだから、七海は仕方がなく手伝うことにした。
「……この模様、意味があるんですよね? 呪霊に味覚はあるんですか」
「模様は多分、詰まってるエネルギー量の違いじゃないかって。他の食べ物を知らないから味覚は分かんないけど、少なくとも、この飴玉は味がない」
自分の種族を理解していない動物と会話をしている、としか七海には思えなかった。ここまで簡単に話されては、反応に困る。
挽歌が、拾い集めた飴玉をポケットに入れる。
「……あれ、何だこれ」
七海は硬直した挽歌を見る。ポケットからいつの間にか取り出していた、大きめの赤色の飴玉を眺めている。
「飴玉でしょう、何を言っているんです」
「知ってるよ。僕、赤色の飴玉は持ってなかった筈なんだけど」
「赤色は珍しいんですか?」と思わず、訊ねた。
挽歌は不思議そうに、顎を引いた。「うん。青色とか黄色とか、そっちのが多い」その口調には、歓喜や興奮は込められていなかった。
七海は、呪詛師を背負った挽歌を連れ、伊地知との集合場所へ向かった。
階段を下りたところで、「あ、待って、忘れ物した」と挽歌は声を張った。
今度は何だ、と七海は小声で言う。
「吹き飛ばされた時に落としたのかも」彼はそこで七海の様子を伺った。口にするのも烏滸がましかったか、と後悔したのかもしれない。「……ああ、でも、うん。無いなら無いで別に」
七海は、挽歌の顔をじっと眺めた。呪霊の忘れ物なんて怪しいもの、敢えて取りに戻らせると思いますか、と言ってやる。
彼は弁解するように、「そんな仰々しいものじゃなくて、これくらいの大きさの紙切れなんだ。いいよ、どうせもう意味の無い紙だから」と顔を少し歪めた。
「ならそんな顔しないでもらえますか」
「え?」
「自覚が無いなら良いです」
「僕は普通の顔してるよ、目も二つある」
言い返そうとしたが、思い止まった。面倒臭い、と思った。
歩き出して少しした頃、ふと七海はパンツのポケットを漁ってみた。そういえば、何か拾った覚えがある。
「…………何だこのB級ホラー映画」
「え」
名前だけで奇天烈具合が伺える、ホラー映画のタイトルが書かれている。七海は困惑した。なかなか次の言葉が出てこない。
挽歌が慌てて覗き込んでくる。「それ!」と彼が言った。言われずとも返すつもりだった。いらない。
忘れ物とは、文字が掠れた映画のチケットのようだった。どこで手に入れたのか知らないが、挽歌の顔は安堵していて、不思議に思う。
そんなにその映画が見たいのか。いや、恐らく大切なのはチケットの方だな。
両手で紙の端を持つと、数秒何かを思い出すようにしてから、ポケットの中に入れた。それにしても糸が解れた服だな。七海は呪霊の服事情に、密かな興味を持った。
今度こそ待ち合わせ場所へ向かう。
「ねえ、僕にできること、頑張れたんじゃないかな」この廃村に来た時に比べ挽歌は、背負っていた荷物を下ろしたかのような、清々とした声音になり、「
「何ですかそれは……もう御免ですよ、事前告知よりも凶悪な呪霊と戦うのは」
脳裏に浮かぶのは、なんてことない二級呪霊の討伐任務で、帰らぬ人となった同期の姿だった。あの日も、途中で一級案件になるほどの呪霊が顕れた。
己の不甲斐なさに腹が立つなどということは、自分の人生において有り得ない。が、しかし。
一回目よりも二回目か、と思う。そうか、二回目か。
ふっと息を溢す。「…………馬鹿馬鹿しい」
何が? と、思い出の彼とは似ても似つかない姿の呪霊が、七海の隣を歩いている。
*
結局僕はどうなるの、と訊ねたのは、廃村での呪霊討伐が終わり、伊地知の車を待ち、呪詛師を挟み込むように僕と七海が後部座席に乗り込み、山道を発進して数十分した頃だった。
七海は窓の先を眺めたまま、嘆息した。冷たい雰囲気で土埃の着いた白スーツを着ているので、裏稼業に所属する役員のようでもある。
凭れてくる呪詛師を肘で押しやり、体勢を戻すと、窓に反射した七海と視線が合った気がした。
こちらを見る七海は例によって、淡白で無愛想な様子だったが、人間らしさも備えている。
「どうかした?」と僕は意識するより先に訊ねていた。
「いえ、何でもありません」と彼は静かに返す。
どことなく揺らいでいるように見えるのは何故だろう、と思った。
僕も窓の外を眺めて、深夜の一連の事件を振り返る。
────あの指、夏油が置いたな。
袈裟姿の男が頭に浮かぶ。少年院や吉野宅に指があったのも、あの男の差し金だった。
両面宿儺の指は日本全国に散らばっていると聞いている。
てっきり、現存分は既に呪術師か呪霊に回収されているのかと思ったけれど、思ったより引っ込み思案な個体もあるようだった。
少年院にいた呪霊よりは強かったが、長期間隠れていた様子も見受けられない。きっと最近発生した個体だ。
こんな辺鄙な廃村に、どうして指を置いたのだろう。
不思議で仕方がなかった。夏油は僕や真人には保守的な行動をとる筈だったが、少々過信し過ぎていたのかもしれない。
記憶を辿り、思い出した。夏油は、「初対面だなんて、よく言うよ」「ずっと前から思っていたんだ」「人間と仲良くするのも、良いと思うよ」などと喋っていた。
僕のずっと昔の知り合いだと隠しもせずに、だ。
「何か、思い出した?」彼が頻繁に口にする言葉には、いつも嫌な予感が付き纏う。「うん」と答えれば面倒なことになる、そんな予感がした。
僕に記憶を取り戻して欲しいのか、それとも別の何かを求めているのか、詳しい部分は判然としない。
ポケットの中にいつの間にか増えていた赤い飴玉を、手中で転がす。「赤色の飴玉を見たら教えてよ」と言われていたっけ、絶対教えてやるものか。
それと気になることは、もう一つある。
「古い呪術師が作った呪具」とは、“反魂人形”に対する七海の見解だ。
呪骸を媒介にする、という前提条件は違うが、死者を蘇らせる人形だなんて、親近感を抱かざるを得ない。何かを食べて、吸収したエネルギーを蘇生に利用する。
その仕組み、ちょっと僕に似てない? なんて馬鹿な感想を抱いた。
ただ、その呪具は不完全だったのか、あるいは途中で開発を諦めたのか、失敗作だった。だから、中途半端に受け継がれていたのだ。
この二つが、偶然同じ場所で発見され、偶然僕と遭遇し、偶然この疑問に気付くキッカケになるなんて、出来すぎた話ではないか。
「────でも今は、まだ」
新たに胸に灯った暖かい蝋燭の火を自覚する。
この灯りが増える度、意味を持たなかった“これまで”が、なんだか素敵なものだったように感じられる。
大々的に誰かに自慢できるような特別さはまるで無いけれど、僕には今この瞬間が、貴重で特別な時間なのだ、と分かった。
この時間をもう少し体験したいな、と思う。ほらあれだよ、と内心で言葉にした。好きなように生きてみてもいいよね、真人。
Q.さり気に七海を殺せるか試す主人公、やっぱ頭真人?
A.根は呪霊ですので、それなりに殺意はあります。ただ「殺したくない」の理性が強めなので、進んで行動に出ることはないです。順平の時は「僕のせいじゃないや」だったので、七海の時はどうなるんだろう、と考えた次第です。金輪際、七海を殺そうとすることはないでしょう。
根本は呪霊なのに性格が人間寄り、という矛盾の理由も追々出す予定。
Q.結局、今術式どんな状態なの?
A.最初は食べた飴玉から残機を補完します。飴玉分を使い切ると、周りの人から無差別に生贄を選出するのが、従来の仕組みでした。
真人先生による手術(隠語)で、ある程度制御する必要ができたため、今は任意で身代わりを選ぶことができます。
Q.作中、七海は挽歌の祓い方に気付いた?
A.そろそろ気付いたと思います。
予め撒いておきたい部分がそろそろ終わるので、次々回あたりからストーリー加速させたい所存。
あと灰原が掲示板で「呪いの王」って言われてるの見て盛大に草生えました。せやな。
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いつも評価、感想、お気に入り、しおり、ここすき等本当にありがとうございます。
本当に嬉しいです。こんなにもたくさんの方に評価して頂けるとは思ってもみませんでした。今後もお楽しみいただければ幸いです!!