死にたくない呪霊は割とすぐ死ぬ   作:常時腹痛マン

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 呪胎戴天編です。長くなったので分けました。

 しおり、お気に入り、感想、評価など、本当にありがとうございます。あまりにも嬉しすぎてスクショしまくりました。

 少しでも楽しんで頂ければ幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。


雨のち呪霊 [1/2]

 ポケットを漁れば、飴玉は最後の一本だった。

 

 住宅街を出る。見上げると、今にも降り出しそうな雨雲が空を覆っていた。近頃はやけに雨が多い。街灯の多い通りを、ざわめく住人の間を縫うようにして、進む。

 

 黒いフードを被った夏油と鉢合わせたのは、入り組んだ路地を抜けたところでだった。

 

 来た道では、近くで毒物が撒かれたのだと、人々が口々に述べていた。この場で話していたって何の進展も無いし、早く避難誘導に従えばいいものを、どうやら人々は、今すぐ話がしたくて堪らないらしい。

 

 

 誰かが施設に毒物を撒いた。

 撒いた犯人が逃走している。

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 誰が最初に嘯き始めたか興味は無いが、既に人々の興奮は頂点に達していた。不安の共有をしたくなる気持ちがコップの縁から溢れるように、辺りを飛び交う。

 

 

 飴玉を咥えた僕の姿に気付いた夏油は、小さく眉を上げた。

 

「言われた通り来たけど、なるほど」と言って僕は、まず彼の姿を一通り頭から爪先まで眺める。「()()()()は嘘じゃなさそうだ」

 

 夏油は怪訝そうにフードの中の顔を顰める。「何の話?」

 

「なんでもない」

「そう」夏油は興味無さげに一蹴して、続ける。「行こう、こっちだ」

 

 

 奥に進むにつれ、次第に避難が進んでいるのか、人の気配が少なくなっていた。夏油が、袈裟とは違った方向性の目立つ姿をしているのに、指を差されないのは、そのおかげだ。

 口内で、カランと飴玉を転がす。

 

 

 先日の夏油の提案とは、宿儺の実力検証に付き合わないか、というものだった。

 そして僕はそれを受諾した。理由は、真人たちの驚く顔が見たかったからで、至って普通の動機だと思う。

 

 陀艮の領域に帰ってから、手伝う旨だけを掻い摘んで伝えると、漏瑚は何か言いたげな表情をしていたが、真人が「いいよ、行ってきなよ」と快く送り出したため、僕も、見返してやろうと殊更意欲を燃やした。

 

 

 終始無言で歩き、夏油が足を止める。林に囲まれた先には塀がある。悪天だけでも重苦しいのに、鬱蒼と茂った木々のせいで、まるで悪意が口を開けているかのような雰囲気だ。

 

「此処は?」僕は飴玉の棒を引き抜いて、それで塀を指した。

「少年院だよ、まだ受刑者も居る」

 飴玉を口の中に戻してから僕は、へえ、とも、ふうん、ともつかない声を出す。

 

 呆れた様子の夏油が僕を一瞥して、「中に指を一本置いてきた」と告げる。

 直々に中に侵入したのだろうか、それとも、と勘ぐって、僕は夏油に向き直り、頭を下げた。

 

「お勤めご苦労様です」

 彼は無言で僕を見下ろす。直後、頭から押さえつけられるような重圧感を察知し、「冗談だって」と咄嗟に訂正を入れたことで、挽回を図った。

 

 すると夏油は、首を傾げてから、「意外だったな」と言う。「思ったよりも衝撃を受けないんだね」

 

「衝撃なら今受けたけど」

「違う。受刑者が居る中に、宿儺の指を放り込んだんだ」彼は塀の中を覗くようにして、手を額に当てる。思わず僕の意識は縫い傷に向かう。「今頃、呪霊から逃げ回ってる筈だけど」

 

 彼がちらりと僕を確認するが、一体何を求められているのか、皆目見当もつかないので、取り敢えず普遍的な言葉を口にする。「まあ、逃げられないだろうね」

 

「へえ」夏油は予想が外れた不服さを湛えて、「キミは、無駄な殺生を嫌う質かと思ってた」と呟いた。

 

「なんで?」

「何となく」夏油は肩を竦める。

 そうは言えど、きっと確信付ける根拠があったのだと思った。「ねえ、やっぱりさ、僕と会ったことある?」と訊ねる。

「どうして?」

「だって、何か変だろ」

 

 言語化できない違和感にやきもきする。

 手を使ってどうにか伝わらないものか、と試行錯誤していたところ、それまで表情を変えなかった夏油が、ふっと息を吹き出した。

 

 

 そこで、はっとする。今まで感じていた恐怖の片鱗が、少しだけ見えた気がした。

 

「気になる?」多分、目が笑っていないのだ。

 

 

「まあ」僕は口を濁し、「それなりに」と言葉にする。言い知れぬ忌避感があった。

 

 夏油はそれに対し、一見柔和に思える笑みを浮かべたが、呪霊としての本能が働いたのか、安心できる要素にはならなかった。

 

「教えてあげても良いよ」

 

 全て彼の思い通りなのかもしれない。そう考えてしまうくらい、夏油からは芝居がかった余裕さが伺えた。

 

「やっぱいいや」

「そう」残念、と夏油は言う。

 

 そう思うなら少しくらい表に感情を見せろ、と口走りかける。言ったところで良いことは無い。

 再び歩き出し、戸惑いなく塀の向こうへ入っていく。少年院の入所者たちは素早く避難誘導に従ったのか、人気は少ないように思えた。逆に、少ないだけであって、まだ取り残されている人がいることを同時に察した。直にきっと呪霊の餌になることも、自ずと予想できた。

 

 

 ぽつりと、何かが頬に付いた気がして空を見上げれば、丁度雨が降り始めたらしい。梅雨はまだ明けないのだろうか、と思考を逸らした。

 

 その時。

 ゾッと、肌が粟立つ。

 

 勿論雨粒に怖気付いたわけではない。この先に居る気配に嫌な予感がした。

 両面宿儺の指を一本取り込んだだけの呪霊なのに? 違う、その指が問題なのだ。

 知っている、両面宿儺の気配に覚えがある。どうしてだかは分からない。 

 僕は反射的に、朧気な記憶を過去へ遡り、濃霧を掻き分ける。

 

 

「そこに居ると、呪術師に見つかるよ」

 

 突然立ち止まった僕を見て、夏油が淡々と言う。意図せず思考を断絶された。

 こちらの様子を分かって言っているのだろう。抜け目がない。畏縮したと思われたくなくて、僕は重い足を引きずるようにして夏油の後に続いた。

 

 今になって漸く、夏油の口車に乗ったことに、後悔の念を抱く。

 

 

 

 

 

 

 自分でも驚くくらい、敷地内への侵入は簡単に成功した。

 

 あまりにも咎められないものだから、「何か術式でも使った?」と夏油に訊いたのだが、首を振られて否定された。避難誘導をした人間が優秀だったからだと言えば聞こえは良いが、きっと呪術師の対応が早かったからだと思う。

 

 裏を返せば、恐らく数時間もしない内に、この事案に派遣された呪術師が訪れることになる。

 

 僕はまず、建物の中に足を踏み入れた。中は、外見からは想像できないくらい、迷路じみた道が広がっている。

 まだ不安定ではあるが、簡易的な領域が構築されつつあった。

 

 

「呪術師、誰が来るかな」

 

 呪術師といえば、白スーツの術師、七海の姿が脳裏を過った。彼が来るのなら、と考えてふっと緊張の糸が緩む。

 

「流石にそこは察しが着いて貰わないと、困る」

 後ろに居る夏油はもったいつけて、「高専の生徒」とだけ言う。

「え? あー待って、えっと、分かった。虎杖悠仁だ」

「自信満々で言うことじゃないよ」

「何で?」

「宿儺の実力を試すのに、宿儺本人が来ないと無意味だろう」

 

 暗に、この程度分からなければ役立たずだと、烙印を押されている気がした。

 

 僕は振り返って、「まあ、分かっていたけどね」と誤魔化したが、すると彼は「じゃあ、()()()()()()()」と言った。背中を向けて、私は外で見てるから、と。

 

 目的との乖離に驚いて、えっ、という声が口から溢れ出る。

 

「夏油は来ないの?」

 間近で見た方が良いだろう。僕は訊ねた。

 

「え? ああ、そっか。私は事情があって、呪術師に見つかる訳にはいかないんだよ」

 

 肩を竦める仕草からは余裕さを感じさせるが、堅実そうなこの男のことだ、大事をとって安全策を選択したのだろう。

 

「顔が割れてるとか?」

「変なところの察しは良いな。まあ、そんなところ」

「結構大変なんだ」

「他人事だけど、挽歌も素性と顔は割れてるでしょ」

「あ、確かに」

 どの程度報告されたかは、知らないが。

 

 

 去り際に、夏油の視線が僕の口元に移った。僕は小さくなった飴玉を舐めながら、「欲しかった?」と訊ねる。

 

「欲しいって言ったら、くれるの?」何かを期待するような面持ちで、夏油が訊き返した。

 

「あげないけど」すかさず食い気味に答える。

「……うん、実に不毛だったね」

 じゃあね、と今度こそ敷地を離れていく姿を見て、顧みる。

 

 思えば最初から、彼は建物には足を踏み入れ無かったし、案内をするだけして、撤退もえらく早い。呪術師を警戒してのことだろうか、と考えて、いや実は()()実験体にされているのではないか、という発想が思い浮かんだ。振り払うように頭を振る。

 

 

「きっと違う、はず」

 

 

 僕は口に出し、そうでありますように、と自らに祈る。

 完全に体内に溶け込んだ飴玉の棒を、真ん中でへし折ってから、ポケットの中に入れた。毎度のことながら、不思議な充足感がある。

 

 それから暗闇を歩き始めた。

 決して友好的とは思えない呪霊の、それも嫌な予感のする相手の生得領域内だからか、気分が落ち着かない。かと言って、ここで帰ることもできないので、僕は自分を鼓舞することにした。

 

「がんばるぞ」成果を上げて真人たちを見返してやる。

 

 

 

 

 

 

 そう意気込んだものの、数分後には、物音一つで肩を揺らす自分に情けなくなる。どうやら、目的の呪霊とは別の呪霊も巣食っているらしく、数分前から視線を感じていた。

 

 僕は無害をアピールするために両手を持ち上げ、満足か? と視線を感じる方向に、目だけで合図を送る。温厚だったのか、はたまた縄張り争いをする気にならなかったのか、その呪霊がすっと引いていく。後腐れのない、清々しい引き方だ。

 

 階段を上る。

 踊り場は湾曲していて、見る人を不安にさせそうな色で、獲物を今か今かと待ち構えている。

 階段の先はまたカーブのかかった廊下があり、先は見えない。

 

 暫くして、廊下を駆ける音が反響し、僕の耳に飛び込んできた。

 そして、慌ただしい音と共に何かが、身体の横に転がり込む。唐突の出来事に僕は目をしばたたき、その何かを注視すれば、音の発生源は生きた人間たちだった。人数は三人。服装は同じに見える。険しい顔立ちで、髪は短い。

 

 三人は来た方向を苦し紛れに睨んでから、ばっと勢い良く顔を上げた。

 

 

「なっ、誰だ……人!? た、助けてくれ!」

 体格の良い、坊主頭の男が叫んだ。胸元を見ると、岡崎という名札が付いていた。

 

「ああ、なんだ、逃げ遅れの人たちか」と、思いかける。が、ただの人間が僕を視認することなど有り得ない。

 僕は咄嗟に男たちを確認し、続けて彼らが逃げて来た方向を見た。

 

 

 近寄ってくる気配があった。

 

 

「ば、化け物がいるんだよ!!」違う男が叫ぶと、同時に唾も飛び地面に落ちる。

 

 言われなくとも分かる!

 

 情けなく腰を抜かした男たちは、そんなことは露知らず、とにかく危機を伝えることに必死らしい。

 強い死の気配にあてられた人は、もれなく呪霊を視認できるようになる。だとすれば、彼らは最近恐ろしい体験をしたはずだ、と、そこまで考え着いて、僕は逃げの姿勢をとった。

 実力の検証をするにしても、自らが実験に組み込まれる気は毛頭ない。

 

 右足を一歩後ろに下げ、来た道を戻るべく身体を半身にする。視界の正面に男たちを捉えた。目を開き切って、地面にへたり込んだまま、手足は震えている。このまま置いていけば、夏油の予定通り、あの呪霊の糧になってくれるだろう。が。

 

 

 

 

「…………っ」

 

 ほんの気紛れだった。こうしてみたい、と一瞬思っただけ。

 

 

「立って、逃げるよ」と、口を衝いて出た自分の言葉に驚く。

 

 

 その一言を皮切りに、気配が曲がり角で止まった。

 辺りの気温が一気に下がり、無いはずの汗腺から冷や汗が湧き出る。

 

 間違いない、この領域の主だ。

 

 

「ひッ……」

「走って!!」叫んで、弾かれるように来た道に逃げる。

「な、何なンだよ、あれ!!」

 

 

 細かく指摘する余裕も義理も無い。男たちは叫びに叱咤されたのか、跳ね起きて、僕に続き走り出す。

 

 走り出してすぐ、そこが見覚えの無い道だと気付いた。道の構造が変わっている。しかし今は構っていられない。下手すれば僕まで被害を受ける。

 僕はとにかく遠くへ、と目に付いた道に飛び込んだ。どたどたと慌ただしい三人の足音も続く。

 

 件の呪霊は、じわじわと獲物を追い詰め、相手が逃げる様を愉むことが目的かのように、付かず離れずの距離で追いかけて来るのが、ただただ不気味だ。

 

 

 逃げて、

 走って、

 息が切れる。

 

「ああ、来なきゃよかったッッ!」

 そうして内心で夏油に毒づき、距離を取りながら辺りに目を凝らした。

 

 広い空間はどこだ。

 どうにか撒ける場所。

 

 

「っ、こっち!」

 

 

 枝分かれした道の、右側に方向を切り替える。呪力の流れから考えて、恐らくこの道の先が拓けている。男たちも乱れた呼吸音を出しながらだが、僕を追う。相変わらず不気味な追い方をしてくる相手を後目に、ひたすら前に走った。

 

 

 走り続けて、漸く、廊下の先に終わりが見えた。期待通り、広い空間に繋がっていたらしい。四角い部屋で異様に天井が高い。少年院というには些か禍々しい雰囲気があった。

 僕が最初に抜けて、数秒後に男たちも廊下から抜け出し、部屋に飛び込む。

 

 

「何処なんだよ、ここは!」岡崎という名札の男の、涙混じりの声が轟いた。

 

「知らないってば」そっちの方が詳しいだろ。

 

 

 そう言いつつも、僕は内心焦っていた。無計画に彼らを扇動したが、その先の予定は何も無かった。

 

 きっと心のどこかに、「どうにかなるだろ。大事に巻き込まれることにはならない筈だ」と高を括っているところがあったからだ。ただの思い付きに身を任せた数分前の自分の、襟首を持って突き詰めたい。

 何故こんなに後悔する羽目になったのか? 今となってはどちらかと言うと、彼らを見殺しにした方が効率は良かったかもしれない、とすら思えてくる。

 

 

 呪霊が追いついた。

 加速した動作で一瞬にして廊下を踏み抜けて、耳に障る笑い声を上げながら、ゆっくりと歩み、呆気なく追いつかれた。

 

 男たちの喉が引き攣った音を出す。

 

 対峙した呪霊の姿を改めて見ると、人型で、黒い模様のある白い肌の、隆々とした筋肉が逞しい。間違いなく僕より強いだろう。

 その体躯は、確かに宿儺の指を取り込んだ結果だ。嫌な気配の発生源もこの呪霊だと分かる。

 

 だが、それだけだ。こいつは違う。

 僕の知る両面宿儺は、こうじゃない。何故だか、そのことだけは不思議な確信があった。

 

 歯を剥き出しにした口は、常に愉しそうに歪んでいて、複数の目玉がぎょろぎょろと動き、そのまま僕たちの方向を捉える。

 

 

「くそッ、何なんだよお前!」

「あ、待って」思わず手を伸ばす。

 

 一人の男が、やけくそ気味に拳を振りかざし、呪霊に向かって走っていく。止める間もなく、男は僕の傍らを通り過ぎ、呪霊に突っ込んだ。

 

 そして()()()

 

 一瞬だ。

 一瞬にして、男は足も、腕も、胴体も関係なしに、肉を捏ねられて絶命した。血生臭い肉塊が地面を転がる。所々白い棒が突き出ている。骨だ、と分かった。

 言いようのない不快感が胸を巣食う。

 

 呪霊が手を下ろす。手を上げる瞬間も、どうやって男を丸めたのかも、僕には見えなかった。あまりにも呆気なさ過ぎるせいで、「あれも元は人間だったんだっけ」と死体を眺めてしまう。想像以上の強さに、思わず笑い出しそうだ。

 

 

「う、うわあああああぁぁぁぁあ!」

「あぁアアまさか、死んだのか!?」

 

 

 だから、残った二人の男が叫ぶのも無理はない。

 僕ですら、自分が生き残れる未来が見えなかった。

 

 じり、と後退りつつ、後目で二人を確認する。顔は青ざめて、魚のように口をパクパクと開閉させている。きっと未知の恐怖に慄いているのだ。連れ立ったが、助ける義理もないし、呪霊としての立場からすれば、犠牲になってもらった方が有益だ。

 だから僕は、生得領域の綻びから逃走を図ろうとする。

 

 が、駄目だ。

 まただ。また身体が言うことを聞かない。こんな人間たち、どうでも良い筈なのに。

 施設に入る前の、夏油の言葉がフラッシュバックする。「無駄な殺生を嫌う」というのは、あながち間違いでもないのかもしれないと、他人事のように感じられた。

 

 などと考えていると、呪霊の様子に変化が生じる。丸めた死体に興味を失ったのか一歩、また一歩と、こちらににじり寄ってくる。気紛れで僕を見た、という程度ではない。首を斜めにし、剥き出しの歯を更に剥く。これは明らかに、目的の邪魔になる存在を察知し、その正体を突き止めようとしての行動だ。

 

 

 そして、ぐっと体を反らす。次の瞬間、呪霊の口から光る何かが飛ばされた。

 肉眼で追えたのはそこまでだ。

 

 

「────いっ!?」

 

 

 激痛が脇腹を貫通する。一瞬呼吸ができなくなった。

 

 光弾は爆発し、僕の腹部を消し飛ばして、瞬く間に後方の石壁を撃ち砕いた。

 痛みと衝撃でバランスを崩し、膝を着く。あれは術式じゃない、純粋な呪力を飛ばしただけだ。だというのに、この威力。分かっていたことだが敵う筈がなかった。やっぱり夏油の口車に乗ったのは間違いだったのだ。

 

「ヒィッ!?」男の悲鳴で我に返る。注意を引くなと責める空気はない。今呪霊の攻撃の対象は僕だからだ。

 

 

 そうだ。

 あのまま立ち往生していても、打開策を見つけられたとは思えなかった。ならば寧ろ開き直れ、と自分を鼓舞する。

 あのままではこの呪霊に鏖にされ、時間の無駄になるだけなら、僕のみにターゲットを絞れた方が建設的だ。

 

 少しでも時間を稼げるのなら御の字。死にたくはない、だが何度かは耐えられる。

 

 

「と、りあえず先に逃げてッ」

 僕の声を合図に、男たちは機械的に立ち上がった。恐怖から自意識が薄れているのだと思う。走り去る気配を背中で確認する。

 

 目前の呪霊も動き出す。

 僕も震える膝を杖にして立ち上がる。

 

 

 道を閉ざすように立ち塞がった僕を見て、呪霊がくねくねとしながら歩みを止めた。

 足が竦む。息が荒くなる。落ち着け、大丈夫だ、と自分の内側を宥めるように唱える。呪霊が一歩を踏み出す。攻勢に出るタイミングを見極めて待つ。僕の仕事は宿儺の器が到達してからがスタートだから、彼らは関係ない。

 死ぬのは怖くて仕方がないが、きっとここからどうにかできると、逆境を期待する。

 

 

 瞬きをして、

 その一瞬で、目の前に呪霊が迫ったことを感覚で理解して、

 僅か数秒で明らかな絶望を悟った。

 

 

 

 




 キリは悪いですが、忘れていたので主人公諸々の設定(?)ちょっと書いておきますね。そのうち纏めようかと思います。


〇僕/挽歌くんちゃん
・人間が()を畏れる感情から生まれた。
・他人の寿命を生贄に自分を特殊召喚!!!する術式? その内出します。
・とにかく死にたくない、けど弱いのですぐ死ぬ。
・よく飴玉を食べている。

〇白い男/七海
・面倒な呪霊に絡まれた人。
・主人公からのポイントを稼ぎまくっている。
・拙作の都合上、原作より若干呪霊に寛容気味になっているかも。

〇呪霊一派
・主人公を引き入れたのが真人。
・「なんだこいつ」って不満なのが漏瑚。
・「まぁ別に……」って立ち位置が花御と陀艮。
・もし主人公と戦ったら負けることは絶対ないが、主人公が(今のところ)残機ほぼ無限なのでクソゲー。

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