非きこもり、JDを拾う。そして、育てられる。 作:なごみムナカタ
また四ヶ月かかってしまい、申し訳ございません。
でも、ようやく誕生日編完結!
これは比企谷八幡が大学二年生の物語。
八幡と沙希は同居することになり、様々な出来事が起こっていく。
「さあさあ、早く次を投げちゃってくださいー」
そう急き立てる一色は、俺を全く応援する気がないどころか、失敗を待ち詫びる空気纏いし小悪魔。そりゃそうだよな。俺がオープンフレームを出せば質問権が得られるのだから。
賭けのせいで変な期待を込めて送り出され、妙なプレッシャーを受けた投球はまたも一番ピンを外すミスショット。
「あらあらー? また三本でしたねー」
なんかこいつ嬉しそうだな。
――いかんいかん、集中せねば。
一投目よりさらにプレッシャーをかけられた俺は、やはりスペアを取れずに一色を喜ばせるデート巧者っぷりを発揮してしまった。
「ふっふーん、じゃあ、次わたしが投げるので震えて待っててください」
第一投で七点を叩き出し、まずまずといった表情でこちらに戻ってくる。ボールが返ってくるのを待ちながら何気なく話しかけてきた。
「それにしても、よく幹事MAXの法則なんて知ってましたね。先輩、合コン行ったことないですよね?」
「⁉」
こいつ……なんて質問ぶつけてきやがるんだ……。一瞬、嘘が頭を擡げたが、さっきの律儀さを見てしまっては、それがどれだけ卑劣な行為であるか言うまでもない。
苦々しい顔で川崎と小町以外トップシークレットな合コン情報を漏洩する。
「……ノー、だ……」
「へ?」
「ん? なにその反応。……あ」
……これはやっちまったかもしれん。
「あ、えーと……別にこれ罰ゲームの質問じゃなかったんですけど……、ノーってそういう……」
やっぱりかよっ! これじゃただの自爆じゃねえか。
「へぇ……先輩が合コンに、ねぇ……」
「……あの、聞かなかったことには……?」
「もう聞いちゃったんで無理でーす♪」
ですよねー。一色は新しい玩具を与えられた子供のように、目を爛々と輝かせて否定した。
なぜ俺はこの罰ゲームを受けてしまったのか。だいたい、訊かれて困るのは明らかに急所の多いこちらの方だ。この先、そこを穿られる予感しかしない。
「二投目、投げちゃいますねー」
もう好きにしてくれ。どうせ一色がスペア取れなくても別に訊くことないから。
しかし、彼女はしっかりとスペアを取っていた。
「やったー! 見てましたか、先輩!」
「あー、見てた見てた。すごいねーほんとすごい」
ボールと一緒に感情まで投げ捨てたのを体現する虚無の表情。一色もちょっと引いている。
「盛り下がり過ぎですよ?」
「盛り上がる要素どこにあんの……」
人間並みの知性を持つ家畜が、これから屠畜場に運ばれますと聞かされて盛り上がれるか? そのくらい約束された不幸が待ち受けているんだよ。質問に手心を加えてくれるなら盛り上げることもやぶさかではないが、そこは希代の小悪魔一色いろは。男を困らせるのが三度の飯より好きときた(偏見)。全く期待できない。
なので、ささやかな抵抗としてわずかでも盛り上げるわけにはいかんのだ。
そんなふうに一色の言葉を全力否定していると、俺は大事なことを思い出したので念押ししておく。
「それと、これからは事前に質問すると申告してくれ。ただの会話なのか罰ゲームなのかわからん」
「なんでそこ気づいちゃうんですか。もう一回くらいうっかりしてくださいよー」
危なかった。こいつ、二匹目のドジョウ狙いだったのかよ。俺の偏見は正しいと確認できた。
「じゃあ、罰ゲームの質問いいですか?」
「許す。申してみよ」
嫌すぎてなぜか俺の中の
「なんですかその口調……王様ゲームでもしたいんですか?」
「ノー‼」
「は? いえ、今のは普通の会話ですよ。なに会話に
ち、全力でノーと答えたが却下されたよ。お前こそうっかりにはうっかりで返せよ。返報性って言葉、知ってる?
いや、一色に一番似つかわしくない原理だな。期待した俺が悪かった。
「まぁ、さっきうっかりで面白いこと聞かせてもらったんで、次は可哀想だから優しいのにしてあげますよ」
前言撤回。お前にも返報性ってものがあったんだなと、心の中で一色の評価を上方修正する。
だが、次に彼女が口にしたのは、上げて落とすのお手本のような質問であった。
「では質問です。今度、合コンに連れて行ってくれませんか?」
……いい笑顔でなに言ってんだこいつ。
質問の体をなさず、ただの要求と化した一色の発言に呆れて、矢継ぎ早にお断りを告げる。
「ノー。いやだ。断る。却下」
「拒否が過剰なんですけど……。先輩、罰ゲームって知ってます?」
その言葉、そっくりそのままお返ししたい。
「ちゃんとイエスかノーで答えただろ。あとそれ質問じゃなく要求な。罰ゲームには該当しないと思うぞ?」
前提違いを指摘すると「ぐぬぬ」と呻き悔しがる一色。
しかし、元々本気でなかったのか割りとあっさり引き下がって冗談めいた企てを暴露する。
「せっかく『合コンに参加したら高校時代の後輩とばったり出逢ってしまったごっこ』ができると思ったんですけどねー☆」
なにそのラノベのタイトルみたいなシチュエーション。って、この前まさにそれやったわ。その人、高校時代の同級生で川崎っていうんですけどね。
「どうせ女の子をお持ち帰ったりしたことないでしょうし、わたしを合コンに連れて行ってくれたらワンチャンお持ち帰れるかもしれませんよ♪」
一色は蠱惑的な表情で挑発するような発言をしてきた。だが、舐めるな。しっかりその同級生をお持ち帰りしてやったわ。帰る家が同じだっただけなんですけどね。
体験済みとは口が裂けても言えず、適当に返事をするのであった。
かこーん
何度目かの投球で再びオープンフレームを出した俺は、これから起こるであろう一色の発言に注視する。
「質問でーす、最近ハマってることとかないんですかー?」
俺の警戒を嘲笑うかのように、合コンの質問以降は罰ゲームでなくとも答えられる当たり障りのないものばかりだった。
「別に……ないな」
「興味があるものでもいいですよー」
「……ないなぁ」
「……」
「わかった、わかったよ」
一応罰ゲームなのでちゃんと答えろということだろうが、実際ないんだからしょうがねえだろ。ない(ノー)って答えてんのにジャッジ厳しくないですかね。とはいえ、わかったと言った手前なにか探さないと。
なにがあったかなと必死に記憶を辿ると、つい最近の出来事が奔流となって溢れ出す。
川崎に料理と片付けの特訓させられて、その成果を帰省して発揮する。
紹介されたバーで川崎と一緒にバイトを……あ、これなんかどうだ?
「……カクテル用のシェイカーなんかちょっといいなと思ってる。バーで使うようなやつ」
なぜその答えに至ったのかは言うまでもないだろう。バイト中にカクテルを作る川崎が原因だ。指の先まで意識してシェイカーを振る所作が、細身のスラリとしたスタイルと相俟って彼女の美を殊更に演出していた。その姿に、俺は魅了されてしまったのかもしれない。
「へー……似合いませんね」
「ほっとけ」
デートスポットにビリヤードを提示した時と同じ反応をされてしまった。自覚はしてるが別にいいだろ。自分で使うつもりじゃないんだから。俺はこれを川崎に使ってもらいたいんだよ。まぁ、家(下宿)に常備してるのはマッ缶くらいで酒なんてないが、ノンアルカクテルでもいい。川崎がシェイカーで作っているのを見るのが目的だからな。
一色にはそんな思惑など知る由もないのでその所感は正しい。正しいはずなのに妙な呟きが耳に届く。
「……でも、ちょっとありかも……」
俺は聞かなかったことにして次の投球に備えた。
ゲームが進むにつれ、ある種の違和感を覚えるようになる。序盤に固くなってミスを連発した俺の方が、なぜかスコアをリードする展開になっていたからだ。一色はこの勝負に自信があったんじゃないのか? 前回の卓球で見せた手練手管のように是が非でも勝とうという執念が感じられない。
しかも、今回は明確に賭けたのだ。負けたら今度こそ奢らなきゃならないはずなのに。まぁ、なんなら有耶無耶にされても構わんし、むしろ様子見しながら接待プレイで負けようと画策していた俺にとってはその方がいいまである。
「またスペア逃しちゃいましたー。久々にやると難しいですね」
俺が徐々に調子を取り戻していくのと反比例し、一色のスコアは悪化していった。
この科白も悔しさなどまるで感じさせぬもので、勝つ意識が見られないことへの違和感が気になってしかたがない。
これはもしや……。
ある結論が導き出され、それは問いたいことのなくなった罰ゲームに新たな問いを生み出した。
「では質問をどうぞ」
これが罰ゲームとの認識がまるでない笑顔で質問を促す一色。その表情が一変するであろう言葉を口にしようとする。
「……お前、もしかして……」
『わざと負けようとしてないか?』と、そこまで出かかった言葉を飲み込む。口に出してからでは遅いのだ。答えることに躊躇するものであるのなら、答えようが答えられまいが訊いた時点で結果となってしまう。最初に経験済みなので、同じ轍を踏まないよう慎重に言葉を選び直す。
「あっ、と……その……」
どう言えばいいのか。踏み込み過ぎず且つ有用な情報が得られる質問とは思いのほか難しい。少し逡巡した後、こう続ける。
「……このままだと俺に奢ることになるが、いいのか?」
一色からすれば傲慢に聞こえるかもしれない懸念もあり、お伺いを立てるように語りかけた。すると、彼女は笑顔のままに罰ゲームを完遂する。
「もう勝った気でいるんですか? もちろん奢ってあげますよ、わたしに勝てたらですけど!」
奢る認識には相違ないようだが、卓球と違って小芝居でどうにかなるものでもないのにその自信はどこから来てんだよ。自信だけは雪ノ下並みだな。
「……もしかして、こっそり操作パネルで点数修正しようとか考えてないよな? さすがにそこまですると引くぞ」
「はぁ? わたしが数字をいじるような不正すると思ってるんですか?」
「前科があるからなぁ。卓球の時、『時そば』でポイント誤魔化したのはどこの誰でしたかね」
「うぐっ、……そ、それは誤魔化そうとしただけであって、実際には何事もなかったからいいじゃないですかー」
誤魔化そうとした事実が問題なのであって、成功しなかっただけで完全に不正なんだよなぁ。
それにしても、本当になにか逆転の秘策でもあるのだろうか。機械には効かないその演技力を活かす方法とは……。
「まさか、既に店員を懐柔してあってスコアを改竄させるつもりなのか?」
「……マジで先輩、わたしのことなんだと思ってるんですかね」
心外だと言わんばかりに軽蔑の眼差しを向けてくる一色。とりあえず、黙って見てろということか。お手並み拝見である。
かなりの手加減をして、最終フレームに一色がスペア以上をとれば逆転できる点差まで操作した。
あとは一色次第だ。逆転の策を見せてみろ。
一色は目を瞑り、すぅっと息を吸ってアドレスに入る立ち居振る舞い。もしや此奴、今まで手加減していたのでは? 実はマイボールとマイシューズを持っていますという雰囲気が匂い立つ。
「たぁ」
最終フレーム第一投目。一色の投じたボールはレーンを叩く音とともに――――右側の溝へと吸い込まれていった。
つまり、ガーターである。
「……は?」
「ぐぬぬ……」
悔しそうに歯噛みする一色を見て、俺は驚きの声を漏らす。あの醸し出した出来るオーラはなんだったのか。とはいえ、二投目に全部倒せばまだ逆転は可能。これが演出のためのガーターだとしたら、とんだ千両役者だ。こいつならその可能性がないとも言い切れない。
いずれにせよ、勝負の決まる一投を俺は見届けるだけだ。
運命の二投目が転がる行方を目で追う。レーン半ばで一番ピンに向かっていないミスショットだとわかった。
「あちゃー」
案の定、三本という結果で終わり、賭けは俺の勝ちとなる。
一色は渋面を作って不満を顕にした。
「……仕方ないのでご飯はわたしがご馳走してあげます。感謝で咽び泣いてくださいね」
負けてもなお減らない口が一色らしく思える反面、その渋面はどこか芝居じみているように感じる。一度は思い留まった問いが再び頭を擡げたが、その衝動をぐっと抑えた。
「じゃあ、先輩がお好きなお店を選んでいいですよ」
「なりたけかサイゼだな」
「やりなおし」
やはり、好きな店を選んでいいという女子の言葉は偽りであることが証明された。だが、その事実と裏腹に、川崎はそんなことないだろうと考えている自分もいた。
ただ、こちらも食べたいというだけで選んだわけではないため、そこについては反論しておきたい。
「一色の懐を深慮した心優しい提案だと思うんですけどね……」
「その優しさと同時にスマートさも兼ね備えて初めて合格です」
ジャッジが厳しすぎるだろ。それを満たせる答えなんぞ俺が持ち合わせてるはずもなく、途方に暮れてしまう。
いくら考えても絞り出せぬ難問に頭を悩ませていると、ポケットからの短い鳴動で我に返る。見ると小町からのLINEであった。
【もうお昼食べちゃった?】
[ちょっと色々あってこれから食うところだが、どうした?]
【ならちょうど良かったかも。そろそろ帰って来ていいよ。着く頃には多分、きっと、おそらくは準備出来てると思うから(冷や汗だらだらの猫のスタンプ)】
やけに副詞が連続しており、それが俺を不安にさせた。だが、帰宅許可が下りたということは、この
「小町からの指令がきた。暇潰しは終わりだな」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってください! せっかくこれからご馳走してあげようってとこだったのに帰るんですか⁈」
デートの終了だけでなく、奢りも有耶無耶にできる僥倖をだというのに、一色はなぜか俺を引き留め始めた。なにか裏というか裏しかなさそうなムーブに違和感を覚える。
「ここはむしろ喜ぶところだろ。賭けも無効になったわけだし」
「無効⁉ で、でも、負けたからにはきちんと奢ってこそ勝負ってものじゃないですか!」
賭けをなしにすると明言したにも関わらず、不満げな表情で固辞する。それを見て、益々疑惑が深まった。なんとしても奢らせようとするならまだしも、無理に奢ろうとするなどなにかを企んでいるとしか思えない。しかも、相手は一色。これはもう推定有罪である。
「どっちにしろ小町が用意してくれてるから、いま昼飯奢ってもらうわけにはいかんぞ」
「ぐ、ぐぬぬ……やはりお米は邪魔者だったか……」
こちらはこちらで不穏な呟きを洩らしているが、聞かなかったことにして足早に帰ろうとした。
「え、本当に帰っちゃうんですかマジですか?」
それを見た一色は驚愕し、すがるような眼差しを俺に向けてくる。
「約束を守ろうとする姿勢には感心するが、どうしてもというなら別に後日でもいいんじゃないか?」
日を改めれば、さらに有耶無耶にしやすかろうと提案してみるも、予想外の反応を見せた。
「それじゃダメなんですー!」
俺は思ったより強い否定に気圧され、一色は自身の声の大きさに驚いてしまう。
なぜこうも頑なに拒むのか興味もあったが、それを探る時間もない。なんせ家で待つ小町から帰ってこいとのお達しだ。
しかも、俺の誕生日を祝うためときてる。この至上命令を遂行できずして何がお兄ちゃんか。この約束を違えたら、俺はゴミいちゃんの称号を賜ることになってしまう。
……既に賜っているとか断じてないから。って誰に弁明してんだ俺。
「……諦めろ。小町の手料理と張り合おうなど畏れ多い。お前の完敗だ」
「はぁ……シスコンめ」
「シスコンじゃねぇよ……」
とはいえ、帰省してから過ごした数日を鑑みると全く説得力がない。あんな兄離れのできない妹がいたらシスコン待ったなしに決まってるだろ、小町の可愛さなめんな。
頬を膨らませて不機嫌を訴える一色。だが、俺に引く気がないことを理解すると、嘆息しながら渋々それに従う。
「……じゃあ、ちょっと買い物してくるので先輩はここで待っていてください」
この提案に違和感を覚えた。別れた後に好きなだけ買い物すればいいのに、わざわざ俺を待たせるなど嫌がらせ以外の何ものでもない。
だが、すぐにこの行動が嫌がらせではなかったのだと後に知ることとなる。
程なくして、店から出て来た一色は大きな紙袋を手にしていた。お菓子を差し入れするというレベルでない荷物の大きさに、俺は自然とお兄ちゃんスキルが発動する。
荷物を受け取ろうとしたが、予想外にも全力で拒絶された。
「ああ、これは持ってもらわなくて大丈夫です」
差し出した手が行き場を失って彷徨う様は、酷く気恥ずかしい。
「そうか。じゃあな」
荷物を持つといっても別れるまでなのだが、逆に言えば荷物がなければこのまま別れられるということ。早急に帰宅せねばならぬ俺にとっては都合が良い。
帰路に着こうと電車に乗るも、ふと腹が減っていることを自覚した。
「そういえば、小町に合わせて朝飯早かったからな……」
「そりゃあ、合わせるのは当然ですよ。お米ちゃんがご飯作ってくれてるんでしょ?」
「いや、帰省してからはだいたい俺が作ってるな」
「は? どうしちゃったんですかほんとにあの先輩なんですか大学って先輩を真人間にするほどの更生施設なんですねこれはお米ちゃんもぜひ合格してほしいですね」
「その言葉の含みには同意しかねるが、絶対合格してほしいもんだ」
俺ばかりか小町のこともディスる後輩をいなしながら、降車駅に到着する。電車を降りると、ちょこちょこと後を付いてくる一色がいた。
一色が俺に倣って電車を降りるのを見て、あれ? と思う。かつて、ディスティニーランドの帰りに付き添った記憶が確かなら、ここは一色の家の最寄り駅ではないはずだ。
乗り換えか、俺を見送るためにわざわざ電車を降りる殊勝な行動の可能性もあったので、触れずに改札を出ると、なんと一色まで改札を出てしまっているではないか。
「……もしもし、一色さんや。君、ここで降りちゃっていいんだっけ?」
「いいんです。お構いなく」
そうか。この近くに友達でも住んでいて、さっき買った物を手土産に遊びに行くんだな。きっとそうだろう。
極力、現実的な推論で一色の返事を解釈したが、いつまで経っても二人の歩む道が違えることがない。
「……この辺に友達とか住んでるの?」
「はい」
近所の住宅街に到着しても、まだ後ろを付いてくる一色に不審を抱き、問い質す。なんの逡巡もなく笑顔で返事をしていることから、嘘ではないようだ。
しかし、そのにこやかな微笑みが却って俺の警戒心を引き上げる。そんなに都合よく友達の家に向かう道程が、俺の帰路と重なるだろうか。
考えている間にも、俺の歩は着実に家へと向かっている。俺と距離を一定にしている一色も同様だ。
「あー、その友達の家にはあとどのくらいで着くんだ?」
「さぁ、どうなんでしょう?」
すっとぼけた態度に益々疑念が湧き上がる。本当にその友達は実在するのか。イマジナリーな存在ではなかろうか。
「あ、いえ、ふざけてるわけじゃなく、本当にわからないんですよね」
「ちょっと何言ってるか俺もわからん」
一色の言葉をそのまま訳すと、場所のわからん目的地にいま向かっている、ということでいいのか? いや、ほんと訳わからん。
「その友達ってのは大学の友達なのか?」
その線は薄そうだが、一応訊いてみる。案の定、否定する答えが返ってきた。
「違いますよ。年下ですから」
「ほぉー。年下苦手とか言ってなかったか?」
「苦手ですよ」
苦手な年下と友達になるとは、よっぽど気が合ったのか。いや、こいつの場合、利害関係で友達をやっている可能性もある。
「でも、学校の業務で色々と絡みがあったので、しょうがないじゃないですか」
やっぱり利害だった。そんな相手の家へ、一体何しに行くのだろう。ろくでもない理由だとしたら、止めた方がいいのではという良識的な考えから、自然と言葉を紡いでいた。
「……そんな相手の家に、わざわざどんな用があるのよ?」
「その娘というより、正確にはその娘のお兄さんに用事があるといいますか」
そこまで聞いて、俺は猛烈に嫌な予感がした。いや、電車を降りた段階から、薄々勘づいていたのかもしれない。
比企谷家に到着した俺が門に手をかけたところで、一色は思い付いたように口を開く。
「着いたみたいです」
「……なんで他人事みたいな口調で、しかも憶測なの」
「だってぇ、来るのが初めてですから、本当にここが友達のお兄さんの家か確証がないので。それで、ここが先輩のおうちですか?」
「……そうだと言ったら?」
訝しみながら肯定をすると、決定的な一言が告げられる。
「それじゃ、やっぱり着いたみたいです」
一色いろはは悪びれもせず、こう続けた。
「友達のお兄さんが、今日お誕生日なのでお祝いに来ました。おめでとうございます先輩」
からかうように嘯いてきた彼女の言が、祝辞へと昇華した瞬間である。
家に上がると、キッチンは戦場跡のようになっていた。恐らくというか、確実に主犯は由比ヶ浜結衣その人である。
「あ、ヒッキーお帰り! いろはちゃんも一緒だったんだね」
「お兄ちゃん、お帰りー! あ、いろは先輩もいまさら来てたんですね、ちょうどいいから手伝ってください」
「相変わらず先輩に対する敬意ってものが欠落してる後輩ですね。先輩もそう思いませんか?」
「一番同意を求めちゃいけない相手に振るなよ。お前の方が先輩に対する敬意を感じられないわ」
かつてこれほどまでの“おまいう”案件があっただろうか。因果応報という言葉が今の一色に相応しい。
それにしても、一色を連れてきたことに対する二人の反応が薄い。まるで初めから来るのがわかっていたような……って、まさか!?
疑惑の籠もった眼差しで一色を睨めつけると、視線の意味を理解したのか、勝ち誇った笑みを見せた。
「わたしだけ除け者にしようとしたって、そうはいかないんですから」
「いや、そこはほら、わざわざ祝わせるのは申し訳ないという気遣いというか、慎ましさというか……」
へどもどと言い訳していると、一色は真面目な顔になって反論する。
「わたしはともかく、お祝いしたいと思ってる人もいるんです。そういう人にとって、知らないうちに誕生日が過ぎてたら、結構ショックなものですよ?」
その言葉で真っ先に思い浮かんだのは、今年に入って小町の顔よりよく見た同居人の顔であった。
「……まぁ、心配しなくても、ちゃんと伝わってますけどね」
補足された情報にどきりとさせられるも、すぐに件の人物を指した言葉でないのだと気づく。
「……にゃー」
「ほら、そこに……って、雪乃先輩……?」
想定した彼女は、カマクラに向かって猫の鳴き真似をするという奇行を演じていた。それを見て一色は我が目を疑う。
「ちょ、ちょっと雪乃先輩、せっかく良いことしゃべってたのに、なに台無しにする醜態さらしてんですか!」
「あー……、結衣さんが、お兄ちゃんの誕生日プレゼントを手料理にしたいっていうから手伝ってたんだけど、雪乃さん今日ずっとこんなで感じで役に立たなくて……」
「うわっ、お米ちゃん容赦ねー」
由比ヶ浜の面倒を見るべき雪ノ下が猫の誘惑に勝てず、そのしわ寄せが小町にきたようだ。俺に帰るのを遅らせたのも、これが原因みたいだな。受験生になにをやらせてんだ、こいつらは。
「いろは先輩こそ、あれだけヘルプメッセージ送ったのに既読無視するとか、先輩として終わってるんで口挟まないでくださいー」
「なんですとー!」
「一色も、誕パのこと事前に知ってたのか」
「知ってたも何も、最初からいろは先輩も誕パに呼んだんだよ。でも、いくら待っても来ないと思ったら、お兄ちゃんと帰ってきちゃうんだもん。せっかくタダで使える労働力に誕パの準備を手伝わせ……手伝ってもらおうとしたのに」
「おいお米、言い直すとこ間違ってるし、隠れてないから! 本音ダダ洩れだから!」
どこかで聞いたことあるフレーズだと思ったら、俺が川崎に言ったやつだった。発想が似かより過ぎだろ。さすが血を分けた俺妹。
だが、言い直すのはむしろ一色寄りで、
「ご、ごめんね小町ちゃん、あたしが無理言っちゃったせいで手間取らせちゃって……」
「いえいえー、お兄ちゃんの誕生日プレゼントに手料理を振舞いたいとか、男にとっての理想形ムーブじゃないですか! 最近はお兄ちゃんが小町にご飯作ってくれる女子にとっての理想的ムーブしてくれてますけど」
「ええー⁉ あのヒッキーが⁈」
「まぁ、そういうわけで正妻ポジションは今のところ小町のものですよ!」
「なんでお米ちゃんが張り合ってるの……」
ドヤ顔で比企谷家の内情を話す小町と、呆れ顔でそれにツッコむ一色。当事者の俺は乾いた笑いしか出ない。
下宿では川崎に手料理をご馳走され、俺も教わりながら川崎に手料理を振舞っているので、その理屈からすれば俺も正妻候補に挙がりますね! って、なんで俺も張り合ってんだよ。
益体のないやり取りを続けていたら、つい高校時代を懐かしんでいた。
小町の暴露により、家まで着いてきた一色の目的は、やはり俺の誕生日を祝うためだとわかった。今日、偶然俺と出逢ったのもサプライズの演出か。
由比ヶ浜の誕プレである手料理の配膳をしながら今日の一色の行動を振り返っていた。
「しかし、演出のためにナンパ男まで仕込むとか、その企画力を別のことに使えよ」
「は? 仕込みなわけないじゃないですか。天然モノのナンパ男ですよ」
ナンパ男を水産物扱いするんじゃねえよ、天然モノとかちょっと美味しそうに聞こえるだろ。
「なに? じゃあ、ほんとに偶然あそこで俺と遭遇したわけ?」
「遭遇って表現はむしろわたしが使う側かと。でも、そうですね。偶然です」
「……なにしてたの、あんなとこで」
曲がりなりにも、今日誕生日を祝おうとしていたのに、一人喫茶店でナンパされていたその状況を訊かずにはいられなかった。
「え、あー、……いい誕プレが思い浮かばなかったので考えてたと言いますか……だから、偶然先輩と遭遇してこれ幸いとお昼ご馳走しようとしたら、お米に邪魔されるしで全然思い通りいかなかったんですよ!」
ボウリング勝負があまりにも不自然で何かあると薄々感じていたが、そういうことだったか。
「まぁ、それでもちゃんと用意できたので結果オーライです」
「そうか。……わざわざ用意してもらってすまんな」
「先輩。そこは『すまんな』じゃなくて『ありがとう』が正しい使い方ですよ?」
「あー、その、…………ありがとな」
「っ! お、お礼を言うのはちゃんと受け取ってからにしてくださいごめんなさい」
なんでここで振り芸発動しちゃってんの? お前が言えっていったんだろ、手のひら返しすげぇな。
「お誕生日おめでとう」
「お誕生日おめでとー!」
「誕生日おめでとうございます!」
「誕生日おめでとー!」
四者から祝辞を受けて面映ゆくあったが、見慣れた顔がないことに幾ばくかの寂しさも感じていた。
「それじゃー、プレゼントふぉーゆー!」
小町からプレゼントが渡されると、それが口火となって由比ヶ浜が続く。
「お料理もだけど、これ、プレゼント」
「さんきゅな」
由比ヶ浜が申し訳なさげに包みを渡してきた。断ってから開けると、スマホのようでもあり、写真立てのようでもある。
「デジタルフォトフレームだよ。画像だけじゃなくって音楽も流せるから、一人暮らしで寂しい部屋が少しは明るくなるかと思って」
「おお、さすが空気読みのプロヶハマ。さっそく小町の写真撮って入れとくわ」
瞬間、周囲の視線が鋭く刺さり、すぐに小町が反応する。
「おバカ! そこは結衣さんに撮らせてくれっていうところでしょ! どーしてそう八幡するの、お兄ちゃんは!」
「……その『八幡』はどう訳せばいいのかわからん」
「むしろ、
「あはは……」
雪ノ下の皮肉を込めた答えに、由比ヶ浜は呆れた笑みを浮かべた。
「プレゼントよ。受け取りなさい」
雪ノ下は、俺に複数の包みを渡してきて内容の説明を始める。
「これ、カマクラさんに。肥満防止のドライフードよ。ふくよかで触り心地の良い今のカマクラさんも魅力だけど、歳をとって健康に悪影響があってはいけないもの」
「これはカマクラさんのおやつよ。肥満防止用のドライフードが合わなかったとしても、これでストレスを軽減できるわ」
「こっちはカマクラさんのおもちゃ。肥満を解消するには運動することが一番なのよ」
「お、おう、さんきゅな……」
……おかしいな、これって全部カマクラへのプレゼントだよな。今日は俺じゃなく、カマクラの誕生日? と疑問を抱くのは俺だけでないはずだ。その証拠に、他の三人も怪訝な表情で雪ノ下を見ていた。
無論、誰もそれを口にすることはなかったが。
そして、大トリに控えし一色いろは。彼女はラッピングされた大きめの箱を手渡してきた。帰る直前に買っていた物なのは明白で、そのために俺を待たせたのかと合点もいった。
「お誕生日おめでとうございまーす☆」
開けてみろと言外の訴えに従い、丁寧に包みを解いていく。ぞんざいに扱えば、何を言われるかわかったものではない。
「あら、持ち主と違って 素敵なカクテルシェイカーセットね」
「ほえー、ヒッキーってこんな趣味あったの?」
二人はプレゼントの意外性に驚いているようだが、俺にとっては思い当たる品物である。ドヤ顔で見返してくる一色のことなど意に介さず、俺の脳裏には
「いろは先輩、どういう魂胆で選んだんですか? まさか『一人暮らしで寂しいであろう先輩のために可愛い後輩が遊びに行ってあげますから、代わりにこれであま~いカクテルをわたしのために作ってくださいね』とか言ってお兄ちゃんを懐柔しようと考えてたとしたら、牛乳の代わりにマッ缶で作ったカルアミルクより考えが甘いです! この小町が
「いやいや、初めから懐柔する気ないっつーの。ってか、通妹ってなに? 芋の一種? それより受験勉強しなよ、おいもちゃん」
「うぐぅ……!」
一色からの正論すぎるツッコミが効いたのか、胸を押さえて呻く小町。兄としては小町の申し出は嬉しいが、ここは一色の意見を全面的に支持する。
第一、通妹されたら川崎のことがバレてしまうだろう。それだけは避けねばならない。
……それにしても『おいもちゃん』って『お
とにかく、どう小町の提案を拒もうか思案していると、思いがけないところから援護があった。
「……それはやめておいた方がいいと思うのだけれど」
雪ノ下が恐る恐る否定を口にする。
「小町さんがつかれてしまわないか心配だわ」
疲れてしまわないか? 確かに、いくら若いとはいえ、俺の下宿に通って料理を作り掃除をして、帰ったら親父たちと自分の料理をして受験勉強。そんなハードスケジュールじゃ疲れて当然だ。
「比企谷くんだってつかれていないとも限らないし」
うむ。確かに俺は疲れてないので身の回りのことを自らこなせば、小町の通妹を拒む理由になる。
「ヒッキーつかれてない?」
「疲れてはないな」
「つかれている人間がバカ正直に申告するものですか」
おかしい。いつもなら『愚問ね。疲れていなくとも疲労を理由にサボることばかり考えている人間なのよ』くらい言って疲労を全否定する雪ノ下が、俺の疲れていない宣言を頑なに拒絶している。
一体、雪ノ下に何があったのか。
「俺の申告虚偽扱いなのなんとかならんの? 今日って八幡バースデーだよね? いつからエイプリルフールになった?」
「……やはりつかれているのね」
いや、普段の行いと言われてしまえばそれまでだが、大学生になってからはそれなりに真っ当に生きてるんですけど。まぁ、身近にいる小町や川崎以外に解ってくれと言うのも酷な話ではある。
てっきり俺を甘やかすことに対する苦言で埋め尽くされるかと思われたこの会話が、予想外の方向へと向かっていく。
「正体を顕しなさい!」
突然雪ノ下がそう叫ぶと、視界が白んで猛烈な痛みが目を襲った。
「ぐわぁぁぁ!」
いてぇ! なんだコレ、しょっぺぇ! 塩か?
白んだ正体はどうやら塩のようだ。雪ノ下が投げた塩は俺の瞳に吸い込まれ、何も見えず涙だけが流れ落ちた……歌詞風に表現してみたが、要はただの目潰しである。
「……おい、なにしてんだよ?」
「やはり憑かれていたのね! 清めの塩で苦しむのが何よりの証拠よ!」
「目潰しされれば誰だって苦しむだろうが。人のことなんだと思ってんだ」
「そうやって誤魔化そうとしても無駄よ」
話が通じねぇ……。っていうか、今こいつ変なこと言ってなかったか? 『やはり憑かれていたのね』って……ん?
「……つかれてるって
「ほかに何があるというのかしら?」
「疲労という名の”つかれ”の方がよっぽど世間一般的だろうが」
どちらにしろ憑かれていないので俺の主張は変わらない。話は振り出しに戻っただけだが、齟齬がなくなった分、進展を願う。
「落ち着いてください雪乃先輩。事情を知らないわたしからしたら、突然奇行に走った雪乃先輩というふうにしか見えませんから。ほら、お芋ちゃんも困ってるじゃないですか」
「お芋じゃないです! 小町の名前はお米ですー! じゃなかった小町です!」
やはり『お妹ちゃん』じゃなく、『お芋ちゃん』だった。それに比べたら『お米ちゃん』がマシなあだ名に感じたのだろう。つい認めてしまうが、すぐに言い直す。
「お米もお芋もお塩振れば美味しくなるし、どっちでもいいじゃないですかー☆」
「うわ、相変わらずテキトーだこの人。それに、お塩すればだいたいなんでも美味しくなりますよ?」
「それって今の俺が美味しいと暗に言っている?」
今まで言い合っていた二人が示し合わせたように同じ顔になる。言葉で表現すると”何言ってんだこいつ”って表情。なんだよお前ら、実は仲良しか?
「ちゃんと説明しなければいけないようね」
雪ノ下が神妙な面持ちで語り始め、由比ヶ浜は怯えたような表情でそれを見守っていた。
「私たち、前に比企谷くんのお見舞いに行ったことがあって……」
由比ヶ浜が言葉を引き継いで続ける。
「なんかね、クローゼットで物音がしたから開けてみたの。そしたら、中に髪の長い女の幽霊がいたんだよ!」
なんとなく予感はしていたが、前に下宿に来たことが憑かれた発言の発端となったようだ。
あの時は二人とも気を失っていたし、なし崩しに誤魔化せたと思ったが、なかったことにはならなかったらしい。
一人だったら錯覚で通ったかもしれないが、二人だったことが災いして互いに確認をとってしまったのだろう。
「え、なんですかそれマジですか塩ってそういうことですか」
「お兄ちゃんそんなこと一言もいってなかったんだけど……」
年下組も追随し、混乱が広がる様相を呈してきた。
……まずい。このまま追及されると川崎の存在まで明るみになってしまう。そんな危機感を覚えた俺は、咄嗟にある作戦を思いつく。
しかし、まともな神経の持ち主なら実行することを憚られるトンデモ理論。この手は使いたくなかったが、背に腹は代えられないと、小町にすらドン引かれることを承知で捨て身の説諭を試みる。
「……それはイマジナリーメイドの小悪魔セラさんだ」
その言葉を口にした瞬間、周囲の困惑が見て取れた。
「……ちょっと何を言っているのかわからないのだけれど」
皆を代表して雪ノ下が発言した。その意見には他の三人ばかりか俺も全面的に賛同する。だって何言ってるのか俺もよくわからんし、これからもっと何言ってるかよくわからんことを口にしようとしているのだから。
「あれは俺の念能力で作り出した念獣小悪魔セラだ。彼女には主に部屋の掃除、洗濯、料理をしてもらっている」
痛いものを見る目が向けられる。いつもなら何とも思わない。なぜなら本気で思ったことを口にして何が悪いのか。
しかし、今は誤魔化すために思ってもいないことを語っている嘘。今ならわかる。ポップが記憶を失ったダイのために、仲間に嘘を吐いたあの気持ちが! ……違うか。違うな。扱いが美化され過ぎだ。
ブタの手札でダービーにコールをする承太郎の気持ちに近いか。いや、これもカッコよく例え過ぎだ。なぜなら、嘘の内容が果てしなく下らない。これからその下らなさを披露しよう。
「……あれが視えたということは、お前たちも念の使い手のようだな」
己の発言が凍えるような寒さを巻き起こす。厨二病丸出しなこの語りを真剣に演じるのは精神的にキツイ。
しかし、その効果は覿面のようで、俺の望む反応が返ってくる。
「……そうね。目の錯覚だったかもしれないわ」
「……うん。気のせいだったかもしんない」
川崎を目撃した二人は、およそ感情というものが欠落した表情で俺を見ていた。まるで過去に材木座をあしらっていた自分を見ているようで心が痛む。材木座よ、あの時はすまなかった。
「へぇ……よかったですね。そのイマジナリーメイドさんにわたしの贈ったシェイカーでカクテルでも作ってもらってくださいね」
「⁉ お、おう」
呆れ顔で話を合わせる一色。彼女にそのつもりはないのだろうが、寸分違わぬ正解発言に内心肝を冷やしてしまう。
「……あ、あはは……そっかー、お兄ちゃんゴレイヌさんに憧れて、ついに念獣を発現できるようになっちゃったんだー。イマジナリーメイドさんは白のメイドと黒のメイドのどっちなのかなー?」
「あ、まぁ、多分”黒”だと思うぞ」
ネタ元を知る小町が残念な兄に話を合わせてくれた介護感であったが、それよりもゴレイヌの念獣で例えたら
ちなみに、俺の『黒』という選択は秀逸だったと思う。川崎に知られたら俺のボディも無事では済まんがな。
それにしても、川崎の存在を誤魔化そうとすると、いつも俺の世間体が瀕死になるのってなんとかなりませんかね。
こうして、始まる前から波乱含みであった俺の誕パは、祝いの席とは思えないくらい冷ややかな空気の中で執り行われた。パーティー中は四人とも優しくはあったのだが、その優しさが残念な人間に対する同情的なものに感じてしまい、とても複雑な気分になる。
ちなみに、憑りつかれた疑惑の影響からか、この日から小町と一緒に寝ることはなくなった。
無事兄離れが進むも、それが少し寂しいお兄ちゃんなのである。
つづく
いかがでしたでしょうか。
沙希が出なくて挫けそうになりながらも、なんとか完成させました。ずっと一色ヒロインで進行してたのに、最後はなんかわけわからない結末になってしまった。沙希出なさ過ぎてわたくしもおかしくなっていたのかもしれない。
これでようやく誕生日編が終わって次の話にいける。やっと沙希出ますので期待していてください。
もう何人か俺ガイルキャラを出したいけど、書くのが苦手なキャラもあるのでなかなか……。
でも、次話は意外なキャラを出すつもりです。全作品通して初めて出すキャラなので、うまく展開できるよう祈っていてください。
それでは次もお楽しみに。