帝国最強のかませ犬になった僕ですが   作:zelga

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魔王様の表記、「オオバミ」じゃなくて「オーバーM」が正しいはずなのに書いていて違和感がすごい。


第10話 「明・前」

 

――それは、さかのぼること数時間前――

 

 

「ここじゃな?」

「は、はい」

「よし、お主たちはもう行ってよいぞ。ただし、この事は……」

「他言無用、ですね。防衛兵士長にも同じことを言われました」

「その通り。ほれ、さっさと行かんか」

「ハッ、失礼しました!」

 

 

この場所を教えてくれた兵士が角を曲がるのを見届け、車いすに座った老人は扉を開ける。

 

部屋の中は明かりがついていないようで、扉が開いたことで廊下の光が中に差し込む。その片隅、そこに一人の男性が静かに座り込んでいた。

 

 

「……まさか、本当に生き残っておったとは」

 

 

そう呟きつつ、老人は彼の下へ近づく。そして目の前まで来たのだが、彼はピクリとも反応しない。ただわずかに肩が上下していることから死んではおらず、意識を失っているか寝ているだけのようだ。

 

 

「おい、起きんかジーサーティン」

「……ぅ」

「ひどく消耗しておるようじゃの。とりあえず医務室にでも……ッ、これは」

 

 

男性――ジーサーティンはひどく消耗しているようで、軽くゆすった程度では起きそうにない。そこでとりあえず適当な魔族を呼んで医務室に連れ行こうと思ったのだが、軽く視線を下げたところで動きを思わず止めてしまう。

 

視線の先。眠るジーサーティンは胡坐をかいており、それ(・・)は彼の両足の上に乗っていた。

 

それ(・・)はジーサーティンと同じく目を閉じているが、彼と明らかに違う点がある。

 

 

 

 

 

「……ニッケル」

 

 

それは、首から下がないという事だった。生首と形容するのが最も正しい表現なのだろう。

 

 

「…………ぁ」

「起きたか、ジーサーティン。わしが分かるな?」

「ま、おうさま……俺は……」

 

 

その声に反応したのか、ジーサーティンがゆっくりと目を開ける。声をかけたことで老人――オーバーMの顔を見ているが、まだ表情はおぼろげだ。それでも何かを伝えようとしていたので、その前に口を開く。

 

 

「報告は後でよい。立てるか?」

「は、い……なんとか……」

 

 

ジーサーティンはそう返答し、ゆっくりと立ち上がる。しかしまだふらついており、意識もはっきりしていない。

 

そんな中でも強く意識していたのだろう。彼は両手に持った生首をゆっくりと上げ、差し出すようにオーバーMに見せて口を開く。

 

 

「すみません……ニッケルが……。これしか、俺は……ッ!」

「よい、十分じゃ。とりあえずわしの研究室へ行くぞ、夜中じゃし人は少ないが……誰にも見られんようにせんとな」

 

 

ジーサーティンの肩をポンと叩き、先に部屋を出て周囲を索敵する。

 

時間も時間なのでほぼ無人に等しいが、それでも見回りの兵士はいる。彼らに出会わないよう兵士達の位置を認識し、オーバーMは自身の研究室へのルートを脳内で構築していった。

 

 

「……ふむ、こんなもんかの。手助けはいるか?」

「あ、いえ……大丈夫、です」

「よし、ならば行くぞい。ちゃんとニッケルも持ってくるんじゃぞ」

「は、はい。……なんで研究室なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたぞい」

「失礼、します……」

 

 

扉を開け、ジーサーティンと共に研究室に入る。数分歩いただけだが、既に彼の息は絶え絶えと言った様子だ。

 

 

「こっちじゃ、そこに座っとれ。確かこの辺に前作ったのが……」

「ハァ、ハァ……あの、魔王様?」

「なんじゃ?」

「なぜ、ここに? 正直な所、気を抜いただけで俺ぶっ倒れそうなんですけど……」

 

 

置いてあった椅子に腰かけ、ジーサーティンは息を整える。それでも疲労の色は濃く、先ほどよりも表情は青くなっていた。

 

そんな中、移動中にも抱いていた疑問をオーバーMにぶつけるため口を開く。それに対し、棚の中をガサゴソと漁りながら彼は答える。

 

 

「仕方がないじゃろ、他の奴に今のお主らを見られるわけにはいかん。……こっちかの?」

 

 

そう言いつつ、肘置きのスイッチを押す。するとウィーンと言う音と共に、オーバーMの身体は上昇していった。

 

なお上がっていくのは上半身のみである。下半身はそもそも繋がっておらず、金属部品をそれっぽく組み合わせてズボンと靴で覆い隠したダミーのようだ。

 

 

「俺たちを?……ていうか、なぜ今更車いすに」

「お主が人間に報告させたからじゃよ。わしが機械の体であることは知られる訳にはいかん……おぉ、あったあった」

 

 

やがて目的の物を見つけたのか、それを取り出してオーバーMは元の位置まで戻る。そしてジーサーティンの下へ移動し、それをスタンドに取り付け始めた。

 

 

「それは……点滴?」

「それも魔族用の特別製じゃ、カロリーとかが段違いに含まれておる。ほれ、腕をだせ」

「あ、はい……」

「あとこいつじゃ、これを吸っておけ」

 

 

ジーサーティンに腕を出させ、さっさと準備を進める。その間にもう一つ持ってきたものを渡し、受け取った彼を不思議そうに口を開いた。

 

 

「携帯酸素……こいつも?」

「もちろん特別製じゃ、とりあえず空になるまで吸っとれ。……これでよし」

 

 

刺入が終わり、ジーサーティンは反対側の手で携帯酸素を持ちながら隣に置いたニッケルを横目に見る。

 

当り前だが、その様子は何も変わらない。普段とても騒がしい分、この顔が視界に入っているのに静かと言うのは現状を嫌でも認識させてきた。

 

 

「……はぁ」

 

 

まさかこんなことになるなんて。ジーサーティンはそう思いながら、一先ず落ち着くまでゆっくりと深呼吸する。その様子を眺めつつつ、オーバーMは再び探し物を始める。

 

そして数分後、ジーサーティンがやや落ち着いたのを確認してから口を開いた。

 

 

「で、どうじゃ。気分は楽になったか?」

「まぁ、さっきよりはだいぶ楽になりましたね。……ハァ、俺自身は何も攻撃を受けたわけじゃないのに、こんな状態になっちまうなんて」

 

 

情けない限りです、そう続けてジーサーティンは自嘲する。

 

あれだけ大丈夫だと言われ、自信満々で挑んだ韋駄天との戦い。その結果は惨敗で、魔族最高戦力であるニッケルを失った。その癖自分は一度も攻撃することなく逃げ出し、こんな状態で帰って来たのだ。

 

こんなもの、情けないと言わずしてなんという。魔王様だって、自分の現状に失望しているはず――――

 

 

 

 

 

「それはしょうがないの、むしろようここまで耐えたものじゃ」

「……え?」

 

 

――しかしその様子を見ながらも、オーバーMはなんて事の無いように返事を返した。

 

どういうことか聞こうと思わず顔を上げ、彼のほうを見る。それに対し、ようやく目的の物を見つけたオーバーMは振り返って口を開いた。

 

 

「ジーサーティン、お主は今こうしているだけで体力をドンドン失っとる状態にある。いまだに息が荒いのがいい証拠じゃ」

「で、ですがそれが何の関係が……」

「と言うことは、やはりお主は気づいとらんようじゃな。……大分マシになっとるようじゃし、もういいかの」

「は、ちょ、え??」

「この先はお主をその状態にした張本人に聞けと言う事じゃ。と、いうわけで……」

 

 

そう言いつつ、混乱するジーサーティンを尻目にその横に向かって口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とっとと起きんか、ニッケル。もう意識は戻っとるんじゃろ?」

「……んぁ。……あ、おはようございまふ」

 

 

「――――ハァ!!??」

 

 

研究室が防音完備でなければ危なかった、数秒後のオーバーMはそう考えていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまぁ、そんな訳で。やぁみんな、ニッケルです☆

 

僕が起きたのはいいものの、大声を出したことで限界が来ちゃったジーサーティンは気絶するように寝てしまい、とりあえず魔王様に軽く事情説明。博士は寝る必要がないので夜通しかけてジーサーティンの頭につけるスキャン装置を製作し、僕はその間もうひと眠り。

 

そんで朝になって魔王様はピーちゃんたちを呼び出して会議室へ。会議が終わるまで暇だった僕は色々思い返しており、思わず思い出し笑いをしたところでジーサーティンが起床。かる~く口喧嘩しているところに博士が戻ってきた、って訳さ。

 

 

「……とまぁ、お主らがいない間の会議で決まったことはこんな感じじゃ」

「身を隠しつつ、韋駄天共を監視。そしてまだ未熟な韋駄天3人が孤立した隙を狙って抹殺する、ですか」

「痛い……ピーちゃん、ネプト、コリー君が担当してるんだね。で、もう3人とも出発しちゃったのかな、かな?」

 

 

魔王様の研究室。そこで僕たち3人は顔を見合わせて話をしていた。内容は主に僕たちがいない間にどんな出来事があったか、魔族の方針はどうなったかの確認だ。

 

魔王様はとある機器の製作を進めながら。

 

ジーサーティンは椅子に座って替えの点滴を受けながら。

 

そして僕、ニッケルはというと……

 

 

「いや、小僧共が別行動をしたのはわかるが行き先が分からん。それが分かるまで3人を出す気はないわい」

「行先、って言ってもなぁ……。ニッケル、なんかわかんないのか?」

「全然、全く足取りがつかめないね! あ、これも文字通りじゃない、じゃない?」

「なんで動いているのが顔面だけなのに、そんなに騒がしいんだお前は……」

 

 

生首の状態でたんこぶ生やしながら鉢植えに埋まってます。具体的に言うと原作でニッケルが死んだ後の会議で魔王様が使ってたアレ、お古ってやつだね。

 

思いの外土はふかふかだし、葉っぱもクッション代わりになっているし。案外居心地良いなこれ、知りたいわけじゃなかったけども。

 

 

「ま、首を長くして待っていようよ。……それより魔王様、僕の身体って見つかってないの?」

「ピサラからそういった報告は聞いてないの」

「そうは言うが、そもそも残ってるのか? あんな惨状を生み出した攻撃喰らってるんだし、消し飛んでいるんじゃ……」

「ないない、それはあり得ないね」

 

 

文字通り長くしていた首を鉢植えに戻しつつ、ジーサーティンの言葉を否定するように首を振る。なおこの程度のボケじゃもう二人は何も反応してくれなくなったよ、寂しいね。

 

 

「あの時、僕の首を切る途中で太刀筋がブレていた。だからあの衝撃自体は、僕のすぐ後ろから始まってるはずさ」

「……なんで、そんなに確信を持って言えるんだ?」

「切られる様子をしっかり認識してたからだね、走馬灯ってやつ?」

「「…………」」

 

 

わぁい、ドン引きだ☆

 

こいつマジか、と言わんばかりな目で見てくる二人。しかし魔王様はそれを聞きながらも考え込むように顎に手を当て、やがて何か思い出したかのように口を開く。

 

 

「……そう言えば、ギュード君の死体は結局回収できておらん」

「ッ、あれほど巨大な魔獣が発見できていない? 魔王様、それは……」

「見つけられないと言うより、もう見つからないと考えるべきじゃな。つまり、あの場にもうギュード君の死体はない」

「それに半日しか探していないとはいえ、ニッケルが戦っていたのは孤島の上に平地です。肉体が見つからないはずがない」

 

 

会話をしながら、魔王様とジーサーティンは考えをまとめていく。その様子を見つつ、僕は内心ほっとしていた。

 

 

いやぁ、流石はジーサーティン。大人組の中でも彼は比較的頭がいい方だから、魔王様と一緒に考察ができるし本当に助かるよ。これなら原作と違って死体が片方残ってない現状でも、答えを導き出すことができそうだね。

 

 

そう僕が考えていたのを待っていたかのように、ジーサーティンは思い至ったように口を開く。

 

 

「考えられる可能性。おそらく奴らは、俺たち魔族の死体を回収している」

「じゃな。狙いはおそらく、魔族の研究と解析じゃろうて。……そして、いくら韋駄天とは言え一人で研究するのには無理がある」

「人間の手を借りてる、と言う事ですね。それほどの技術力を持つ人材と設備を用意できる場所……」

「決まりじゃな。……おい、聞こえるか?」

 

 

結論がまとまったようで、魔王様は通信機の電源をつける。そしてそれはすぐに繋がり、スピーカーから女性の声が聞こえてきた。

 

 

『如何なさいましたか、オオバミ博士?』

「小僧共の行き先がわかった。おそらくじゃが……ホタエナで間違いないじゃろう」

『ッ、本当ですか!?』

「あぁ、おそらく奴らはニッケルの死体を運んでおるはず。捜索はわしと人間で行う故、先にネプトたちと潜入しておくんじゃ」

『ハッ、了解しました!』

 

 

その言葉と共に通信を終了し、博士は再び作業台の様子を見に行く。それは魔王様がいなくとも稼働していて、何かを自動で作っているようだ。

 

 

そう言えばスキャン装置を作った後もずっと何か作り続けてたけど、あれは何だろう? 魔王様用の身体には見えないし、にしてはやたらとでかいし……。

 

 

「……よし、一先ず原型は出来てきたかの」

「そういえば魔王様、さっきから何作ってるの? それ魔王様の身体じゃないよね、よね?」

「お主用のに決まっておるじゃろ。いつまでジーサーティンにおんぶに抱っこでいるつもりじゃ」

「え、まじ? もうできたの?」

 

 

その返答を聞いて、思わず声が出てしまった。

 

 

確か魔王様に事情を話したのは真夜中、そしてスキャン装置ができたのが早朝。確かにそこから稼働し続けていたとはいえ、まだ数時間しかたっていないんだよ? それはつまり、その時点で魔王様はこの機械の設計図を思いついていたってこと?

 

いや……わかってはいたけど舐めてたかもしれない。魔王様もやっぱり規格外だ、頭脳戦ならイースリイを上回るだけのことはある。

 

 

「ま、昔取った杵柄ってやつじゃな。お主たちが生まれるずっと前、機能不全の魔族が誕生した時に似たような補助装置を作ったことがあるってだけじゃよ」

「……そうだった、怒涛の展開ですっかり忘れていた。おいニッケル」

「ん? どうしたんだい、ジーサーティン?」

「いい加減に教えろ、なんでお前はその状態で生きている? それになぜ俺はこんな状態になっている?」

 

 

ジーサーティンは僕を見つつ、自分の身体を指さす。

 

まぁ確かに生首の状態で僕はこうしてピンピンしてるし、逆にジーサーティンは五体満足なのに疲労困憊で今にも倒れそうだ。

 

あれからずっと休憩し続け、点滴や携帯酸素を補給し続けているというのに。それでも回復できず、何とか現状を維持しているような状態。それがジーサーティンの現状だ。

 

 

そりゃ気になるよね……ふ~む。

 

あの3人はもうホタエナに向かったことだし、この情報をあいつ等が聞くことはない。……なら、教えても大丈夫かな?

 

 

「いいよ、教えてあげる!」

 

 

と言う訳で、僕の大仕掛けの種明かしといこう。二人はどれくらいびっくりしてくれるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、そんなことが……」

「それは良いことを聞いたのぉ」

 

 

 

 

 

「え? あ、いや、そうなの……か?」

「お主、どんだけ滅茶苦茶な綱渡りをしとるんじゃ?」

 

 

 

 

 

「(何を言ってるんだと言わんばかりの死んだ目)」

「(言ってることはわかるが言ってる意味が分からない顔)」

 

 

 

 

 

結論。さっきよりもドン引きされましたとさ、チャンチャン☆

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ハイウェイスター5ごうさん、赤悪鬼さん。感想ありがとうございました!

つくしのさん、寂私狩矢さん、テクワンさん。評価ありがとうございます!


駄目だ、寒すぎて書く時間とモチベが取れねぇ。

種明かしはちゃんと次話で説明します。本当はこの話でやる予定だったんだけど、流れで次でも同じことを説明しそうなので、いっその事こちらはカットで。

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