ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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ピーマンイズワンダフル。

やはり、一番おいしい食べ方は。

生で齧る事だと思うんですよね。


【番外編】テイオーINピーマンのお話―完結

 

『さあ、やってきましたトゥインクルシリーズの総決算!暮の中山に集うのは18人の優駿達であります!もっとも注目を集めるのはこの2人!

 

 現在まで8冠!日本トゥインクルシリーズに燦然と輝く大偉業!無敗の三冠を引っ提げて今ここに降臨!皇帝、シンボリルドルフ!

 

 そして、世界最強! 固く閉ざされていた凱旋門を解き放ち、夢の大地の頂を駆け上ってみせた優駿! 帝王、トウカイテイオー!

 

 この2人がどのようなレースをするのかが、非常に注目されております!』

 

『ええ。非常に楽しみなレースです。ですが、他の参加メンバーも侮ってはなりません。

 

 個性派逃亡者ツインターボ、夏のグランプリウマ娘メジロライアン、菊花賞ウマ娘ナイスネイチャ、そのナイスネイチャにハナ差で迫ったリオナタールと、多くの実力者も参戦しています』

 

『確かに。全員がセンターを獲れる実力者であることも確かです!さあ、スタートが近づいてきました、有マ記念!いよいよ、ウマ娘達がターフに現れます!』

 

 

 夢の舞台。有馬記念。バ道を歩く私の脳裏に、ふと、昔の光景が蘇った。

 

 日本ダービーを無敗で駆け抜けたあの日。一人の女の子が私にこう言ったのだ。

 

「シンボリルドルフさんみたいな、強くてかっこいいウマ娘になります!」

 

 それからと言うもの、私はレースの度に彼女の姿を目で追ってしまっていた。

 

 無敗の三冠を獲った時。あの女の子は観客席で、自分の様に喜んでくれていた。

 

 初めて負けを喫した、ジャパンカップでも私を全力で応援してくれていた。

 

 ああ、私は、彼女の目標であり続けていられるのだろうかと、いつも思っていた。

 

 だが、どうだ。

 

「さあ、存分に挑みたまえ皇帝。―凱旋門の冠は、世界最強の冠は、この帝王が持ってきたぞ」

 

 あの時の女の子は、今、最強のウマ娘となって私の目の前に現れてくれた。

 

 そして、私を超えようとしてくれている。

 

 ああ、私は今まで、理想を掲げ、常に、常に、皆を導かんと邁進してきた。それは、何も間違っていなかったのだろう。

 

 だが、今、今この時だけは。全てを忘れ、君と競い合おう。最強に挑み、勝利してみせよう。

 

 トウカイテイオー。君は、私が出会ったウマ娘の中で、最高のウマ娘だと自信を持って言える。

 

 私の心を、これほどまでに燃え上がらせたライバルは君しかいないのだから。

 

 

「や、テイオー。調子どう?」

「やぁ、ネイチャ。調子は上々だよ。菊花賞すごかったじゃん。レコード勝ちだって?」

 

 地下バ道を歩きながら、テイオーとナイスネイチャはそう、会話を続けていた。

 

「そりゃああんだけ誰かさんの坂路に付き合わせられていたらね。リオナタールもレコードタイムだったのよ?」

「知ってる。いやー、強敵だなぁ」

 

 テイオーはにやにやと口角を上げた。だが。

 

「そんな事、ひとっつも思っていないくせに。だってテイオー。会長さんしか見てないじゃん」

 

 ナイスネイチャは憮然とした態度で、そう言い切る。テイオーは苦笑を浮かべると、舌を出した。

 

「ばれた?」

「バレバレ。全く、私達が居るって言うのにさ。妬けちゃうよね。だからテイオー。今回は私も一着、狙いに行くから」

 

 ナイスネイチャも苦笑を浮かべる。しかし、その言葉に弱気な所は一つもない。それを感じ取ってか、テイオーはナイスネイチャの前に歩み出ると脚を止め、ナイスネイチャの目をじいっと見つめていた。

 

「ふふ。―来るがいいよ。私は世界最強のウマ娘。誰にも一番を譲るつもりはない」

「あはは。―忘れたの?私がその世界最強に並べるって言ったのは、まぎれもないあんたなんだからね」

 

 ナイスネイチャも負けじとテイオーの目を見て、そう言い切った。

 

「ふふふ」

「あはは」

 

 そして、自然と2人は笑い合っていた。

 

「じゃあ、決着はレースで、だね」

「うん。全力で勝ちに行くから」

「それはこっちのセリフ!」

 

 

『各ウマ娘が続々とゲートインして参ります。注目のトウカイテイオーとシンボリルドルフは一切目を合わせない。緊張した空気が漂います。そして残り枠は3つ。ナイスネイチャが収まりまして残り2つ。先に歩みを進めたのは、皇帝シンボリルドルフであります。そして続くように帝王トウカイテイオーもゲートイン。

 

 各ウマ娘、態勢完了!

 

 今年のトゥインクルシリーズ総決算!暮の中山有マ記念!―今、スタートです!』

 

 

 大方の予想通りといった展開で、有マ記念はスタートを切った。いの一番に飛び出していったのは、青いツインテールが特徴的なツインターボ。彼女がペースを作っていく。シンボリルドルフは前から3番目という位置に付け、ナイスネイチャは10番目前後。そしてトウカイテイオーは定位置と言ってもいい最後尾に張り付いていた。

 

 レースは静かに、静かに進む。そして、一周目のホームストレッチ。

 

『皇帝ー!いけー!』

『皇帝!皇帝!シンボリルドルフ!いけー!』

『ルドルフ!必ず勝ってきなよー!』

『羨ましいなぁ。ルドルフー!全力を出しなよー!』

 

 復活のシンボリルドルフ。そこに多くの歓声が降り注ぐ。

 

『帝王!いけー!最強を証明してみせろー!』

『テイオー!あんた私に勝ったんだから負けんじゃねーぞー!』

『そーだそーだー!ダートじゃねえからって負けんじゃねーぞー!』

 

 最強のテイオー。彼女にも、同じように大きな歓声が降り注いでいた。無論、他のウマ娘達を応援する声援も、届いていた。

 ウマ娘達は、皆一様にふっと口角を上げる。想いを受けて、その脚に力が張る。

 

 ―ああそうだ。私が一番速い。一番勝ちたいのだ!でなければ…この舞台に立ってはいない!―

 

 ペースが上がる。ウマ娘達はポジションを入れ替えながら、向こう正面へと進んでいく。

 

 先頭は未だツインターボ。リオナタールがその背に張り付き、そこから2人を挟んでシンボリルドルフ。更に3バ身空いて数人、第2集団の後方にナイスネイチャ。更に更に後ろを見れば、トウカイテイオーがいる。

 

 と、そのトウカイテイオーが、わずかにペースを上げ始めた。

 

 そして、第三コーナーに入る頃には、トウカイテイオーのギアが、完全にトップに入っていた。前傾が一段ときつくなり、歩幅が大きくなる。そしてそのピッチもみるみるうちに速くなり。一気に、大外からウマ娘達を捲り始めていた。だが、他のウマ娘達も黙ってはいない。同じようにスパートをかけていく。が、そのスピードは、トウカイテイオーには及ばない。

 

 只、一人を除いて。

 

「来たか…!」

 

 そう呟くと、シンボリルドルフは脚に力を込め、ターフを踏み込んだ。

 

 

 トウカイテイオーのスパートに合わせるように、シンボリルドルフは一段と姿勢を低く、そして地面を抉る。

 同時に、トウカイテイオーも一段と姿勢を低く、だが、地面を撫でるように脚を運ぶ。

 

「勝負だ!」

「勝負!」

 

 そう言って、最終直線に向かって一気にペースを上げた2人。他のウマ娘は付いていけないのか、じりじりと後退していく。1バ身、2バ身とその差が開いていく。

 

「くそおおお!」

「追いつけないっ…でも、でもおおお!」

 

 そう叫びながら、他のウマ娘達はじりじりと、じりじりと後退していく。

 

 だが、その中でただ一人。心折れぬ強いウマ娘が一人。

 

「私は、勝つ…勝つんだ…!そうだ!私は…夢を見るだけなの!?そんなの!納得いくわけ、無いでしょうが!」

 

 ナイスネイチャは叫ぶ。ピリ、と、空気がひりつく。そして、限界かと思われた、トウカイテイオーとシンボリルドルフのマッチレースかと思われた最終直線に、割って入った。

 

「私だって一番になれるんだから!」

 

 そう叫びながら、ナイスネイチャは2人に並んだ。にやりと、やっぱり来たか、と口角を上げるテイオー。だが。それを全く快く思わない者が一人。

 

私が一番なのだ(有象無象が!親子の間に入るな!)!誰にも、冠を、譲って堪るものか!手が届くのだ!ああ、そうだ。道は自ら切り開く!」

 

 ルドルフも叫ぶ、だが、既に全力だ。全力などとうに出し切っている。だが、更に限界のその先を絞り出すために。

 

「狙いは定めた!射るべき的は見えている!」

 

 ズドン、とルドルフの足元が爆ぜる。ルドルフの体が、更に下がる。そして、シンボリルドルフの体が一歩、抜きんでた。

 

 だが、トウカイテイオーも黙っちゃあいない。

 

―付け焼刃じゃあダメだよね。じゃあ、行こうか、ボク!―

 

 ズドン、と走り方が変わる。今までのような地面を撫でるような走りから、上半身を上げ、蹄鉄をターフに食い込ませ。そして、柔らかい関節でパワーを推進力に変える、本来の走り方。

 

 ある所では、『究極無敵のテイオーステップ』と称された、本気の走り。だが、それは、故障と隣り合わせの本来の走り方。

 

「うらぁあああああああああああ」

「はぁあああああああああ!」

 

 狂ったように加速していく2人。そして、取り残されたナイスネイチャは。

 

「ぐっ…無理、かっ!?うああああああ!」

 

 叫びながら脚を動かすが、その差は縮まらない。―と。

 

 ビキリ

 

 どこからか、何かが割れる音が耳に飛び込んで来る。はっ、とナイスネイチャは顔を上げた。

 

 ビキリ、ビキリ、ビキリ

 

 その音は―。トウカイテイオーのステップと、寸分たりともずれる事なく、鳴り響いていた。

 

 

 カイチョー!やっぱり、やっぱりシンボリルドルフはすごいや!このボクに!この私と並ぶなんて!

 ああ、インディよりも、スポディカよりも!同志レオダーバンよりも、メジロマックイーンよりも!競い合った本物のテイオーよりも、速い!ああ!強い!

 

 ビキリ、と脚に激痛が走る。だけど、ボクはターフを抉る。たかだかこの程度の痛みなら、問題はない。

 

 一歩一歩、皇帝と並ぶ。一歩一歩、痛みが走る。

 

 ラスト1ハロン。更に脚に力を入れた。脚からの痛みも、強くなる。

 

 …うん。これはちょっと尋常ではないかな。骨が軋むどころじゃない。きっとこれは、骨が折れていっている。――だからどうしたんだ!相手はあのシンボリルドルフ!

 

 彼に勝てるのであれば!脚の一本ぐらい惜しくもない!ああ!もっと前に、もっと前に!

 

「これがボクの、究極無敵のテイオーステップだああああ!」

 

 そう叫び、地面を抉った瞬間。雷鳴にも似た音と共に、視界が白に染まった。

 

 真っ白な世界。でも、ボクは変わらず走っている。不思議だ。ルドルフも、ネイチャも居ない。

 

 だけど、大きな何かがボクを追い抜き、前へと飛び出していった。

 

 ボクが知らない、でも、私は知っている馬。滑らかに、しかし、四つ足で力強く地面を滑るように加速していく。

 

 その馬の全身が視界に入った時、美しいと思った。古い、ヨーロッパの名画から飛び出してきたような、そんな馬だった。まさに、堂々たる走りだ。

 

 嗚呼、速いなぁ。でも、ボクも、ボクだって、負けたくない。

 

 ボクは脚に力を入れた。走り方なんて気にしない。ボクの一番、速い走り方。そうやって、ボクは彼を追った。

 

 ちらり、とその馬がこちらを見た。だが、興味が無いと言う感じで視線を外される。

 

 ちょっと、イラっとした。ボクは貴方よりも速いんだ!そう想いを込めて、更に姿勢を下げて、加速する。いよいよバ体が合い、追い比べに入る…と、その馬が、大きく嘶いた。

 

―はははは!甘い、お前達はまだまだだ!我が子らよ!―

 

 はっとして顔を上げれば、温かい、しかし、強い目が改めてこちらを真っすぐに見つめていた。そして、嘶きと共に気持ちが伝わってきた。

 

―だが、ああ!最高の、最高の、追い比べだ!ああ!ついぞ見れなかった、ついぞ走れなかった、頂の、ロンシャンの風を、風を!風を感じるぞ!―

 

 あっという間に一頭の馬が、ボク達を置き去りにして、最終直線を一気に加速していった。

 

 そして気づけば―。

 

 

シンボリルドルフこの強者が集う有馬記念の勝者は、皇帝!シンボリルドルフだー!

 

 

 大きく、大きくガッツポーズを取っている、シンボリルドルフの姿があった。ボクはといえば、ゴールこそ過ぎていたようだけど、足がもつれて倒れ込んでしまった。脚が完全に限界を超えていて、立ち上がる事すら出来ない。特に右足の痛みが強い。

 

「いやぁ、負けた負けた…。毎度おなじみ、3着ってね」

 

 そう言ってボクのすぐ横に来たのは、ナイスネイチャだ。顔を手で仰いで、苦笑を浮かべていた。 

 

「ネイチャおつかれー。すごいじゃん、3着って」

「あはは…ありがと。でも、会長さんすごかったね。最後の加速、びっくりしちゃった」

「うん。本当に。あー、勝てるかと、超えれるかと思ったんだけどなぁ」

 

 ボクはそう言いながら、シンボリルドルフの雄姿を見た。ああ、勝鬨。実に、美しい姿だ。やっぱり。皇帝は―。

 

「皇帝は、やっぱり強かった。シンボリルドルフは、間違いなく皇帝だったよ」

 

 ボクの口からは自然とそう言葉が出ていた。絶対がある馬。この馬には絶対がある。そう言われていた伝説は、強かった。

 

「うん。そうだね…って、テイオー。いい加減、立ち上がったら?」

 

 ナイスネイチャがそう言いながら、手を差し出してきていた。でも残念。それはちょっと出来ないんだよね。

 

「あはは…実は、出来ないんだよね」

「…あんた。そっか、気のせいじゃなかったんだね。テイオーの足音。なんか変な音が混じってたから」

「え?本当?」

「本当本当。何かが割れるようないやーな音がさ。ビキリ、ビキリって」

「そっか。あはは。じゃあ、ちょっと肩貸してくんない?完全に右足が折れちゃってるっぽいんだよねぇ…」

 

 ネイチャはため息を吐くと、仕方ない、と言った風に肩を貸してくれた。

 

「はいはい。全く、本当無茶しちゃってさって、あ…」

「どうしたの?ネイチャ…って、あ…」

 

 ボクとネイチャは固まった。なんせ、カイチョーが近くに来ていたからだ。しかもその表情はちょっと硬い。視線は私の脚に固定されていた。

 あはは、と内心苦笑する。でも、この結果は判っていた。だって、ボクはまだまだ体が出来ていない。馬の時は数年をかけ、体を作ったからこそ全力で走れた。

 それに、本当は4冠で終わる運命だったんだ。だから、きっと5冠目は無い。でももし、その5冠目があるとすれば。

 

 この強いシンボリルドルフに勝ってこそだと思うんだ。

 

「…テイオー?今の話、本当か?」

 

 うーん、やっぱりカイチョーは優しいなぁ。

 

「あはは、うん。右足、ちょーっとやっちゃった」

「…」

「だからウイニングライブはちょーっと任せる感じになっちゃうんだけど…」

 

 ボクの言葉に表情が更に硬くなる。あー。全くもう。こういう所は年相応なんだね、シンボリルドルフ。そんな顔をされてしまっては、全力を出した私が道化であろう。顔をあげてもらわねばね。それに、美しい女性には、明るい表情がお似合いだと思うのだ。

 

「あ、でもカイチョー。勘違いしないでね。ボクは全力だった。たとえ、折れている脚でも、今まで一番早いラスト1ハロンだった。間違いなく断言できるよ」

「…そうか」

 

 そして私は、ナイスネイチャに肩を借りたままシンボリルドルフの前に立つ。ああ、やはり、美しいウマ娘だと思う。そして、しっかりとその目を合わせて、告げた。

 

「だからおめでとう、シンボリルドルフ。君は今、凱旋門と、BCクラシックを勝ったウマ娘を超えてみせた。君が、世界最強だ」

 

 テイオーはそう言って、自信満々の笑みをルドルフに向けていた。その表情を見たルドルフはといえば。

 

「ありがとう。…嗚呼、本当に、本当に、本当に、ありがとう。テイオー」

 

 そう言って、顔を伏せてしまった。彼女の足元には、小さな、しかし少なくない水滴が落ちる。

 

「あはは。そんな。泣かないでよカイチョー。今日はカイチョーが勝ったんだ!カイチョーが世界最強なんだよ!ほら!笑顔笑顔!」

「ああ…ああ!そうだな。―ああ、本当に、ありがとう。トウカイテイオー」

 

 そう言って、シンボリルドルフは顔を上げた。そこに有ったのは。自信に満ち溢れる、トウカイテイオーのような笑みであった。

 

「…しかし、そうは言ってもその脚は残念だ。キミとウイニングライブを楽しめないとは…」

「えー?カイチョーも残念だって思うんだー?」

「そりゃあそうだろう。競い合った相手を讃え合い、そしてファンに感謝する。それは、ライバルと共に行うべきものなのだから」

 

 ルドルフは心底残念そうにそう言ってくれた。じゃあ、ボクが言う言葉なんてものは、一つしかない。

 

「それじゃあさ。来年はカイチョーがとびっきりの花束を、ここに持ってきてよ。ボク、脚をしっかり治すからさ。それで来年は―――」

 

 言葉を区切る。そして、ボクは満面の笑みを浮かべた。

 

()()()()()()()()()()()()

 

 それを聞いたルドルフは、驚いたように、少しだけ目を見開いた。そして、小さく笑みを浮かべると。

 

「…判ったよ。だが、()()()()()()()()()()。―――全く、テイオーはワガママだな」

「にっしっし。カイチョー。今頃気づいたのー?ワガハイ、ひっじょーにワガママなのだ!あっーはっはっは!」

 

 年末、暮の中山は伝説の一日となった。

 

 それは、皇帝シンボリルドルフが、凱旋門ウマ娘、最強の帝王、トウカイテイオーに勝利した日であり。

 

 無敗だったトウカイテイオーが初めて負けた日であり―。

 

 トウカイテイオーとシンボリルドルフが、共に()()()()を走った最後の日であった。

 

 

『さあ、やってまいりました凱旋門賞。なんとなんと、ここに挑むのは日本の伝説のウマ娘!

 

 緑の勝負服!燦然と輝く九つの勲章!赤いマントは王者の証か!皇帝、シンボリルドルフ!!』

 

『昨年度の凱旋門賞王者を有マ記念で見事下した、今、世界でも大注目のウマ娘です!インタビューではこう答えておりました。

 

「去年はテイオーに冠を届けてもらった。ならば、今年は自分で獲りにいかねばね。そして今年はそれを賭けて、有()記念で帝王と勝負をするんだ」と。

 

 さあ、気合十分といったいでたちでお披露目です!おおっと!?まさかここで、このロンシャンの地でピーマンを齧ったぞシンボリルドルフ!!』

 

 全く、テイオーは。これのどこが美味しいのだかわからないな。でも、嫌いじゃあない。

 

 ―さあ、あのワガママ娘に、とびっきりの花束を持って行くとしようか。

 

 

『さあ、やってきました帝王賞!注目はもちろんこのウマ娘!ピーマンを齧る姿も久しぶり!

 

 一番人気、トウカイテイオー!復帰戦はダートのG1レースを選びましたトウカイテイオー!久しぶりの雄姿!元気な姿を魅せてくれました!

 

 そして二番人気はこのウマ娘!インペリアルタリス!さあ、今日はこの二人の競い合いとなるのでしょうか!』

 

『ですが3番人気のナイスネイチャも見逃せませんね。人気外でもありますが、リオナタールも参戦。昨年のクラシックの面々が勢ぞろいと言った具合であります』

 

『いやー、まさかこのカードが見れるとは。インペリアルタリスも怪我が無ければクラシックで活躍していたと言われるウマ娘でしたので、非常に楽しみです!』

『さあ、どういうレース展開になるのでしょうか。各ウマ娘、スタート地点へと向かいます!』

 

 シャク、とレース前に、生のピーマンを齧る。カイチョーは苦いな、と言っていたけれどさ。

 

 全く、カイチョーも判ってないねぇ。この苦味こそが美味しいのにさ。

 

 さて、年末の()()()()。きっと、カイチョーがボクに花束を持ってくるはずだ。

 

 そのためにも、しっかりと調子を上げていかないと。

 

 もう一度、ピーマンをシャリシャリと齧る。

 

 うん。やっぱり。―――ボク、ピーマンが大好きなんだよね。




 速さの秘訣が、これ、ねぇ?全く。意味が解らないねぇ。

 シャク、と一口齧る。

 うーん、実に苦い。苦いぞ。おーい、カフェ。君も食べないか?って、誰と話しているんだ?

『ピーマンと話している…?』おいおい。君、ピーマンは野菜だぞ?喋らないんだぞ?…?野菜のピーマンじゃない?全く。カフェ、君は何を見ているのだい?

 お友達のお友達?ほほう?それは少し興味が湧いた。詳しく聞かせてくれるかい?む…まずはもっとピーマンを喰え、と?ううーん、苦いのは苦手なんだがなぁ。

 まぁいい。ウマ娘の研究が進むのであれば吝かではないよ…っ!?

―やあ、アグネスタキオン。君、速さと頑丈さに興味があるんだって?―

 カ…カフェ?カフェ!?おーい!?カフェ!?一人にしないでおくれよ!おーい!?カフェー!マンハンタンカフェー!?せめて説明をしておくれよ!なんなんだいこの四つ足の動物は!?あああっ!ドアを閉めるな!な、なぜ脚が動かないッ…!?ひいっ!?

―まぁまぁ、そう硬くならずに力を抜いて私にまかせんしゃい。それはそうとしてピーマンが君には足らないようだ…おい、もっとピーマン喰わねぇか?―


※この世界のトウカイテイオー達の生涯成績

 センター【G1級】皐月賞、日本ダービー、凱旋門賞、BCクラシック、有マ記念 5冠

 この世界のルドルフの生涯成績

 センター【G1級】皐月賞、日本ダービー、菊花賞、有マ記念 天皇賞春、JC、有マ記念、天皇賞秋、有馬記念、凱旋門賞 10冠

 この世界のナイスネイチャの生涯成績

 センター【G1級】菊花賞 有マ記念 2冠

 この世界のリオナタールの生涯成績

 センター【G1級】ジャパンカップ 1冠





 この世界のアグネスタキオン

 称号「無敗の三冠ウマ娘」

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