目が覚めたら死亡フラグしかないクローンでしたとミサカは報告します   作:妹達10032号

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第一話

 目が覚めたら、何故か液体の中にいた。

 

 肺呼吸をする生物として、息が出来ないという現状に対し、反射的に混乱と恐怖が頭を支配する。必死に酸素を求めて動き出すが、今は液体の中にしかいない。オレが必死にもがいたとしても、酸素を体内に求める事が出来ない。

 

 ……あれ? 普通に息が出来てる? 

 

 肺の中に液体が満ちている感覚があるのに、息が出来る。そんな何とも言い難い感覚が本当に気持ち悪い。一体何が起きているのかと疑問を抱いてしまうが、その疑問を解決する手掛かりも無ければ、予想する事すら出来ない。

 

 肺に液体が満ちながらも、息が出来るという違和感にも多少なりとも慣れてきた。違和感に慣れた事で出来た余裕を使って、周りを見てみる。そして、周りを見た事で分かった事はオレの周りには、狂気的な光景が広がっている事しか分からなかった。

 

 思わず吐きそうになってしまう程の気色悪さを感じてしまうが、口と肺の中に謎の液体が充満していて嘔吐く事すら満足に出来ない。

 

 周りに広がっていた光景は、同じ顔をした少女がオレと同じように液体が満ちた容器の中に入れられている。それと同じ物が360度見渡しても、終わりが見えない程に大量に設置されていた。

 

 世の中に同じ顔を持つ人が3人いるという事を聞いた事はあるが、片手、両の手では下らない程に同じ顔が周りに広がっていた。まるで複製したかのように。

 

 明らかに常軌を逸している光景に暫しの間、思考が数分ほどストップする。

 

 再起動を果たした今でも、今のオレの現状、周りに広がる狂気の光景、ありとあらゆる事に理解が追い付かず、思考は停止と再起動を永遠と繰り返す。

 

 だが、永遠のループの最中、ある事実に気が付く。オレが入る容器に反射して、僅かながらオレの顔が見える。そう、幼女の顔が。周りに幾百と広がる少女と同じ顔が。

 

 ふぁッ!?!?!?!?!?!?!? 

 

 オレは成人した男の筈である。にも関わらず、容器の鏡に反射しているオレの顔は、小学生にもなっていなさそうな幼女の顔。オレには、生憎と自分の顔が女性的だったり、整形した記憶すらない。

 

 1時間にも満たない間にも、幾つもの衝撃を経験したおかげか、違和感等に慣れる事が早くなってきた。

 

 多少落ち着いたが、オレの持ち前の低能で必死に考える。

 

 ここで目覚める前の最後の記憶は、夏休みを通して「とあるシリーズ」というラノベの一気読みを行っていた。ラノベを読む人なら大体は知っているだろうし、ラノベに疎い人でも聞いた事がある人はいるだろうという超人気作品である。原作は50巻以上。スピンオフ作品も膨大な数を誇る創作品なのだが。

 

 それの一気読みというのは、それなりに疲れた。全て読み終わるのと同時にベッドに突っ伏したのである。それで目が覚めたら、これである。

 

 うん、訳が分からない。

 

 一体全体、何が原因で、何があって、何でこうなったのか、起承転結の全てが全く分からない。疑問しか湧かず、何とかしてここから抜け出そうかと思ったその時、視界の端から白衣を着たウェーブの掛かった髪とジト目が特徴的な女性が現れた。

 

 誰だコイツ。口が開いたり、閉めたりしている事から喋っている事は何となく分かるのだが、オレが容器の中にいるせいか、何を言っているのか全く分からない。

 

 その女性の左胸の部分に名札が付けられているのが見える。水の中にいるせいで多少見えにくいが、目を凝らしてみると、何とか読めた。

 

 名前は「布束砥信」であるらしい。

 

 ……うん? 何処かで聞いた事がある名前である。そう、最後の記憶で読んでいたとあるシリーズに出てきた名前だ。ある目的の為にクローンを複製する研究員であったが、他の研究員は複製したクローンを目的のための実験動物ぐらいにしか見ていなかった。

 

 だが、布束さんはクローンに情を抱き、色々と画策した研究者である。活躍する場面は少ないが、個人的に好きなキャラの1人だ。

 

 要するに、オレが知っているとあるシリーズの布束さん砥信と目の前にいる布束さん砥信は、名前、容姿、全てが合致している。

 

 ちょっと待てよ。まさかとは思うが、1つの予想が出来てしまった。

 

 そういえば、周りにいる幼女やオレの顔には見覚えがある。幼女の微笑ましさを持った顔。肩まである茶髪のボブカット。それはとあるシリーズにて幾度か描写されていた「御坂美琴」というキャラの幼女姿そのもの。そして、オレの何の感情も映さない無表情に、ハイライトのない瞳。

 

 ちょっと待てよ。オレは、知ってるぞ、これ。この顔。

 

 オレってば、まさかの妹達(シスターズ)だったりする……? 妹達(シスターズ)というのは前述した「御坂美琴」のクローンである。

 

 いやいや、ないない。これは夢に違いない。寝て起きたら、何の取柄もないオレがとあるの世界にいて、妹達(シスターズ)の内の1体になってるとか、意味が分からな過ぎるだろ。

 

 きっと、1回寝たら見慣れた天井が見えるに違いない。そうに決まってる。

 

 そうと決まれば、お休み。さらば、とある夢想の想像世界。ようこそ、とある現実の平凡世界。お願いだから、夢から目覚めてくれ。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 はい、あれから1週間半程経過しました。ここが夢ではない事がよく分かりました。

 

 オレが入っていた容器は、培養器であり、オレというクローンを成長させる為の機械であった。そして、大体中学生程度の身体にまで成長した辺りで培養器の外に出されたのである。

 

 流石は学園都市上層部公認の裏施設とでも言うべきか、研究施設はそれなりの広さがあるようで、クローン各々に狭いが、独り部屋を与えられている。

 

 天井にカメラが付いており、四六時中監視しているのでプライバシーもへったくれもないが。クズ研究員共にとってのオレ達は、単なる一方通行(アクセラレータ)絶対能力進化(レベル6シフト)計画の為の実験動物なだけだから、オレ達に人権などないのだろう。

 

 絶対能力者進化(レベル6シフト)計画というのは、オレみたいな御坂美琴のクローンを2万体用意し、最強の能力者に殺させることでその能力者を更に上の次元へと上げようというろくでもない計画なのだ。

 

 ただ、オレはオレであると他の妹達(シスターズ)との差別化を図りたかったから髪をゴムで纏めて、短めのポニーテールにしている。ついでに趣味で全妹達(シスターズ)に配給されたゴーグルを黒色のバイザーに改造したりしている。F〇teのセイバーオ〇タでバイザーが好きになったのはオレだけじゃないはず。

 

 ちなみに、改造に必要な部品は布束さんから貰った。やっぱり、布束さんはこんなクズだらけの施設の中の唯一の良心では無かろうか。

 

 そして、今は学習装置(テスタメント)を用いた学習を行っている最中である。学習装置(テスタメント)とは、五感全てに対して電気信号を送り、人格形成、知識の習得、技術の活用、ありとあらゆる事を即座に脳に学習させる超装置だ。きっと、試験日が近い学生諸君にとっては夢のような装置だろう。

 

 オレも学生時代にこんな装置が欲しかったです。

 

 ただまぁ、知らない筈の知識が頭に埋め込まれるのは、中々に気持ちが悪い。

 

「今日の分は終わりよ」

 

 オレが付けていた学習装置(テスタメント)を布束さんが外してくれる。どうやら、今日の分の学習装置(テスタメント)は終わりらしい。学習装置(テスタメント)は脳にそれなりに負荷がかかるので膨大な情報を脳に書き込む場合は、数日かけて行われるのだ。やる事終わったので布束さんとは今日の所は別れる事になる。だが……

 

by the way(ところで) 何か話したい事があるとか言ってたわね?」

 

 そう、オレは彼女に話があると言っておいた。きっと、他の研究者にこんな事を話した所で一蹴されるのが、オチだろうが、クローンであるオレ達妹達(シスターズ)に情を持ち、とある個体に感情のエッセンスを注入したり、絶対能力者進化(レベル6シフト)計画を阻止する為に動いていた彼女ならば、このお願いを受けてくれる可能性が高いと思っていた。

 

 それに彼女も研究者。命令通りに動く感情無きクローンであるはずのオレが自発的な行動を起こす事に何らかの興味を示す可能性が大きいとも思っていた。

 

「オレの外出の許可が欲しいとミサカは貴方にお願いします」

 

 オレの口調は、強制的に「~~とミサカは○○します」という特徴的な口調に変換されてしまう。どう足掻いても、この口調は変えられなかった。「オレ」という一人称は、強制される口調へのほんのちょっとした抵抗のようなものである。最初は、この口調はバグだと判断されたが、どこを見ても異常が見られなかった為、放置されている。

 

 まぁ、それはさておき、外出許可こそが布束さんへのお願いである。

 

 オレのそのお願いは、余程に想定外の事であったらしい。一目で分かる程に目を見開いている。

 

「……理由を伺ってもいいかしら?」

 

 その顔を見ると、どうやら中々に好意的な印象なのかもしれない。布束さんは、学習装置(テスタメント)の監修を行っていたりしたので、妹達(シスターズ)の責任者ではないとはいえ、それなりに高い地位にいるはず。そんな彼女を味方に付ける事が出来れば、困る事にはならないだろう。

 

「オレたち妹達(シスターズ)は負ける前提とはいえ、一方通行(アクセラレータ)を殺すように命令されています。ミサカネットワークや学習装置(テスタメント)によって、ある程度の一方通行(アクセラレータ)や外界の情報を知れますが、それだけでは不十分です。研修で外に出る事は出来ますが、それも数日だけです。あまりに時間が少なすぎます。だから、早めに外に出る事で一方通行(アクセラレータ)や殺す手段等の情報収集を行う為に外出したいとミサカは長々と言い訳を貴女に説明します」

 

 ただの素人が思い付いたような言い訳である。やれ、布束さんには好意的な印象を与えるとか自発的に行動して研究者としての知的好奇心を抱かせるとか頭良さそうに言ったが、ぶっちゃけ断られる可能性は99.9%ぐらいと思っている。

 

 学習装置(テスタメント)とかのおかげでオレの頭は前世よりも遥かに演算能力が向上している。だが、上手い言い訳が思い付くような柔軟な頭脳は獲得していない。つまり、基礎をめちゃくちゃ固めているが、応用が苦手というあまり使えない頭脳の持ち主がオレだ。

 

 駄目だろうなぁとか思いながら、考え込む布束さんを見つめる。やがて、口を開いた。

 

「とりあえず上に申請してみるわ。But(けど) あまり期待しないでもらうと助かるわ。Well then(それじゃあ)今日の学習装置(テスタメント)の使用は終わりだから部屋に戻ってなさい」

 

 おぉ、まさかの返答である。ただし、了承した布束さんもあまり申請が通るとは思ってもいない様子だ。それはそうだろう。妹達(シスターズ)は学園都市上層部の公認とはいえ、それでも学園都市の闇の研究筆頭である。バレれば、多少面倒な事になるだろう。

 

 ただし、布束さんとの大きな関わりを持てた事を大きな成果と思っておこう。

 

「失礼しますとミサカは挨拶をしながら退室します」

 

 部屋から出て、オレの部屋へと歩いて行く。

 

 ……どうせ駄目なんだろうなぁ。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「外出の申請通ったわよ」

 

 今日の分の学習装置(テスタメント)使用が終わった後、布束さんから衝撃の言葉が告げられた。暫しのフリーズをした後に漸く口を開く。

 

surprised(びっくり)とミサカは貴女の真似を試みながら驚きを口にします」

 

 からかい半分で布束さんの真似をすると常時よりも更にジト目と化している。

 

「……貴女、他の妹達(シスターズ)に比べて良い性格をしてるわよね。他の個体とは脳波も同じだけど、唯一の大能力者(レベル4)なのに、何故か他の妹達(シスターズ)とは何かが違う。That' why(そんなだから) 貴女は異常個体(ミサカイレギュラー)なんて呼ばれるのよ」

 

 異常個体(ミサカイレギュラー)。それはオレの異名である。打ち止め(ラストオーダー)番外個体(ミサカワースト)等の特別な役割が無いにも関わらず、他の妹達(シスターズ)とは明解な違いがあり、一人称が「オレ」だったり、色々な要素から異常であると判断され、変な異名が付いた。

 

 施設の研究者達に何度か変な装置を付けられ、検査された事もあったが、検査結果はよく分からないというものであった。まぁ、脳も身体も妹達(シスターズ)と同じで違うのは魂が前世では男だったというくらいだから、魂を観測するぐらいしないと違いが分からないだろう。

 

 魔術サイドなら違いぐらい分かりそうだが、科学サイドであるこの施設ならば、調査するのは難しいのかもしれない。

 

 勿論、それを馬鹿正直に言う訳がない。良くて実験祭りか記憶消去、悪くて解剖である。「前世が男なんです」とか言えば、間違いなくエラーでも起こしたと思われるだろう。オレの頭の初期化が行われるか、能力者に記憶を覗かれれば、前世を持つ稀有な実験動物として脳を解剖される光景が目に浮かぶ。

 

「オレは至って普通の妹達(シスターズ)であると異常呼ばわりする貴女方に訴えます」

 

 勿論、嘘ですとミサカは内心で自分にツッコミを入れます。なんて変な言葉を内心で呟く。

 

「……それもそうね。妹達(シスターズ)を生み出して使い潰している異常な私達に異常なんて呼ばれたくないわよね」

 

 やべぇ、まさかの方向に飛んで行った。ただ単純に本当の事を言える訳がないから否定しただけなのに、ネガティブな捉え方をしてしまった。確かにそう捉える事が出来るかもしれないけど、思考がネガティブ過ぎじゃないだろうか。

 

 オレ個人としては「人を異常呼ばわりしてごめんなさい」程度の答えを予想していたのに、重すぎる返答に思わず詰まってしまった。

 

「あ、えっと、決してそんな意図はなくてですねとミサカは慌てながら否定します。いや、一人称が「オレ」だったり、髪形を変えたり、ゴーグルを改造したり、他の妹達(シスターズ)とは多少の違いがあるのは自分でも分かっててですねとミサカは自分が変というのを認めながら答えます。ただ、ちょっと異常と呼ばれるのが心外とでも言うべきか、自分が変なのは認めますが、ちょっと──」

 

「ふふっ。もしかして、慰めようとしているの?」

 

 どうにかして先程の言葉を撤回か訂正しようと四苦八苦しているオレの様子を見てか、布束さんに笑われてしまった。その笑いを聞いたおかげでオレの思考が冷却化した。上手い言葉が見つからず、何とかしようとしている自分を顧みて、恥ずかしくなってきた。

 

 相も変わらずオレの表情筋は仕事をしないのでバレる事は無いだろうと思うが。

 

「それで外出についての注意事項が幾つかあるわ」

 

 やはりと言うべきか、外出許可には色々と制限があるらしい。

 

 他の妹達(シスターズ)と接触しない事。オリジナル御坂美琴と接触しない事。不用意に人が多い場所に行かない事。自分の番が来るまで一方通行(アクセラレータ)と戦闘しない事。

 

 他にも色々と注意事項はあるが、大事なのはそんなものだろう。

 

 外出許可の目的は、大きく分けて2つ。

 

 1つ目は原作をこの目で見てみたいというのがある。原作を知っている者として、それを直に見たいと思うのは当然だ。

 

 そして、2つ目は早めの内に一方通行(アクセラレータ)と接触する事だ。

 

 何故かって? 

 

 まず、オレの製造番号は10032号。

 

 絶対能力者進化(レベル6シフト)計画において、何体の妹達(シスターズ)が殺されたのかは具体的に覚えていないが、たしか10000体と少しだったはず。10032号は原作で虐殺される妹達(シスターズ)の内の1体である可能性は非常に大きい。

 

 そんな死の運命から逃れ、どうすれば生き残れるかを考える必要があった。

 

 考えた結果として、一方通行(アクセラレータ)の懐の内側に入る事。決して善人という訳でもないが、打ち止め(ラストオーダー)と接しているロリコンを見ていると、なろう系にいるような敵には冷徹、身内には甘い奴である事は明白。身内判定が滅茶苦茶厳しいが。

 

 だからこそ、あいつの内側にさえ入ってしまえば、実験の最中に躊躇ってくれる可能性が少なからずあるのではないかと考えたのだ。故に、早めに接触して、一方通行(アクセラレータ)がオレに情を移してくれるように動く必要があると判断した。

 

 一方通行(アクセラレータ)を打ち負かした原作主人公こと、上条当麻に接触し、一方通行(アクセラレータ)と戦ってもらう案もあったのだが、失敗する可能性が大きいと判断した。第1の理由は上条当麻にオレのオリジナルである御坂美琴が惚れて、偶に遭遇しているという事である。それでオレとオリジナルが接触した場合、ちょっと面倒な事になるのは想像に容易い。

 

 オレは死亡フラグしかない妹達(シスターズ)である。生き残る為にその死亡フラグを叩き折ってやる。

 




布束さんの口調を書くのむずくね……?
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