目が覚めたら死亡フラグしかないクローンでしたとミサカは報告します 作:妹達10032号
ボストンバッグ一杯に詰め込まれた銃火器を持って、外に出て来た。人通りが少ない夜の時間帯に。
今の俺の姿は、顔を見られないように常にバイザーで顔を隠している。服は流石に常盤台の制服そのままは有り得ない。なので布束さんが適当に買って来てくれたフード付きの黒いジャケットを、これまた布束さんから貰った長点上機学園の制服の上に着ているのだが、下はミニスカである。スースーして恥ずかしい。
俺の格好を改めて見てみると、見るからに不審者でしかないのだが、顔バレによって
ふと上を見上げてみれば、バイザー越しに暗い夜空を照らす三日月が見えた。そういえば、生まれ変わって初めて見た月だった。どうせなら、三日月より満月の方が記念日っぽくて良い気がするのだが。でもまぁ、オレに似ているのかもしれない。完全な満月ではなく、不完全な三日月。それとクローンであり、中身は全く別の中途半端なオレ。
……うわ、何考えてんだ。恥っず。
恥ずかしい思考を頭の外に放り出して、隣にいる人物を見てみる。
施設の外に出て来たオレの隣には、布束さんがいた。その手には黒色の携帯機器とカードが2枚置かれていた。それらをオレに差し出してきた。ナニコレというのが率直な感想なのだが。説明を求めるような視線を向けると、布束さんは口を開いて答えてくれた。
「外出記念日という事で幾つかプレゼントを渡しておくわ。私の連絡先を入れておいたから何かあったら知らせなさい。私の権限で出来る範囲ならお願いぐらいは聞いてあげる。一応、貴女を偽名だけど
あれ、思ったよりも布束さんに好印象だったらしい。とりあえず受け取った物を見てみる。スマホに学生証にクレカとな。外出許可を取ってくれるばかりか、自分の連絡先まで教えてくれるとは思わなかった。確かに困った時に布束さんと連絡が取れるのは有難いし、学生証も身分証としてあっても困る事は無い。学生証を見てみると、長点上機学園1年生で名前は「布束忍」である。
……それについては何も言うまい。
だけど、カードとかは流石に受け取れない。ここまでしてもらうと何故か罪悪感が湧いてくる。
「流石にこれは受け取れませんとミサカはカードを貴女に返却します」
貰ったカードは布束さんに返そうとするが、全く受け取る気がない様子。返品は受け付けないという確固たる意思を見せ付けようとしているのか、両手を上げている。仕方ないのでポケットにしまっておくが、あまり無駄に使わないようにしよう。1円も使わない事をまだこの目で見た事のない姉にでも誓っておくか。
そして、ここまでしてくれる彼女には疑問が尽きない。
「オレはただのクローンの内の1体に過ぎません。20000体いる内の10032号。それがオレです。単価18万という安すぎる命の
「……私は優しくなんてないわ。貴女達
これである。オレに自意識が芽生えてから2週間が経過した。その2週間の間に何度か布束さんと話してみたのだが、オレ達
殆どの研究員は自分達が生み出したクローンを人間とは思わない。たった2週間で培養器内で誕生し、中学生程度にまで身体を成長させたのを目の当たりにしてしまえば、それを自分と同じ人間とは思わないだろう。多分、オレも思えないだろう。
結論として、オレ達みたいな
「それでもオレは貴女が優しい人であるとミサカは間違いなく認識しています」
オレが言葉を撤回するつもりがないと判断したのか、布束さんは顔を手で覆って溜息を吐いた。その目から「もう駄目だコイツ」みたいな意志を感じる。手の隙間から見えるジト目は通常時より数割増しのジト目なのだが、俺の目の前では普通になってきたように思う。
「もう分かったから。貴女には何を言っても無駄という事が分かったから。誰かに見られない内に早くここから離れなさい。
それだけ言って、布束さんは施設の中に戻って行った。布束さんにはお世話になった身だし、その姿が見えなくなるまで頭を下げ続けた。
布束さんが見えなくなるまで頭を下げて、目的地に向けて歩き出した。
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……どうしよう。早くも金に困ってしまった。買いたいと思っている物があるのだが、それを買う有り金がない。5000円もあれば充分足りる程度の買い物であるが、今の俺は文無し状態である。ちらりとポケットの中にあるカードを見るが、いやいや有り得ない。使わないと誓ったその日から使うとか有り得ない。
なるべく人目に付かないように裏路地を歩きながらどうしようかと考えていると、何かにぶつかった。顔を上げてみると人の背中があった。
「あ、ごめんなさい。考え事をしていて……とミサカは謝罪を口にします」
ぶつかった人をよく見てみるとそれなりにガタイが良い。てか、明らかに事案現場だった。いかにもチンピラ風金髪の大男達4人が1人の男を囲むようにして立っている。囲まれている男はその場に腹を抑えて蹲り、唸っている。不良のスキルアウトの恐喝現場という事で間違いないのだろうか。
「んだてめぇ……?」
外出する際の注意事項には、目立たない事とか厄介事に巻き込まれない事が含まれていたのだが、こう意図も容易く厄介事に遭遇するとは。目が覚めたら死亡フラグしかない
こういう時は「不幸だ」とか言っておけばいいのだろうか。この世界の1人の主人公の口癖である。そんなどうでもいい事を考えている間は、勿論オレは一言も喋っていない。要するに無視。無視している事に苛立ったのか、男の1人が顔を真っ赤に染めて、口から唾を飛ばしながら叫ぶ。
「無視すんなや! でもまぁともかく。見られたんなら、ただで返す訳にはいかねぇよな!」
オレがぶつかってしまった相手がいきなり大声を上げて殴りかかってきた。ただのトーシローのパンチだし、身を捻る事で容易く避ける。
「こんの野郎ッ!」
ただの不審者でしかないオレに簡単に避けられたのに逆上された。解せぬとかいう言葉が最適なのだろうか。その後も何度も殴りかかってきたが、大振りで遅いだけのパンチなど避けるのは簡単である。
ただ、
「おいおいどうしたんだよぉ? そんな変な奴ぐらいさっさと倒しちまえよぉ!」
オレに殴りかかって来ている相手以外の3人は、どうやらパンチを手加減しているとか思っているらしい。目の前で腕を振るい続ける相手は出鱈目なパンチを何度も撃ったおかげか、それなりに疲れているご様子だが。はてさて、どうしたものか。逃げるか、応戦するか。2つに1つだ。
……あ、良い事思い付いた。
今のオレは金欠ナウ。金が無い。そして、目の前にはカツアゲをしていそうなチンピラ4人組。
もうここまでやればお分かりだろう。つまり、良い金づる見つけたという事である。
オレに迫りくる拳をただ握って受け止める。クローンであるオレの体は弄られているので中学生女子程度の身体にしか見えないが、それなりに身体能力は高い。まぁ、別にオレは殴ったりする訳ではないのだが。オレは
握った拳を伝って、相手に電流を流す。それだけでスタンガンを撃ち込まれたように相手は気絶する。体は崩れ落ちて、地面に倒れる。はい終了。
「てめぇ、能力者か!?」
その様子を見て、残った3人の内の1人が叫び、後退る。その瞳には能力者への嫉妬、畏怖、憎悪、羨望。色々な感情が入り混じった混沌とした感情が見えた。
「相手は1人なんだ! 3人一斉にかかれば勝てる!」
だが、1人がそう叫んだ事で何をどう勘違いしたのか、3人は俺を囲み、一斉にオレに飛び掛かってくるが、上に跳んで建物の壁に立つ事で拳を避ける。非能力者である彼らには、手が届かない高さの壁に立つオレに手を出す事は出来ないだろう。
能力の応用で磁力を操り、建物に埋め込まれた鉄筋コンクリートに作用させる事で壁や天井に張り付く事が出来るのだが、やはり壁に立つというのは些か違和感がある。
「ちっ! 卑怯だぞ能力者! とっとと降りて来い!」
オレに手出し出来ないと分かるや否や、阿呆な事を言いながら地団太を踏む男達。たった1人のオレに3人で襲い掛かってきたこの状況で奴らが卑怯とか言うとは思わなかった。自分達の事を棚に上げてよく言うよ。
男達に呆れながら、視界の端でこちらを呆然と見る男を見る。その男は、スキルアウト達に囲まれ、痛めつけられていた男である。スキルアウト達の注目がオレに向かっている内にとっとと逃げろという意思を示すように見つめ続ける。オレの考えに気が付いてくれたのか、その男はオレに頭を小さく下げてから、路地裏から出て行った。
「あっ、待ちやがれ!」
残った3人の男達の内の1人がその男を追いかける為に走り始める。だが、追いかける男との間に降り立ち、逃げる男を追いかけないように立ち塞がる。襲い掛かってくるが、先程と同じように避けるだけ。特に代わり映えのしない退屈な戦闘である。
ぶっちゃけ、顔しか分からない名も知らぬ人を助けるような善性をオレは生憎と持ち合わせていない。あの人が可哀想だから助けたいとは思わない。ここでスルーしたとして、スキルアウトが逃げた男に追い付いたとして、その結末は想像に難くない。それを想像しただけでなんか後味が悪い。後味が悪いから助けた。それだけである。
さて、あの男もそれなりに遠くに逃げた事だろう。これなら巻き込む事は無いだろう。オリジナルの御坂美琴よりも能力の範囲は狭いが、半径数メートル程度なら余裕で射程圏内だ。
全方位に人を気絶させる程度の放電を行う。蒼い雷光が路地裏を満たし、夜にも関わらず白昼のように辺りは一瞬だけ明るくなる。
男達は濁音だらけの汚い叫びを上げながら、白目を向けて地面に倒れた。
「どれほどの金を持っているのでしょうかとミサカは懐を漁りながら未だ見ぬ金銭に思いを馳せます」
4人の男達のポケットには財布が入っており、中身を覗いて見る。闇の取引でもしたのか、それともカツアゲで巻き上げたのか。どちらか分からないが、財布の中には平均して数万程度のお金が入っていた。財布の1つずつから1万円札と小銭を少々拝借する。これは貸してもらうだけだから。奪う訳じゃないからセーフ。死ぬまで返さないだけだから。
「げへ、げへへへとミサカは万札を見てゲスい笑みを零します」
それにしても、オレの口はどうにかならないのだろうか。自分の感情を勝手に口にしてしまう事が偶にあるのだ。オレ達
周りに気絶したスキルアウト4人組と財布から万札を奪う……じゃなくて、貸してもらうオレという絵面。なお、オレの容姿はバイザーで目を隠し、フードを深く被っている者とする。圧倒的不審者達の極み。
さっさとここから離れる事にしよう。そして、目的の物を調達する事にしよう。
その前にアンチスキルにスキルアウト達が路地裏で気絶していたと一部嘘の報告をしておく。アンチスキルが来る前にオレは退散しておけば、問題ナッシング。
良い物を貰ったよ、スキルアウト達。
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辿り着いたのは夜のスーパー。閉店まで30分程度という事もあって、人の数も殆ど無い。流石にめちゃくちゃ怪しまれそうなバイザーは上げておく。全身黒ずくめでハイライトのない瞳というヤバい姿をしたオレ。人の姿は殆ど無いとは言え、数少ないが人はいる。結果、めちゃくちゃオレに視線が集まる。
この世界で
これからの未来を憂いつつ、割引パラダイスのスーパーを堪能していく。そうは言っても、閉店間近のスーパーなので品薄状態なのだが。残っている品物を見つつ、どんな料理が出来上がるのかを考えながらスーパーを散策する。
スキルアウト達から金を巻き上げた理由は、料理を作る為の食材を買う為である。
それならば、何故料理を作る必要があるのかというと、すぐに分かる事だ。今はHIMITSU☆という事で。
さて、買う物だけ買って、目的地へ向かう事としよう。
……スーパーを散策中に不幸な主人公を見つけたとだけ言っておこう。
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「ここだなとミサカは現在地を確認します」
今の現在地は、とあるマンションの一室である。扉の横にある部屋番号を見てみると310号室。誰の部屋なのかというと……