彼らは旅の途中、とある温泉街に辿り着く。
そこには桃源郷で最もヤバい宗教が根付いていて……。
どこまでも続きそうな青い空の下を走る一台のジープ。
草原を走るその車には四人の男が乗っており、後部座席に座る見た目十五才程の孫悟空という名の少年が運転をしている二十代前半の黒い髪の青年に話しかけた。
「なぁ、八戒。次の街までまだ着かないのかよ。食料だってほとんど無いし、今日中に着かなかったら飢え死にしちまうよ」
悟空の声に反応したのは運転をする猪八戒という名の青年ではなく、少年の隣に座る赤い髪と瞳の悟浄という名の青年だった。
「お前がいつも考えなしにガツガツ食料を食い散らかすからだろうが。ちょっとは食う量を抑えやがれこのバカ猿」
「んだと!! しょうがねぇだろ! ちゃんと食わねぇと力出ねぇんだから!」
などと後ろでいつものやり取りをしていると八戒が小さく笑って答える。
「もう少し待ってください。そろそろ次の街が見えてくる筈ですから。何でも次の街はここらで有名な温泉街らしいですよ」
「温泉か。ここんところ妖怪の襲撃も多かったし、ちょーど良いかもな。それに温泉なら美人も多いだろうし」
「温泉も良いけど、美味い飯もあるよなきっと!」
後部座席の二人に八戒が乾いた笑いを漏らすと前の村で聞いた事を話す。
「ただ、気を付けて下さい。その街は少し問題もあるみたいですので」
「どういうことだよ?」
悟浄の質問に八戒がえぇ、と間を入れてから答える。
「その街の造ったのは元々桃源郷の外からやって来た宗教団体らしいんですけど。何でも、アクアという名の女神を信仰する宗教で、街の住民の大半はその熱心な教徒だそうです。だからか、訪れた人達にしつこい宗教勧誘や、他の宗教への風当たりが強い事で問題にもなってるみたいなんです」
八戒の説明に悟浄は助手席に座る金髪の僧に話しかけた。
「なら三蔵様は気を付けねぇとな。どんな難癖付けられるかわかんねぇし」
「ふん、くだらねぇ」
肩に乗せられた悟浄の腕を払ってこのメンバーのリーダーに当たる玄奘三蔵は興味無さそうに呟いた。
「あ。見えてきましたよ、皆さん!」
八戒が教えるとそこには外からでも分かる綺麗な街が視界に入った。
到着した街、アルカンティアという桃源郷では聞き慣れない名前の街に到着するや否や、街の住民に詰め寄られていた。
「湯治の観光なら是非私の宿へ!」
「アクシズ教へのご入信をご希望ですか? なら教会はこの大通りを────」
「当店自慢の温泉饅頭は如何ですか? 今ならお値段────」
「いや、えぇっと……」
等々と詰め寄るようにアピールしてくる街の住民にそれぞれたじろいでいると、1人後ろで割れ関せずを決め込んでいる三蔵を見て、住民の1人が質問する。
「その格好、もしや貴方は仏教徒の方ですか?」
「……だったら何だ?」
煙草を吸いながら不機嫌そうに返す三蔵。
相手が仏教徒と知り、さっきまで満面の笑みで集まっていた住民達が散っていき────。
「ペッ!」
と唾まで吐いて去っていく者まで。
その態度に三蔵が眉間に皺を寄せると八戒が提案する。
「もう日が落ち始めてますし、少し早いですが先にどこかのお店に入って食事にしてから宿を探しましょうか」
「飯! やっりぃ!!」
八戒の提案に真っ先に喜ぶ悟空。
三蔵を宥める意味での提案だったのだが、何も言わないのなら反対ではないのだろう。
少し歩いたところで大きめの飲食店を発見し、そこで食事を摂ることにした。
三蔵の姿を見て何か反応するかと思ったが女性店員はにこやかに注文を取って厨房の方へと消えていく。
未だに不機嫌そうな三蔵に悟浄がフォローを入れる。
「まぁいいじゃねぇか。三蔵法師だってバレる度に説法してくれって懇願されるよりはよ」
「うるせぇ」
妖怪の暴走により最高僧である三蔵法師を見るとやれ説法やら妖怪退治やらを頼まれる事がある。
その度に面倒そうに不機嫌になる三蔵だが、いきなりあんな態度を取られて愉快になるわけもない。
軽い雑談に興じていると料理が運ばれてくる。
頼んだ料理の半分が届いた時に先程の女性店員が注文を取った時と同じ笑顔で三蔵に話しかけた。
「こちらはそちらの仏教徒の方に当店からの特別サービスでございます」
言って、手にしている物を床に置く。
それは、犬の餌用の皿に置かれた骨だった。
「……」
固まる三蔵一向。
「ではごゆっくりどうぞ」
と去っていく女性店員。
すると三蔵が銃を取り出し、女性店員の頭に狙いを付け────。
「お、落ち着けって三蔵!?」
「抑えて抑えて!」
「こんなところで銃なんか取り出す奴があるか、このクソ坊主っ!!」
悟空、八戒、悟浄がそれぞれ三蔵を押さえ付けて椅子に座らせた。
三蔵が誰かを殺す前に明日、さっさと買い物を済ませてこの街を出よう。
そう決めた三人だった。
続きを書くかは知らない。