追記:2022年3月18日
pixiv様にも投稿させていただきました。
↓リンクはこちら。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17217774
今回はTwitterの方でとある作者様からお誘いを受け『ハーメルン作家フェスティバル(H.S.F)』と言う企画の方に参加させていただきました。
この場を借りてお誘いいただいた事、お礼申し上げたいと思います。
前置きはこの辺で、本編の方どうぞ。
突然ですが、星は好きですか?
今回お話しするのは、星が大好きでそんな星に導かれた少女と、その少女の元に集った4人の少女達によって結成されたガールズバンド『Poppin'Party』——通称『ポピパ』について。
少女達がどのようにして集ったか。その軌跡をお話ししたいところだが、今回はそれとは違うお話をさせてもらおう。
ポピパのキーボード担当で『蔵出しツインテール』の二つ名を持つ少女と、ドラム担当で『三刀流』の二つ名を持つ少女の2人に主眼を置いたお話を——
Poppin'Partyが結成してから早一月程経ったとある日の早朝、『ヤマブキパン』の中では開店準備に勤しむ1人の少女の姿があった。忙しく動き回っているため、少女のポニーテールに纏められた茶髪が動作の度に揺れ動いている。
「とりあえず下準備はこんなものかな」
一息吐いて微笑んだ少女は、作業台の上に置かれたミュージックプレイヤーの電源を入れる。
そこから流れてくるのは、彼女『山吹沙綾』が一度置いたスティックを再び握り音楽を奏でることができた
代わる代わる流れる
「そろそろ、かな」
曲を一通り聞かせ終えると、パンの形に整え天板に並べていく。そして、熱したオーブンに天板を入れる。
「さて、3人を起こさなきゃ」
彼女は弟である『陸』、『海』、『空』を起こすと、慣れた手付きで3人の身支度をする。
「よし、3人とも幼稚園に行こっか」
3人が朝食を摂り終わったのを確認した沙綾は弟達へそう告げる。すると、家の奥から沙綾の父が姿を現す。
「沙綾、今日は俺が連れて行くよ」
「え」
突然の言葉に困惑する沙綾は、その場で石像のように固まる。
「陸、海、空をお父さんが連れてくの?」
「ああ。だから今朝の店番、お願いするよ。それじゃあ、行こうか」
「「「はーい」」」
「行ってらっしゃい……あ」
それだけ言い残すと、沙綾の父は3人を連れて家を後にして行った。それを見送った沙綾は、慌ててオーブンの方へと戻り、手袋をはめ中身を取り出す。
「……外は大丈夫みたい」
並べてあるパンを一瞥した後、手近な物を手に取りそれを真ん中から2つに割る。
「中もしっかり焼けてるね」
笑みを溢しつつ天板に並んだパンのいくつかをバスケットに入れ、残りの全てを陳列棚へと並べていく。
「後は看板を出して、終わりかな」
天板を仕舞った後、店先に看板を出す。そして、扉にかけられた札を裏返し『close』から『open』へと変える。
開店作業の類を終えた彼女は、一度店の奥へと戻りエプロンを纏うと再び表へと出る。その直後、来客を知らせるベルの音が彼女の耳に届く。
「いらっしゃーい! あ、有咲ちゃん」
「お、おはよう……」
扉を潜りやって来たのは、金の長髪をツインテールに纏めた少女。彼女の名は『市ヶ谷有咲』 。Poppin'Partyのキーボードを担当している。
「どうしたの、こんな朝早くに」
「少し、話したくて……」
「んー、なになに?」
普段練習をしている時とは違った様子を見せる有咲に、首を傾げながら問い掛ける沙綾。
対する有咲は視線をあちらこちらへ泳がせ慌てふためいた後、恐る恐ると言った具合に口を開く。
「その……ポピパのことなんだけど」
「ポピパがどうかしたの?」
「——沙綾ちゃんは、ポピパのこと好き?」
予想外の問いかけに本日2度目の硬直を見せる沙綾だが、暫しの後笑い始める。
「ポピパが好き、か。そうだね……私はポピパの事、大好きだよ」
初めて会った日とは違う、屈託の無い笑顔で答える沙綾。
躊躇い続け、踏み出せずにいた以前の沙綾。それを変えてくれたのは紛れもなくボーカルの少女と、ポピパだった。
だから沙綾は、強く思った。もう二度と離さない、離したくない。自分を受け入れてくれた、自分が素直になれるこの場所を。
故に彼女はポピパが大好きだ。だから、有咲の問い掛けにもあの様に答えた。
「そ、そう…… なら、良かった…… 」
そんな沙綾の答えを聞いた有咲は、頬を紅潮させると沙綾から視線を外す。
有咲はポピパが大好きだ。メンバーの誰よりも。同時に、ポピパのことを誇りに思ってる。
そんな有咲は星に導かれた少女と出会い、バンドをやることを決めた。そして、その少女に導かれるようにして集まった裸足のベーシスト、俊足のギタリスト達との出会いなどを経て最後に目の前の少女、パンの香りのドラマーに出逢った。
そんな1番最後に入った沙綾だからこそ、有咲は不安だったのだ。もし、ポピパのことが嫌いだったら、と。
故に彼女は今日、朝早くから1人で沙綾の元を訪れた。すると、先のような答えが返ってきたではないか。
驚きと嬉しさが入り乱れた有咲は、急に恥ずかしくなってきたのだ。変なことを不安に思っていたと。
1人羞恥心と葛藤している有咲を前に、沙綾はカウンターに肘をつき言葉を溢す。
「ふふっ。有咲ちゃんも、ポピパが大好きなんだね」
「う、うん…… 」
「そっか。そういえば有咲ちゃん」
「うん?」
「学校、間に合う?」
店内に掛けられた時計を指で示しながら問い掛ける沙綾。問われた有咲はと言うと、沙綾の指が示す箇所へゆっくりと視線を向ける。
すると、時計の針は8時になろうとしているところであった。
「いけない! かすみん達と待ち合わせしてるんだった! ごめん、私行く」
「あ、待って。これ持っていって」
慌てた様子の有咲を呼び止めた沙綾は、店の奥から持ってきたバケットを有咲に手渡す。
「なにこれ……?」
「ウチのパンだよ」
「そ、そうなんだ……この『バンドリカレーパン』は、わかるんだけど、他のは一体?」
「1番左のが『しゃっふるコロネ』。真ん中のオレンジっぽいのが『夏色クリームパン』。その隣の雫みたいなのが『ルイテキメロンパン』。全部新商品なんだ」
「へぇー……」
沙綾の言葉を聞き、有咲の脳裏にはとある考えが浮かび気づいた時には言葉になっていた。
「つまり、私達に味見してほしいってこと?」
「うん」
「そう……じゃあ、みんなでありがたく食べさせてもらうわ」
「うん、気を付けてね」
手を振りながら見送る沙綾。すると、入口の扉に手を掛けた所で有咲が突如沙綾の方へと振り返る。
「——
不意な言葉に沙綾は思わず驚きかたまる。数瞬の後、有咲の言葉の意を汲んだ沙綾は大きく頷く。
「うん! わかった」
沙綾の応答を聞いた有咲は微笑むと、扉を開けてヤマブキパンを後にしていくのだった——
少しだけこのお話の余談をしておくと、有咲と沙綾のやりとりを物陰からそっと見守る沙綾の父の姿があったとかなかったとか。
さてさて、名残惜しいがここでこのお話は終わりにさせてもらおう。またどこかで別のお話をする機会があるかもしれない。ポピパにまつわる少女達のお話を。
それでは、私はこれにて失礼するとしよう。再び星の下でお会いしましょう。
ここまでの閲覧、ありがとうございました。
さて、今回H.S.Fという企画を通じて普段はできない体験ができ、私自身大変良い経験ができたと思います。
また他作者様との交流、と言った貴重な機会も得られとても有意義なものになりました。
今回の経験を生かし、これからと進歩していけるようにしていきたいと思います。
最後に繰り返しとなりますが、お誘いいただいた事お礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
【作家名】希望光
【代表作品】板挟み
https://syosetu.org/novel/212274/