これは、SAO(ソードアート・オンライン)の中でも、埋もれ、誰にも知られず戦った者の物語。

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復讐者

 薄暗い洞窟の中を、一人で歩く者がいる。

 

 深めの編笠のせいで、顔の上半分は見えない。ファンタジーな世界観のSAOにいる者にしては少し珍しく和装だ。左腰に差してある刀が、それに拍車をかけている。

 

 洞窟の奥へ奥へと歩みを進める。しばらく、草履の音だけが洞窟に響いていた。

 

 かなり歩いただろうか、急に足を止める。微かにだが、少し先のほうから話し声が聞こえる。

 

(ここか)

 

 システムウィンドウから、《索敵》スキルを発動させる。すると、カーソルが見えた。オレンジ色のカーソルだ。それを確認してから、歩いて話し声のした方へ向かう。

 

 そこは、とても大きな部屋だった。これくらいの広さがあれば、ボスモンスターがいそうなものだが、いたのは数人のプレイヤーだった。そして、その輪の中心に、黒いフード付きボロポンチョを着た背の大きな男がいる。突然の訪問者に、彼らは少し驚いているようだ。

 

(見つけた……!)

 

 そう思った瞬間、右手は腰の刀に伸びていた。そして、プレイヤー達に向かって突っ込む。

 

 プレイヤー達は、突然の襲撃に慌てて構えるが間に合わない。一人が抜き打ちを真正面から食らう。それだけで、HPゲージが二分の一持っていかれている。さらに、そこからの袈裟斬りで残りの二分の一も無くなった。パリンという破砕音と共に、斬られたプレイヤーは粉々になって消えた。

 

 再び構える。すぐに、別のプレイヤーが反撃してくる。しかし、それを難なくあしらい、また一人屠った。

 

(この下っ端どもを斬るのが、目的では無い)

 

 さらに、横からまた別のプレイヤーの剣撃が襲ってくる。身を捩ってそれを躱す。身体には当たらなかったが、編笠に命中した。編笠の耐久度は一瞬で全損し、パリンと音を立てて消え去る。今まで隠れていた顔の上半分が明らかになった。

 

「ハハハッ、なるほどな」

 

 ボロポンチョの男は、見えたその顔に見覚えがあった。

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の結成の日、つまり、二〇二三年の大晦日に殺した小規模ギルドのメンバーの一人だ。全員殺したと思っていたが、生きていたらしい。ボロポンチョの男、Poh(プー)は、思わず笑った。目の前のプレイヤーは、過去に仕留め損ねた奴で、それがノコノコとやって来てくれたのだ。すぐ、仲間たちの元に送ってやろうと考えた。

 

「……」

 

 さっきまで編笠を着けていた男、タクは、何も言わず、Poh(プー)を睨みつけていた。その目には、憎悪の炎が燃え盛っている。

 

(たとえ、何があってもコイツだけは殺す)

 

 ギルドの仲間を全員殺された復讐への執念が、タクをここまで突き動かしていた。

 

「お前らは下がれ。俺が殺る」

 

 Poh(プー)が下っ端どもを下がらせて、前に出てきた。右手に、《友斬包丁(メイトチョッパー)》という物騒な銘のダガーを持つ。今まで、多くのプレイヤーがこの凶刃の前に倒れてきた。

 

「シュウッ!」

 

 声を発して、Poh(プー)がタクへ突っ込む。殺人鬼と復讐者の、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 Poh(プー)は、何度もタクの攻撃を誘い、カウンターを狙う。しかし、タクは躱し、躱せずとも急所から外れたところで攻撃を受け、凌ぐ。タクは体術も交えて、Poh(プー)を崩そうとする。体当たり、脚払いなど、どんどん繰り出していく。

 

 戦闘は長く続いた。個々の技というよりは、集中力と精神力の勝負の体を成していた。一手でも間違えば、それは死を意味する。

 

 ここでタクの脚がもつれた。この機を逃すわけも無く、Poh(プー)はタクの左腕を斬り飛ばした。とどめを刺そうと右手を返す。

 

 絶望に染まるタクの顔が見られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクは、笑っていた。この時を待っていたというふうに。ここでPoh(プー)は、タクがわざと左腕を斬らせたことに気づいた。右手一本で、タクはPoh(プー)が《友斬包丁(メイトチョッパー)》を持つ、右手を斬り飛ばした。武器と利き腕を同時に失ったPoh(プー)は、何もできない。

 

 頭上から振り下ろされる刀身が、Poh(プー)を斬り裂く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グサッ

 

 タクの背中から前胸、ちょうど現実では心臓に当たる位置を、衝撃が通り抜けた。

 

 後ろには、Poh(プー)の下っ端の一人が、残忍な笑みと短剣をタクに向けて立っている。

 

(何……が……あっ……て……も、Poh(プー)だけ……は、Poh(プー)だけは……)

 

 パリン

 

 最後まで足掻くも、システムには、逆らえなかった。タクは死んだ。

 

 

 

「……ナゼ、殺した」

 

 Poh(プー)は、タクを殺した自分の部下に、そう問うた。

 

「あのままじゃリーダー死んでたじゃないっスか」

 

 カラカラと笑いながら、部下は答えた。

 

「Damn you !」

 

 Poh(プー)は残った左手だけで、その部下を力任せに殴り、短剣を奪って突き刺した。

 

 パリン

 

 怒りのままに部下を殺した。獲物であるはずだったプレイヤーに負けたことと、部下に獲物を横取りされたということへの怒りだ。

 

「shit!」

 

 怒りが収まらず、このままフィールドに憂さ晴らし(殺し)に出ようと思った。その時、

 

 

 

『ゲームはクリアされました』

 

 

 

 二〇二四年十一月七日、十四時五十五分。SAOはクリアされた。これにより、全プレイヤーは強制ログアウトされる。

 

「shit!!!」

 

 Poh(プー)はその事実に、怒ることしかできなかった。そして、ようやくここでPoh(プー)による殺しも、ここで終わりを迎えた。

 

 

 

 タクが討たれたのは、十四時四十五分。ゲームクリア十分前のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




はじめまして。僕は810ポッポと申します。(野獣じゃなくて鳩)
まずH.S.Fにお誘いいただきありがとうございました。
そして、最後の最後まで投稿できず、すみませんでした。

代表作
カズとリサ
https://syosetu.org/novel/264408/

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