何事も、過程こそ楽しいもの。
仲良く喧嘩して、笑いあって。
そんな日々よ、永くあれ。

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アオい月が昇って

 去る者は日々に疎し、来る者は日を以て親しむ。要するに、心の距離は物理的な距離に強く影響される、という事だ。そういう意味では、今の私は大きなアドバンテージを得ている。猪股家に寝起きしている私と大喜くんの距離は、殆どゼロに近い。隣同士に座っている事もあるし、部屋が隣同士だから寝ている間の距離も壁一枚。その気になれば、すぐにでも寝顔を覗きに行ける。ただそれは、再来年の春まで。卒業したら、二人の距離は一気に遠くなる……だろう。進路がまだ不透明とは言え、当初の話では「卒業するまで」となっている。その間に、そう。その間にどうにかしなければいけない。

 しかし、問題は山積みだ。何より大喜くんが、どうにも色々鈍すぎる。蝶野さんに好かれてる事さえ全くわかってないようだし、私の気持ちなんか気付いてもいないだろう。お風呂あがりのホコホコした状態で部屋まで行ったときとか、内心かなりドキドキしたんだけどな。ミサンガ巻いてあげた時も、可愛さにニヤけそうになったんだけどな。笠原くんから聞いた話では、私と結婚したいとか言ってたらしいけど、それはファン心理みたいなものなんだろうか。

 ――結婚、ね。そういう選択もアリかもしれない。問題は大喜くんが私の一個下だから、18になるまで待つ必要がある事。私が猪股家を出てからそれまでの間、蝶野さんが猛アタックしてきたりするとアブナイ。いっそ事実婚みたいな感じで居座ろうかな、大喜くんのお母さんからも度々「うちへお嫁に来たと思って、リラックスしてね」って言われてるし。……うん。あの人も相当だ。

 

 学校で、二人。お互い壁の裏表にそれぞれ背を預け、蝶野さんと今日も話す。並ぶ事も向かい合う事もなく、背を向け合う間柄。まあ、傍から見れば険悪だろう。でも蝶野さんと話していて、そんな空気になったことはない。お互い口にするのは、大喜くんの事ばかり。それが、楽しい。当の大喜くんは全く気付いていないのだが、私と蝶野さんはお互いの本心を吐露しあっている。そして、自分より相手の方が大喜くんにふさわしいと思いながらも、一切諦める気はない。本当に、気が合い過ぎている。大喜くんを手にしたとして、この「親友」を失う事は大きな痛手だ。お互いきっと、そう思っている。多分。だから、抜け駆けはしないとかそういう事は口にしないししてほしくない。しようと思えば出来るけど、出来れば裏切りたくない。もし蝶野さんが才能と美貌を鼻にかけたイヤな後輩だったら、遠慮無く潰してあげるんだけど。こんな良い子を傷付けるような、忘恩負義な真似はしたくない。

 しかしそうなると、何も出来なくなってしまう。期限はどんどん近づくのに、私はどうすれば良いのか。全く大変だ。

 

 大喜くんからどっちかへ告白して来れば、それで解決するのだけれど。

 そう、それが最善だ。どっちへ来ても丸く収まる。

 でもなぁ、大喜くんだからなぁ……。そう言うことが出来るタイプじゃない。そんな勇気があるなら、とっくに私はオトナの階段を登っている。だって隣の部屋にいるんだもん。鍵無いし。……それが出来ない絶妙なヘタレっぷりと無差別な優しさが、彼の可愛さではあるのだけれど。あるのだけれども、残酷だ。このまま時間切れで蝶野さんが不戦勝か、もしくは私が抜け駆けしてゲットしちゃうか。どっちにしても、良い結果ではない。遺恨も残るし血を見るかもしれない。ああ、嫌だ嫌だ生臭い。もっと明るく行きたいのに。

 

 そんな思いを抱えたまま、今日も夜は更けていく。隣室で幸せそうな顔をして眠っているであろう大喜くんを思い浮かべてはニヤニヤし、ベッドの上で転がる私。そしてスマホに丁度届いたのは、蝶野さんからのお休みメッセ。毎度絶妙なタイミングで来ては、隣へ行こうとする私を引き留めてくれる。まったく、勘が良いのか何なのか。

 嗚呼――、楽しい。何も解決していないし時間もない、傍から見れば空転しているだけの無駄な日々。でもそれが、堪らなく楽しい。これからも、続いてほしい。無理なのはわかっているけど、ずっとずっとこの曖昧な関係でいたい。

 月を見上げ、思い描く。

 誰も傷付かない、幸福な結末を。


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