異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第11話 義妹嫁騎士と事件の顛末

「なるほど、それはずいぶんと難儀したね」

 

 車輪花火亭の一件から数日後。カルレラ城に参内した私は、お兄様に事の次第を報告していた。

 

「それじゃ、ひとまずエルフたちは海軍で面倒を見る流れになったわけか」

 

「いちおうそうなったわ。ま、当の海軍がまだ実態のない組織だから、実際の入隊はずいぶん先になるでしょうけど……」

 

 海軍の現状と今後の見通しを説明されたリッカらエルフ三人衆は、募兵が始まればすぐ応じると請け負ってくれた。ロシアンルーレット(モダン肝練り)のタネが割れちゃったときはどうしようかと思ったけど、なんとかなって良かったわ。

 とはいえ、これでめでたしめでたしというわけにもいかない。自暴自棄になっている不良エルフはリッカたちだけではないからだ。私個人の任務はおおむね完了したけれど、国としてはむしろここからが正念場かもね。

 

「聞いた話じゃ、彼女らのようなエルフは何百人といるみたい。この連中も海軍で面倒を見てあげることはできるのかしら?」

 

「本人たちのやる気があればね」

 

 澄ました顔で頷きつつ、お兄様は香草茶の入ったティーカップにブランデーを垂らす。

 

「カリーナの言うとおり今の帝国海軍は絵に描いた餅……もといパンに過ぎない。しかしだからこそ、それを実体化させるためにはたくさんの人材が必要になる。畑違いとはいえ軍隊経験者を海軍で活用するというのは良いアイデアだ」

 

「へへへ……まっ、思いついたのは私じゃなくてアンネだけどね」

 

 あの時は熱くなってずいぶんと偉そうな口を聞いてしまったけれど、正直に言えば私の頭にはエルフたちの再就職をどうするかという具体的なプランはまったく浮かんでいなかった。本当、アンネが名案を思いついてくれて良かったわ。

 

「名将と名作戦家はイコールではない。部下の閃きを生かすのも将の仕事のひとつさ。良い将校になったな、カリーナ」

 

 お兄様は機嫌良さげに笑うと、私の頭をワシワシとなでた。乱暴な手付きだけど、それがむしろ心地よい。自然と頬が緩み、「うへへ」と声が漏れる。

 こうやってお兄様が頭を撫でる相手は、実は私だけだったりする。義妹の特権ってやつね。時々ソニアお姉様やアデライドお姉様に羨ましがられるけど、もちろんお兄様にそれは伝えない。恋愛と戦争ではあらゆる戦術が許される、なんて名言もあるからね。せっかくのアドバンテージを手放すほど私は甘い女ではないわ。

 

「しかし、そうなると遅くとも今年中には退役兵向けのキャンペーンを打ちたいところだな。我々は再び君たちを必要としている! ってさ」

 

 しばしのなでくりのあと、手を引っ込めたお兄様がブランデー入りの香草茶を啜りつつ言った。なんとも楽しげな口調だ。

 

「流石にそれは気が早くないかしら。海軍の創建はどう頑張っても数年はかかるんでしょ?」

 

「数年で芽が出たら御の字だな。今のリースベンには船を作るノウハウも船乗りを育てるノウハウもない。なのに、海軍はそのリースベンが主体となって建設する予定なんだ。かなりの茨の道になることは間違いないだろう」

 

 改めて聞くと本当にムチャクチャなことをやろうとしてるわね……。呆れた心地になり、思わずため息が漏れた。

 いや、実のところ現状の連合帝国にも海上戦力自体はあるのだ。ただしその持ち主はノール王国やガレア王国であって、中央政府ではない。

 中央集権体制を構築するにあたって、この状況は非常に厄介だ。そこで、政府はリースベン独力での海軍創建を目指すことにしたらしい。

 つまり、有り体に言えば中央と地方の勢力争いというわけだ。それに巻き込まれる現場の人間はたまったものではない。うんざりするのも当然のことだった。

 

「そして、そういう困難な事業だからこそ、海軍の整備に拒否感を示す軍や政府の高官は多い。せっかくガレアやノールが独自の海軍を持っているんだから、海関係の仕事はそちらに任せれば良いじゃないか……そういう理屈だな」

 

「コストだけ見れば、実際そっちのほうが安くつくしね。でも、そういう訳にはいかないんでしょ?」

 

「そういうこと。……まあ、つまりは政治だな。連合帝国の四王国の中で、いちばん国力も兵力も少ないのがリースベンだ。アデライドとしては、この不均等を海上利権の力で解消するつもりらしい」

 

「雲の上の人たちもあれこれ悩むことが多くて大変ね。……で、それがどうして海兵の人員募集を前倒しすることに繋がるワケ?」

 

 内政のことを考えればそりゃあ帝国内の勢力均衡は大切なんだろうけど、末端のいち少佐が関わるような領分の話ではない。もちろん完全に無関心なのもどうかと思うけど、ひとまずは目の前の仕事がどうなるかのほうが大切だった。

 

「ふふふ……言ったろ? 政府内にも反対勢力がいるって。そういう連中が何か妨害を仕掛けてくる前に、既成事実を作っておくのさ」

 

「ほう」

 

 既成事実って言葉、なんかエロくない? 脳裏にそんなくだらない感想が流れたけど、気にせず真面目くさった顔で話の続きを促す。

 

「計画段階の事業を潰すのは簡単だが、実際にヒトやカネが動き始めていればそうはいかない。反対派の足並みが揃う前に先手を取っておきたいんだ」

 

「わあ、セイジテキぃ。お兄様もやるようになったね……」

 

 かつては政治オンチだったお兄様も、今ではこんな感じで自ら政略を仕掛けることも増えてきた。正直、ダライヤ婆様から悪い影響を受けているようにしかみえないのよね。

 いや、立場を考えれば政治的なセンスを磨くのは当然のことなんでしょうけど、現役軍人時代のお兄様を知ってるとねえ……。

 

「仕方ないよ。これも仕事の内なんだからさ」

 

 私の言葉に含まれたニュアンスを読み取り、お兄様が苦笑する。

 

「それに、出来るだけ早く動き出したほうがエルフたちのためにもなる。希望だけ示してそれがいつ実現するのかわかりませんではあまりにも不義理だからな」

 

「それは間違いないわね。エルフたちってだいたい短気だし」

 

 でも、変わっていないところもある。それがこの、軍人や退役兵に向ける優しさだ。お兄様的にはむしろ海軍反対派への牽制というのはオマケ程度のもので、本来の目的は不良エルフたちの救済のほうだろう。

 

「そこはノーコメントで。……まあ、待たせて良いことはないのは確かだ。今から出来ることはやっておいた方が良いかもね」

 

「出来ること? そうはいっても、当の海軍がまだ影も形も出来てないんじゃどうしようもないんじゃないかしら」

 

 小首をかしげつつ、香草茶を啜る。私は基本的に豆茶派だけど、最近はお兄様に合わせてこちらを飲むことも増えてきた。

 

「その前準備さ。組織を作るにしても、人員がいないことにはどうしようもない。まずは基幹人員の育成をしなきゃいけないわけだが、そこにやる気のあるエルフを突っ込もうかと思っている」

 

「育成、ねえ。昔ながらの騎士修行みたいに、師匠にくっついて何年も下積み……みたいなことをするわけじゃないんでしょ」

 

「もちろん、そりゃあね。そのやり方で海軍軍人を揃えようと思ったら、時間がいくらあっても足りやしない」

 

 そう語るお兄様の顔には自信ありげな微笑が滲んでいる。かつて、指揮官として敵軍を翻弄していたときに浮かべていた表情と同質の表情だった。

 

「なので、今回は既存の教育機関の力を借りる。具体的に言うと、ガレア王国の民間商船学校だ」

 

「商船学校……?」

 

 どうにもピンと来ず、小首をかしげる。そもそも私は内陸出身で、海のあれこれには疎いのだ。

 

「その名の通り、商船の乗員を育成するための学校だよ。航海とか、天測とか、通信とか、そういう船乗りにとっては必須の技術を教えているところだ」

 

「ははぁ、なるほどねえ。よく考えると、船乗りって技術職だものね……」

 

「そうそう。ま、高等技術が必要なのはもっぱら士官レベルのことで、一般水婦に関してはそこらの食い詰め者を一山いくらで雇ってきて乗っけているのが実情らしいが」

 

 香草茶のカップを片手に説明してくれるお兄様。なるほど、船の世界は民間でも一般兵と士官で立場が分かれているのね。で、商船学校というのはその士官を育てるための学校と。……最近リースベンで開設されたばかりの士官学校とかいう組織と同じようなものかしら?

 

「軍と民の違いはあれど、船乗りとしての基本的な技能は共通してるだろ? とりあえず、当面はそこに頼んで人材を育てて貰おうと思ってる」

 

「でも、その学校とやらはガレア王国にあるんでしょ。海軍創設はリースベン独力でやるって話だったけど、大丈夫なの?」

 

 結局ガレアの力を借りるなら、最初からガレア海軍に助力を受けたほうが話が早い気もするけど。

 

「なぁに、大丈夫さ。……知ってるか? ガレア王国の海運の七割はアデライドの実家が取り仕切ってるんだ。当然、商船学校の運営に関しても一枚どころか十枚くらい噛んでる」

 

「わあお」

 

 アデライドお姉様の実家、怖すぎる。ガレア王国の経済界って、もしかしてアデライドお姉様に牛耳られてる? なんか、今さらながらかつてのヴァロワ王家が宰相派に謀反の疑いをかけた理由が分かってきたかも。

 

「すでに来年の入学枠はある程度抑えてあったんだが、そこに送り込む人員に関しては選定に難航していてね。今回の話は渡りに船だった」

 

「それは良かった。……ん? 待って? つまり……何? あの不良エルフどもを、その商船学校に投入しようとか思ってる?」

 

「最初からそう言ってるじゃないか」

 

 ちょっと心外そうな顔で頷くお兄様。ええ……学校に、エルフを!?

 しかも、話を聞く限りその商船学校とやらはなかなかの高等教育機関に思える。そういう場所はだいたい入学金や授業料が高いから、入ってくるのはもっぱら貴族やら裕福な商人やらの上流階級の子妹(しまい)のハズ……。

 そういう人たちに混ざって、あのド蛮族どもが勉強する? いや、いやいやいや、ヤバイでしょ。どう考えたってヤバイ。長閑な牧場に虎の大群を放流するようなものだ。

 

「だ、大丈夫なの、それ……」

 

 思わず声を震わせながら聞くと、お兄様はニッコリと笑って答えた。

 

「意外となんとかなるんじゃない? ……案ずるよりチェストするが易し、とも言うしさ」

 

 チェストしちゃダメ!!!!

 

蛇足編① エルフたちの戦後 了




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コミカライズ企画も進行中ですので、そちらもよろしくお願いいたします。
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