平行未来観測女   作:丸米

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21 原作を踏襲しているとも言えるし、そうでないとも言える

 眼前に、死が降り落ちてきた。

「……」

 

 この光景も、実のところ天王寺は見えていた。

 この、近界民を倒した果てにある末路。

 おおよその場合は仲間内に殺され黒トリガーが回収される。その末路が──このエネドラという名の近界民の運命であった。

 

「……巴君。大丈夫ですか」

「……は、はい」

 

 大人びているとはいえ、巴虎太郎はまだ中学生だ。

 生身の死。それも──こうして"殺害された"死体を前に動揺するなという方が無理であろう。恐らく、トリオン体でなければ──青ざめた顔色を浮かべていたであろう。

 

「……俺が、この近界民を本部まで運ぼう」

 

 そう三輪が切り出した。

 

「天王寺はまだこの現場に必要だろうし、最年少の巴に遺体の移動などやらせるのは酷だろう」

「申し訳ありません。頼めますか?」

「ああ」

 

 三輪は状況を察したか、そう自ら切り出した。

 エネドラの死体は貴重なデータ源であり、本部に持って行く必要がある。そもそも警戒区域内とはいえ、近界民の遺体をそのままにしておくわけにもいかない。

 死体を抱えて本部まで連れて行くにあたり。黒トリガーを持つ天王寺にはまだ現場に残る必要があり、年少の虎太郎にやらせるわけにもいかない。必然的に、三輪がやる必要が生まれていた。

 

 が。

 

「……三輪先輩」

「なんだ?」

「この遺体は、おれに運ばせて下さい」

 

 虎太郎は。そう三輪に言った。

 

「無理をする必要はない」

「……この状況はおれがやるべきなんです。戦力で判断するなら、おれよりも、三輪先輩が残るべきです」

 

 天王寺を死なせない為に、行動する。

 エネドラという危機が去ったところで、まだ天王寺はこの戦場に緊急脱出なしで残るのだ。

 ならば。この場における最善を選ばなければいけない。

 だから、自分なのだ。

 

「……」

 

 三輪は一つ溜息をついて、

 

「解った」

 と呟いた。

 

「東さん。聞こえますか」

 そして、そのままB級連合部隊の指揮を取っている東春秋へと通信を行い、状況の報告を行う。

 

「巴。指定された場所で、死体の引き渡しを行え。場所は東さん経由でマップ上にマーキングしてある」

「……はい!」

「無理はしなくてもいい。最悪それは途中で捨ててもいい。──天王寺に対してお前が言ったように。自分の身の安全を第一に考えろ」

「了解です!」

「なら、頼んだ」

 

 虎太郎は肩にエネドラの死体を担ぐと、一瞬表情を強張らせたが──すぐに切り替え、そのまま所定の場所へと向かっていった。

 

「……ありがとうございます、三輪君」

「礼を言われるような事はしていない」

「いえ。──この侵攻が終わったら。言葉以外のお礼をしなければいけませんね」

 

 そう天王寺が言った瞬間

 

「……」

「三輪君?」

「天王寺──ならば、後からでいい。正直に、俺の質問に答えてくれ」

 

 正直に、という。その言葉に。

 天王寺は──何の質問が後々されるのか。確信を覚える。

 

 ──そうか。気付いていたのか。

 

「……了解しました」

 

 かつて、一つの侵攻があり。その中で進んだ道の中。

 二つ目の侵攻の中で──またしても、過去の己の行動の結果と向き合わなければならなくなってしまった。

 

 これもまた、己の運命なのだろう。

 

「では、我々もB級の連合部隊と合流し、トリオン兵の駆除に向かい──」

 

 そう言葉を紡ぐ前に。

 ──己が副作用が、発動していた。

 

「……!」

 

 それは。

 狙撃手用トリガーのレティクル越しに見える、己が後頭部。

 誰かが、今自分を見ている。

 その光景に、思わず振り返った先。

 見えたのは──

 

「……三輪君」

「なんだ」

「申し訳ありません。──まだ、人型近界民とやりあわねばならないようです」

 

 あの時に観測した未来が。

 変化し、絞り込まれ、そして──その分岐点が近づいて行く瞬間を。

 

 

「ありがと」

「.....うっす」

 

 天王寺とエネドラの交戦区域から五百メートル程離れた区画。

 迅は──B級荒船隊隊長、荒船哲次より借り受けたイーグレットを返却する。

 

「──さて。残っているのは、三人か」

 

 アフトクラトルによる大規模侵攻。

 高機動と超火力を併せ持ったランバネインはB級合同部隊により倒され。

 黒トリガー使いのエネドラはたった今討ち取られた。

 

 残るは──敵の首魁、ハイレインに、特殊な磁力のトリガーを操るヒュース。

 

 そして。

 最強の老兵──ヴィザ。

 

「ここが上手くいくかどうかの瀬戸際だ。──頼んだぞ」

 

 

 時は、少々前後する。

 

「ふむ」

 

 爆音と共に建造物が破砕され。

 煙の中──悠々と、黒マントを羽織った老爺が進んでいく。

 

 間髪入れず、空より曲がりくる弾丸が降り落ちていく。

 

「いい兵士だ」

 

 ハウンド弾の軌道を一目見て。

 着弾箇所を見抜き、老爺は軽く前へ走る。

 

 建造物の間を縫うようにステップを踏み、──突撃銃を構えた黒服の男が引き金に指をかける。

 

 掃射に対し、老爺は回避行動を取ると共に。弾丸の方向へと視線を向ける。

 それと同時。

 伸びる剣閃が、老爺へ向け放たれる。

 

「足止めを最優先にしろ。──距離を保つぞ」

 

 二宮の指示が、隊に行き渡る。

 旋空で老爺の進行から足を止めさせると共に。

 

 二宮のフルアタックハウンドが老人へと降り注いでいく。

 

「成程。厄介だ」

 

 フルアタックの間隙に。犬飼が横手から射撃を挟んでいく。

 

 ──足止めの目的がはっきりと見える動き。広範囲の面攻撃に、横手からの射撃と斬撃。シンプルだが有効な手段。

 

「では。こちらとしても得物を納めている訳には参りませんな」

 

 老爺が持つ杖に光が灯り、その周囲に円状の紋章が浮かび上がる。

 灯ると同時。──老爺は体軸の向きを変え、その杖を向ける。

 

 丁度。

 建造物の影より旋空を放たんと現れた辻と、ピタリと合致するタイミング。

 

「──星の杖(オルガノン)

 

 それは。

 辻が刀を振り切るよりも速く到来する。

 音もなく現れ、風圧のみを運ぶ何かが──辻の胴を両断していた。

 

「──黒トリガーを出したな」

 

 見えない。

 不可視の斬撃が空間に漂っている。

 ──この状況も、想定済みだ。

 この老爺の"見えない攻撃"に対しては、もう情報を得ている。

 その対策も、また。

 

「──よぉ、オールバックジジイ。堤みてぇな目してんな。捨て駒参上だぜ」

 

 両側から、バッグワームを解いた二人組の男の姿。

 

「読んでおりますよ」

 

 ヴィザは焦る事なく、──というより、二宮隊の動きから伏兵の存在は完璧に読んでいたのだろう。奇襲に焦ることもなく、斬撃を両者に浴びせる。

 共にトリオン体を断ち切られながらも──散弾の引金を絞る。

 

 放たれた弾丸は老人に一発も当たる事なく、空に弾け消えてゆく。

 

 が。

 

「ほう」

 

 弾かれたその弾丸から、マーカーが一つ浮かび上がる。

 

 ──スタアメイカー。

 銃手、射手専用オプショントリガー。

 

 着弾箇所に対しレーダーによる追跡を可能とさせる機能を持っており、──例え不可視の物体であろうとも、その効果は発揮される。

 

「……成程な」

 

 諏訪隊の散弾が示した、ヴィザの黒トリガー。その正体はーー。

 目視不可能な攻撃の正体は──旋回する刃の集合であった。

 

 スタアメイカーにより追跡をかけた結果。レーダーにもはや計測が追いつかないほどの速度をもって回転する刃が、幾重にも存在していた。

 

 カメレオンのような、トリオンで視覚情報を遮断する効果でもあるのかと想定していたが──もっとシンプルな理屈であった。

 

 速すぎて、見えない。

 

 そしてシンプル故に──タネがわかったところで、対策が難しい。

 それが。

 アフトクラトルの国宝──黒トリガー、星の杖。

 

 諏訪隊の両者が両断された後。横合いからの辻の旋空が遅い来る。

 が──伸び上がる剣先を、星の杖にて弾かれる。

 

「横の回転から、縦に軌道変化したやつがある! ひさと気を付けて!」

「……!」

 

 辻の攻撃から、上側からの奇襲を狙っていた諏訪隊攻撃手の笹森は。バッグワーム解除からのカメレオンの起動をしようとして、直前に取りやめる。

 

 読まれている──というより。カバーされている。

 あらゆる可能性を考慮して、意識外のリスクを潰しているのだ。

 

 間違いなく、この老爺は歴戦の兵なのだろう。

 ボーダーが出来上がるよりもずっと前から。トリガーによる戦争を戦い抜いてきた老兵。

 

「ふむ。上からの攻撃は取りやめられましたか。やはり、軌道が読まれてますな」

 

 剣先を跳ね除けられた辻は、首を両断される。

 

「ふん」

 

 隊の二人を失い──時間稼ぎも限界であろうと二宮は判断する。

 十分な情報は得た。

 あともう一つでも何かしらの成果を上げられれば、十分であろう。

 

 小佐野から与えられたスタアメイカーのレーダー情報を見る。

 その軌道を頭に入れ、二宮は動き出す。

 

 キューブを作成し、放つ。

 星の杖の軌道上へと。

 

 キューブが刃とぶつかり、爆煙を生み出す。

 瞬間──二宮がポケットから手を出し、指差したその先。

 

 二宮のトリオン体が斬り裂かれる、ほんの一刻前。

 

 射程も威力も大きく削り、速度にパラメータを振った弾丸が──ヴィザの右足に突き刺さる。

 

「ふむ……」

 

 二宮と共に。

 上から切り掛かってきた──笹森も同時に、緊急脱出。

 

「敵ながら、よい兵士でした」

 

 二宮は──星の杖の軌道から、ヴィザが上にいる笹森に対してもケアをしている事を読み取っていた。

 その軌道を読んで、笹森は奇襲を諦め。

 その諦めをヴィザもまた読み取り、上への警戒は解かぬまま二宮と相対していた。

 

 上への意識が、ヴィザにはある。

 そこを利用する。

 

 メテオラによる爆炎からの、笹森の今更な急襲。

 隙を突く事を諦め。視界を塞いでの急襲に賭けた──と見せかけての。

 

 実質は、二宮のアステロイドをヴィザの足先へと食らわすための布石。

 

 これまでヴィザに対し、二宮のハウンドと犬飼のアステロイドを見せつけ。

 曲線と直線の攻撃で緩急を作り、足止めをしてきた。

 

 ここで、今まで繰り返してきた攻撃に更に緩急をつける。

 二宮の高トリオンにて速度にパラメータを振った、最速の弾丸。

 

 諏訪隊の二人の犠牲の下黒トリガーの情報を得て。

 積み重ねの行動に布石を散りばめ。

 笹森の急襲に意識を割かせ。

 

 そして──ようやく掴んだ好機のもと、二宮の捨て身をもってしてヴィザへの一撃へと結実した。

 

 手傷一つ負わせるにも、──これだけの犠牲が要請される。

 それが、ヴィザという敵兵であった。

 

 

 十分量の雛鳥を確保し。アフトクラトルの目的は金の雛鳥の確保へと移る。

 

 新型トリオン兵ラービットを周囲に散らし精兵の位置をバラけさせ。

 高機動と高火力を両立したランバネインに戦況の撹乱と兵の引き付けを。そして黒トリガー持ちの天王寺を捨て駒のエネドラに相手をさせ。

 ──ヒュースとヴィザの二人が、雨取千佳の確保へ動く。

 

 ヒュースは現在玉狛第一と風間隊の合同で相手をしており。

 そして。

 エネドラ亡き後のヴィザは、その役目を引き継ぐ。

 

「さて」

 

 自らの役割は囮。

 さあ来い──黒トリガー。

 

 

 そして、

 

「次の相手は貴方ですか」

 

 黒ずくめの、白髪の少年が──眼前に現れる。

 

「強そうな爺さんだ」

 

 空閑遊真。

 浮遊する自律型トリオン兵を従え、──最強の老兵の前に立つ。




ここでの遊真は鉛弾の学習をしていない代わりに新しい何かがあります。
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