美貌バいろいろ   作:SunGenuin(佐藤)

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以下のIFを下地としたIF話です。

IF:それは夢にまで見た(サイレンススズカ全弟主人公)
https://syosetu.org/novel/259581/32.html

【大百科】【IF】シャイニングスズカ(IFサイレンススズカ全弟ネタ)
https://syosetu.org/novel/270791/9.html

あくまで下地なのでいくつか設定が異なります。


【IF】シニアになったシャイニングスズカの一幕

 わずか一年で世界の頂点に立ったと言われる美貌のウマ娘。

 

 最速の希望、シャイニングスズカ。

 

 姉の夢を継ぎ、叶え、そして自分の夢さえ成就させた。

 その眩いまでの白さと、他の追随を許さない走りで大勢を魅了する。

 彼女の前に人は無く、後に残るのはえぐれた芝の無残な姿。

 そんな彼女のことを、人は、純白の天使……あるいは ── 白い悪魔、と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 昔、昔、あるところに。

 純白の美貌馬がおりました。

 その美貌馬はとにかく顔が良く、毛色も良く、愛想も良く。

 それでいて良く走るため、人間からたいそう愛されました。

 ついでに同性馬からもドチャクソ愛されました。夜しか眠れねえほどに。

 現役期間はわずか1年ながら、打ち立てた功績は綺羅星の如く。

 やがて美貌馬は引退し、種牡馬になり、多くの子供を残すことになります。

 そして最後まで人の愛に包まれて、その天寿を全うしたのです。

 

 今は馬たちの天国 ── 虹の向こう側でキャッキャウフフしているはずの彼は、しかし、なぜかウマ娘になっていました。

 

 

 

  ── ということで、ハイ。

 俺です。

 シャイニングスズカです、どうも。

 

 いやあ1度あることは2度あるって言うけどね、ねえ。

 誰がウマ娘になると思ったんだよ、なあ、オイ、オイったら。

 

 マジでね。普通想像しねえんだよ馬の次はウマ娘って。

 いや、分かる、俺も分かってる、確かに神は言いました。

 牡馬とぼばぴょいしないと来世は人間になれないって、確かにアイツほざいてました。

 でも考えて見てくださいよ。

 俺、1997年産まれ、2021年没。

 現役時代は丸1年間全力疾走で駆け抜け、引退したかと思いきや過酷な種牡馬生活。

 誰だよ種牡馬は男の夢とか言ったの。

 日に3回、多いと4回腰を振る毎日が楽園生活なわけねえだろうがよ……!

 俺が純粋な馬ならともかく中身人間だったからな、そこらへんも結構苦労したんだぜ俺は。

 

 けど兄ちゃんが遺せなかった分も俺がハッスルしないと、と思って踏ん張ってきたわけです。

 仔はやっぱり可愛いし、勝ち上がってる話とか聞くと嬉しくなるしな。

 人間たちにもだいぶよくしてもらったから、まあ生活全体への文句はねえよ。

 最期も心温まる旅立ちだったからよぉ!

 ねえけども、それとこれとは話が別!!

 

「サン! 支度は済んだの?」

「済んだぁ……心の支度は済んでないけどぉ……」

「わけのわからないこと言ってないで、早く出てきなさい!」

「あい……姉ちゃん……」

 

 ちょっと唸りながら紫のスカートをはたく。

 そう、スカート。スカートってあれね、どこかの国の男の伝統衣装とかじゃなくて、主に女の子が着るアレね。

 俺もほら、転生した今はいたいけなウマ娘ちゃんだから……は? ウソじゃないんだが?

 ベリベリキューなウマ娘ちゃんなんだが??

 

 そう。

 

 ウマ娘。

 それは異世界の名馬の魂を宿す少女たち。

 彼女たちは走るために生まれる。

 異世界で過ごした記憶などなく、ただ、走りたい、頂点を目指したい、極めたい、そんな気持ちだけを持って──……。

 

 俺もそんな気持ちだけ持って走りたかったわ。

 無理だったけどな!!

 だって思い出しちまったよ、俺が元気いっぱいの牡馬だったことも、さらに前は過労死した社畜だったことも!

 

 まあ、あの、よくよく思い出せば記憶自体は断片的にあった、うん。

 なんかこれやったことあるな~、的な感覚がちらほらあったのだ。

 見える景色や触れるもの、聞こえてくる内容諸々に、謎の既視感。

 家族で出かけた公園の草を口に運んだのだってこの謎の既視感に突き動かされてだから。

 別にお腹すいてたからじゃないよ、本当だよ、サン嘘吐かないよ。

 

 ……ごほん。

 けどそれがくっきりはっきりばっきり見えるようになったのは、トレセン学園に入学してからだ。

 

 きたこともない場所のはずが、どうしてか懐かしい。

 初めてあったはずのウマ娘が、どこか尊く愛おしい。

 

 この気持ちの所以を探し、考え、求めている中で、ふっと思い出したわけだ。

 

「オレってば前世U・MAじゃん!?」

 

 ユーマ(ヅラ)じゃない、(かつら)だ。

 じゃなくて、未確認生物じゃなくて競走馬だった記憶。

 早逝した兄・サイレンススズカの分もとっとこ稼いできたる、じゃない、走って来たるわ、で駆け抜けた現役の1年間。

 鞍上・タッケさんにケツを叩かれた日々。

 周りの馬に追いかけ回された苦い記憶と共に、24年間の軌跡が頭にぶっ叩かれた方の身にもなってほしい。

 半日寝込むハメになったんだぞ。

 それに馬からウマになった混乱も ── いやごめん、騒いどいてなんだけど特になかったわ。

 よく考えたら馬もウマも大して変わんねえしな。

 強いて言うなら二足歩行できるようになったのと繁殖の概念がないくらいだし。

 コレに関しては丸1日悩んだ後に受け入れた。

 なった後に考えたってしゃーない。

 俺、じゃなくてオレの冷静な部分がそう囁いてた。うん。

 

 ん? 軽く考えすぎ?

 いやいや、難しく考えたって辿り着く答えが一緒なら軽く簡単に考えた方が心に優しいだろ。

 それにもう会えないと思ってた兄ちゃんに、姉ちゃんとして再会できたんだから十分だわ。

 記憶思い出して真っ先にしたのが「おのれ兄ちゃん! オレと『大丈夫、すぐ戻ってくるから』って約束したのに破りやがったなァ!」パンチを姉ちゃんに食らわせることだったし。

 姉ちゃんはオレに反抗期がきたと思っておろおろしてたよ。

 その後ちゃんと謝りました。謝ったので石投げないで下さいお願いします。イタッ! イタタッ! ヤメテ!!

 

 それより今はもっとデカい悩み事がある。

 

 記憶を思い出したとしてもやることは変わらねえから、馬時代と同じローテ組んで走ってたんだよ。

 だがしかし、これが問題だった。

 

 俺ってば現役はたったの1年ちょっと。

 1999年10月にメイクデビューして2000年12月に引退なのだ。

 ウマ娘のアプリに例えると、ジュニア級とクラシック級しかない状態。

 それをベースに走ってきたウマ娘のオレは、行き止まり標識の目の前で呆然と立ってる、って状況わけだ。

 同世代の次走情報が流れる中、オレはシニア級1月の現在、虚無ってる。

 

 もう、本当に、虚無ってる。

 

「うーん」

「……さっきから唸ってどうしたの、サン」

「ねえちゃ~ん。……シニアシーズンさあ、どのレースに出ようかなって」

「まだ目標も決まってなかったの?」

「ん……恐ろしいほど白い……オレの毛色並……」

 

 シニア級のシナリオがない ── 史実4歳以降の実体験がないウマ娘は他にもいる。

 オレが人間としてゲームをプレイしていた頃だって、皐月賞後に引退したアグネスタキオンたちがいたわけで。

 レース結果等で次走が変わっていく方式だったと思うけど、こっちでオレが確認した範囲ではフジキセキさんが普通にシニア走ってたから問題ないとは思う。

 ただなあ、悩みどころではあるじゃん? 実際、どこを走るかって。

 ウマ娘は実馬が史実走れなかったレースを走れるってのが醍醐味だ、ってSNSで見たこともあるけど、アグネスタキオンたちとオレって微妙に立ち位置が違うっていうか。

 4歳以降の競争実績がないってのは同じだとしても、怪我とかでやむを得ず引退したタキオンたちには「もし怪我してなければ」という夢の続きがある。

 けどラストランのハプニングがあったとしても、クラシックの春二冠、凱旋門賞、秋天に有馬記念を無敗のまま制したオレの競走生活は結構十分すぎた。

 姉ちゃん、じゃなくて兄ちゃんが獲れなかった天皇賞・秋を勝ててなかったら未練もできたろうけど。オレも人間たちもかなり満足だったんだ。

 それにあのオレにはレース以上に優先しなきゃならない夢があった。血を繋ぐ、という夢が。

 だからこそ悩む。この満足した気持ちの次のよりどころに。

 過去のレース実績でいけば2000m以上2500m未満になるのかな、オレのベストはロンシャン芝2400mで間違いは無いと思うけど。

 でも下手に姉ちゃんとレース被って潰し合いもなあ……いや姉ちゃんとも走ってみてえけどさあ。

 

「凱旋門賞連覇……は、まあやってみたいし組み込むとして……あ、出れなかったジャパンカップとか? 春天は無理。菊花賞回避したオレに3200mは潰されにいくようなもんでしょ……」

 

 競走馬時代の相棒、タッケさんこと(たけ)(はじめ)騎手はこんなことを言っていた。

 

『2200mまでならサイレンス。2400mならシャイニング』

 

 まあ2400mって言っても走ったことあるのダービーと凱旋門賞くらいだけど。

 あとさすがに2400mはキッツい。

 血統の問題なのかどうなのか、そこら辺はずぶずぶの素人であるオレには判断着かないんだけど、兄ちゃんたちの適性距離を鑑みるに俺たちはシンプルに長距離に向いていなかった。

 いや言い方を変えるなら「無理すればいける」つまり「無理しないと走れない」距離、それが2400m以上。

 その証拠に、2500mの有馬記念ではあとちょっとのとこで心臓が止まるとこだった。これが前に言ってたラストランのハプニングな。

 追いかけてくるテイエムオペラオーに抜かされたときはもうダメかと思ったけど、ほとんど意地だけで走り抜いた結果のゴール後ばたんきゅ~。

 テキが菊花賞やめて凱旋門賞行こうぜ、と判断したのは全然間違いじゃ無かったと内外に証明されちゃったよね。

 あの有様で天皇賞・春はさすがに死にに行くようなもんだから、ウマ娘になった今も2400m以上はできるだけ避けてきた。

 さすがにクラシック級の有馬は避けれんだろ、と倒れるの覚悟で挑んできたけど。まあ倒れましたね、お察しです。

 

 春のG1で2400m以下なのは大阪杯と宝塚記念。秋なら秋天とジャパンカップ。

 2000mぴったりはそこまで息が合わない気がするし、宝塚記念と秋天は姉ちゃんが出てきそうだし、となるとベスト距離でもあるジャパンカップが国内の大目標。

 他の2400mとかBCターフと凱旋門賞くらいで世界的にそこまでデカいレースがないのが悩みどころだ。

 あ、あとドバイSCとか?

 

 でも実は、史実みたいに引退して実家に帰るのもアリかな、って思ったこともある。

 上手いこと思いつかないし、無理にレース選んで現役続行する必要もないじゃないか、て。

 けどそれはできなかった。というか()()()()()()()

 なんでかって、引退したらつるし上げてやる、って脅されたんだよね。同期に。

 

「……シャカール、やるっていったら絶対やりそうだもんなあ」

 

 っていうかアレは絶対やるって目だったな。

 競走馬時代から有言実行のウマなのだ、エアシャカールは。

 

 オレの同期でG1獲ったやつ、って他の世代より少ない、って誰かが言ってた気がする。

 世代の前後がやたら強いウッマだらけだったからか、オレらの世代はたびたび不憫だと言われることがあるくらいだ。

 クラシック級で同世代の牡馬こと右耳ウマ娘でG1を勝ったのは、春二冠をオレ、菊花賞をシャカール、NHK杯をイーグルカフェ、マイルCSをアグネスデジタルの4人。

 このうちでオレが対戦したことがあるのは、デビューから5回一緒になったシャカールと、秋天で一緒になったイーグルカフェ。

 アグネスデジタルとは距離適性の問題かそれともタイミングが合わなかったのか、実は1度も対戦経験がない。

 ただ史実ではオレが引退した後、香港マイルをエイシンプレストンが、宝塚記念やジャパンカップをタップダンスシチーが、マイルCSをゼンノエルシドが制する等、世代は息の長い活躍を見せる馬が多かった。

 タップダンスシチーなんて2005年まで走っていたと言うんだから本当に長く活躍したと思うよマジで。オレの息子と走ってたし。サンジェニュインっていうんだけど。

 振り返れば多くの活躍馬、もとい活躍ウマ娘がいるわけなんだが、どうもオレが派手に走ったりするせいなのか、同期の活躍がオレの存在で薄れる、らしい。

 らしいっていうのはオレ、そういう自覚あんまりないんだよ。同期の邪魔したろ、なんて思ってないし。ただ結果的にそうなってるらしいんだ。

 だからなのか、結構恨まれてるんだわ、オレ。ケツガン見されながらガチの憎悪籠もった目で追いかけられたりするかんね。

 

 んで、その筆頭っていうのがエアシャカールなわけよ。

 

 メイクデビューから何度対戦したか。気づけばいつも一緒だった。

 クラシックシーズンに入ると初戦の弥生賞で早々に激突。

 本戦である皐月賞、日本ダービーでも対戦した。

 絶対に負けられない理由がここにある、バリにガンギマリの大逃げをキメたオレが勝ち続けたわけだが。

 ダービー後、熟考の末に菊花賞を回避したオレは早々に海外遠征に乗り出した。

 英国、KGVI&QESへの出走が決まった時、シャカールも同レースへの出走を発表。あれには驚いたなあ。

 それでオレらは5回目の対戦となり、そんでこれが共に走る最後のレースになった。競走馬時代ではな?

 

 オレがレースに出るたび、ゴール後、そこに残るのは屍だけ、と外野は口々に言った。

 駆け抜けたゴールの後ろ、2着以下に沈んで帰ってくるウマ娘たちが項垂れていることを揶揄したセリフだ。

 まったく好き勝手言ってくれたもんだよな。オレを必死に追いかけてくれたメンバーに対する侮蔑と言ってもいい。

 確かにオレは勝った。だからそこに敗者がいる。仕方ないだろ、それがレースで、それが競走で、それがこの世界の意味だ。

 勝利に喜ぶオレの傍らに影ができて、そこで嘆く敗者が生まれるのは必然だし、オレがそれを悔いることはない。

 力強く踏みしめた一歩を振り返り、踏み出さなければよかったなんてそれこそ恥じるべきだろ。

 オレはそうやって育てられた。オレが勝つたび喜ぶ人間が胸を張って前を見ろと言ってくる。

 オレは最高のウマなんだって信じてくれるその人たちのために、敗者の影がある。色濃い影を忘れず踏みしめて、オレはまた強くなる。

 お前らが負けたオレが次も強く在ることで、お前らがすべてを振り絞り必死に追いかけてきたことの意味があると証明する。

 それが、敗者を作る勝者たるオレの、唯一無二の責任の取り方だ。

 お前たちがどこかのレースに勝つ度、オレが積み上げてきた勝利の旗がその勝利をバックアップする。

 春二冠ウマ娘シャイニングスズカを追いかけた軌跡に無駄などなかったと、オレの優勝レイこそが肯定するのだ。

 

 けど、そんなことに興味を示さないものたちは別の見方をする。

 オレに負けたウマ娘に、次はない、と。

 

『シャイニングスズカに負けたウマ娘は、それ以降、G1を勝てない』

 

 んなわけねえだろ、と声を大にして言いたい。

 朝日杯FSで対戦したエイシンプレストンは香港マイルを勝った。

 5回対戦して5回オレに負けたエアシャカールは菊花賞を勝った。

 

 わかってる。抜け出せなかったやつもいることくらい、わかってるよ。

 日本ダービーでオレが退けたアグネスフライトは史実、それ以降は勝ち鞍を積めないまま引退した。

 けどオレが現役だった頃、その陣営からオレを詰る声は1度として聞いたことがなかった。

 春二冠を終え、海外に挑戦し、そして有馬のラストランを迎えた後。

 2001年。京都記念に出走を決めたアグネスフライトの陣営はレース前にこう語った。

 

『フライトは誰よりも懸命にシャイニングスズカを追って迫った1頭です』

 

 ダービー馬でないならその時点でフラットだと誰かが言う。

 けどダービー馬を諦めず追いかけその2着に辿り着いた馬が弱いなんて誰も思っちゃいない。

 その勝ち馬が王道を歩み続け、強さを証明したならばなおのこと。その番手に君臨する馬へ敬意を払う。

 アグネスフライトには京都新聞杯以降の勝ち鞍はない。けれど、京都記念2着まで走って見せたその軌跡に、力強さがあったのだと陣営は証明してくれた。

 屈腱炎等の故障と戦いながら現役を走り続け、引退後は先に種牡馬入りした全弟アグネスタキオンの代替役として種牡馬入り。

 オレが死んだのは2021年だったけど、それまでにフライトの訃報は聞かなかったから、きっとオレよりも長生きしてくれたと思う。

 

 ウマ娘のアグネスフライトも、オレのせいで、などと口にしたことはない。

 次は勝って見せる、と凄まれたことはあっても、彼女がオレを理由にしたことはないんだ。

 オレはそこに彼女の意地を見たし、ダービー以降対戦できなかった史実とは違う展開をこの世界で迎えられるかも知れないと、ちょっとワクワクしている。

 もしかしたらオレのシニア級のシナリオは、そんなライバル達との再戦ストーリーになるのかもしれないな。

 

 けど、まあ、アグネスフライトほどキッパリしていても周囲も同じように思ってくれるわけじゃない。

 

 調子の良かったヤツが1度負けたら調子を崩す、なんてオレ相手じゃ無くても陥るケースだと思うんだがなあ。

 見た目が派手なせいか、世間ではオレと走らせるとウマ娘がダメになってしまう、と言うトレーナーもいるんだよ。

 表面上は笑い話のつもりらしいけど、本当に笑い話だったらオレの次走を探ってきたりしないだろ。

 明らかに避けようとしてるのがわかるし。そんでそれは、他のウマ娘にも伝搬するもんだ。

 

  ── シャイニングスズカに近づきたい、でも離れたい。

 

 みんな心がふたつある~、みたいな状態でオレを見てくる。

 そんなに怖いかね、オレと走るのが。怖いって思ってるから負けた時余計に混乱するんじゃねえかなあ。

 けどまあ、その恐怖がまるでないウマ娘もいまして。

 それがさっきから何度も引き合いに出しているウマ娘 ── エアシャカールだ。

 

 世にも恐ろしい噂話が蔓延するなか、何度敗れても、敗れても、何度でもオレに果たし状をぶち込んでくるウッマ。

 たとえ誰かから、結果なんて分かりきっている、と悪態をつかれても。無理だ、なんて言われても。

 その度にエアシャカールは新しい計算を弾き出し、オレに「次走はどこだ」と聞いてくる。

 諦めを知らない闘争心だけが、オレを孤独にしてくれないのだ。

 

 だからこそ、オレのいないあの最後の一冠。

 無敗で二冠を制しておいて菊花賞に出ないオレを「三冠を放棄した」と罵る大勢のウマ娘を横目に、エアシャカールは大きく伸びた。

 長く細い四肢を荒々しく回して大地を突き進む。芝をしっかり踏んで抉って駆けて。

 オレに、『シャイニングスズカに負けたウマ娘はG1を勝てない』などと言われていた都市伝説を鼻で笑って捨てて。

 ひたすらに前だけを目指したその走りでもって、エアシャカールは菊花賞ウマ娘になった。

 

 それがどれだけオレを喜ばせてくれたのか。シャカールには分からないだろうなあ。

 

 

 で、そのシャカールがオレの胸ぐらを掴んだのは今から1ヶ月前のこと。

 有馬記念、じゃなくて有マ記念を意地で制したその日の夜のことだった。

 2500m長過ぎだろォ! とほぼ意地だけで走った結果バテて倒れていたオレの元に、エアシャカールが見舞いにやってきた。

 いやあマジで驚いたな。同期の見舞いとか誰も来ねえと思ったもん。

 オレ競走馬の時もウマ娘でもろくに友達とかいねえしなあ……休日はだいたい姉ちゃん達と遊ぶし。

 だから結構うれしかった。見舞いに人が来るってこんなにはしゃげるもんなんだなあ。

 会えば悪態を吐かれる仲とはいえさ。もうコレ、いっぱいレースに一緒に出てるし見舞いまで来てくれるし実質友達か!

 ニコニコ、ふにゃふにゃ、とシャカールを出迎えたオレは哀れ、その5秒後に胸ぐらを掴まれ、こう言われたのでした。

 

「お前、来年も絶対に走れよ。勝ち逃げは許さねェ……! もし引退してみろ。お前が他のウマ娘に追いかけ回されてみっともなく電信柱にしがみついているとこ、地上波に流してやる」

 

 見舞いに来たかと思ったら脅しに来ただけでした。

 オレは情けねえ泣き声を上げてこれを承諾し、シャカールはどかどかと足音を鳴らして去っていった。ぐすん。

 

 でも去る直前に置いていったフルーツバスケットの存在がオレの心をぽかぽかにしたのでオッケーです。

 もうツンデレだと思えてきたよシャカール。見舞いの品ありがとなぁ!!

 

 

 

シャイニングスズカ@メテオ所属

@shiningsuzuka_97

ツンデレシャカールからフルーツバスケットもらいました。

ありがとうシャカール。

httpss://Ominami.jpgs

                  

 

 

 

 この後、顔を真っ赤にして怒り狂ったシャカールから関節技をお見舞いされた。ぴえん。

 

 

 おっと、ぽかぽかエピソードで話がズレちゃったけど、問題はシニア級でのレース目標。

 とりあえず現役は続行する。けどやっぱ出走レースがなあ。

 先に挙げたように凱旋門賞連覇は、まあ、やれたら楽しいだろうな。史実では1回しか勝ってないし。

 ただこの凱旋門賞出走、っていうのが実は一番危ないんだわ。

 というのも、日本馬で初めて凱旋門賞を制したのはオレ・シャイニングスズカなわけだが、史上2頭目の覇者もいて。

 それがオレの息子 ── サンジェニュインだ。

 

「お、とうちゃ、じゃなくてセンパーイ!」

「サンジェニュイン、にカネヒキリ! お前らもお昼ご飯か。今日は食堂なのか?」

「まっさかあ。今日もKANE's Kitchen(カネヒキリくん)!」

「お前弁当まで作ってもらってんの!? オレが言うのもなんだけどもうちょい自立した方がよくね? ……カネヒキリも、あんまりこのぽんこつ甘やかさないようにな!」

「……善処します」

 

 サンジェニュインのリボンを直しながら返事するカネヒキリ。

 アッ、しないやつだこれぇ……オレは一体どこで子育てを間違えたんだろうか。

 牧場で見てた頃はここまで抜けたアホの仔ではなかったはず……現役時代になんかあったかコレ。

 

 今日もトレーニング頑張った、と笑うこのオレそっくりのウマ娘。こいつ、史実では息子だ。初年度のな!

 ふわふわの白毛と蒼穹の瞳。体格の立派さ。骨の丈夫さ。人間に対する愛嬌。

 どこに出しても恥ずかしくない、オレ、シャイニングスズカ初年度産駒の代表格だ。

 似てるのは見た目だけじゃ無くて戦法もで、こいつもオレと同じく大逃げ一辺倒。

 憎悪籠もったおっそろしい目をしたウッマに追いかけられヒンヒン泣いて逃げてたオレと同じく、こいつも追いかけ回されて逃げるタイプ。

 ただまあ事情がオレとはちょっと違って、あの、憎悪籠もってるって言うか目の色ピンクにした牡馬にケツ追われてるっていうか。

 まあその、なんだ。いっぱい馬にモテる体質らしく、人間から漏れ聞くウワサはやたらイカ臭かった。

 とうちゃんはお前に気の許せる友達がいる事実が嬉しいよ。よくケツを守り切ったな息子よ。

 

 んでそのムスッコの隣に立つ褐色のウマ娘。こっちはカネヒキリと言ってサンジェニュインと同世代。

 あのフジキセキさんの産駒であり、サンジェニュインが唯一気の許せる友達ってのがこのカネヒキリなのだ。

 何くれと無く守ってくれる、支えてくれる、心優しいしっかり者である。

 オレはもうフジキセキさんに足向けて寝られねえッすよ。ムスッコの純潔守るの手伝ってくれてありがとうカネヒキリ。

 お前ももうオレの息子のようなもんだよ……オレのこともパパって呼んで良いからな……!

 

 ちなみにこの2頭。馬時代は種牡馬になった後も仲良しだった。

 サンジェニュインは前述通り、史上2頭目の凱旋門賞馬として現役引退後、オレのいるスタリオンに種牡馬入り。

 どこぞの石油王の寄付金で建てられたとウワサのオレの専用厩舎、通称・太陽御殿で共に過ごしていたが、数年後そこにカネヒキリが合流。

 いや最初はカネヒキリいなかったんだが、サンジェニュインがあらゆる駄々をこねまくった結果、カネヒキリもINすることになった。

 我が息子ながら純粋な馬とは思えん動きだったなあ。

 挙句には放牧地まで2頭で共有してたからな。とうちゃんもびっくりだわ。

 2頭のアーチーチー、な仲の良さをのんびりと眺めながら送る種牡馬生活も、まあ楽しかったので細かいところはスルーする。

 かわいいムスッコとその友達の種牡馬ライフを温かく見守りたい親心です。

 

 けどそんな生活は10年も続かなかった。

 カネヒキリは年上のオレよりも先に死に ── 虹の向こう側へと渡ってしまった。

 2016年の初夏のことでよく覚えている。息子は隣合う馬房の帰ってこない主人を待ちながら、寂しそうに背中を丸めていた。

 心なしかちょっと老け込んだような気もするくらい。けど前を見続ける強かさもまたオレの息子らしい。

 約1年の時間を消費して心を整え、以降はオレが死ぬまでずっと元気に仕事をしていた。でも、空き馬房に誰かが入ってくることだけは許すことはできていなかった。

 その姿を知っているだけに、ウマ娘になった後も仲良くしているふたりを見ると、尊い何かを見ているオタクのような気持ちになってくる。

 今度は末永く一緒にいろよ。

 

「この弁当が美味すぎて馬になるんだよなあ……!」

「もうウマだろうがよ」

 

 ところでこのサンジェニュイン。史上2頭目の凱旋門賞馬。

 オレがシニア級で凱旋門賞出走を危険視している要因がこいつだ。

 サンジェニュインは競走馬時代に凱旋門賞を制したのは4歳。

 順当に行けばシニア級で凱旋門賞に出ることになると思うんだが、なんとこの世界は稀に時空が歪む。

 どう歪むかっていうと、オレの凱旋門賞とエルコンドルパサーさんの凱旋門賞が同日になったのだ。

 もちろん、史実では同じ日に出走していない。というか年が違う。

 が、間違いなくオレの凱旋門賞の時にエルコンドルパサーさんが居た! なんとも恐ろしい話だ。

 なのでワンチャンでシニア級に出る凱旋門賞がサンジェニュインの凱旋門賞と被る可能性があるわけで。

 オレはそれをめっちゃ恐れている。

 まあサンジェニュインはまだメイクデビューも迎えてないからワンチャン……な、うん。

 

「センパイ見てこれカネヒキリくんがくれた花!」

「見事なタンポポだなあ」

 

 そういや種牡馬時代もカネヒキリはよくサンジェニュインにタンポポ渡してたっけ。

 と過去を回想しつつ、オレはうーんと内心唸った。

 かわいげのあるムスッコだ。一生懸命だし愛想は良いし。ちょっとアホなところあるけど。

 でもオレはどうしてか、競走馬時代からこのアホムスッコに共感性羞恥を感じて仕方がない。

 ほんとどうしてか、自分を見ているような気になってくるんだよなあ。オレはこんなぽんじゃないが。

 見た目がクリソツだからか? 走りまで似てて、オレと同じように凱旋門賞を制したから?

 先輩のフジキセキさんや後輩のクロフネ、シンボリクリスエスたちが言うには、見た目だけでなく性格までそっくりらしい。

 んなまさか、ここまでのぽんこつじゃないって何百回も言ってるでしょオレ。

 

「似てるわよ、びっくりするほど」

 

  ── 意外と涙脆いところも、愛情深いところも、結構抜けているところも、同一人物かってくらいそっくりよ。

 

 いつだったか姉ちゃんまで真顔で肯定してきたから、人前ではとりあえず黙ってることにしたけど。

 似てるとしてもそら、史実では親子ですしおすし。

 なんでまあ、オレがサンジェニュインに感じるこの共感性羞恥ってやつも、もしかしたら血の繋がった親子特有のやつなのかもなあ。

 でも転生して馬になったオレと違って、ムスッコはこんなにぽんこつでちょっとトンチキなところがあったとしても純粋馬。

 やっぱり違うと思うんだけどなあ。

 

 まあそれはさておき、オレは隣に座っている姉ちゃんを振り返った。

 さすがにこのふたりを立ちっぱなしにさせるわけにもいかない。

 

「ねえちゃん、ふたりとも向かいの席に座らせてもいい?」

「ええ。もちろんよ」

「えっ、いいんスか。ありがとうございます、ススズセンパイ!」

「す、ススズ……?」

「オレたちのあだ名だよ姉ちゃん。オレ、グスズ!」

「ちまたでは『シャスズ』の方が人気だって」

「えっ、マジ……? オレはグスズ派なんだが……」

 

 姉ちゃんが困惑したように首を傾げた。

 聞き慣れないもんな、ススズ。

 アニメ版だとスズカ呼びだった気がするし。

 でもしゃーないって、この学園にスズカが一体何人いるのか。

 姉妹であるラスカル姉ちゃんやコマンド姉ちゃんはまあスズカ抜いても呼べる名前だけど。

 オレと姉ちゃんとか『サイレンス』『シャイニング』呼びにするのはちょっとキツいし。

 経歴の長い姉ちゃんがスズカ呼びになるのも仕方ないけど、オレがいるとこだとそれで呼ぶわけにもいかないからな。

 だから『ススズ』の『グスズ』呼び。競走馬時代もファンからはそんな感じで呼ばれてたよ。

 

「それにしても……サンジェニュイン、だったかしら? なんか、運命的な何かを感じるような……」

 

 姉ちゃんからしたら魂の甥っ子、いや姪っ子? だからなあ。

 オレの産駒とか姉ちゃん、いや兄ちゃんのファンによく「実質サイレンススズカの産駒よな」って言われてたし。

 それ繋がりとか?

 そういやオレとエアグルーヴさんの産駒とか「NTR」呼ばわりされてたんだよな。

 みんな「ススズとエアグルーヴの仔みたかった」とか言うから全弟のオレが配合されたんやぞ!

 

「う~ん、なんか、(けぶ)る夏の日に走ったような気が……?」

 

 それはさすがに錯覚にも程があるよ姉ちゃん。

 

 ずっと不思議そうに首を傾げる姉ちゃんの視線の先。

 サンジェニュインは口周りをカネヒキリに拭いて貰っていた。

 ……赤ちゃんか? オレは訝しんだ。

 

 あっ、そういや今年のレース決めてない……ま、いっか。

 まだ時間はあるし。

 凱旋門賞に出るか、他にどんなレースに出るか、ライバルと再戦するか。

 ゆっくり考えて悩むのも、これはこれできっと、アリなんだろう。

 オレはさらに残った最後の一口を頬張った。んまい。

 

「ちょっとサン。口の周りついてる……ほらこっち向きなさい拭いてあげるから」

 

 むぐぐ。








エアシャカールさん
IF時空の馬編では5回対戦してグスズ全勝
測定不能で理解不能なグスズの言動に振り回され常に胃を痛くしている
こいつぜってー潰すからな、という気持ち9割
ぽんこつグスズから発せられる謎の圧が嫌い、高みから見下ろすな
グスズの顔は好き、顔は
グスズからは友達としてカウントされている(なお友達ではない)

アグネスフライトさん
IF時空にてダービー馬の称号を取られて以降リベンジに燃えている
ウマ娘編ではシニア級にてグスズと再戦することがあるかもしれない
グスズの顔は好き、顔は

サイレンススズカさん
グスズの良きお姉ちゃん
グスズの記憶が戻った時の暴れっぷりから反抗期がきたと思ってる
うちの妹が世界でいちばん可愛いけど、なにか? と真顔で言ってくる
実際に可愛いし……ちょっと抜けたところあったり言動に圧があったりするけど……妹は可愛いのよ、本当よ?

カネヒキリくんちゃん
サンジェニュインとかいうぽんこつの親友
サンジェニュインほどではないがグスズにもちょっとタジタジしてる(気絶はしない)
この親仔揃って顔が良いしオーラがすごいなあ、と馬時代思ってたかも知れない

サンジェニュイン
俺たちのよく知るぽんこつ
このIF時空ではグスズの初年度として生を受け牡馬にモテる呪いと戦ってる
たまに戦い切れてない
なんか俺の親父のオーラやばくね? 良い馬だけどなんか覇気あるわあ、と馬時代思ってたかも知れない

シャイニングスズカ
このIF時空に存在するぽんこつ
1ヶ月で母と死に別れ、これまた1ヶ月で懐いた兄とも死に別れた
残るは母と兄が遺した夢への執着だけ
夢を追い、叶えることに夢中で馬時代は友情を築く暇もケツを狙われてると考える暇も無かった
本当はただの憎悪だけじゃなくて愛情も込みでケツ追われてたけど一生気づかない
そんなことよりレースだレース次走はどこだ兄の夢は母の夢は人間の夢は!?!?



ようやく、自分だけの夢を探せるね

第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)

  • エアグルーヴ
  • ハルウララ
  • ウオッカ
  • カレンチャン
  • 海外牝馬組
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