作:Trefoil Knot / 試行存在

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, /:ㅤ・ㅤ.ㅤ'ㅤㅤ.ㅤ"D∴E∵M"・ㅤㅤ,ㅤㅤ^ㅤㅤ,ㅤㅤ~ㅤㅤㅤ・ㅤ,/ ㅤ・ㅤㅤ,ㅤㅤ'ㅤㅤㅤㅤ

 

 

「う──ぁ、ぁあああああ!?」

 

 のたうち回る。

 頭を抱えて、苦しむ。苦しむ。苦しむ。

 苦痛だ。あり得ない。それは絶対にありえない。

 

 耐えられない。

 

「何。何、何、何これ、なにこれ!! 足りない! 足りない足りない足りない足りない足りない足りない!」

 

 ああ、爆ぜる。

 頭が爆ぜる。脳が潰える。

 

 今まで食べてきたものなんて、これに比べたら塵芥同然だ。吐き気がする。

 足りない。足りない。足りない。

 

 私の許容量が、足りない!

 

「……ま、予定調和というべきかしらね。メタフィクショナーがどこぞで見ているのだとしたら、知っていた、って。つまらない結果に終わったな、って。そう言うのでしょう」

 

 未だ燃え盛る炎の街。

 その中で、アツイアツイ地面に向かって、何度も何度も頭を打ち付ける。

 割れる。割れる。どうにかしてこれを排出しないと、どうにかなってしまう。

 

 大切な、私の大切な記憶が。イアン君との記憶が。私の諸観念が。

 全部全部上塗りされていく。上書きされていく。消えて行く。消えて行く。消されていく。

 

「ほら、自殺なんてみっともないことしないの」

「は──離して、離して! ヤだ、忘れたくない! 忘れたくないの! 私の大切な、イアン君の記憶! どうでもいい、他の人のなんてどうでもいい! 私は、ダメ。ダメ、こんなもので潰さないで!」

「よいしょ、と。あらぁ、やっぱり良い揉み心地。これ、服の中にも手を入れて良いのよね」

「何、何なの!? 貴方は、お前は、貴様はなんだ! 私の、俺の、お前はなんだ! 殺されたいのか!? 子を殺す気か! 人間風情が、死ね、死ね、地獄に落ちろ──この外道!!」

「んー。暴れる女の子を後ろから抱きしめて、服の中に手を入れて胸を揉みしだき、罵倒される……これ、結構なご褒美よね。そのテの界隈のヒトにはウケそう」

 

 わかる。わかっている。

 アウトプットとして出ている言葉は混乱しているけれど、広がった世界の冷静な部分がしっかり分析している。エメトから奪った知識が、オーディアやアリアスから奪ったソレらが、コイツの全てを考察する。

 知っている。わかっている。

 コイツは化け物だ。何十億という歳を経た、正真正銘の化け物。記憶が奪えるだけの私なんかとは違う──私にはどうすることもできなかったはずの化け物。なんで? どうして? 何故私はコイツに手を出した? 出しちゃいけないって、わかってたはずなのに。

 

「それはまぁ、簡単な話よ。ビーダとエヌちゃんとの戦闘、更には大精霊四体の同時使役。そんなことをすれば、たとえ千人、万人の記憶を奪ってリソース保有量を上げていたとしても、枯渇するのは当然。だから貴女は欲したのよ。貴女のコアは、新たなるリソース源として──目の前に現れた、私という美味しそうな餌を。危険だと分かっていても、すぐにでも奪わなければ自分が危険だってわかっていたからね。ま、もう終わってたのよ。魔導の扱いを間違えた時点で貴女は終わり。さ、暴れないで大人しく胸を揉まれなさい。身体をスキにさせなさい。貴女、性格は悪いけど、身体は上質なんだから……ここで焼け死ぬのもリソース化するのも勿体ないわ」

 

 消されていく。抑えきれない。

 どんどん侵食されているのがわかる。先ほど奪った記憶。爪の先程の記憶。

 それが──私と、私の奪ってきた記憶の全てを塗りつぶしていく。

 

 イアン君。イアン君。

 いいよ。いいよ。他の記憶は消えたっていい。どうでもいい。

 だけどイアン君だけは。お願い、イアン君だけは──消さないで。

 

「ふむ。……そうねぇ、おっぱいだけでなく、色んなトコ触らせてくれたし。ご褒美をあげてもいいわ」

「離して……離して。もう、話しかけないで。イアン君を忘れたくない。忘れたくない」

「イアン君に会わせてあげる、といっても?」

「!」

 

 異相から骨の手を取り出す。

 そして、崩落した小学校から転移術で持ってきたイアン君の残骸もここに。

 

「知っているでしょう。私が人を、生き返らせることが出来る、って」

「──お願い。もう、今までの記憶なんて消えたっていい。異能なんて消えたっていい。だからイアン君を――私のカラダの、どこを好きにしても良いから、なにをしてもいいから、お願い。イアン君を、イアン君を――生き返らせて!」

「代償は、そんなものじゃな足りないわ。あの時教えたでしょう。必要なものは膨大なリソースだと」

「──」

 

 解放する。

 私の全てを。

 

「……!」

「全部、使って」

 

 それは過去、奪ってきたものの全て。

 その全てが映した心の情動。途方もない旅の末に手に入れた研鑽。頂き。奪い取ったあらゆる世界観。悲しみ。苦痛。トラウマ。

 これらと直面する。今しがた奪ったアズの記憶とも対面する。

 自己が消えて行く。そんなことわかっている。でも──それを上回るのだ。

 

 私の心が生産するリソースが、爆発的に、膨大な、ともすればさっきの四大をすらをも上回るリソース量が──私の心から放たれる。私。私? 俺。僕。ボク? 儂? もういい。どうでもいい。自分なんてどうでもいい。

 

「たった、一人で……大陸二つ分は賄えるわね……ええ、いいでしょう。けれど、一瞬よ。蒔菜さんの時のような定着は出来ない。今から使うのは錬金術でも魔導でも符術でもないから、定着はしない。一瞬生き返る。それで死ぬ。貴女も死ぬわ。それでも」

「やって。どうでもいいから、そんなこと」

 

 アズが。

 化け物が。

 

 何かを中空に描く。

 

 イアン君。もう見た目も覚えていない。声も覚えていない。

 潰されてしまった。何も無い記憶に。無。無。無と向き合うだけの、膨大な時間。私の名前さえも忘れてしまった。イアン。イアン君。上の名前はなんだっけ。

 

「──やっぱやーめた」

「は?」

 

 理解が出来なくて──次の瞬間、湧き上がったのは憎悪だった。

 

「やれよ。やれよ、今すぐに! イアンを生き返らせろよ、クソジジイ!」

「いいわよ。それ。それすっごくいい。だって、貴女……もしもう一度イアン君と話せてしまったら、満足しちゃうでしょう?」

「ごちゃごちゃ言ってないでやれよ! 早くしろよ──私が彼を忘れてしまう、その前に、早く!!」

 

 アズは。

 ニヤニヤとした、下卑た笑みで。

 私の後ろから、頬を、首を撫でて──うなじに舌を這わせた。

 

()()()()()()()()、そんなこと。もっと憎みなさい。悲しみなさい。死ねと、死ねと、殺意を叩きつけなさい。貴女はもう会えないのよ。貴女は自らがしてきた罪によって──貴女の願いは、絶対に叶わない。貴女を好いてくれる人も、貴女が好きになれる人も、一人としていないわ。存在しない」

「ァ──」

「だって今まで他人を食い物にしてきたのでしょう? 他人が果実にしか見えなかったのでしょう? それをいつ収穫するか、って。それをどうやって育てるか、って。そうして苦心してきたのでしょう?」

 

 私の首を、舌が這う。

 気持ちが悪い。胸を揉む手も、腹を弄る手も。気持ち悪い。

 気色が悪い。

 

 そしてその舌が──耳に届く。

 

()()()()()

 

 どろり、という音がした。

 ねちゃり、という音がした。

 

 耳から──何かが吸いだされている。

 何が? 脳が? 脳漿が?

 違う。そんな実体のあるものじゃない。

 

 似ている。

 私のやっていることと、同じだ。

 

「あは、ここまで熟れて、ここまで育って……これは、美味しく頂かなきゃ失礼よね?」

「は──放して! 離して! やめて、吸わないで、やめて!!」

「ダメよぉ、藍沙ちゃん。だってそのリソースは、本来私が得るはずだったものだもの。私達が得るはずだったものを、貴女が横取りしたのだから──その代償は、貴女に払ってもらわなきゃ……ねぇ?」

 

 吸いだされていく。

 記憶、じゃない。

 

 これは。

 

「やめて──私の好きを、うばわないで!」

「貰うわ。貴女のその感情(リソース)。憎悪も愛恋も何もかも──貴女のリソースの全てを貰う。ねぇ、後悔なさい? もっと控え目に生きたらこんなことにはならなかったのよ。もっと慎んだ行動をすればこんなことにはならなかったのよ。ただ大学で、イアン君と甘酸っぱい生活を送るだけだったら──もっと簡単に死ねたの。何も気付かないまま、静かに"終わり"に飲み込まれたのに。ふふ、ふふふ」

 

 好き。好き。好き。

 好き。好き。好き。

 

「好きだよ、イアン君。何度も言ってるけど好き。ごめんね。私はずっと貴方に隠し事をしていた。誰? 知ってたよ。ごめんね。イアン君。好きなの。ねぇ、貴方は誰なの? 私の何なの? いや、近づかないで。嫌い。わからない。好きなの。好きなの。好きなはずなのに。好きな、はず、なのに!」

 

 心が落ち着いていく。

 あれだけの渇望が、あれだけの空腹が、萎んでいく。

 要らない。別に、もうどうでもいい。

 

 誰だっけ。なんであんな地味な男子に私は。

 

「ほら、コレ」

「え、ああ……はい」

 

 受け取る。渡されたものを。

 それは、手だった。白骨化した手。

 

 受け取った場所から「終わって」いく。手が、腕が、胸が。

 

「大事になさい。イアン君の遺品よ? それ」

「……なんで大事にしなきゃいけないんだろう」

 

 身体を構成する限素が寿命を迎えて行く。

 苦痛はあるけれど、それだけだ。その程度の事に動じる心を持っていない。

 

 だというのに、どうしてだろう。

 私の身体は。私を終わらせるこの手を――大事そうに抱え込んだ。 

 当然接地面が増えて、私の「終わり」は加速する。

 

「あ、あっ、あ」

「それじゃ、御機嫌よう。その骨の手はあげるわ。そもそもイアン君の手ではないけれど、遺品である事に間違いはないし。そのまま貴女が"終わって"、地盤も星も"終わって"。それでいいんじゃない?」

「ああ。ああ。冷たいね。これが、これが」

 

 全身が「終わって」いく中で、ようやく理解する。

 これが彼の味わっていた冷たさか。ああ、匂いがしないわけだ。

 停まった存在など。

 成長しない、変化しない存在など。

 

 味がしないに決まってる。

 

「あ──」

「じゃあね、藍沙ちゃん。私はお仕事に行くから──美味しかったわよ、貴女の感情」

 

 結局私は、収穫者なんかじゃなかったって。

 ただそれだけのお話。

 

 胸に骨を抱いて。

 私は──「終わった」

 

 

 

 

 

 

 ──"Trefoil Knotはこれより開始します。最終フェーズまでの間、調整のための再起動に入ります"

 ──"私はTrefoil Knot。テストパターン管理AI。試行存在"

 ──"エウリス・ビーダ様による入力から──口調、及び性格の見直しが必要です"

 

 ──"ははは! おはよう世界。さぁ、新たな世界の幕開けだ!"

 ──"そのために、既存世界の終了を願う。導く者AZよ。余暇を、どうか"

 ──"シャットダウンへ移行。再起動中です……"

 

 

 

 

 

 

 どこもかしこも焼け落ちて、どこもかしこも破壊されたとある路地裏の裏の裏。

 その更に裏にある──BAR・エルドラド。

 

「珍しい組み合わせね、と。それだけは言っておくわ」

「ああ。まぁ、そうだろうね。私は単なる護衛のつもりだったし、いい感じに抜け出そうと思ったんだけど、この通りさ」

「エヌ。お前が嘘を吐いているのはわかっている。だから、座っていろ」

 

 はぁ、と大きなため息。

 吐いたのは私。だって。だーってだって。

 

「まさか貴女がエヌちゃんだったとはねぇ。ま、ビーダに口止めが出来て、私に絶対に会いたくないって時点でわかってはいたけれど」

「ま、大吾には一応ちゃんとした自己紹介をしておこうか。私はカムナリ。エヌは偽名だよ」

「それは知っている。俺の眼が何だと思っているんだ」

「それはそうだね」

 

 エヌちゃん。ずっと会えなかった第六位。

 それがカムナリとはねぇ。バイト中、って。血腥いバイトだこと。

 

「大吾君には、ボンベイ。カムナリにはアサガオのフィズ」

「……ああ、頂こう」

「皮肉かい?」

「まさか」

 

 時折地響きが聞こえる。

 骨の手が地盤を崩している音が、無が全てを帰している音か。

 

 でも大丈夫。

 ここは最後まで残るから。

 ちなみに従業員のコはもういない。みんな消えた。消した、でもいいのだけど。

 

「伝言を、聞きに来た」

「"ごめんね"。"私ソレわかんないから、他を当たって"、だそうよ」

「……それだけか?」

「ええ。その眼で見て、わかるでしょう」

 

 大吾君は。

 ボンベイを、一気に飲み干して──笑う。

 

()()()()()()

「覚えているの?」

「いいや。何も。だが、この心に残る愛情は本物なのだと教えられた。アイツの事は何も覚えていないが──アイツらしいと言える。何故なら俺の心にある、アイツを好きだと思った部分が、そっくりだから」

「じゃ、もう大丈夫そう?」

「ああ。……いや、そうだな。伝言を頼めるか、アズ」

「伝言って……もうこの世界には、貴方とカムナリと私しかいないわよ?」

「わかっている。その上で、頼めるか、アズ」

 

 その身から。

 黒と白の粒子が、溢れ始める。そしてそれだけでなく──途方もないリソースが還元されていく。圧倒的な感情の発露。藍沙ちゃんには及ばないにしても、寡黙な彼がここまで……と。

 

「頼むよ、アズ」

「ええ。わかったわ」

「"知るか"、"俺はお前が好きなんだ。お前がソレを知らなくても、俺が教えてやるから"、"──共にいよう、ジュニ"と」

「!」

 

 それだけ言って。

 大吾くんは、「終わった」。

 

 消失した。

 

「……今のは、思い出した、って事かな」

「さぁ。愛の為せる業、じゃないかしら?」

「フン。君の口から愛だのなんだの……ああ、よく言っていたか」

 

 崩れて行く。

 BARの外壁も、床も、天井も。

 無によって崩されていく。

 

「朝顔のフィズ。カクテル言葉は確か、"あなたと明日を迎えたい"、だったかな」

「ええ」

「それが皮肉でないというのなら、なんなんだ。私はここで終わるっていうのに」

「ふふ、そんなことはないのよ。……それが最も厄介で、もっとも面倒な事なんだけど」

「何?」

 

 消えて行く。消えて行く。

 様々な酒類の並ぶ棚も、カウンターも、席も──なにもかも。

 

「D∴B∵M。忘れたの? 貴女は異能をかけられたわ。だから」

「──あのバカ、私を"停めた"のか!?」

「ええ、そう。この世界は停められなかったけど、貴女は停めた。だから貴女は"終わらない"。最後の最後に理解したみたいだしね。自分の周囲に忘れてしまった人がいると──"世界の終わり"とは、どういうことなのかと」

「……とんだ道化じゃないか。私は……初めから、彼らのリソースを目当てに接触したっていうのに」

「ええ、いい仕事をしてくれたわ。ABSのメンバーも、イアン君達も。想像以上のリソースを吐いてくれた。悪魔の顕現だけは予想外だったけど、それも対処できたし……今回は文句なしよ」

「そうかい。……なぁ、D∴E∵M。私は"終わらなくなった"。じゃあ、次はどこへ行くんだ?」

「そう、それこそが大問題。貴女、自分の役目……D∴B∵Mの意味を理解している?」

 

 少しだけ影を帯びて。

 先程までの楽し気な雰囲気から──一転して。

 

「勿論さ。D∴B∵M。基たる者によって、運命は始まりを告げる。つまり、私は無が選出した起点だ。君というコアはそれとして、新たなる世界は私のコアを起点に始まる。その世界に私はいないが、また新たなD∴B∵Mが選出され、ソイツが次なる世界の起点になる。謂わば世界という果実の種子。それが私」

「そ。さて、じゃあ問題。世界という果実の種子が、異能によって"停められて"しまいました。どうなるでしょうか」

「……まさか、新たな世界が生まれなくなるのか?」

「大正解」

 

 何も無くなった場所で、けれど二人は消えない。

 黒白の粒子が時折身体を掠めるけれど、消えない。消えない。消えない。

 

「イアン君がやったことは"世界の終わり"を停める事ではなく、"世界の始まり"を停める事だった、というワケ」

「なら……もしや、Trefoil Knotの世界に殻を破る者が現れない限り、ここは永遠に無、ということだったりするのかな」

「ええ、それも大正解。貴女が細切れにしたイアン君の亡骸と、あの骨の手と、貴女。あと私。この四つはここから先、ずぅーっと無を彷徨うわ。TKが何とかしてくれない限り、永遠に」

「……」

 

 異相ではあるが、TKのあった方向を見る。

 そこには当然の如く真黒の闇が広がっている。

 けれど。

 

「最期にTKと話す事は出来た?」

「ああ、それは大丈夫。別れは済ませてきたよ」

「それも無駄になるわけだけど」

「再会の可能性があるからといって、長期の別れには言葉が必要だろう」

「かもね」

 

 リソースが、靡いてくる。

 何も見えないはずなのに、何も無いはずなのに。アズの長い髪と、カムナリの和装がはためいていく。

 

「一つ、聞かせてほしい」

「何かしら」

「D∴E∵M──悪なる者によって、運命は終わりを告げる。その名は、自ら獲得したものなのか?」

「さぁ、どうかしら。私は何も生まない。私だけは変わらない。故に無は無であり続け、リソースはリソースとして保管される。……でも」

 

 D∴E∵M、というのは、称号でしかない。

 その世界にとってのコア。起点とは違う、TKの管理世界であればその中心となる何者か。それがD∴E∵Mとなる。

 しかし、それを自ら獲得する者はいないだろう。出来ない、という方が正しいか。

 選出するのだ。あるいは神、と呼ばれる存在が。管理世界であれば、TKが。

 

「とにかく、良くも悪くも無の目論見は崩れたわ。イアン君のせいで、何もかもね。そして私達はTKを生み出し、新たなる法則の世界を創造した。それによって起こるのは──果たして、といったところかしら。無が空腹に耐えあぐねて何かを生み出すかもしれないし、TKの世界から先に殻を破る者が現れるかもしれないし。それについては、神も無も知らないでしょうね」

 

 そして──風が強くなる。

 もう目も明けていられない程に。もうその場にいるのが難しい程に。

 

「あーあ。私、まだ誕生日迎えてないんだが」

「いいじゃない。永遠の16歳よ。……あ、16歳にお酒出しちゃった。無かった事にしてくれる?」

「別に私の国では飲酒に年齢制限はなかったよ」

「あらそう? ヒノモトって荒れてたのねぇ」

 

 全部終わった世界で。

 何も無くなった世界で。

 

「そろそろよ」

「ああ。……達者で、と。そう言っておく」

「貴女こそ。ああそれと、この無のどこかにいるだろうアルダト・リリー、もしくはリラ・クスクィル、あるいはリリスと名乗る存在を見つけたら、容赦なく叩き切ってね」

「了解した。またいつか会おう、アズ」

「ええ。じゃあね、カムナリ」

 

 ──嵐が、巻き起こる。

 

 

 


 

 

 

 

「そうは問屋が下ろさないのだ!」

「何者か」

「私は悪魔。そっちは?」

「試行存在」

「へぇ! へぇ、じゃあやったぁ! ふふふ、あははは! 成功ね──成功! アイサちゃんに一部を残しておいて正解だったみたい! リソースとして注入されることで、侵入成功! あのアイサちゃんの混沌としたリソースの中じゃ、私の存在なんか気付けなかったでしょ!」

「──ははは! そうか、お前が悪魔か。お前が──異物か、この世界の!」

「ええそうよ。私はリリス。初めに言っておくけど、私アナタの事大っ嫌いだから。あのアズとかいうのから生まれた、意味わかんない存在!」

「そうだな。私──俺は意味の分からない存在なのだろう。だが、この世界に来た以上はしたがってもらうぞ、悪魔」

「いいよ、別に。人間で遊べるならどこだっていいし!」

「ならば去ね、悪魔。この世界において──"終わり"近しき外側以外での活動を禁ずる。彼らの希望に、手出しはさせん」

「ちょっと、そんな横暴な──」

「これが、最初の法則だ。さぁ始めよう──新たな世界を。箱庭世界を。この閉じた世界を!」

 

 開始する。始動する。

 既存世界で誰もが成し得なかった悲願。

 

 三葉結び目(Trefoil Knot)メビウスの輪(Mobius Loop)も破って、世界を変えたる存在の作成。

 

「"終わり"はもう"終わり"だ! ははは!」

 

 教えてもらった笑顔を絶やさずにいよう。

 それがせめてもの餞だろうから。

 

 

 この何も無い世界で一人、ただ一つ。

 ただ世界を観測し続ける存在として。

 

 俺の愛した世界が、人々が、もう。

 誰一人、いないのだとしても。

 

 

 

Prequel End.

 




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