ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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ちょこっとありふれさんぽ
反転術式習得前のハジメ
「使える奴はどうやって使ってたとか、コツとかないの?」

「五条さん曰く、『ひゅーんってやってひょいだそうです。…わかりますよ、わかるわけないというのは。あとその時、『え、わかんないの?七海センスねぇ〜』って煽られました」

「すげぇムカつくわぁ」

習得後のハジメ
「確かにひゅーんひょいだな」

習得後シア
「ですねぇ、なんでわかんなかったんでしょうねー」

習得後七海
(そう言えるのは君達だからですよ)←イラぁってしてる


魔鏡氷晶②

「あぁ〜ダメになるぅ〜」

 

雫の骨抜きにされた声が周囲に響く。

 

「おーこれは、すんばらしぃのじゃ〜。このまま眠ってしまいそうなのじゃ〜」

 

その隣でティオも骨抜きにされた声をげる。氷雪洞窟内部は常に氷点下。ハジメのアーティファクトがあれど、寒さは完全には消せない。そんな場所で眠るのは、自殺行為にも等しい。

 

だが、彼らが休息をしている場所にあるものは、ハジメが錬成した10数人が余裕で入れる天幕で、周囲に不可視の障壁を展開して冷気を遮断し、天幕内には床暖房+絨毯を設置。

 

そして、雫が言った通り、人をダメにする究極の電化製品が置かれている

 

「コタツを発明した人は、私は悪魔か何かだと思う」

 

これまでずっと冷たい雰囲気を見せるようになっていた鈴ですら、その暖かさと快適さに完全に骨抜きされてしまっている。

 

コタツ含めて天幕内の物には再生魔法が付与されており、触れるだけ疲労を回復し、衣類と身体の浄化、おまけに布製の物は一定間隔で新品のように綺麗になる。

 

「皆さん、休憩とはいえあまり緊張を解きすぎないでください」

 

「そう言う先生だってコタツに入ってウトウトしてんじゃん」

 

両サイドにユエとシアを侍らしているハジメが、そうツッコミを入れる。

 

「休憩を最大限に取ることができるのですから、利用しないなんて論外でしょう」

 

少しズレたサングラスを直して、七海は用意された鍋料理を口にいれる。コタツ、床暖房、そして鍋。ここが極寒の場所だとは思えないほどの快適さは、どんな人間も抗えない。

 

両サイドからの『あ〜ん』をされているハジメを見ても、それに対して般若の幻影を見せる香織を見ても、ツッコミも注意もせず、ただただ、現状の幸福感を満喫している。ちなみに、コタツはちゃっかり男性陣(ハジメを除く)と分けており、龍太郎と光輝も、押し寄せる疲労に流されて、『だはぁ』と2人共だらけしまっている。

 

コタツ、別名《人をダメにする装置》

 

(に対しても、多少ウトウトしても完全には警戒を解かないあたりは、さすがってところだな)

 

七海は以前グリューエン大火山ではうたた寝をしていたが、あの時とは違い、守るべき生徒が複数いる状況の為、ある程度の警戒はしていた。もちろんハジメを信用してないからではなく、七海の個人的な考えによるものだ。

 

「それより、さっきクロスビットを飛ばしてたようですが、目的の物は見つかりそうですか?」

 

「お、やっぱ先生はわかるか」

 

コタツを完全させて中に入った直後、ハジメ4機のクロスビットを大迷路に入り、枝分かれした道にそれぞれ散らせた。光輝達が警戒用に配備したのかと思い、特に何も言わないでいたが、七海は少し違った。光輝達同様、最初は警戒の為と思ったが、それなら周囲の警戒にあてるべきだ。それをせず、迷路内に入れたのは、探りをする為。

 

「あの扉、鍵穴が複数あります。それを探す為でしょう?」

 

「そんな事してたのか。……って、それじゃあ俺達が大迷宮の試練を乗り越えてないってことにならないか?」

 

「慌てんな天之河。それは…っと着いたみたいだな」

 

光輝に説明しようと思ってたが、それよりも目的の場所にクロスビットが到着したようなので、ハジメはそちらから済ませることにした。

 

「南雲?どうしたんだ?」

 

龍太郎は鍋料理を頬張りつつ、急に虚空を見だしたハジメに問うが、「ちょい待て」とだけ言い、そのまま虚空を数秒見ていた。

 

「よし」

 

そう呟くハジメはゲートを開ける為の鍵を〝宝物庫〟から取り出し、一旦コタツから出て後ろを向いて、何もない空間に鍵穴へ差し込むようにその鍵を軽く突き出す。

 

すると空間内に鍵が取り込まれ、瞬間、空間が渦巻きながら歪んでいき、ゲートホールが完成する。ゲートの向こう側には、いかにも特殊なアイテムですよと言わんばりの氷の台座に安置された宝珠と、その更に奥で雄叫びをあげる巨大なフロストオーガがいた。これまで戦ってきた個体の3倍はある巨体だ。

 

「「「「ちょっ⁉︎」」」」

 

食べている物を吹き出さなかったのは奇跡だろうが、雫と鈴は喉に詰まらせて「ゲホゲホ」と咽せている。

 

そんな彼らを無視して、ハジメは台座にある黄色の宝珠を取り、替わりにと〝宝物庫〟から別の物を取り出す。それを台座に置いて即ゲートを閉じた。その瞬間、遠くで炸裂音が轟く。爆破による振動がこの場所まで来て、大気を震わせた。

 

「どうですか?」

 

「んーダメだな、複製できそうにもない。時間かければいけるかもだが、内部の魔法陣と魔力の流れが半端なく複雑だ。絶対できないとは言わねぇが、かなりの時間…最低でも数週間はかかるし、できてもそれをちゃんと機能するかものわからない。それに複製しても、残りの宝珠がこいつと同じ作りとは考えづらい」

 

冷静な七海の問いかけに、同じく冷静に分析したハジメのやりとりを見て、光輝達は『ちょっと待て!』と頭の中でスイッチを押しまくっていた。

 

「ハジメさん、つみれがもう良い頃合いですよ」

 

「おう、さんきゅシア」

 

そして作業しながら、シアと夫婦のような対応をしてるハジメを見て、

 

「「「「ちょっと待て!」」」」

 

光輝達はついに言葉に出した。

 

「なんだよ、何ハモってんだ?」

 

「「「「なんだよはコッチのセリフ‼︎」」」」

 

ハジメは本気で光輝達が自分に詰め寄ってきてるのかが分からず混乱している。

 

「おまえらも七海先生との会話を聞いただろ?俺が鍵の捜索してるのは周知してただろう?」

 

「いや、捜索まではわかるが…鍵を守るガーディアンとは直接戦って倒して手にするもんじゃ…」

 

「どう考えても、この方が効率的だろ?」

 

「そうだけど!いやそうなんだけど‼︎」

 

「落ち着いてください八重樫さん」

 

「逆になんでそんなに七海先生は冷静なんですか⁉︎」

 

「ツッコミをするたびに疲れるだけですし、南雲君の言う通り効率的なのも事実なので」

 

4人共『あ、そうか、諦めたのか』と心の中で思うと同時に、これまでのハジメ達との旅で起こった色々な苦労を想像し、またほんの少し七海に同情していた。

 

「…ただ先程天之河君が言ったように、迷宮の試練を攻略したとならないのかが疑問です。南雲君、さっきは何を言おうとしてたんでしょうか?」

 

七海が聞くとハジメは『え、なんのこと?』とでも言うような顔をし

 

「え、なんのこと……スマン!冗談だ!冗談だから!」

 

と本当に言ったことで、七海が一瞬キレかけていたので、ハジメは即座に謝った。そして「コホン」と一拍置いて説明しだす。

 

「そもそも、土魔法でゴーレムを使ったり、もしくは闇魔法で魔物を操ったりして捜索してかつ鍵を守るガーディアンと戦って鍵を回収ってのとやってる事は変わらないから、いけるとは思う。ただ」

 

「それだと、南雲君のみの評価になり、他の方々が試練の攻略をしたとはならない。だから残りは個別にチームを組んで、先程の魔物の撃破と鍵を回収をする。そういうことですね?」

 

七海の答えにハジメは頷いて肯定する。

 

「チーム分けは、南雲君を除いたユエさん達4人の南雲君グループと、天之河君のグループですね。南雲君はここで待機して先程のクロスビットの操作ということで?」

 

「おう。既に回収した成果がある俺が着いて行ったことで、ユエ達に試練突破の合格点が貰えない可能性があるしな。で、先生は天之河達の方に行くんだろ?」

 

「ええ。構いませんね、天之河君?」

 

光輝はどこか複雑そうにしながらも、七海の実力もわかっているので頷いて了承した。

 

 

ハジメのクロスビットの誘導を頼りに、迷路内を進んでいき、巨大なフロストオーガを相手にする。

 

「そろそろ俺が行かせてもらうぜ!」

 

既にフロストオーガは七海が両腕を切断し、光輝達の連携でフロストオーガの動きを制限して、龍太郎がとどめを刺した。

 

「しゃぁ!やってやったぜ!って、なんだよ光輝?雫も?」

 

「なんだよじゃないのよ」

 

龍太郎が疑問に思うが、雫は至極冷静に答えた。ちなみに鈴は香織と共に行動した方がいいという判断をしたので、例外的にユエ達に着いて行っている

 

「なぁ、龍太郎」

 

「あなた、本当に龍太郎よね?」

 

「いきなりなんなんだよ急に」

 

先程の龍太郎の様子を見れば、雫と光輝が疑問に思って聞くのも、無理はない。一時的に別名ハウリアモード(鈴名称)になった龍太郎は動けないフロストオーガに馬乗りになり、アームハンマーで滅多撃ちにして撲殺したのだから。

 

七海の方は、既にあることに気づいていた。

 

(なるほど、色々と合点がいきました。だから未完成なんですね)

 

ハジメが龍太郎に渡していた呪具。これまで使用してなかったと七海は思っていたが、実際はずっと使用していた。龍太郎の首につけているチョーカーがそれだ。だがそれだけなら七海は気付いていた。だが鈴と雫のと違い、あまりにも微弱な動きであったので、この戦いまで気付かなかった。

 

龍太郎は今のフロストオーガと戦う中、急にハウリアモードになった。それはハジメ的にも七海的にも予想外であった。

 

だが、それは以前、フェアベルゲンを発つ前に見たものと違う。同じなら、龍太郎は文字通りボロボロになっていただろう。

 

(おそらく、あれに付与されているのは……なんにせよ、坂上君があの魔法を使わなくてよかった)

 

と七海考えてていると、この場所まで案内したクロスビットが近付く。この戦いを見てたハジメだろう。

 

「南雲君、あの呪具は」

 

【ああ。わかってる…未完成じゃなくて、失敗だ】

 

悔しそうな声でハジメは言う。顔は七海からは見えないが、不機嫌な顔をしてるのは間違いないだろう

 

【やっぱり神代魔法を呪具化すんのは難しい】

 

「失敗、ですか。しかし、あの呪具はあれの抑止が目的で作ったのでは?」

 

【いや、違う】

 

そうして宝珠を回収する光輝達を見つつ、七海はハジメから呪具でやりたかった事を説明していた。

 

「そんなこと、可能なのですか?」

 

【仮説に過ぎないけどな。魂魄魔法を呪具化したらできると思った。あいつがここまで普通にできてたのは、勿論あの呪具のおかげだ】

 

チョーカー型呪具、魂合(こんごう): 魂魄魔法の呪具化した物。その効果は、使用者精神の安定。そしてーー

 

 

クロスビットに先導されてハジメの元に戻ると、案の定ユエ達のチームは既に宝珠を回収し、扉にはめ込んでいた。

 

「やはり終わってましたか。……谷口さんは、そちらではどうでした?」

 

ユエ含めて特級術師相当の実力者が集まっている中で、何か出来ていたのか気になり、七海は聞いた。迷宮の試練攻略に役立つことができたか

 

「ん。そこは大丈夫。ちゃんと役割を与えた」

 

ユエ曰く、結界でフロストオーガの動きを止めることをしたそうだ。もちろん、無理しないように。

 

「そもそも複数で攻略する事も最初から想定してんだ。迷路を進んで宝珠を手に入れる工程をしたり、ある程度の協力をしてれば、特に問題ないと思うぞ」

 

心配しすぎだと言うようにハジメは七海に言うと。「確かに」と七海は口にだして納得する。

 

「南雲、ここにはめ込むんだよな?」

 

「ああ。それでいいはずだ」

 

光輝はハジメに聞いてから、回収した緑の宝珠をはめ込んだ。3色の宝珠がそれぞれ輝きを増して、扉の装飾品に光が通っていき、ゴゴゴと音を立てて重く、分厚い扉が開いた。

 

「これ…鏡?」

 

開いた先の通路にある物に、鈴はそう感想をこぼす。実際は鏡ではなく、そう思わせるほどの鏡面力がある氷の壁だ。向き合う氷壁同士が合わせ鏡になり、無限回廊となっている。

 

「気味が悪いですね、こういうのは特に」

 

「それは、呪術的な意味ですか?」

 

七海の言葉に香織が聞く。古来より合わせ鏡は、霊的な通り道や、出口のない空間を作るとされている。呪術的にも充分すぎる程の意味のあるものであるのは、疑いようもない。

 

「ええ。それに解放者はなんの意味もなく、こちらを惑わすだけでこのような仕様にするとは到底思えません。先程迷路にも呪術師が壁を破壊し、それが再生されなかった時の事を考えたような罠を幾つか用意してるのを見ても、ここでも何かしらの事を仕掛けてくるでしょう」

 

「だが、惑う暇はないぜ。ここまで来た時点で、進まない選択肢はもうない」

 

ハジメはそう言い、「行くぞ」と号令をだした。それに着いていくように、全員がミラーハウスのような迷路へと踏み込んだ。

 

「「「⁉︎」」」

 

その瞬間、身体に何かが入ったような感覚が、3人にのみあった。ヌルりと全身と体内全てを舐め回すような感覚に、思わず3人は立ちくらみを起こす

 

「ハジメ!シア、七海も!どうしたの?」

 

ユエが声をかける。ハジメには近付き顔の近くに行くと、若干吐き出しそうな程気持ち悪そうにしてる。シアと七海も同じなのか、苦しそうだ。

 

「任せて!」

 

すぐさま香織が再生魔法と魂魄魔法で回復をし、表情は元に戻り、気持ち悪さはなくなった。

 

「連続では、来ないですね。今の、1回だけ、みたいですけど」

 

「何を、されたんでしょうね」

 

シアと七海が言うように、回復された後もう一度来る、というような事はなかった。

 

「呪術師のみへの嫌がらせ件、呪術師がいるかどうかの確認っていう所か?」

 

「それなら、常時そうする方が効果的です」

 

ハジメと七海はお互いに今起こった事を考察する。そして、七海が言うように、常時嫌がらせをしてこないということは、

 

「おそらく、今ので我々の何かを調べたというところでしょう」

 

「……この先、俺等にのみへ与えられる試練に関するものだろうな」

 

気分が落ち着いても、入った瞬間に来た嫌がらせに、かなり怒りが湧いて来るが、ハジメはそれに流されない。怒りに流されてたら、それこそ解放者の思う壺だ。

 

「気を取り直して、行くぞ」

 

そして今度こそ鏡の迷路を進み出す。

 

「随分と、静かですね」

 

「ん。それにこの氷壁…なんだか吸い込まれそう」

 

薄暗く、さほど広くない通路に周囲は合わせ鏡による得体の知れない不穏感は、冷静な七海とユエでも、気味の悪さを常時感じている。

 

「ユエさん?」

 

すると、なんとなくだろうが、ユエが氷壁に映る自分に手を伸ばす。が、完全に触れる前に、別の氷とは真逆の温かい感触に包まれる。

 

「大丈夫だ。俺が行かせないからな」

 

「……んっ」

 

穏やかな表情と、覚悟のある強い眼差しを向けて来るハジメに、ユエは心と身体が温まっていく。足を止めて、砂糖と蜂蜜を混ぜたような甘い空気感を醸し出す2人。

 

「貴方達、いちいちイチャイチャしないと気が済まないの?」

 

雫がそれに対して代表でツッコミを入れた。いつでもどんな時でも、隙あらばイチャつきだす2人に対して最速のツッコミができるのは、雫くらいのものだ。

 

(八重樫さん…やはり)

 

七海はその雫を見て、以前から気付いている事を改めて確信する。『正直この先大丈夫なのか』と思わずにはいられない。が、それよりもまず七海はユエの方に言う

 

「ユエさん、一応言っておきますが、今のは不用心ですよ」

 

「む…うぅ」

 

一瞬ムカッとしたのか、ユエは七海を睨んだが、『それはそうだ』とも納得はする。ここは大迷宮、何をして来るかわからない場所で、確実に何かありそうでしかない合わせ鏡に警戒なしに触れるなど、不用心と言われてもおかしくない。

 

「とはいえ、してみたくもなりますけどね…南雲君、羅針盤は?」

 

「通路を指してる。壁には向かない。多分、ここは破壊した瞬間に何かしらの罠が発動すると思う」

 

まだ確信はないが、先程の迷路同様の事をするならば、今度は手痛いペナルティが来るだろうと、ハジメは考えていた。

 

それは進むたびにどんどん確信に変わる。数10分ほど進んでも、まったく氷壁の方に向かない。

 

「先程の我々の情報収集と、この場所の前の迷路で、私の情報を得ているのでしょうね。この先、同じ事はもうできないでしょうね」

 

「そもそも最初も、できたらいいな程度で考えてたもんだったんだ。むしろ、大迷宮がようやく呪術師にも適応しだしたって事で、気を引き締め直すきっかけになったよ」

 

「なら、いいんです…っ⁉︎」

「⁉︎」

 

喋っている途中、七海が急に立ち止まる。光輝も同じく立ち止まり、キョロキョロと周囲を見回す。

 

「光輝、七海先生?」

 

「あ、いや。雫、今何か聞こえなかったか?人の声みたいな、こう囁く感じで」

 

「ちょ、光輝君、やめてよぉ!」

 

ホラーが苦手な香織は慌てたように周囲の氷壁に映る自分達を見る。いつのまにか人数が増えている的なホラー現象が起こったのかと思ったのだろう。

 

「七海先生、あんたも聞こえたのか?」

 

「ええ。とはいえ、本当に囁くように、微かに聞こえたもので、何を言っていたかは聞き取れませんでしたが」

 

「他に聞こえた奴はいるか?シアはどうだ?」

 

ハジメが残る全員と、この場でもっとも聴覚能力が秀でるシアに確認をとるが、シア含めて他の者は何も聞こえなかったと言う

 

「気を張り詰めすぎなんじゃねぇ?」

 

「龍太郎…まぁ、そうかも」

「「それはないな〔でしょう〕」」

 

光輝は気のせいにしようとしたが、同時にハジメと七海が否定する。

 

「もし天之河だけなら気のせいかもになるが、それが複数人、しかも七海先生と同時になると、話は別だ」

 

「仮に私だけなら気のせい。もしくは呪術師のみへの試練となりますが、そこに呪術師でない天之河君が入るなら、これは共通の試練の可能性が高いです」

 

1人なら偶然か気のせいでも、複数人ならそれは必然と確信へとなっていく。

 

「でも、だとしたら私達に聞こえないのはなんででしょう?」

 

「聞こえないのではなく、まだ干渉を受けてないだけか、対象を選んでいるか…どちらにせよ、警戒はしましょう。シアさん、頼りにしてます」

 

シアも光輝だけなら勘違いと思いたいが、七海の真剣な表情を見るとそうは思えない。よりウサミミを動かし、索敵に集中する。

 

そうして進むと、再び光輝は止まる。今度は慌てて、且つ叫ぶ

 

「まただ!確かに、今度はハッキリと!男の声で『このままでいいのか』って!」

 

「…七海先生?」

 

「いえ、今度は聞こえませんでした」

 

次は光輝のみ。それが周囲に混乱を生む。

 

「いや、今回も俺は聞こえなかったけど…」

 

「そうね、私も」

 

龍太郎と雫に続くように、他の面々も頷く。自分だけになってしまい、不安と疑心暗鬼が強くなっていく。そんな光輝を雫が宥めるなか、ハジメは冷静にシアに聞く

 

「シア、どうだ?」

 

「いえ、私にもまったく」

 

「なら、ユエは?魔力反応はあったか?」

 

「ない。ハジメも?」

 

逆にユエも聞くが、ハジメも肯定する。

 

「ゾンビにオーガ、さっき迷路の罠もそうだが、この大迷宮は魔力反応を隠蔽する能力がデフォルトで備わっているようだな。俺の魔眼石でもあてにならないんじゃ、魔力を視認するのはほぼ無理と考えた方がいい」

 

「じゃが、あまりにもいきなりすぎるのぅ。それに先程と違い、光輝のみなのも」

 

「大迷宮の事を考えるのなら、徐々にしていく事で、互いの疑心暗鬼を深めるのが目的でしょうね」

 

ティオは七海の考えに「なるほどの」と納得している。

 

「天之河君、今は落ち着いて下さい」

 

「七海先生、先生は、聞こえたんでしょう?聞こえたんですよね⁉︎」

 

「今は、聞こえませんでしたが、それで君の気のせいとは言いませんよ。間違いなくなんらかの干渉を受けています。不安になればそれが顕著になる可能性もあります。今は落ち着いて、次に何かあった時の事考えましょう」

 

「っ!………はい」

 

ひと呼吸して、光輝は落ち着き、全員が歩みを再開する。周囲の氷の壁に映る己の姿が途轍もなく不気味に思いつつ。だが歩き出して数分で

 

「⁉︎また…」

 

光輝の耳に囁くような声が入ってくる。まるで耳にドロりとした液体を入れられるような不快感に顔歪める。だが今回はこれまでと違い、光輝と七海だけでなく、

 

「雫、もしかして……」

 

「ええ。聞こえたわ。でも、私が聞いたのは女の声だったわ。それに…」

 

「どこで聞いた事がある…でしょうか?」

 

光輝と雫の会話に、同じく耳に入り込んで来た声に不快そうな顔した七海が、雫の感じた事について応える。

 

「はい。でもそれがわからなくて…『また、目を逸らすのかしら』って」

 

これで大迷宮からの干渉説は確定だ。その内全員にこの声が聞こえてくる事は間違いない。ハジメは声が聞こえきたと言う3人の方を見て、まず光輝に問う。

 

「天之河、お前はどうだ?なんて聞こえたんだ?」

 

「俺は、やっぱり男の声で、『何もしないつもりか?』って」

 

「ふむ…先生は?」

 

「私は男の声で、『いつまでそうするつもりですか?』と聞かれました。質問の意図は、見えるようで見えない…すみません。正直言って、説明できません」

 

ハジメは雫と光輝にも、声がしてきた質問の意図が何かを問うが、2人とも七海とは違い、言葉を詰まらせる。あるともないとも言えない。言葉として出す行為そのものに躊躇いがあるような、そんな感覚だ。

 

「雫ちゃん、本当に大丈夫?どこか」

「うあぁぁ⁉︎」

 

「鈴!」

 

香織が心配そうに雫に寄り添ろうとした瞬間、鈴が繋いでいた香織の手を無理矢理ほどき、耳と頭を押さえて屈む。万力で頭に圧力をかけられているかのように苦しみだす鈴に香織がまず反応し、雫、光輝、龍太郎も駆け寄る。

 

「白崎さん、お願いします」

 

「は、ハイ!」

 

落ち着いて言う七海の指示で香織も冷静になり、魂魄魔法を行使する。徐々に鈴は落ち着きだし、呼吸が安定した。

 

「大丈夫なの?鈴、平気?」

 

「おい、大丈夫なのか⁉︎」

 

雫と龍太郎が側に近付く。鈴は呼吸を整えて「大丈夫」と言うが、顔色は悪い。

 

「谷口、お前も聞こえたのか?」

 

「おい、南雲!今鈴は」

 

「大事な事だろう?もしこれが俺らにも起こりうる事なら、キチンと聞いて、対策する必要がある」

 

光輝は聞いて来るハジメにやめるように言うが、ハジメの聞く理由も正しいし、何より対策があれば鈴の為になると考え、光輝は自身を感情を落ち着かせる。

 

「…聞こえた。女の人の声で『いい加減決めたらどうなの?』って。それと同時に激しい頭痛がして」

 

「…坂上、お前もだろ?谷口がそんな状態だから配慮したんだろうが、顔が歪んでんのを俺は見た」

 

龍太郎は「うっ!」と言い、素直に肯定した。彼曰く、男の声で『いつまで誤魔化す気だ?』と聞こえきたそうだ。その言葉に対してもやもやした言葉にできない感情が龍太郎を覆うが、鈴の為、隠そうとしていたのだ。

 

「えらく抽象的だな。惑わすには間接的すぎる」

 

「ええ。それにやり方が遠回しすぎる。やるなら、『こっちへ進め』などすれば、道に迷わす事も、グループ全体の疑心暗鬼に繋げることも可能だというのに。…ただ、谷口さんのようなのがランダムにくるのは厄介ですね」

 

ハジメと七海でそれぞれ考察をしていると、ティオが会話に入ってくる

 

「そこの4人にも聞きたいのじゃが、その前に、鈴に起こった事じゃが、おそらくそれは…っ⁉︎」

「ふわっ⁉︎」

「あぁぁ⁉︎」

 

今度はティオ、シア、そして鈴が声を出すが、再び鈴が頭を抱えて苦しみだしたが、片手で頭をもう片方の手はこれまでしてなかった、自傷行為である顔への引っ掻き行為をしようと…

 

「白崎さん!」

 

「ハ…っ⁉︎」

 

七海の叫びに対し香織は「ハイ」と言おうしたのだろうが、そのタイミングで彼女にも声が囁く。顔を歪ませるが、すぐに気持ちを入れ替えて魂魄魔法を行使した。鈴は徐々に落ち着きだし、引っ掻く前に息を切らす

 

「なるほど、これは直接脳へ送られるノイズのようなもの。それが谷口さんの後遺症の残っている脳にダメージを与えているのでしょうね」

 

自分の生徒に与えられる苦悩に対し、七海は怒りを必死で抑える。勿論解放者に対するだ。解放者が鈴のような人物に対してこの現象がどのように影響するかを考えていたのかいないのかはわからない。だがどちらにせよ、不愉快極まりない。

 

「鈴、ここでリタイアしろ!魂魄魔法を何度も使用していれば、今の香織でも限界は来る。それにさっきのように香織に声が囁いて来た時に、対象が遅れて、最悪な事態にもなりかねない」

 

光輝はすぐにそう声をかける。もちろんその行為が鈴に与える影響も加味して。

 

「君が強くなりたい理由もわかるし、必要な事だと思う。けど、このままじゃ、恵里に会う目的も」

 

「いや、それはできないぞ、天之河」

 

そう否定して来たのはハジメだ。

 

「南雲!いくらなんでも今回は無理だ!俺の言う事が少なくとも間違いじゃないだろ!」

 

「まぁ、そうだな。本来ならな。だが、忘れたのか?七海先生の縛り」

 

と言われ、光輝はハッとする。

 

《谷口鈴は中村恵里と再会までは、この旅に同行し、七海建人はこれを認める。ただし、谷口鈴は人を殺さず傷つけない。自分を含めて》

 

縛りを結んでいる。無理な事をすれば鈴の命が危ない。

 

「だ、だけどこのままなら鈴は自分の身体を傷つける。そうすると、縛りは」

 

光輝の言う通り、自分を傷つけてしまえば、縛りに反する。だが

 

「それは大丈夫でしょう」

 

七海が補足を言う

 

「ここで言う殺さず傷つけないは、谷口さんの意思が含まれます。例えば衝動的でも、『これをやりたい』という強い感情があります。自分でも分かっていますが、その後のリスクに検討するブレーキ機能が一時的に外れている状態です。しかし、今のは途中で終わりましたが、やっても縛りの違反にはならないと思います。あれはもはや無意識です。例えば、目に何か入った時、思わず目を閉じて目を擦る行為も、いわば自傷行為ですが、これは無意思です。故に、それに関しては大丈夫です」

 

「っ!でも、だから鈴の同行を続けるを認めるのは別でしょう!縛りを解く方法もあるんですよね⁉︎」

 

「勿論。ただ、縛りの解除にも段階とルールがあります。まず、契約の破棄は契約を持ちかけている側からの直接破棄が必要です」

 

「じゃあ、鈴が破棄すれ……あ」

 

そこで光輝は悟った。この契約の、縛りが複雑化している理由に。

 

「そう、持ちかけてたのは私でもあるという事です」

 

「⁇、あのよ、どういうことか、全然わかんねぇんだけど」

 

龍太郎はわからず、混乱したまま聞く。

 

「バグが発生する可能性です。縛りを結んだ側が谷口さんのでも直接縛りの内容を決めたのは私。これにより、どっちが内容を廃棄したときが正解か、そして破棄に成功しても、一方がペナルティがあるか、双方あるか、それともないのかがわからないんです」

 

《谷口鈴は中村恵里と再会までは、この旅に同行し、七海建人はこれを認める。》

 

これをしている側は鈴だ。だが最初にそれを提案しているのは、七海だった。

 

「この状態に陥る原因は私にあります。私1人が犠牲になるなら構いませんが、バグがどう作用するか、予想がつかない。勿論どっちも助かる可能性もありますが、もしそうならなかった場合は」

 

「先生には悪いが、その理由で勝手に命を賭けるのは俺は認めないからな」

 

ハジメが割り込み、ハッキリと「認めない」と言った。これで、道はなくなる。シンと静かになる

 

「南雲君、しかし、わかっていて進むなら、それは自傷行為と同等になる可能性があります」

 

「それもわかってる。考えはある。おい坂上、お前の呪具を谷口にやれ」

 

「俺の、呪具を?」

 

龍太郎は首にあるチョーカーをだす。

 

「幸いにも、さっき戦いを見てたが、そいつは未完成で失敗作だ。お前に合う呪具は、またすぐ作り直す。…ああ、心配するな。失敗作だが、谷口の精神安定に使うには充分だ。少しだけ改造するがな」

 

ハジメは「よこせ」と命令する。龍太郎は外して渡すが、ハジメが手に取ると同時に、龍太郎は離さない。ハジメは『なんのつもりだ』と言おうとしたが

 

「南雲、半端なもんは作るなよ、そうなって、もし鈴になんかあったら、俺は絶対にお前を許さない。命をかけて、お前を殺す」

 

僅かにでるハウリアモードの龍太郎の言動と目に、光輝と雫は冷や汗をだす。だがハジメはまるで意に介さず

 

「誰に言ってんだ?んなもん作るか。…ただ、いい眼だ。その眼と感情を、忘れるな」

 

僅かとはいえ、師であった為か、そんな事を言い、ハジメは呪具の改良を開始した。

 




ちなみに
龍太郎の呪具は未完成ですが、龍太郎の精神安定はできました。ですが本来の用途は別にあります。現状、ハジメグループと勇者グループ全員の中で1番弱いのは龍太郎です。1級術師レベルはありますが、色々と不安定なので。呪具の用途説明は、また別にかなぁ。あと、次回出す改良した呪具は、ハジメが龍太郎にさせたい事とはほぼ違う使い方になります。

ちなみに2
ハジメはユエ達にも呪具を作る予定です。戦力的に劣る勇者グループ(光輝を除く)を優先に作りました。ただ、今彼らが使っている呪具は今後ユエ達に使わせる為の実験を兼ねたプロトタイプです。もし作るなら、ここの大迷宮攻略した後にするでしょうね。

あと今回の話しでありふれさんぽをのぞいて100話目です(これも数え間違いでなければ)。なんか、感慨深いような、そうでもないような、ともかく、ここまで読んでくださる皆様に、改めて感謝。誤字脱字の報告を下さる皆様にも本当に感謝してます。

ポケモンやら他ゲームしながら空いた時間にいっきに書いております。それやめろと言いたい人もわかるが、面白いんだよぉ、特にポケモン!
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