ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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7月3日に間に合いましんでした、申し訳ない。

活動報告にもあった今回の話しの調整と、次の話の虚像戦の草案を練ってある程度書きたいと思い、そっちに時間使ったので。草案はある程度書き始めた当初通りですが、幾つか変わってます。でもこれから草案をもとに書くのでまた時間かかります。申し訳ない。感想とかは、書く時とかに返信するので


魔鏡氷晶③

ずっと、考える事をやめていたことがある。ずっと、見ないようにしようと思ったことがある。もしわかってしまったら、自分を保てるかわからないから。

 

だが、本当はずっとわかっていたのかもしれない。答えは見えていたのかもしれない。だからあの時、嘘をついた。

 

だから、真実を語らなかった。

 

……答えはもう出てる。あとすべきなのは、自分に与えられた使命を全うすること。そして、自分自身に、ケジメをつけることだ。

 

 

 

【嬉しかったんでしょう?】

【もう、気付いてるんでしょう?】

【自分の存在と、存在意義を、なぜ否定するんです?】

 

 

 

(そんなこと、言われるまでもない)

 

真実がわかったところで、どうしようもない。なら

 

(私は私を全うする。それだけだ)

 

 

「…い?せ・せい?七海先生?」

 

「!…すみません。少しぼうっとしてました」

 

あの後暫く迷宮内を進み、3時間ほど経った頃か、広めの小部屋を見つけてそこで休憩をしていた。この3時間、聞こえてくる囁き声に、異常なまでに精神力を使ってしまい、光輝達の限界が来ていたのを見て、小休止をとっていた。

 

いつものように七海は休息しつつ周囲の警戒をしていたつもりだったのだが、存外囁きかけてくる声に、七海もそれなりに神経をすり減らされていたようだ。ハジメに声をかけられるまで気付かないほどに

 

「……あんたがそうなっちまうとは、意外だな」

 

「自分でも驚いてます。私も、未熟ですね」

 

2人の間に微妙な空気が広がる。けして仲が悪くなったとか、そういったものではない。2人とも互いに信用と信頼がある。 

 

それは揺らいでない。ただ、お互いに何を言えばいいかが分かってないのだ。

 

七海は自分の言葉でハジメに迷いを与えてしまった事に。ハジメは自分の中にある感情に整理をつけれず、取り乱して強制命令を発動しようとした事を。

 

((謝るべきか?いやそれはさっきした))

 

奇しくも同じ事を考えてはいるが。

 

「ハジメ大丈夫?」

 

「ん、ああ大丈夫…だ…ってなんだ?」

 

ユエはバッと腕を広げていた。ハジメは一瞬だけ『なんだ』とは思ったが、すぐにユエの考えを理解して

「はいストップですぅぅぅ!」

 

ハジメがユエの魅惑によって理性を崩壊させる前に、シアがハジメに飛びかかり腕に関節技をかける。普通の人間なら相当に痛い筈だが、ハジメは全然効いていないのか、ケロっとした表情をして「何をする」と言う。

 

「何をするじゃないですよ!いったいお2人はナニをしようとしてたんですかぁ⁉︎時と場所を考えてください!あと、ユエさん!いい加減私を除け者にしないでください!」

 

「ん、ごめんなさい。しゅんとしてるハジメを見てたら、身体で慰めたくなって」

 

「ちったぁ隠せですぅ‼︎」

 

「おいおいシア、心外だぞ。この状況で俺が襲うわけないだろう」

 

「獣みたな目でユエさんに近寄ろうとしてるのに何言ってんです!」

 

最近のシアはハジメ恋人認定されてから、更に遠慮が無くなり、対等でいようという覚悟が強くなっており、こうした取っ付き合いが多くなっている。だが今回のは少し違う。

 

(ユエさんとシアさんに、気を使わせてしまいましたね。ま、半分以上は本音でしょうけど)

 

そんな七海の視線に気付いたユエが僅かに七海を見る。『しっかりしろ』と注意された気がした七海は、ため息しか出ないが、少しは気持ちが落ち着いた。

 

(ただ)

 

自分の事を打ち明けるのは、今は止そうと七海は判断した。ただでさえさっきの発言でハジメに迷いを与えてしまった。ハジメ達はこの囁き声には何も感じてないが、七海が自分の事を打ち明けて何かしらの問題が出てしまう方が危険だからだ。

 

(なにより、今は彼らもいますしね)

 

七海は目線を雫に、次光輝と順番に勇者グループの面々見る。現状囁き声で疲弊してる面々に順番をつけるなら1番は雫、残りがどっこいというところ。鈴に関しては囁き声による不快は今はないが、それでも囁かれる自分の闇に、神経がヤツれだしている。この状況で混乱を与えるのはいけない。それは彼ら自身もそう。自分の覆い隠す闇、囁かれる声が言わんとする事の内容を完全に話さないのは、それによってここにいる者達に混乱を与えないためだ。

 

「雫、どうしたの?」

 

「え、あ、鈴……大丈夫よ。むしろ鈴はどう?痛みはない?大丈夫?」

 

「…雫、私や皆を心配してくれるのはありがたいよ」

 

鈴は「でも」とつけて続ける。

 

「自分の事を無視して他人を心配してたら、本末転倒だよ」

 

「!」

 

今の鈴は、自分の思ったことをストレートに伝える。それが雫には応えた。自分に囁かれる内容にも刺さるものだったからだ。

 

「そういう意味でいうなら、もう1人いる…いや、いたっていう方がいいかもね」

 

鈴の言うもう1人であろう人物、光輝はしゃがみ込んで(くう)を見ている。

 

「な、なぁ光輝」

 

「…なんだ、龍太郎?悪いんだが、今少し集中してる。用件は手短に頼む」

 

「あ、いや、別に用があるわけじゃないんだ。ただ、こんな気持ち悪ぃ場所、さっさと脱出してぇなって」

 

「…ああ、そうだな」

 

光輝の口数はどんどん減っていた。だが、囁き声で光輝は自分の心に漂う負の感情が誰にあてられているかはわかっていた。僅かにその人物、ハジメを見たが、すぐに目線を空に戻す。

 

見られたハジメもそれに気付いたが、あえてなにも言わなかった。何を言っても逆効果であり、何より現状光輝は不器用ながらその負に向き合おうとしている。

 

それと『余計な口出しは無用だ』と七海から視線による無言の指示もあった為だ。

 

「それより龍太郎、大丈夫なのか?あの呪具がなくなったけど、その、なんだ…精神的な意味で」

 

「え、ああ。正直言って、自分じゃわかんねーところもあるから、なんともいえない。昇華魔法を使って自身を強化する手段はあるが、同時にお前らが言う、暴走状態の俺とは相性が悪いからな。早いとこ修正してーが」

「それだったらよ」

 

と会話の途中でハジメが入ってきて、「ほらよ」と先程まで龍太郎がつけていた物と同じような呪具を渡す

 

「そいつは予備で作ってたもんだ。魂魄魔法を使って、お前用の呪具を作る時、やりたい事を成功させれるかわからないところがあったからな。今度こそ、大丈夫だ。それが本当の意味で完成するまで、しっかりつけとけよ」

 

「ハッ!マスター!」

 

ビシッと敬礼をして龍太郎はチョーカーをつける。その前の龍太郎の言動を見て、香織が聞く。

 

「やっぱりあの呪具が、龍太郎君の性格を戻してたの?」

 

「戻してたっていうより、んーちょいと表現が難しいんだが、まぁ、今はそんなもんと思ってくれ」

 

香織の問いにハジメははぐらかすように言う。

 

「さっきのまで坂上が使ってたのは、確かに精神を安定させる機能があったんだが、もうひとつのほうがどうも機能してなかったんでな。だから今は仕様をちょいと変更と、さっきとは別に付与したもの、それと縛りを最初のと変更したことで、改良されてる」

 

そしてハジメは呪具を使ってさせる事とそうする事で龍太郎にさせる事。それらを説明した。ちなみにその説明は使用者の龍太郎含めて今伝えた。

 

「……そんなこと、可能なの?」

 

雫は聞いた感想を告げるが、それはこの場のメンバーの殆どが言いたいことだった。

 

「まだわからない。呪具化する際に、込める魔法や技能には相性があるからな。呪具になる事で通常以上にできることが増えたりするんだが、逆にできない事とかもある。ただまぁ、魂魄魔法に関しては呪具化の相性がいいと俺は思ってる」

 

「根拠は?」

 

「ない。ぶっちゃけ勘。でもそれなりに確信はある」

 

ちらりとハジメは七海を見る。七海の死因となった呪霊の存在と、その術式を。更に最近では恵里の術式についても聞いた。魂に干渉する術式は存在するし、呪術的にも魂と呪術は密接な関係がある。

 

「だから、この呪具が完成したら、坂上は今以上に強くなれる。ただ、完成するかはまだわからない。ここの神代魔法も必要になるかもしれない。とりま様子見だな」

 

「七海先生、そういえば聞いてませんでしたが、どうして昇華魔法を龍太郎に使わせてないんですか?ってどうしたんだ南雲?香織まで、ほんとにどうした?」

 

光輝の問いに七海は平然としているが、ハジメと香織はどこか澄んだ顔をしている。

 

「そうだったな、お前はフェアベルゲンで見てなかったよな、コイツが使ってたところ」

 

その時光輝は自分のことで悩むことが多く、親友である龍太郎にすら構う余裕がなかった。七海と、1日とはいえ師をしていたハジメが七海に言われて見に来て、たまたま近くにいた香織もそれを見た。

 

「あぁ、それですか。単純明快ですよ。制御できてないからです」

 

七海がさらりと言うと、龍太郎は恥ずかしそうに頭をかいている。

 

「制御できない?もしかして、龍太郎に適正がないってことですか?」

 

同じ神代魔法でも適正のあるなしの存在があるのは光輝も知っている。昇華魔法は手にするだけで1ランク上に文字通り昇華させるが、それを実際に使うとなればまた別で、相性があるのだろうと考えた。その考えは間違ってない。

 

「いえ、その逆です」

 

答えが逆というだけで。

 

「適正は、もしかするとここにいる人の中では1番かもしれません」

 

「?なら尚更、なんで使わないのか理解できないんですけど?」

 

「…光輝君、フェアベルゲンで大きな爆破音を聞かなかったの?」

 

「聞いてたよ。でも、香織とユエさんのたわいない喧嘩とか、模擬戦とかの音だろう?」

 

それもある。むしろ喧嘩(それ)が殆どである。だから途中から光輝も『あ、またか。今日もいい天気だなぁ』くらいに慣れていた。

 

「坂上君の件も含めて、南雲君達に原因がありすぎるような気がします」

 

ハジメ達は七海に言われて冷や汗をかきつつ露骨に目を逸らした。それを敢えて無視して七海は説明する。

 

「…坂上君の昇華魔法は、簡単に言えば自身の完全強化です」

 

魔力の操作、それによる身体強化術とそれに値する魔法、元々の自身の身体能力が向上し、更に戦闘IQの向上により本来なら龍太郎ではできない状況判断能力ができ、相手がどういう攻撃をしているのか、そのタネを考察するなんて事もできる。要するに、昇華魔法を使っている際は、龍太郎はものすごく頭が良くなる。

 

「……聞けば聞くほど、なんで使用しないのかわからないんですけど」

 

光輝の疑問は、見てなかった他のメンバー、鈴と雫の地球組とティオとユエも同意している。

 

「問題は、マイナス点も強化してしまうことです」

 

「…龍太郎のマイナス点?魔力の操作技術は上昇するんですよね?」

 

「そこではないんですよ。彼は南雲君との修行の影響で、人格に著しい変化が見られるようになりました。それが、昇華魔法によって完全な二重人格にまで昇華されます」

 

「「「へ?」」」

 

「いや、正直なところ、そこまで昇華すんのかいって素で言ったくらいだからな、俺」

 

「あの時は、もう本当にカオスだったよ」

 

途中までは良かった。だが模擬戦をしていた際、急に性格が変わった。ハウリアモードの訓練でも容赦のない戦いと口の悪さと、龍太郎らしくない戦い。具体的に言うなら砂かけ、簡単な魔法による目眩しと、そこから姿をくらませての簡易奇襲などなど様々。そして問題なのは、それが龍太郎の戦い方とまるで合ってない事と、通常の龍太郎モードも健在の為、自分で自分と喧嘩するということが始まり、最終的に昇華魔法で向上した魔力出力を維持できず自滅した。その爆破はなんとか咄嗟にハジメが空間魔法を付与したアーティファクトで防ぐも、してなかった龍太郎の周囲に巨大なクレーターができた。

 

「白崎さんのおかげですぐに回復できましたが、あれではこちらに被害もでますし、戦闘には使えません」

 

「それで、あの呪具で抑えてるのは分かりましたけど、それならもう使えるんじゃ?」

 

「いえ、坂上君の昇華魔法の適正が強すぎて、南雲君の呪具の性能による妨害ですら、一時的なものにしかならず、しかも全ての昇華ができてない為、不完全な魔法になります」

 

実際、呪具をつけている状態で昇華魔法を使ったが、強化が中途半端であった。全体昇華ができていないというエラーによって、むしろ魔力のコントロールは効かないうえに、魔力出力がデカすぎて抑えも効かない。ブレーキのないF1を全力疾走させるようなもんである。

 

「めんどくさ」

 

「うぐぅ!」

 

鈴の容赦ない言葉に龍太郎は傷ついた。

 

「そ、それで、さっき言ってたこともあってアーティファクトじゃなくて呪具なのね!正直アーティファクトでも良いんじゃって思ってたから、うん」

 

雫は無理矢理話題を変えたが、龍太郎は『ズーン』と言う効果音が聞こえるくらいに落ち込んでいる。体育座りをして壁の方をむく龍太郎がいつもより小さく見えるのは気のせいではないだろう。

 

「まぁな。ともかく坂上の呪具は未だに未完成で草案に近い。この大迷宮攻略中か攻略後に、完成すればいいんだけどな」

 

何人かが『なんともまぁ適当だなぁ』とハジメに思っていると光輝が小さく手を挙げる。

 

「……南雲、その時は」

 

「ああ、わかってる。そん時はお前のも作るさ」

 

こくりと光輝は『頼む』と言うかのように頷く。

 

光輝の呪具も最初は作ろうとしたが、光輝本人がそれを断った。誰もがその理由は光輝自身がハジメの力を借りたくないという意地を張ったものだと考えたが、違った。

 

「全部の神代魔法を得た俺の方が、最強の呪具を作れる可能性が高い。だから自分を後回しにしろ。だったよな?…そん時も言ったが、それはお前が大迷宮で生き残る事が大前提だ。別に今作っても、後から分解してまた作り直せばそれでいいんだからな」

 

「それは俺も理解してる。だが今のお前は、神代魔法と完全呪具化の際は負担があるだろ?1つ作るのにそんなのじゃ、今後に差し支えるだろ?何よりどうせなら完全な呪具が欲しい。神代魔法のついたな」

 

ハジメと光輝はフェアベルゲン以来の言い合いをしている。どちらにも言い分はあり、光輝の言葉にも、ちゃんとした理由がある。

 

神代魔法は完全呪具化できない。最後の神代魔法を手にしても、それができるようになるかはわからない。だがこれまでのハジメの成長性を考えるなら、できないとも言えないも確かだ。

 

要するに光輝が言いたいのは、『未熟な者が作る半端な物はいらない』という事。言葉として出したわけではないだがそう思われるのも仕方ない。そう考えていた、お互いにだ。

 

光輝はハジメがそう捉えられるだろうと考えて敢えて濁さず、言った。その方がハジメはムキになると考えたから。

 

ハジメの方は遠回しに未熟扱いされた事に当然腹が立ち、一瞬光輝を『ブチのめすか』とも考えたが、そうすると自分が未熟であると認めるようなものであり、何より、七海の世界の特級呪具と比べた時、呪具単体で使えない所は半端な物と言われるのも無理はない。

 

2人の戦闘面の実力差は圧倒的だが、精神面はややハジメが勝るが、だがたまに光輝が競り勝つくらいには成長をしていた。

 

そんな会話をしつつ、聞きつつしながら魂魄魔法を行使して、精神力の回復と安定をしていたティオが視線を周囲の者達に向けて、調子がどうかを聞くと、雫と鈴は多少は頭の中がクリアになったと言うが、内に溜め込んでいるものに関しては、本人が悩み、気にする事そのものを解決しない限りはそれほどの効果を発揮しない。

 

鈴は呪具で頭痛はもうないだろうが、囁かれる言葉全てが、彼女の心を抉る。少しは取り戻せていた本来の谷口鈴を、完全に捨て去る可能性すらあるほどに。

 

「正直、だいぶ楽になりました。精神集中もできたし、何より自分を見つめ直すこともできた。感謝します、ティオさん」

 

光輝は微笑みながら言うが、どこか儚げである。だが嘘も言ってない。自分の中にある気持ちに整理がつきだしているのも確かだ。問題は、向き合い方なのだが、それは光輝にしかわからない。

 

そして龍太郎は呪具によって精神安定もしているのもあり、快調そうだ。ただし見た目だけ。実際は精神的に痛い所を囁き声によって常に触られるので、それなりに不調になっている。

 

それぞれ抱えているものがあり、無理をしている者が殆どあることもティオにはわかっていたが、問いただしてもはぐらかされるか、もしくは別の問題を作る要因になりかねないと判断し、素直に礼を受け取るだけにした。

 

「さて、ご主人様よ。さっさとこの迷路から出るべきじゃが、実際あとどのくらいなのじゃ?」

 

ティオに聞かれたハジメは「そうだな」と言い、羅針盤を僅かに見る。

 

「多く見積もって、大体1時間ってところか?最初迷路同様に七海先生が壁ブッ壊せばもっと早かったんだがな。ま、それでもだいぶ早くここまできてるはずだぞ。羅針盤があっても、普通に攻略してたら、既にまる1日はかかってただろうし」

 

「お役に立てているなら、幸いです」

 

(もう大丈夫そう)

 

ハジメと七海のやりとりを見て、ユエはそう判断している。事実、2人は互いに思うところはあるものの、それを認める思いの方が強い。だが、同時にユエを含めた何人かは、七海がまだ何か隠しているのにも気付いている。

 

「七海」

 

「なんでしょう、ユエさん」

 

「無理しないで。あと、整理がついたら話して」

 

さすがに内容そのものはわからないだろうが、やはり気付かれているかと七海は思いつつ、黙って小さく頷く。

 

(ちゃんと言わなくていけませんが、今はこの大迷宮に集中しろっということでしょうね。ユエさんに言われては、立つ背がない)

 

ユエが聞いたら『どういう意味だ』くらいは言いそうなことを思いつつ、七海は己を律する。歩きつつ、自分が映る氷の鏡。それが、目線と口元が動いて同時に囁き声が告げてくる。

 

【まだ続けるのですか?】

 

これはそういう仕様なのだろうと七海は自分で解釈して

 

(続けますよ。それが私だ。それが、今の私だ)

 

スンと感情の起伏を落ち着かせて、ハジメ達と共に向かう。

 

 

その後もしばらく迷路を進んでいると出口につき、その部屋に入ったのだが、

 

(なるほど、これは勇者グループの方々は特に厄介でしょうね)

 

巨大な氷の塊が手足を持って襲いかかる。フロストゴーレムというべきか。氷は氷でも、魔力で強化されている為、その強度は桁外れ。当然パワーも、その巨体からわかる。更に巨大な斧と盾をもち攻防もできる。この武器で言うなら、ハジメのレールガンでも砕けない強度だ。

 

おまけに現在、彼らはこの場所である事態になり、戦闘中の妨害がある。1つは、天井から降り注ぐ閃光。ハジメの作ったレーザー兵器と同等ともも言える威力の光の一閃が、肉体を貫こうとする。周囲に舞う氷片はダイヤモンドダストのように美しく散るが、それがレーザーの起動を曲げてくる。これらだけならユエと鈴、更にティオがいるなら、防御結界の付与でどうにかなる。だが、もうひとつの妨害が厄介だった。

 

 

「バカオリ!いい加減にしろ!」

 

「ごめーんでもユエなら分解砲ならなんとかなりでしょう!」

 

味方同士の攻撃。それも完全な無意識によるもの。これまであった囁き声は当然だがこの場所の戦闘中にもある。だが、ここに来るまでに囁き声で刷り込みを行ったことと、この部屋内での無意識領域への干渉。

 

この場にいる者への不満や嫉妬などある者は、無意識にフレンドリーファイアをしてしまう。

 

明確に意識誘導をされていないのはハジメ、ユエ、シア、ティオ。理由は意識誘導できる相手がこの場にいない為だ。逆に影響を受けている者の中でもっとも深刻なのは鈴だ。

 

「っっクソ!なんで!」

 

思わず鈴は汚い言葉が出てしまう。全員に防御結界を付与したいのに、それができない。意識する事ができない。むしろ誰彼構わず無差別な攻撃をしてしまいそうになる。

 

簡易領域を展開してフルオートの攻撃を行おうかと考えたが、全員の位置がわからない為、今使うとどれだけの範囲を広げてしまうか自分でもわからない。そうなってもし味方が簡易領域内に入ってしまえまば、今度は対象の選択を行う事ができず、誰かを傷付けてしまうだろう。そうしないだけ、ある程度の感情コントロールを鈴はできているが、それ以外の攻撃もフロストゴーレムに向かわず、味方に行かないようにする為、自身の防御に専念する。

 

(今更だけど、結構無茶な縛りをした気がする)

 

だがそれも受け入れたうえで鈴はここまで来たのだ今更やめられない。

 

【そもそも誰の為に、何をやろうっていうの?】

【誰も心から信じられないくせに】

 

「⁉︎…っっっくぞぉ!」

 

頭に入り込んでくる声に、惑わされそうになるも、自分自身に集中することにし、どうにか攻撃行動を抑制する。ある意味、この場所で最も苦戦をしているのは、鈴だろう。

 

 

現状影響を受けた者の主な攻撃対象と順位は

 

光輝:ハジメ≧七海。

雫:ユエ>シア>ティオ>香織。

香織:ユエ>シア

龍太郎:ハジメ≧光輝

鈴:ほぼ全員(攻撃優先順位は鈴が攻撃行動をしてない為不明及びランダム)

 

主なというものである為、各員の立ち位置や状況によってはある程度変わってくるが、だいたいこうなっている。

 

 

やろうと思えばユエもハジメもゴーレムをまとめて撃破できるが、やっても無駄だなようだ。1人につき1体は倒さない限り終わらない。必ず1対1を強要される。しかも視界が雪と氷のベールにどんどん包まれていき、味方の位置を把握できなくなっていく。

 

位置が把握できないにも関わらず、攻撃は無意識に味方に向く。それがいつどのタイミングかもわからない。

 

味方からの攻撃と上から降り注ぐ殺意の光線(レーザー)。そんな状況下の中で、香織を除いたハジメグループの次に攻略したのは、七海だった。その理由は試練を科した解放者側にとって、七海はあまりにも相性が悪かった。

 

(黒閃!)

 

黒い閃光。その輝きと共に氷の巨兵が、周囲の光を乱反射しながら砕け散る。

 

実は七海も影響を受けていた。もし同志撃ちするなら、その人物はハジメであったが、そうはならなかった。理由は2つ

 

1つ、七海の性格。ハジメ達に追い越されている、追い越されるのは、既にわかっていたこと。ある程度の嫉妬はあれど、それを理解し落ち着かせ、自らができる事を常に模索して、己を律することのできる七海は、どれだけの囁き声による雑音も通じない。が、これは囁き声に他者…ハジメ達への強さを越された事への嫉妬心を突かれたのが少ないこともある。

 

もう1つは、攻撃手段。

 

「全員!攻撃手段を近接戦闘のみに!魔法は強化魔法のみに特化!遠距離攻撃及びそれに準ずる魔法は、絶対にしないでください!」

 

七海の攻撃は、術式の性質上、近接戦闘のみになる。故に、フロストゴーレムと敵対した時点で勝負は決まっていた。

 

どれだけ頑丈でも、弱点を作り、そこを攻撃されてしまえば、魔法による強化は意味をなさない。フロストゴーレム本体を1撃で破壊できるだけの膂力と強固な盾を粉砕する為の弱点を作ることが可能な術式は、まさにフロストゴーレムの…いや、この試練の天敵だった

 

「谷口さん、あなたは全員がこの試練を突破するまで持ち堪えてください!そうすれば、簡易領域でのフルオートの攻撃ができます!後の方々は、なるべく早くに決めてください」

 

言うべき事を言った七海は、雪煙が晴れて部屋の出口であり、次の場所に向かう為の門へと向かった。援護をしてもどのみち何度もフロストゴーレムはあらわれる。何より、近接戦闘のみを強要され、囁き声で集中を乱されても、全員が勝てる相手だと信じている。

 

ただ、1つ七海は勘違いをしていた。

 

「〝鉄扇華(てっせんか)〟。〝聖絶〟、〝形状変化〟」

 

彼女は、谷口鈴は既に、特級に限りなく近い強さと、それに相応しい才能がある事を

 

アーティファクトを振るって〝聖絶〟を展開したが、範囲が広い。〝聖絶:縛〟や〝聖絶:闘場〟よりも更に広く、鈴を中心に戦闘中の者達を覆う。

 

「これは」

 

「防御結界になってない?」

 

試練をクリアした者達は、ハジメのクロスビットから送られてくる映像を見ていたのだが、鈴のしていることに即座に気付いたのはティオとユエ。彼女達の言う通り、鈴の展開した〝聖絶〟は防御機能はなくただ広がるのみ。

 

「ここから先は、アーティファクトでじゃなくて、私がやる。〝結界昇華〟」

 

鈴の展開した〝聖絶〟が、光り輝き、雪煙も、ダイヤモンドダストもゆっくりと消滅していく。更に

 

「「「⁉︎」」」

 

戦っている3人にも、わかりやすく変化があった。頭に入り込んでくる囁き声。それがなくなった

 

 「〝無塵聖域〟この結界内では、ありとあらゆる魔法は通じない」

 

〝無塵聖域〟:昇華魔法と空間魔法によって底上げされた〝聖絶〟が進化した、鈴の新たな魔法。結界そのものには攻撃性能も防御性能もない。その代わり、それらを搭載できるだけの容量を持たった結界に、本来発射される魔法の魔力を流し込む事で、ありとあらゆる魔法は中和されて無力化してしまう。

 

(七海先生曰く、結界術は足し引き。そして、シン・陰流の師範の人は、結界に独自のプログラムをつけているって言ってた。この世界の結界にも独自の構築をすればもしかしたら…もしかしたら程度ものだったけど、昇華魔法と空間魔法やっぱりすごい。私の考えてた結界術が全部できる)

 

 

2つの神代魔法をアーティファクト込みで使用してるとはいえ、やっていることは新たな神代魔法を生み出したに近い。それだけはなく、この現象を起こすのに必要だったのは、今回使った2種の神代魔法。その根本、正確な定義(・・・・・)をどれだけ発揮できているかによって決まる。その事を鈴は理解していたわけではない。ただ、彼女の結界術の才能と、〝魔力操作((いびつ))〟による能力引き上げが、本来不可能な事を可能にした。

 

彼女がしている結界術はこの世界の者達は勿論だが、結界の性質が別の世界且つ呪力と魔力の為、より正確いえば違うのだが、それでも五条悟、両面宿儺ですら成し遂げる事ができない、領域展延の効果をもった領域展開をしているのに近い。しかし、大きな力には必ず弱点がある。〝無塵聖域〟はありとあらゆる魔法を中和する。

 

それは、展開した術者も例外ではない。

 

「ガァぁ!」

 

〝無塵聖域〟を展開した直後、大きな隙ができた鈴にフロストゴーレムの盾による殴打が鈴を吹っ飛ばした。フロストゴーレムの殴打に対し、鈴の魔法は使えなかった。

 

「谷口さん!」

 

クロスビット越しに見ていた七海が、

 

「「「鈴!」」」

 

雪煙が薄くなり、鈴の姿を視認することができた光輝達が、それぞれ声をだした。

 

中和できるのは放出された魔力。ゴーレムのように内臓された魔力で動く物体や、身体強化のなどの為に体内で流している魔力と、更に錬成や属性魔法で既にそこに出来上がっていた物質とその内部で動く魔力には影響はされない。

 

鈴はこの魔法の構想は昇華魔法習得後からすでにあったが、未完成の案に過ぎず、構想が完成したのはつい最近…というよりもつい先程、日下部の事を聞いてから。当然ながら実際に使用したのは今回が初。ここまでをまだ理解していなかった。

 

「てめぇ!っ!どけぇ!」

 

壁に激突した鈴は、まだ生きている。身体強化をしていなければすでに死んでいただろう。ぐったりとして動かない鈴に、フロストゴーレムが重い足音を響かせて歩く。龍太郎が真っ先に助けようとするも、彼の前にもフロストゴーレムが立ちはだかる。続いて光輝と雫も動くが、2人も同じだ。

 

「白崎さん!」

 

「…っ!ダメです!魔法が、魔法が発動しない!」

 

遠距離からの回復をしようとするも、鈴の結界に阻まれて魔法が発動しない。それはユエとティオも同じのようで、助ける為に動いていたのに魔法が発動しない。

 

(ここまでですね)

 

ハジメの目を見て、『いいぜ』と言葉に出してはいないがこくりと頷いたことで七海が駆け出す。ハジメもクロスビットを出して援護射撃の準備をする。七海は足に付けた呪具を使用して飛び出そうとした直後、

 

「!」

 

鈴のいる方向で、呪力の動き(・・・・・)を感じ、動きを止める。

 

 

 

【ほら、また空回り】

 

(うるさい)

 

【誰かの為に、みんなを笑顔に?まだそれ続けるんだ、裏切られたくせに、痛い目にあったくせに】

 

(うるさい)

 

【何も決めてないのに何かしようと必死になって】

 

(うるさい、うるさい)

 

【あと先考えない行動。ほら、何も変わらない。また痛い目をみる。そんなに変わるのが怖いんだ】

 

(うるさい、うるさい)

 

【捨てように捨てられない。でも持ち続けるのも苦痛。よくそれで】

 

 

 

「うるさい‼︎」

 

それは、大迷宮がしてきた囁き声ではない。それは現在〝無塵聖域〟によって封じている。気絶した鈴が自分で勝手に作り出した心の言葉。だが、それが偶然にも、鈴の意識を戻すことに成功する。しかし、目の前には氷の斧を振り上げ下そうとするフロストゴーレム。本来なら魔法で防げるが、今の彼女にはそれはできない。ありとあらゆる放出された魔法の魔力は中和され、無効化してしまう。

 

リンッと音が静かに響く

 

放出された魔法の魔力は中和される。…魔力は

 

仙域鈴(せんいきりん)

 

本来なら鈴が自分で勝手に作り出した言葉で彼女の精神は乱されるが、それは防ぎ、且つ落ち着いた。魂合・改(こんごうカスタム)。その効果で、精神の安定と疲弊した魂を癒した。

 

もう一度言うが、〝無塵聖域〟内ではありとあらゆる放出した魔法を中和する。だがそれは魔法…つまりは魔力のみ。呪力と術式には、無反応である。

 

「〝邪絶〟からの、圧縮」

 

仙域鈴(せんいきりん)の作り出した〝邪絶〟がフロストゴーレムを包む。当然、内部の強度を高めた閉じ込めるタイプの結界だ。それを圧縮していく。バキバキ、ビキビキと音を出して、結界の大きさをどんどん縮小していき、フロストゴーレムを圧殺した。

 

「恵里、私がんばったよ、だから、また、会ったら、褒め、て」

 

「………よく、頑張りましたよ、谷口さん」

 

迎えに来た七海は聞こえていない事をわかって尚、そう告げる。

 

彼女が称賛を望んでいる人物ではない。だがそれでも、七海は言わずにはいられなかった。と同時に、鈴が気を失ったことで、展開していた〝無塵聖域〟が消滅する。再び雪煙がたち、すぐにでも先程の二の舞になるだろう。七海は鈴を抱えて、試練がクリアした事でできた道を進む

 

(谷口さんが気絶した事で結界が…あとは、他の各々に任せるとしましょう。今はまず、谷口さんの治療です)

 

急いで七海はその場を離れて、香織に治療を頼みに行った。

 

 

「しまっ!南雲、すまない!」

 

囁き声と無意識領域への干渉が再開した事で、再び光輝はハジメに無意識で攻撃をしてしまう。七海から言われたように、近接戦闘のみに重視すれば良いが、身についた攻撃の癖とパターンはそう簡単に無くせない。囁き声で精神を削られるなら尚更だ。

 

光輝は自分で自分が強くなっているという自覚はある。事実、たった1人である程度のサポートはあれど、フロストタートルを倒せた。並大抵の相手では圧勝できる。が、それはあくまで並から同等級の相手のみ。

 

絶対強者、七海の言う特級という階級(クラス)にはほど遠い。

 

ハジメは空間魔法によって作られたゲートに光輝の攻撃が吸い込まれるように入り、出口のゲートからあさっての方向へ向かう。

 

その様子を見て、まるで『そんな攻撃は意味がない』とでも言わんばかりの対応をされ、光輝の頭に囁き声が響く。

 

【ほら、まただ】

 

【何もしないから、そのままだから、そうなる】

 

【結局アイツだ】

 

「っ!」

 

途端、光輝の動きが止まる。

 

「ぐあぁ!」

 

フロストゴーレムの盾による殴打。地面を数回ほどバウンドしながら吹っ飛ぶ。3回目のバウンドで体制を整える

 

(クソっ!何をしてるんだ!本来なら、今ので俺は死んでいた!)

 

偶然、もしくは相手の攻撃がただの牽制だったか。どちらにせよ、もし今の攻撃が斧によるものだった場合、光輝は死んでいた。

 

【今までと同じだな。あるのは悪運だけ】

 

考えれば考えるほど、自分自身に光輝は追い詰められていく。

 

「…いや、違うな」

 

ぽつりと光輝は呟く。追い詰められているのではなく、再確認をされいる。自分で自分に言われることに、怒りは湧いてこない。

 

ガキンとフロストゴーレムの斧を聖剣で受ける。その時点で斧に罅が入る。この時点でフロストゴーレムは一旦引き下がるべきだった。

 

「〝光爆〟」

 

聖剣から流れ込んできた魔法によって、氷の斧が爆散した。否、斧だけでない。斧を持っていたフロストゴーレムの腕も、巻き込まれるように破壊される。

 

「〝天翔剣十二翼〟‼︎ 」

 

光斬撃が飛ぶが、その全てがフロストゴーレムとは違う方向、ハジメと七海の元に向かう。当然その全てがゲートによって別方向に行く…はずだった

 

「〝操光〟」

 

元来、たとえ〝操光〟で魔法の動きをコントロールしても、無意識のフレンドリーファイアはしてしまう。場合によってはむしろこの方が厄介だろう。敵に向けるはずの攻撃を操って、味方へ向け、しかもある程度の防御に対策した動きをしてくるのだから。

 

だが方向を変えて、今度はフロストゴーレムに向かう。

 

もう一度言うが、たとえ魔法の動きをコントロールしても、フレンドリーファイアはしてしまう。攻撃対象を決めるという行為をしているからだ。ただし、今光輝がした攻撃対象は厳密に言えばフロストゴーレムでも、ハジメや七海でもない。もっと言うなら、操る前の攻撃は無意識ではなく意識してハジメ達の方に放った。

 

無意識ではなく、意識したフレンドリーファイア。これにより無意識領域への介入を防げた。何故なら必要がないから。介入せずとも味方に攻撃した時点で大迷宮側のしたい事はしてる。よって次の〝操光〟を使う際の大迷宮側からの介入は僅かに遅れる。これにより、攻撃対象をフロストゴーレムに変えた。だがそのまま操る行為をしてしまえばまたハジメ達の方へ無意識に向ける。だから光輝は、以降の全魔力をカットする。当然そんなことすれば、〝操光〟の機能は失うので、味方には行かないが、敵にもちゃんと命中しないかもしれない

 

「俺が〝操光〟で狙ったのは、俺の魔力の残穢だ」

 

〝光爆〟によってフロストゴーレムについた光輝の魔力の残穢。それに狙いを付けていた。光の斬撃はフロストゴーレム次々と命中していく。だがフロストゴーレムの硬さ故に、刺さりはするものの、致命傷とはならない。

 

「攻撃が命中したなら、それで充分だ。…〝大光爆〟」

 

刺さっていた光の斬撃がまるで隙間に入り込むようにフロストゴーレムに取り込まれ、そして、フロストゴーレムの内部で爆散した。

 

〝大光爆〟:名前そのまま、〝光爆〟の出力を最大にしたもの。一定以上の魔力を光の斬撃や、通常の〝光爆〟で僅かに残した魔力すらも無理矢理内部へ取り込ませて爆発させる。欠点はできる対象を1体のみに絞る必要があるのと、相手に直接送る魔力を多く使うこと、そして相手の内部に遠隔で魔力を送るという操作が難しい技術であること。

 

だが、最後の欠点に関しては、既に光輝はほぼ克服している。ハジメやユエ達には及ばないが、既に〔+ 視認(極)〕の段階に到達し、自身の魔力を効率よく動かす事に成功している。

 

(ここ最近の訓練を、魔力のコントロール技術向上にあてた、七海先生の教えは正しかったな)

 

戦闘訓練をするしないにせよ、自身の魔力、相手の魔力、その動きの観察。更に自分なりに上げる為に坐禅をして精神統一しつつ、魔力による身体強化をするなどして、ここまで光輝はたどり着いた。

 

(よかった。まだ俺は、強くなれる要素がある。無駄に何かを差し出す必要もまだない)

 

【強くなって、それでどうする?】

 

語りかけてくる囁き声に、光輝は何も言えない。

 

(どうすればいいんだろうな?いや、正直なところ、俺は最終的にどうしたいんだろうな?)

 

答えが出ないまま、光輝はハジメや七海達がいる場所へ向かった。

 

 

【仕方ないよな?】

 

【いつだって脇役】

 

【本当に欲しいものは手に入れられることはない】

 

「………使うか」

 

耳障りな囁き声に対して言うことはなく、ただ龍太郎は今やるべきことの為にそう決心した。

 

(南雲の呪具、こいつがさっきとどう違うかわからないが、少なくともあいつが同じ欠陥があるものを作るとは思えねぇ)

 

だから今度はどれだけ暴れても大丈夫だと、そう思うこととした。ハジメが与えた呪具で、本当にしたい事を聞いた。ならば

 

(情報を与えるなら(・・・・・・・・)、やった方がよくね?)

 

と単純な考えのもと、龍太郎は使う

 

「昇華魔法、〝顕現〟」

 

〝顕現〟:龍太郎の昇華魔法。効果は七海がいうように、ステータス含めた龍太郎の全能力の昇華。ステータスプレートにある情報以外でも、魔力操作技術、魔力と魔法の出力、戦闘IQ向上、そして昇華による擬似的な人格の形成

 

「さぁ、行かせてもらうぜ」

 

バッと地を蹴り、フロストゴーレムに向かう。それに応えるように、フロストゴーレムも武器を掲げて突貫して来る。互いがぶつかる

「やるかよ」

 

と思われた瞬間、急にフロストゴーレムの真正面でスピンをし視界から外れ、姿勢を低くしてフロストゴーレムの片足を掴み、速度と勢いそのまま、回転して氷の身体から足をもぎ取る。

 

まさか真っ向勝負と見せかけた搦手に、対応が遅れる。それに追撃をしないはずもない。片足を失い、バランスを崩して倒れた瞬間、手に持っていた氷の斧を落としてしまい、龍太郎は走りながらそれを手に取り

 

「オラ!返すぜ!」

 

ハンマー投げのように、氷の斧をぶん回してほうり投げた。ガァンとぶつかりフロストゴーレムが仰向けに倒れる。

 

「フン!フン!フン!」

 

起き上がる隙など与えない。龍太郎は攻撃しては移動を繰り返す。だが、その一撃一撃は弱い。ヒビを入れることはできても、砕くこと自体はできない。

 

(おかしい)

 

口には出さないが、様子を見ていたハジメがそう評価する。僅かとはいえ師事をした身。龍太郎の実力はわかっている。何より昇華魔法で底上げされた筈の膂力と魔力出力があるのに、フロストゴーレムを砕けないのがおかしいと感じたのだ。

 

だがちゃんと魔力を見るのに重視した時、すぐにハジメは理解した。

 

「あの野郎、衝撃波を内部に送り込んで溜め込んでやがる」

 

アーティファクトで発生する衝撃波を、少しずつフロストゴーレムの内部に送る。魔力操作技術も格段に向上している現在の龍太郎だからこそできる方法。衝撃波が内部に入り込み拳を打った場所が楔になる。

 

「砕けろ!衝波裂破!」

 

打ち込んだ部分から衝撃波が一気に放出され、ガラガラ砕けていくが、破片にも衝撃波が伝わり、フロストゴーレムの身体が氷の粒になり、その粒も衝撃波で粉々となり、サラサラと極小の粒になり、微量の風でふぅと消え去る。フロストゴーレムがいた痕跡の全てを消し去った。

 

「おい、解除するぞ!ああぁ⁉︎、囁き声で参ってるおまえよりマシだろ!魔法中にしか存在できないのにイキがんな!」

 

急に龍太郎は自分で自分と話しだす。これが七海の言った、魂の昇華によってできた、言うなれば龍太郎の擬似人格。

 

「その呪具使えばできなくもないだろ!うるせぇ!もういい!使うぞ!おい、まて!」

 

龍太郎の呪具が効果を発揮し、精神を強制的に落ち着かせ、同時に龍太郎は自身の魔法を解除した。

 

 

魂合・(真)(こんごう・まこと): 龍太郎専用呪具。その効果は4つ(・・)

1つ目、使用者の精神安定。こちらは、以前とあまり変わりはない。

 

2つ目、魂魄情報の収集(・・・・・・)。先程までこれは精神安定中にのみでき、1度でも精神安定中で人格が変化してしまうと、それまで記録していた魂の情報はリセットされてしまったが、縛りとして、《1つ目の効果は3つ目の効果を使うとその機能を失う》という縛りを入れたことにより、龍太郎がいかなる精神状態でも情報収集はできる。

 

3つ目は、龍太郎の二重人格(ハウリアモード)を無くし、改善する為に、精神安定をしつつ、2つ目の効果で魂の情報を解析し龍太郎の別人格を抜き取って修復する。こちらも縛りに4つ目の効果を使うのを1度のみとする縛りをした事で、もうひとつの人格を抜き取るのを、現段階ではまだわからないが、理論上は可能にできるようにした。

 

4つ目、未だ未完成。3つ目の効果を安定させる為にした縛りの為、使えるのは1回のみだが…

 

 

(どうやら、機能してるみたいだな)

 

ハジメは呪具の機能が現状うまくいっていることにホッとする。

 

(この調子で坂上の人格を呪具で抜き取り、4つ目の効果を使えば、あの呪具は完成する)

 

4つ目は1度しか使えないが、ハジメは既にその対策も考えている。

 

その考えは正しい。だがこの後、ハジメすら思わなかった事態がハジメを襲う事により、彼の、龍太郎の今後は大きく変わることとなる。

 

龍太郎が大きく覚醒する、そのきっかけを、ハジメが見る事で。

 




ちなみに
お分かりの人はいるでしょうが、今の鈴は激強です。なんなら彼女1人で原作の最終決戦時の恵里と光輝と屍兵の群団に勝てます。ただし、この作品の恵里は更に強い。だから鈴をこんだけ強くする必要がある。

ちなみに2
龍太郎の呪具の公開。残りの能力はあとひとつですが、こちらは今回の大迷宮で龍太郎は使わないけど、この大迷宮編で明かします。

ハジメ「使わねぇのに?」
使わないのに←(ニヤニヤ)

ちなみに3
虚像戦は何人かは大体原作と同じなので、明確に書くキャラ以外は省きます↓が書くキャラ

七海、ハジメ、シア、光輝、鈴
この内大変な人?全員

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