ありふれたやり甲斐と生き甲斐を探して   作:戦鬼

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今回の話し含めて3話は、元々こうする決めてた話しと設定です。だから今、すごく心配。特に今回の設定は。今までの以上に心配。あえて理由を曖昧にしたり、書かない部分と書く部分をどうしようかなと悩み、ようやくできた。それでも心配でも、もう腹括りました。出します。


心配しか言ってないな


向壁虚造③

ずっと、考える事をやめていたことがある。ずっと、見ないようにしようと思ったことがある。もしわかってしまったら、自分を保てるかわからないから。

 

だが、本当はずっとわかっていたのかもしれない。答えは見えていたのかもしれない。だからあの時、嘘をついた。

 

『取り乱しました。もう大丈夫です。前に、似た感覚を味わっているのが、原因の1つだと思いますが』

 

だから、真実を語らなかった。

 

『現状、私は呪術師であり、君達の教師ということでもありますが、その状態をいつまで続けるのかというものです』

 

……答えはもう出てる。あとすべきなのは、自分に与えられた使命を全うすること。そして、自分自身に、ケジメをつけることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…………違う、本当は、私は、なにもしてない、成そうともしてないんだ。なぜなら、私は)

 

 

 

*

 

 

 

金属が打ち合う音が響き、氷の足場がビキビキと響く。足を、腕を止めればそれだけで致命傷を生む。だが、

 

「っっっ!」

 

【目を逸らさないのは正解ですね】

 

七海の場合は、更に目線にも集中しなければならない。ここで言う目線とは、自身が見る相手だけでなく、相手が見る自分も含む。

 

七海の術式、十劃呪法は対象物の長さを7:3に内分する点を強制的に弱点へと変えてしまう。

 

七海はサングラスをつけているので、その視線がどう向いているか分かりにくい。当然、それは虚像の七海も同じ。故に、目線は手足での攻撃方向、顔の微妙な動き、そして自分ならこの時ここを狙うであろうという予測をして、回避もしくは防御をする。ここで気をつけるのが防御をする瞬間だ。下手な防御では術式でそれを貫通し防御した物体、もしくは肉体を損傷してしまう。

 

(自分の術式を敵にまわしたことなど当然ないですが、いざ自分で相手にすると、術式についてわかっていても面倒この上ない)

 

全ての攻撃を底上げし、防御を貫通する威力にする。7:3の比率の点は生物非生物にも有効で、更に細く分けることも可能。本来なら目視でそれを見破るのはできない。自分の術式を知り尽くす七海だからできること。そして、それは虚像も同じ。

 

【埒が開かないと思ってるんじゃないですか?】

 

「それはあなたもでしょう?」

 

虚像と七海は互いの言葉を肯定するかのように、戦闘を再開する。七海側はメルドの剣と呪具、凱劃(がいかく)の二刀流。基本戦法は呪具を盾、メルドの剣を攻撃にし、隙を僅かでも見つけたら呪具による一撃を与えるつもりだ。

 

一方、虚像側は凱劃(がいかく)1本のみ。だが、七海の攻撃を見切って回避と防御をし、更に膨大な呪力で全身を覆い、それらを陀艮戦で禪院直毘人が見せた御三家の秘伝、落花の情のようにカウンターで呪力を自動放出している。言うまでもなく現状の七海ではできない。

 

【私から目を逸らさないのに、自分の事には目を向けないんですね?】

 

「何が言いたいのでしょうか?私の分身の癖に曖昧な言葉を使うとは、随分と下手な作成ですね」

 

言った瞬間、言っている最中、七海はその言葉が悪手だと気付く。否定でも肯定でもないが、相手の言葉から逃げたと捉えられてもおかしくない。

 

事実、虚像の呪力出力が上がったのを感じた。

 

「ぎっ!」

 

相手攻撃を呪具で防ごうとしたが、その前に放出されたカウンターの呪力に脇腹を貫かれた。ギリギリ呪力の動きから攻撃を判断して身体を逸らしたが、回避しきれなかった。当然それによってバランスを崩した所に、虚像は呪具を横一閃に振る。

 

「…ぐ、っぁ」

 

内臓は出ておらず、致命傷でもないが腹から血が吹き出す。虚像は更に攻め立てる。どうにか防御をしたが、それによって凱劃(がいかく)の刀身に罅ができてしまう。七海が呪力強化をして、かつ凱劃(がいかく)に付与された〝金剛〟の〔+部分強化〕で、刀身のみを強化する縛りをしていなければ、七海とっくに自分の凱劃(がいかく)ごと身体を両断されていただろう。

 

言うまでもないだろうが、虚像側も凱劃(がいかく)の術式効果で刀身を強化してかつ呪力で武器の強化をしている。単純な呪力出力で七海は虚像に負けているということだ

 

だが破損したとはいえ防御はできた。七海はメルドの剣を虚像に向け突きをしたが、虚像が身体に覆っている呪力の放出によるカウンターで逆に弾かれる。そして、凱劃(がいかく)を持った腕は防御したばかりのため頭の近くにあり、メルドの剣を持った腕は弾かれた。これにより、七海の胴体は丸裸も同然。

 

【シッ!】

 

「ぐ、ぎ」

 

黒閃。虚像の繰り出した黒い閃光が、先程斬られた七海の胴で輝きを放つ。僅かに耐えたと思われたのは一瞬。即座に七海は壁に吹っ飛び、全身からバキバキと鈍い音がする。だが倒れない。むしろ好都合だった。大ダメージだが虚像と距離を取った。更に吹っ飛ばされる最中にあえてメルドの剣を手放した。すぐさま七海は腹に手を当てて、反転術式を行う。

 

【そんな暇与えるとでも?】

 

「思ってません」

 

七海はぱっと凱劃(がいかく)を虚像に放り投げる。

 

【そんな小細工】

 

この行為で虚像の視覚を一時的に遮断して、その隙をついて七海は一撃を入れると、虚像は考えた。

 

虚像は即座に七海の投げた凱劃(がいかく)を自分の凱劃(がいかく)ではたき落とした。

 

虚像は何をして来ても対応する気だった。だが、

 

【なっ⁉︎】

 

七海は小細工なしに真っ向勝負をする。右手を強く握り締め、構えた状態でやや後ろに下げ、左手はパーの形にしてその拳を抑えるように握っている。まさかその場を動かず正面から受けてくるとは虚像も思わなかったが、よくよく考えるとそれが1番だ。武器をはたき落とす行為をしてる時点で、虚像にソレを出せる可能性は減り、逆に七海は集中でき、発生確率を上げる。

 

(黒閃!)

 

確実に当たった。虚像の胴に黒い光が輝きを放つ。

 

「……バカな」

 

【本当に、愚かです】

 

ほぼノーダメージ。

 

「術式反転と、呪具による強化!」

 

ありえない。そう七海は思った。

 

檜山戦で七海もできたが、あれは檜山の呪力操作が2流以下のものだった為に、攻撃が読みやすかっただけ。そうでなければ、ピンポイントで自分に7:3の比率の点を作り、そこに攻撃させるなどという芸当は不可能だ。

 

「…澱みない呪力操作。それによる、相手の呪力操作の読み取り、それを、1級呪術師の私レベルでも読み取れるとは」

 

七海はカウンターで右肩から斜めに斬られていた。両断されなかったのは奇跡に近い。

 

【もう一度いいますが、愚かですね】

 

「?」

 

【今のあなたの全てがですよ】

 

戦闘が再開される。虚像は武器を仕舞いあえて七海との肉弾戦を開始する。両者、ボクシングの要領で殴り、回避し、防御しているが、虚像の高い呪力出力で七海が押されている。

 

【呪霊がいない世界に来て、己の生き甲斐を失って、曖昧な理由で教師になった。ああ、それなりに教師にやり甲斐はあった。けど、それでも埋まらない心の穴を感じていた。だから、嬉しかったんでしょう?この戦いで満ちた世界なら、呪術師として生きられると。クソだと言いながら、ずっと、呪術師に戻りたかった】

 

「何を、戯言を」

 

瞬間、虚像の呪力量と出力がまた上がる。

 

【ならなぜ、呪霊もいないのに、南雲君の世界の日本で、呪力をネクタイに込めていたんですか?】

 

「!」

 

【なぜ数年も自身の術式を見つめ直し、新たな拡張をしていたんですか?…このトータスで南雲君と再開した後もそう、なぜ呪霊が生まれていない段階で、彼にサングラスをつくらせたんですか?】

 

呪霊の中には見られていると感じた瞬間襲ってくるタイプが多くいる。その為不要な戦闘などをして周囲に被害を出さないように、そして呪術の存在を秘匿する為に、視線を隠す呪術師は多い。

 

だが、少なくともあの時点で七海がそうする理由はなかった。

 

【あの時既に決めていた!】

 

「ヅッ!(まずい、傷もだが、血を流しすぎている)」

 

七海は虚像への攻撃をやめて、防御と回避のみに集中してどうにか凌げている。逆を言えばそうしないといけないほど追い込まれているという事

 

【自分の生きる道、やり甲斐と生き甲斐は、やはり呪術師にある。だからこのまま呪術師として、この世界で生きると。その覚悟の表れでしょうに!】

 

「そうでしょうね…だが、私は彼らの教師でもあります。彼らを守るのが、今の役目でもあるっ」

 

僅かに認めたが、虚像の動きに乱れはない。寧ろどんどん呪力出力が上がり、防御だけではどうにもならなくなっていく。

 

【生徒たちを守りたいというあなたの責任感は、きっと本物です。けれどそれ以上に、またあの呪術師として戦えることに、言いようのない喜びを感じていた。大人の義務という免罪符を掲げて、その裏側でたまらなく嬉しかった。…だというのに】

 

(…この攻撃は、まずい!)

 

七海は反射的に腕で虚像の拳をガードするからつもりだったが、それをやめ、あえて重心を崩して尻もちをつくように倒れた。虚像はそのまま拳を振り下ろし、地面ぶつかる。衝撃で崩れるなか、七海はゴロンと回転して距離をとり、すぐさま起き上がって再び構える。

 

(あくまでなんとなくだが、今のを受けたら黒閃になっていた)

 

本来なら狙って出す事ができない黒閃。それを、虚像は狙って出せるであろうと思わせるだけの何かを感じさせる。そんな七海の考えなどいざ知らず、虚像はなおも続いて言う。

 

【畑山愛子】

 

「………彼女がなにか?」

 

【あの純粋で、どこまでも不器用な同僚から想いを告げられた時、あなたはどう思いました?】

 

「………………」

 

【呪術師として生きると腹を括ったくせに。それを盾に彼女をフったくせして】

 

「違っ…!」

 

やってしまったと七海は感じた。思わず否定の言葉を言ってしまった。もう既に、否定すればするほど、虚像が強くなる速度が上がるのも理解してしたのに

 

【あの時、畑山先生に言ったことは事実でしょう?だがそれとは別に、大人として、教師として、そして呪術師として、これ以上彼女の優しさに甘えるわけにはいかないと、もっともらしい理由をつけた】

 

スタスタと、虚像はゆっくり七海へと距離をつめる。普通なら七海はそんな悠長なことをしてる相手を見たら、速攻で攻撃するが、そうできないほどの膨大な呪力に動けない。

 

【だと言うのに、未練たらたら。覚悟をしたはずなのに、彼女がくれた温もりに、教師として過ごしたあの平穏な日々に、後ろ髪を引かれている。傷つけて、拒絶して、それでいて……1人の男として、彼女に心から愛されたことが、心の底から嬉しかったんでしょう?】

 

「………否定はしません」

 

【そう、呪いの渦巻く中で生きて、そして死んだ人生。なのにあんな真っ直ぐな好意が向けられた。何より救われたと思ったでしょう? 彼女に言われた事に。虎杖君に残した呪いを、希望を、未来託せたと、そう思わせてくれて】

 

「ええ。ですが、それでも」

 

七海はドゴっと肉体を抉る一撃を虚像に入れたが、あまり効果が見られない。相当な呪力量と出力で強化しているのだろう。黒閃以外ではまともにダメージを与えられない

 

「彼女への感謝と、私のすべき使命は別です。……のコピーならわかるでしょう?彼女はそれでどうにかなるような弱さなどない。そして私の言葉を受け止めて前に進む。その時、彼女がどう選択するかは分かりませんが、向き合う覚悟は私にはあります」

 

その言葉に虚像は

 

【本当に、そう思っているんでしょうが…………迷いがありますよ?】

 

自分の内面を容赦なくほじくり返す虚像のやり口に、七海が怒りを抑えていると

 

【そう。故に本当の絶望は、理由は、もっと別にある】

 

瞬間、七海は「やめろ」言いたかった。虚像が何を言うかがわかったからだ。

 

【もう気付いているんでしょう?あの時、魂魄魔法を手にした時、あなたの〝魂知覚〟は1段階上がっている。その時に、自分の魂を感じた、感じてしまった】

 

「っ!」

 

声が出せない。何も言うことができない

 

【そもそも、そもそもです。考えたことはないんですか?なぜ自分が前世の記憶を持ちそれも若返った姿で産み落とされたか?】

 

ずっと、ずっと考える事をやめていたことがある。

 

【その本当の理由を】

 

見ないフリをして、気付かないフリをして

 

【朧げながらですが感じた。自分の魂の輪郭が、人間としてあまりにも歪で、不自然で、グロテスクな、いうなればツギハギで満ちていることに】

 

七海の鼓動が早くなる。平静さを保っているようだが、実際は心中穏やかではない。

 

【あの時、渋谷でのあの時、あなたの魂の本体は、現世から旅立った。では、今ここにいる《あなた》は一体誰だ?】

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

ついに動悸と息切れが一目でわかるようになってしまう。それでも虚像は語ることをやめない。

 

【コレはあくまでも私…あなたの仮説ですが、あのツギハギ呪霊にあなたは3度も術式で魂に触れられた】

 

地下水道、領域、そして渋谷。

 

【最初の時、2度目の際も虎杖君が領域に乱入して事なきを得ていたと思われていましたが、その時点であなたの魂に変化が生まれていた。そして3度目を受けて死んだ瞬間に、それは起きた】

 

すっと虚像は、七海にその内側にあるであろう魂に、人差し指を向ける。

 

【あの術式を2度受けて生き残り、3度目でギリギリまで肉体を維持した。更にあの時の渋谷は幾多もの命が消え、術師と呪霊との戦いにより、巨大な呪いで渦巻いていた】

 

たとえ非術師でも、死の瞬間は大きく呪力を放出する。ハロウィンの渋谷は改造人間も含めた大勢の人がいた。それらが死の際に出した総呪力は計り知れない。

 

【魂への過剰干渉、それによる死と魂の放出。巨大な呪力のうねり。これらの因果が複雑に絡み合った。…おそらく、魂は死後時間をかけ転生される。元の世界か、あるいは別の世界か…その法則は不明ですが、あなたは南雲君の世界に来た。ただし、普通ではない形で】

 

それに気付いたら、七海は自分を保てるかわからなかった。

 

【ツギハギ呪霊の呪いに侵され、変質し、千切れたあなたの《魂の情報と未練のカケラ》がこぼれ落ちてしまった。そして、呪いと残穢が濃密に渦巻いたあの異常な空間で影響を受けた状態で、魂は世界を渡った】

 

「………膨大な呪力を取り込み抱えた魂のカケラ」

 

【そう、あのツギハギ呪霊の言葉を借りるなら、そのカケラの魂が再形成されて肉体が肉付けされた。だがその生まれ方はあまりにも歪だ。あの時、肉体が若返っていたことこそが、動かぬ証明。歳を重ねるごとに魂に刻み込まれる膨大な情報。それを持ったままの、しかも《カケラ》でしかなかったがゆえに、世界があなたを構築する際、致命的なエラーが起きた】

 

「魂が母胎の赤子へと肉付けされる……0から再構築しようとする復元力と、死の直前までの情報を持ったまま、強烈な未練のまま形を成そうとする魂の慣性が、醜く引っ張り合い、互いのベクトルを相殺し合った。その結果、どちらにも辿り着けず、中途半端な若さで行き止まって生まれてしまったというところでしょうか?コレもあくまでも仮説です」

 

【そして、世界は違えど自身の死地である渋谷で生まれ…いえこの場合は顕現というべきですか?これも何かしらの因果なのでしょうね】

 

虚像と七海は、まるで互いに考察するように、話し合うかのように、考えを述べていく。

 

「それでも、1つだけハッキリと言える事があります」

 

諦めたように七海は言葉を紡ぐ。

 

「私は言うなれば」

 

【そう、あなたは言うなれば】

 

「【魂のバグだ】」

 

本当は認めたくなかった。その生まれを。

 

【あの時の渋谷というかず多くの命が消えた時の呪力。人間の感情の澱みから、形を成して生まれたと言っても過言でない。……それは呪霊の生まれ方にも近い】

 

虚像の七海は足を止めて、目線を七海に合わせて言う。その表情は、虚像だというのに、どこか悲しげにも見える。

 

【自分でも気付いているでしょうが、あなたは限りなく人間に近い、99%以上人間としての機能を持った存在かもしれない。だが、その本質、その発生の根源は《呪い》とさして変わりはない】

 

自分の毛嫌いする呪霊と同じだと、遠回しに言われた。それは七海ももう理解していた。……だが

 

【あなたは、本物の七海建人が残した記憶の記録を、ただ模倣しているだけの《七海建人の姿をした何か》に過ぎない。そんな偽物の、中途半端なバグの残りカスが、一体何を成そうというのです? 一体誰の、何を救えるというのですか?】

 

七海は何も言わない。ただ黙って、話を耳に入れているだけだ。

 

【そうやって、冷徹な理屈の裏に逃げ込むんですね。《自分は本物の七海建人ではない》《ただの魂のバグ、もしくは残りカス》そう自分に言い聞かせて、どこか安堵しているんじゃないですか? 】

 

ぴくりと、七海の片腕が動く。顔を下に向けていた。それを見た虚像は呆れた表情のまま、言葉を続ける

 

【偽物だから、何にも成すことはできず、なれない。どこにも行けない。なぜ、そこまで頑なに己の存在を、その存在意義を否定し続けるんです?あなたが認めようと認めまいと、既に世界は、少なくともこのトータスは変化をしている。そして、南雲君達の地球の日本も、仮にこの世界に私(あなた)が残り続けても、いずれはトータスと同じように、呪霊と呪術師が生まれる世界になる。何故なら、南雲君がもう術師になっているんですから。どれだけ時間をかけるかはわからないでしょうが、確実です。その原因は?きっかけは?】

 

虚像は指を七海に向ける。『お前のせいだ』そう、言葉になくとも、わかるように。

 

【呪力を、呪いを撒き散らした。感情由来のエネルギー、しかも最も広がりやすい負の感情で影響も受けやすい。多くの人々の変化のスイッチを押した。なのに、大人の義務という免罪符を盾に戦場へ戻ったくせして……やるべきことは山ほどあるはずだというのに、なぜ《自分は偽物だから》と、自分の存在が世界を変えているという現実から、そのあまりにも重い事実から、目を背けているんですか?それともまた逃げるんですか?】

 

*

 

【は?】

 

虚像が気付いた時には氷の壁に身体がめり込んで、胴に強烈な1撃だったであろう七海の拳が入ったまま、グギャっと鈍い音を出している

 

「長いです。戦闘中にベラベラと……あなた本当に私のコピーですか?」

 

七海は撃ち込んだ拳に更に力を入れたまま、もう片方のあいた腕に呪力を込めた。

 

【まっ!】

 

虚像が何かを言おうとしたが、あまりにも悪手。やるべきは会話ではなく呪具、もしくは呪力での強化による防御、あるいはその両方のいずれか。

 

黒い閃光が虚像の身体を貫通したように後ろの氷の壁にも影響を与えて破壊した

 

【なめ、るな!】

 

虚像側も呪力を放出したことで七海は下がらざるを得ないが、虚像は氷の壁に埋まった状態の為、出てくるまでのあいだに、ようやく七海も少し落ち着ける。両手を優先度の高い傷にそれぞれあてて、反転術式を施す。気休め程度だが、かなり楽になる。

 

「大体、なんですか?さっきの言い分は?人を呪霊と同じだというような言い方、反吐がでます」

 

虚像の言い分は理解していたし、なんなら七海も納得はしていた。が、それはそれとして、自分を呪霊扱いされるのは腹が立っていた。

 

「話を聞くのが試練の内容的にも必要と思ったから聞いてました」

 

だから途中から黙って耳に入れていた。正直耳の痛い話ばかりだったが歯を食い縛って聞いていた。

 

「なのに、こちらが黙っていればいい気になって余計な事まで…私が安堵している?バカを言わないでください。むしろそんな暇があるなら欲しいくらいなんですよ。それも、今更わかりきって、しかもこの旅の中で私が他の人にも言っていた事を私自身にも言って、それで私が動揺すると?」

 

【⁉︎バカな!私の言葉はあなたの思う事です!それにあなたは動揺していた!】

 

「気にはしてましたよ。事実、私は偽物だと理解してから、なにもしてない、成そうともしてないと思ってましたから」

 

【なら!】

 

「しかし、それだけです。今からやっていけばいいだけです。むしろコピーの癖して、それを読み取れないんですか?…いえ、饒舌な部分も含めて、所詮は大迷宮のシステム。そういう仕様なのでしょうね。どれだけトレースしたところで、同じにはなれない」

 

まるで出来の悪い不良品を見るような目で七海は言う。

 

「……ただ、感謝はしますよ。おかげで吹っ切る事ができました。あなたの言う通り、やるべき事は山積みです」

 

心の中で七海は現状で考えられるやるべき事を整理する。

 

(これから生まれてくるであろう呪霊を祓い、その危険性と対処方法。この先の呪術師達へ呪力操作に術式運用……当然呪詛師になる人も出てくるでしょうから、それの対処と教え……って、こうなると南雲君達の学校で教師をやめても、結局他で教師まがいをしないといけないですね)

 

七海は、コレでは呪術師やってた頃、もしくは普通に教師をしてた方がマシな気がしてウンザリするような感覚がした。

 

「それに、逃げる気はないですよ。これでもまだ彼らの教師ですからね。逃げたくても逃げれません」

 

七海は氷の壁から這い出て来た虚像に、まっすぐな目で告げる。

 

「今の私以上に出来の悪い存在になっているようなので、ハッキリと言わせてもらいましょう。鬱陶しいのでさっさと消えてください」

 




ちなみに(今回長いです)
この作品の七海の設定をこうしたのは作者である私に、『1回死んだキャラはそう簡単に生き返ってはいけない』という信念みたいなのがある為です。他者ならともかく、2時創作でも自分が書くならそれは絶対にしてました。
この作品の七海は『七海建人だけど完全に七海建人ではない』ここだけは譲ってはいけないのを元に、それをどう書くかをずっと考えながらこれまでの話を書いて来ました
最初はどうして七海がこういう感じで顕現したかをこと細かく考えて書こうとしましたが、やればやるほど詰めるべき物が多いのと、自分程度ではそこまでロジックを詰めれないと判断し、ある程度を曖昧にしました。
本音はもっと設定詰めたかった。もっとちゃんと考えたかった。でも自分にはそこまでの才能はありませんでした。申し訳ない。あとこれ読んでる知人に、AI使ったらと言われたが、それもなんか嫌だった。もしかするとそれが正解かもしれないけど嫌だった。この場で彼にも謝ります。(後日直接でも)

ご意見感想はお待ちしてます。でもなるべく批判はお手柔らかにお願いします。
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