転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!?   作:サク&いずみーる

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UA10万に感謝のコラボ第二弾じゃオラぁ!!!(挨拶)
今回は、ぽけーさんの『もし百合ヶ丘の売店に「よく困ったことに巻き込まれる店員」がいたら』とのコラボになります! これも作者的には大好きな話でして、先に書かれたpixiv版はこの方の作品を参考にしていました。
時系列は転生ヒュージの話本編が『百合ヶ丘の店員』世界線で起こっていたら、という感じになっています。


特別番外編 思い出す話、もしくは、裏方のお話

「─なんだってこう入学初日の晴れ晴れしくも忙しい日に実験体ヒュージの脱走なんて起きますかねぇ困りますねぇ…購買部のオリエンテーションの時間、ズラしてもらわないといけないですし…」

「店員さん!」

「おや伊紀さん。高等部進学とロスヴァイセ隊長襲名おめでとうございます。慌てているところ申し訳ないんですけど、私も脱走ヒュージ捜索で呼び出し食らってまして…購買部は臨時休業なんですよ」

「いえ、その脱走ヒュージについてなのですが」

「はい?」

「脱走ヒュージ自体は、始末がついたらしいのですが、その」

「はぁ」

「脱走ヒュージを撃破したのが、同じヒュージらしくて…」

「…はい?」

 

 

「…うあー…」

「布由、伸びてないで仕事してよ。私だって教導官の業務あるんだから」

「私も購買部の業務ありますが…?こないだ例の…ピラトゥスでしたっけ、それの捜索に駆り出されたせいで年度初めの書類とか溜まってるんですよ。というか、『暗部』の事務処理なら他の人でもできますよね…?実働は私かロスヴァイセ担当とはいえ」

「愚痴が多い。かなり疲れてるみたい?今度うちでご飯にする?美穂も喜ぶと思うけど」

「お願いします…」

「…待って、生徒会からアラート」

「待って困りごとの予感が困りますあの」

「『ピラトゥス』が、レストアヒュージ及び白井さんと交戦中…?それに白井さん、ルナトラ使ってるって」

「はい私が止めに入る案件ですね太刀取ってきます本当に仕事増やしてくれて困ります!」

 

 

『─対象、霊園にて静止。レストアから回収されたCHARMを霊園に刺している模様』

『…弔っている?』

『まさか、ヒュージですよ?』

『にしても本当に静かね…理事長は?』

『鎌倉府との定例会議を急遽切り上げ、ここに戻ってくると、先ほど連絡が』

『警備課、展開完了』

『教務課教導官でまだ戦える者は私に続け!』

『非戦闘員はシェルターに避難、医療棟の動かせない子はできるだけ窓から離してください。在保健室組は誘導続けてそのままシェルターに入ります』

 

「─にぎやかですね」

「…私としては、あなたが割と平然としていることが気になるけれど

 

「これでも内心やべーですよ。私、最初は夢結さんがルナトラ使ったことくらいしか聞いてないんですけど。凪こそ平然としてますね」

「非戦闘員は退避、だからね」

「…愛妻家ですねぇ」

「ふふ」

 

 単発式狙撃銃型のCHARMを手に、校舎の屋上に伏せている同僚の見事な惚気にジト目を向ける。古なじみで、ちょうど同じ部屋で仕事していたからとスポッターと護衛を引き受けたことを若干後悔しつつ、背負った太刀の柄の感触を確かめながら双眼鏡を再度覗いた。

 

「…現場のリリィたちも警戒ラインは貼ったみたいですね。梅さんとかがかなりフランクに接してるのは不思議ですが」

「というより、全体的に困惑が強め、ね。もちろん私たちもそうだけど」

 

 警戒心に関しては、職員とリリィで違いそうだけどね、とも付け加えて、再度同僚─現役を退きながらも、教導官として復帰した凪はスコープの先に集中する。

 成程確かに、リリィたちは警戒線を構築こそすれ、明らかに理性が感じられおまけに同族を屠り天敵を守った謎の竜にどう感情と武器を向けるべきなのか分からないでいるようだ。

 逆に大人である職員側は、13年前の『とある事件』により、理性のあるヒュージにとんでもなく苦い経験を持つ者が多い。だからこそ、まだマギを扱える教導官はCHARMを、そうでない教導官や警備課の職員も、アンチヒュージウエポンか通常火器で武装し、万が一対象が暴れだせば一瞬でも隙を作ろうと潜伏している訳だが。

 

「…対象、未だ大きな動き、なし」

『マギの極度の励起も確認されず』

「…」

 

 避難なり配置なりが完了して、職員無線は一気に静かになった。時折代わり映えのしない状況報告が流れる以外、職員もリリィもそっと竜を見守っている。

 姿勢を低くして屋上に潜む二人の女性もそれは同じ─否、店員とも布由とも呼ばれていたメガネの女性のみ、落ち着かないように背中の太刀を撫でていた。

 

「…やっぱり、落ち着いてないじゃない」

「落ち着いていますよ。重ねてしまうだけです」

「…布由は、どう思う?どう考えても知性なり理性なり持ってそうな、あのヒュージのこと」

「どっちですか?出自か、人類へのスタンスか」

「どっちもよ」

 

 そう言って、地面に伏せる教導官服の女性は黙る。目と指先だけはCHARMに集中させ、耳を隣の同僚へと傾けていた。

 ややあって、再度同僚が口を開く気配。

 

「出自は、どうせゲヘナでしょう。スタンスは、分かりません。本当に理性を得ているのなら、だまし討ちの可能性もあります」

「それにしては、だいぶ友好的っぽいけど…動いた」

 

 天敵だろうリリィを前にして、あそこまで友好的な態度を隠れ蓑にできるなら、相当だろう、とのぞき込んだスコープの中。

 異端の竜は、少し距離を取ってから羽ばたいていた。

 

『対象、飛翔!』

『方向は?』

「屋上組から各位。対象は学外へと向かっている模様。送り狼、どうします?」

「各位、こちら藤見です。私が出ましょうか」

『…いいの?』

「遠目で確認するだけです。それ以上はしませんし、私情で変な手出しはしませんよ」

 

 竜の飛び立った方角を見据えて、無線に呟く。

 スコープから目を離した凪の心配するような目に手を振り、背中の太刀を背負いなおした。

 

『許可します。位置特定ののち、生徒会主導でリリィによる接触を試みますので』

「了解しました。藤見、アウト」

 

 無線の奥から、逡巡ののちに出されたゴーサインに謝辞を返し、階段へと向かう。道中で購買部も閉めておいて、移動はバイクでも使おうか、と算段を立てながら、屋内へと向かう扉の前で、再度先ほどのヒュージが飛び去った山の方を見た。

 

「理性のあるヒュージ、ね」

 

 苦く、それでいて愛おしい記憶に、奥歯を噛みしめながら。

 

 

 

 

 ─とまぁそんなことがあってからはや数ヶ月。

 

「おはようございます。アルンさん」

『おはよーございます。今日は午前中だけですけれどよろしくお願いします』

「いえいえー。むしろこっちからお願いしたいくらいですし。荷物運びとかルナトラ対処とか、すんごく助かっていますし」

『前者はともかく後者は購買部店員の仕事なのか…?』

 

 百合ヶ丘内に出店している購買にて、女性と機械音声の間の抜けたやり取りが響いた。

 カウンターに座り、ひらりと手を振りながら、定期的に発生するルナトラ持ちリリィを思い浮かべては顔に影がかかっているのが、この購買の主である店員こと藤見布由。それに対して苦労を垣間見て困惑する機械音声の少女が、先日の竜騒ぎの当人にして、なんか少女の見た目になっている人類に友好的なヒュージ─ピラトゥスことアルンであった。

 

「ルナトラ対処はけっこう大事な仕事なんですよ?私の先代もよく対応していましたし、引き継ぎ書のけっこう最初の方に書いてありました」

『嫌すぎる…』

「静かすぎるよりはきっといいですよ。もっとも、今みたいに体を張って対処したりするのは割と最近からですが」

 

 精神面に大きな影響を与える負のマギ、それを意図的に体に宿し暴走させるルナティックトランサーは、戦闘出力の多大な向上の代償として多感な少女の心を蝕むことが多い。

 ただ、戦闘でのイメージとは対照的に、平時においては人見知りや引っ込み思案、内心での自らへの自信のなさなど、内向的な方面にその症状が出やすく、そういった少女たちの日常のサポートやカウンセリングも布由の先代の仕事であった。

 …今のように、些細なきっかけでレアスキルが発動し暴れるのを止めるようになったのは、いつごろからだったか。

 

「…あれ、割と最近からですよね?何年前からでしたっけ」

『店員さん?』

 

 歳ですか?と聞こうとして、アルンは口を噤んだ。

 女性に歳の話は厳禁。自らの前世ですでに学んでいたことであった。

 

「…まぁ昔のことはいいでしょう。掘り返してもいい話そんなにないですし」

『そんなものなんですか?思い出せないオレが言うのもなんですけれど』

「全くない訳ではないんですけどね。仕事柄苦い記憶っていうものは多くて」

 

 それでも─それでも、今のように表面だけでも笑えるようになったのはいつからだったか。

 竜の少女を眺めるたび、不意に記憶が過去に戻りそうになるのは、未練か後悔か。当然彼女にはなんら関係はないし、『百合ヶ丘の大人たち』が危惧した最悪の予想─13年前と同じ手法でヒュージ化したヒトがアルンであり、『とある能力』を持つ特型ヒュージでもあるという予想─は、調査の結果否定もされているが。

 

『店員さん?』

「…いえ、大丈夫ですよ。今日はアルンさんによく呼ばれる日ですね」

『店員さんは、ちょっと心ここにあらずって感じですか?悩みごとがあるなら聞くぐらいはできますよ?』

「悩みごと…日羽梨さんと二水さんのアレソレ問題ってアルンさん解決できますか?」

『ゲヘナぶっ潰すなら喜んでやりますけれど、百合ヶ丘三大難問の一つをどうこうはさすがにちょっと…聞いた話的に力技もダメそうですし』

「力技、やろうと思えばできるんですね」

『契らないと出られない部屋に閉じ込めるとか』

「同じ力技で日羽梨さん突破するかもなのですが」

『オレの表皮で壁作っちゃえば頑丈なので突破できないですよ』

「あれ…思ってたよりガチですね…?」

 

 アルンは不器用ながらグッドマークを作った。なまじ声がまだ機械音声なだけにギャップはすごかったが、それはそれとして。

 

『本当に悩みごと、それなんですか?普段の店員さんなら笑い話にでもしそうなのに』

「『笑い話』にできるくらい日羽梨さんにとっていい環境になったのは確かですよ。…他の悩みもまぁ、ありますが」

『なら』

「でもこれは『過去』の話…それも、全ての決着がついて、エンディングが流れ切ったお話ですから」

 

 過去を背負うのは、大人の責任で、終わった過去に囚われるのも大人の特権だ。

 ならば、苛烈な『今』を、過去の話にできなかったこの瞬間を、戦い生き抜こうとしている彼女たちにしていい話では、きっとない。

 自ら手にかけた最愛の人と同じ、ヒト由来のヒュージを見かけるたびに、記憶が過去へと引きずられるなんて話も、きっと。

 

「プロローグもプロローグな『今』を生きるあなたたちに、他人が見終わったエンディングの良し悪しを引きずって欲しくはありませんから。勝手に重ねているなら、もってのほかです」

『重ねて…?』

「話はここまで。荷物運びましょう。新入荷のワールドリリィグラフィックは天葉さん特集なので、お客さん殺到しますよ。ついでに樟美さん嫉妬するんでアルンさん対処お願いしますね」

『さらっと難易度高いこと押し付けてません?店員さん?ちょっと??』

 

 どんどんと過去に連れて行かれそうな思考を、竜の少女へのちょっとした無茶振りでごまかして、裏手の倉庫へと向かう。

 ふと重ねてしまうほど、あの日々を振り切れたわけじゃないのだと、心の底に苦みを感じながら。

 

 

 

 それはそれとして。

 

「…」

『く、樟美ちゃーん?』

「天葉ねえさまは私のだから…」

『大丈夫誰も樟美ちゃんから天葉様取らないってうんそれはオレも知っているから』

「天葉ねえさまの載ってる本も、全部私の…」

『風向き悪くなってない?ねぇ』

「アルンさんも、私の味方してくれますよね…?買い占め、手伝ってくれますよね…?」

『店員さーんっっっっ』

「あー困りますー私は別件で取り込んでるのでこの案件はアルンさん対応してくれないと困りますー」

『オレが一番困っているんですけどぉ??』

 

 今日も変わらず、購買部は賑やかであった。

 




完成品を受け取って歓喜のあまり床ドラムしたのは想像に難くない。
こちらが『もし百合ヶ丘の売店に「よく困ったことに巻き込まれる店員」がいたら』のリンクになります!
https://syosetu.org/novel/259308/

これにて10万UA記念企画は以上となります!
ご協力してくださった方々に大きな感謝を!
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