無限城での最終決戦を経て鬼舞辻無惨の手によって新たな鬼の王となってしまった竈門炭治郎。仲間達の尽力も虚しく、逃亡に成功してしまって時は流れて現代。

新たなる鬼退治の物語が始まる!

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炎雷の少女

 

 

 

『頼む。このまま■■■のまま死んでくれ……!!』

 

『ずっと私、何にも分からなくなっててごめんなさい。お兄ちゃん独りに全部背負わせたね。後もう少しだよ。鬼になんてなっちゃだめ。帰ろう。ね、家に帰ろう』

 

『■■■、止めろーっ!!■■■ちゃんだぞ。元に戻ってる人間に戻ってる。こんなことしたら死んじゃうよ!!お兄ちゃんて呼んでるだろ!!』

 

『ガーガー言うな! ■■■に怪我とかさせんじゃねえ! お前そんな……そんな奴じゃないだろ。あんなに優しかったのに……!! 元の■■■に戻れよォオオオ!!』

 

『■■■だめだよ。早く戻ってきて。■■■ちゃん泣かせたらだめだよ……』

 

 声がする。

 

「――――コ!」

 

 遠い声が少しずつ近づいて来る。向こうが近づいているのか、こちらが近づいているのか。

 

「―――ヒコ!」

 

 また一段と近くで声がした。

 

「起きろ、ヒコ!」

 

 間近で聞こえた声と、次いで体を揺さぶられた衝撃に目覚めは突然訪れた。

 

「はっ!?」

「ようやく起きたか。大丈夫か、随分と魘されてたぞ?」

「ああ、うん……」

 

 開かれた瞼、広がった視界に映るのは良く知る者の顔。今は心配げに形作られた表情に、ヒコと呼ばれた少年は体を起こして正対する。

 

「おいおい、涙まで流して。もしかして昔のことを思い出したんじゃ」

「ごめん、カナタ。何か夢は見てたと思うんだけどどうして泣いてしまったのかは分からない。何も覚えてないんだ。ただ」

 

 体を起こした拍子に自身の左目から零れ落ちた水滴。ヒコは語りながら源泉を辿るかのように胸に手を当てた。

 

「申し訳ないような、悲しいような、胸の中が罪悪感が一杯で………」

「具体的な記憶の手掛かりはなしか」

 

 ヒコにカナタと呼ばれた少年は腕を組んで背後にあるベッドに腰を下ろす。

 

「半年前にこの施設に来た時には何も憶えてなくて、俺が個体番号から450(ヒコ)ってつけたぐらいだ。初めてだよな、夢とはいえここ以外での関わりは」

「多分、そうだと思う。夢のことは何も覚えてないけど、不思議と確信出来てる」

「この土壇場でとなると、やっぱりあの計画(・・・・)の影響か?」

「かもしれないし、そうでないかもしれない。けど、そうであってほしいとは思ってる」

 

 二人の間の静寂を破るように鳴り響いたのはチャイム音にも似た甲高い音楽。

 音に反応したカナタが重い腰を上げる。

 

「おっと、起床時間だ。遅れると飯抜きになる」

「機械は融通が利かないから」

 

 苦笑しながら同じようにベッドから立ち上がったヒコの言い様に、カナタは吹き出すように快活に笑う。

 

「入って来た頃には管理ロボを見て腰を抜かしてた奴が言うようになったもんだ」

「いい加減にそのことは言わないでよ。最初の時だけじゃないか」

「外の世界で笑い話に出来るようになったら忘れてやるよ」

「約束だからな」

 

 昔のことを持ち出して揶揄って来る兄貴分に、ふんすと鼻息荒く言ってヒコが先に部屋の入り口に足を向けて壁に手を翳すとピッと電子音が鳴る。

 

「個体番号450、手を差し出して下さい」

 

 壁の一部がスライドして、電子音声が流れる。

 スライドした先には上下左右15㎝程度のスペースの空間があり、ヒコは言われた通りに手を入れる。

 

「――――血液採取完了。検査開始…………ストレス値に若干の異常あり。食事摂取後に運動を推奨します」

「分かった。考えておく」

 

 ヒコが手を抜いて横に避けると、カナタが同じ場所に立つ。

 

「個体番号081、手を差し出して下さい」

「へいへい」

「――――血液採取完了。検査開始…………異常なし。良好です。個体番号081、個体番号450、双方に大きな異常は見られません。おはようございます、良い一日をお過ごしください」

 

 電子音声は役目を終えたように沈黙し、真っ白な鉄の壁が横にスライドして前が開く。

 

「毎朝のことながら針もなしにどうやって血を抜き取ってるんだろう。傷跡もないし」

「最新技術というやつだろ。気にしてたら日が暮れるぞ」

「考えるだけ無駄か」

「そうそう、ここは外の世界とは全くの別世界なんだ」

 

 カナタの言葉を聞きながらヒコが室外に一歩足を踏み出すと、左右と前でも同じように部屋から出てくる者達がいる。年齢はヒコやカナタよりも年少な者が多い。

 

「おはよう」

 

 朝の挨拶をしながら周囲に視線を移すと、視界を埋めるのは圧倒的な白。

 

(人以外全てが真っ白で眩暈がしそうだ)

 

 壁と開いた扉の向こうの室内、人が着る服、靴も全てが白。毎朝のことながら、人だけがまるで世界で色を持つような錯覚にヒコは陥りそうになる。

 ヒコが落ち着くように瞼を強く閉じていると、背中をポンと軽く叩いたカナタが前に立って振り返る。

 

「――――ようこそ、機械による完全なる管理生活へってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日のスケジュールを終えて自室に戻って来たカナタが自分のベッドに飛び込んでいた。既に就寝時間なので電灯は消され、室内は常夜灯の薄い灯りがボンヤリと広がっている。

 

「飯は何時でも美味いし、娯楽も豊富。勉強もしなくていいなんて、子供の楽園だな」

 

 はぁ、と溜息を漏らしながら吐かれた言葉の内容とは裏腹に嫌悪の色が混じっていた。

 

「外の世界との関わりが断絶した箱庭の楽園だけど」

「大体の奴にとっては箱庭の楽園でもいいんだろうよ。ここに来るのは何がしかの事情を抱えた子供だけなんだから」

 

 親を亡くした引き取り手のいない奴、親に捨てられた奴、保護者に売られた奴、とカナタは指を折って語る。

 

「代わりに運動のノルマをこなさないとペナルティ(飯減量)があるけど、健康という一面を見れば正しい」

「外の世界に関わる情報が全くないことを除けば、ここは鳥籠よりも質が悪いと俺は思うよ」

 

 この部屋以外では優等生なカナタは毎度の愚痴をそこで止めて、ヒコが手に持つ本を見て呆れを滲ませる。

 

「また桃太郎か。飽きないねぇ」

「なんでか心惹かれるんだ。結末だけはページが破れていて分からないのがあれだけど」

「俺も教えてやれれば良かったんだけど、覚えてないんだよな。外にいたのはもう何年も前になるから。悪いな」

「大丈夫。知る手段はある」

 

 桃太郎一行が鬼ヶ島に着いた以降のページがない本を手にするヒコはそう言って笑う。

 

「そうだな。外の世界で確かめてみればいい」

「じゃあ、計画通りに?」

「ああ、今日決行する」

 

 カナタはベッドに手を入れて、この日の為に色んな所で勝手に失敬してきたモノ達を取り出す。

 

「この施設ではある一定の年齢に達するとどこかに移される。代わりに別の年少の奴が直ぐに入ってくる。外に出された奴は二度と戻って来ない。その行方も分からない。管理ロボットは何も答えちゃくれない」

 

 取り出したそれらをベッドに並べ、取り急ぎ使えそうなモノは二人で分担して服や靴に仕込む。

 

「出て行って入ってくる奴がいるってことは、出入口がどこかにあるのは確かだ。結構苦労したんだぜ、調べるのは」

 

 食堂から失敬した小さいフォークとスプーンを手にしたカナタは朝に血液を採取された側の壁に近づき、ヒコには背中を向けたままゴソゴソと動く。

 

「――――システムチェックかなんかで数ヶ月に十数分だけ機械の一部機能が狭まる時間帯がある。今日が正にその日だ。逃したらまた数ヶ月後になる。良し、開いた」

 

 カチッと何かの音がして、入り口の扉が開く。

 

「やっぱり誰もいない」

 

 廊下には常夜灯も点いておらず、窓がないので真っ暗な中で振り返ったカナタの横をヒコが通り過ぎる。

 夜間の外出に対して明確な罰則の項目はないが、それは機械によって管理されている以上は不可能とみなされていただけに過ぎないことは明白で、見つかればどのような結末を迎えるのかは想像だに出来ない。

 

「今日の為に体を鍛えて来たんだ。カナタ、一緒に外の世界を見に行こう」

「それは俺の台詞だよ、ヒコ」

 

 二人で室外に出て真っ暗な廊下をカナタの案内で進む。

 

「少し待て」

 

 何度目かの角を曲がったところで先を行くカナタが静止をかける。

 今のところ、二人の脱走が知られた様子はない。

 

「本当によくこんなルートを見つけたな」

「今となっちゃ俺がこの施設で一番長いからな。準備を続けて来たんだ。感謝しろよ?」

「しまくってるよ」

「よし、行くぞ」

 

 まるで一定の時間が来るのを待っていたのかのようにカナタが身を翻して進む。ヒコも注意してカナタの後を追う。

 

「余裕を持った配分のお蔭で順調だな。そこを曲った先に出口があるはずだ」

 

 何度も角を曲がり、ヒコには元いた自室へのルートが完全に分からなくなって大分立った頃、走りながらカナタが暗闇に慣れた目で先の角を指差す。

 ここまで来て引き返す理由もない。二人は頷き合うと足を止めることなく角を曲がって先に進む。

 走る音の残響具合から広い空間に出たようだった。そのまま走り抜けようとしたところで、天井の電灯に光が灯されて、暗闇に慣れていたヒコとカナタの目が眩む。

 

「――――来たぜ来たぜ、バカなガキ共が」

 

 視界がまだ眩んで回復していない中、前の方向から声が聞こえて来て二人は走る足を止めて急ブレーキをかける。

 止まった頃には完全ではないながらも視界も回復してきており、二人の前方にスーツを着た筋骨隆々の男が立っているのが見えた。

 

「偶にいるんだよな、脱走を図ろうとする奴が」

 

 短髪の男はニヤニヤと二人を嘲るようにして嗤う。

 

「待ち伏せか!」

「だけど、どうして俺達がここに来ることが分かったんだ?」

 

 想定されている中でも悪い方のケースにヒロが吼える横でカナタは疑問を覚えた。

 

「単純な話だ――――全てが管理された生活の中で部屋の会話を聞かれていないわけがないだろう?」

「っ!? 全て盗聴されていたというわけか」

「そういうこった」

 

 全てを悟り苦々しい表情を浮かべるカナタに、男は両手を広げて床に大きな影を作る。

 

「ガキだろうと数が集まれば外の世界に興味を持つ者が必ず現れる。予測された事象には常に対応するものだろう? 稚拙な計画に付き合ってやったことに感謝してほしいものだ」

「何故だ。何故そうまでして俺達を阻む」

 

 本気で理解できないヒロに続いて、幾分か冷静なカナタが後を引き継ぐ。

 

「俺達はお前が言うようにタダのガキに過ぎない。こうまで外との繋がりを断たせて管理しようとする理由はなんだ?」

「脱走を企てるガキはどうしてこうも知りたがる(・・・・・)かねぇ」

 

 腰に手を当てた男の言葉から脱走者は以前にもいたのだと二人は悟る。

 

「大人が関係のないガキ共を管理するなんて理由はたった一つ。お前達の存在が利益になるからだ」

「利益? 行き場のない子供を育ててますよってアピールが出来るとかか」

「賢しさを自慢とするなら自分で考えてみろ。答え合わせはしてやる」

「…………ずっと疑問には思っていた。こうまでして管理されるのは何故かと」

 

 男が直ぐに手を出してくる気はないと判断したカナタは話に付き合いつつ、状況の突破口を探すように視線を絶え間なく動かし続ける。

 

「集められた子供達に与えられた分不相応な食事、課される運動、機械的に管理された生活。最初に僕は一つの連想を抱いた――――まるでここは畜産場のようだと」

 

 思わずヒロがカナタを見る。

 

「一つ昔話をしてやろう」

 

 カナタの推論に男は否定も肯定もせず、嗤いながら口を開いて関係ないと思われる話を始めた。

 

「昔々、始まりの鬼と呼ばれる者がいた。その鬼は人を食らい、数を増やし、やがて鬼の王となった。だが、あまりにもやり過ぎて人に討たれた。それで終われば人にとってはハッピーエンドだったんだろうが、鬼の王は討った人に全ての力を受け継がせた。新たな鬼の王は逃げて、鬼の数を増やし続けた」

 

 背後には二人がやってきた通路、そして男の背後には重厚そうな扉がある。しかし、男は話を続けながらも二人から片時も目を離そうとはしない。

 

「さて、ここで問題だ。鬼は失敗から教訓を学んだ。安易に人を喰い続ければ、嘗ての二の舞になると。もし、お前が鬼の王ならばどうする?」

「…………いなくなっても誰も気にしない者、いなくなった方が良い者を集めて、喰う」

「そう、そうさ!」

 

 話の仕組みに気づいて表情を歪めるカナタに喜色満面の男が大口を開けて、異様に伸びた犬歯をギラリと光らせる。

 

「鬼は実在する! そしてここは鬼に喰われる人間の家畜場! 子供ばかりなのも当然だ。家畜の安定供給をするなら大人は色々と面倒だ。そう言う意味では子供は何かと扱いやすい」

「食事と運動があって勉強することがないのは子供達に余計な知恵を抱かせない為……」

「後、大人の肉は年を経れば経るほど固くなるし、味も落ちるという理由もある。だが、小さければ小さいほど良いというものでもない。柔らかすぎて喰った気がしないからな。そう、お前達ぐらいの年が最も美味い」

 

 喰ったその時(・・・)を思い出しているか、ジュルリと舌なめずりする男。

 

「じゃあ、何時の間にか子供が施設からいなくなるのは」

「出荷されたのさ。ここに出資しているスポンサー()の下にな。お前達、食用児はその為だけに育てられている」

 

 言って初めて男が一歩踏み出す。

 男から滲みだす目に見えない圧を感じ取った二人が一歩後退る。

 

「本来ならお零れにも預かれない最高級の食用児()。この日を一日千秋の思いで待ってたんだ。なんたって、脱走者は食っていいというルールがあるからな!」

 

 男の言葉が合図になったかのように、弾かれたようにヒロとカナタは左右に別れて走り出す。

 

「逃げろ逃げろ! 俺を楽しませてくれ! 命懸けの鬼ごっこだ!」

 

 捕まえれば文字通り喰われる命を賭けた鬼ごっこ。

 広い空間を利用して、両側の壁の沿って走る二人の行動に躊躇や鈍りは一切ない。

 

「良い連携だ。余程、打ち合わせしたんだろう。ガキにしては、褒めてやってもいいが」

 

 出口前で待とうともその時には別の手段を試すだろう。男はそのような方法は取らないし、取る必要がない。

 

「単純に遅い」

「ぐがっ!?」

 

 ドン、と太鼓を大きな力で叩いたような爆音がして男がいた床がへこみ、その姿は一瞬の後にカナタの背後に迫っていた。

 振り返る暇も無く、カナタは横合いから振るわれた拳によって壁に叩きつけられて床に転がる。一度たりとも男から目を離していなかったヒコが気づいた時には既にカナタは床で呻いている。

 

「カナタ!」

 

 意識を失っている様子のカナタに堪らずヒコが足を止めたところで、目の前に男が現れる。

 

「鬼を舐め過ぎだ、ガキ」

 

 避ける間もなく左手首と左肩を掴まれ、力任せに引っ張られる。

 

「ぎゃあっ!?」

「まずは一口、味見と行こう」

 

 軽く引っ張るような動作でヒコの左手があっさりと引き千切られた。支えを失った体が床に落ちる。

 肩を抑えて痛みに呻くヒコを見ることなく、男は引き千切った腕を大きな口を開けて骨ごとボリボリと食べていく。

 

「腕が、俺の腕が」

 

 目の前で男の口に消えていく自身の腕を見させられたヒコの口から呆然と声が漏れる。

 

「ん、ん? ん~、美味いことは旨いが何か違和感があるな」

 

 ヒコの腕をあっという間に食べてしまった男は血で塗れて指をペロリと舐めて首を傾げたが直ぐに興味の対象を別に移す。

 

「もう一人の方も味見してみるか」

「か、カナタに手を出すな!」

「肉は黙ってろ」

「ぶくっ!?」

 

 男が足を上げてヒコの両膝の辺りを踏み抜く。

 バキボキッと鈍い音が連続して、ヒコの口から声なき呻きが瞬間的に生まれた。

 

「これで逃げられねぇだろ」

 

 痙攣するヒコを見下ろした男は悠然とした足取りで気絶しているカナタの下へと歩み寄る。

 カナタの右手を持って宙づりにして、ヒコにしたように肩を持つ。

 

「よっと」

「いっ!?」

 

 玩具の人形を引っ張るように手を千切る。

 一瞬目覚めたカナタは強い痛みに再度気絶したようで、床に崩れ落ちたままビクンビクンと痙攣するだけで動かない。

 男は千切ったカナタの手をヒコの時と同じように大口を開けてボリボリと食べていく。

 

「コイツの方が変な味だな。今回は外れかよ、チェッ」

 

 クチャクチャと食べながら勝手な言い分を口にしながらもペロリと腕を食べきった男は痙攣するカナタの首根っこを掴んで持ち上げる。

 

「俺は美味いモノは最後に食うタイプなんだ。喜べ、お前から喰ってやる。っても聞こえてないが。アーン」

「ガナダ……!」

 

 カナタが頭からボリボリと食われていく。

 両足の膝を折られたヒコが残った右手だけで這いずって行って止めようとするが、当然ながら男は食事を止めない。

 

「あぁ」

 

 まず顔に齧り付き、強靭な口の力で抉り取っていく。

 

「あああああああああああああ」

 

 どれだけ声を張り上げようが、カナタだったものの体積が減っていきカナタでなくなっていく。

 

「あああああああああああああああああああああああ!!」

「五月蠅せぇな」

 

 楽しい食事の邪魔をするヒコの叫びに迷惑そうに顔を顰めた男の口元はカナタの血でベッタリと染まっている。

 

「お?」

 

 再度食事を再開しようとした男の手が空間を震わす巨大なサイレンの音で止まった。

 

「このサイレンは、まさか侵入者だと?」

 

 男が言葉を漏らした直後、出入り口と目されていた鉄の扉が向こう側から破裂音を響かせて吹っ飛んで来た。

 宙を舞った鉄の扉が床に落ちて、その重量を物語るように鳴り響く巨大なサイレン音にも負けないほどの音を立てる。

 男は床に落ちた扉に大きなへこみを確認し、次いで鉄の扉があった場所からこちら側にやってくる制服を来た少女(・・・・・・・)を油断のない眼差しで見つめる。

 

「この施設に入り込むとは只者じゃないな。何者だ?」

 

 焔色の髪を靡かせて歩く少女が男の誰何に化粧気のない唇を開く。

 

「特殊犯罪捜査94課、我妻桃子」

「94課…………噂に聞いた鬼狩りがこんなガキを使っていることは驚きだが、国に知られたということはここも退き時だな」

 

 言いつつカナタだったモノの残りをゴミのようにその辺に放り捨てた男の目には我妻桃子と名乗ったに対する侮りの色があった。

 

「最後なんだ。雑味の混じったガキ()じゃなくて、美味そうなガキ()を喰らうとしよう」

「どうせ下っ端に聞いても碌なことを知らないだろうから、貴様に問うのはたった一つだけだ」

 

 自身を獲物としか見ていない男に対して桃子もまた気にした風もない。

 

「氷の血鬼術を使う鬼を知っているか?」

 

 憎悪が滴り落ちるような問い。

 

「知らんな。増援が来る前に食事を済まさせてもらうぜ!」

「知らないのなら用はない。死ね」

 

 簡潔に答えた桃子が左足を後方に大きく下げ、腰を落として携えた刀に手を添える。

 

「ははっ、俺を普通の鬼と同じと思ってもらっちゃ困るぜ!」

 

 言った男の筋肉が増大し、スーツを内側から破っても止まらない。

 

「これが俺の血鬼術! 筋肉量を自在に増強することが出来る! 時間が惜しいから30%から一気に100%だ!」

 

 体が二倍近く大きくなった男は自らの肉体を誇るように筋肉をピクピクと動かす。

 

「この姿を見て生きている者はいない。死んだぜ、お前」

 

 シィィィィ、と桃子の口から変わった呼吸音が漏れ、刀の濃口を切って現れた峰の根元部分で親指を浅く裂いた直後に雷が奔った。

 

「ぬうっ!?」

 

 神速の踏み込みで放たれた居合斬り。

 男が咄嗟に構えた分厚い片腕を落として右脇から真ん中程度にまで斬り進んだが、そこで勢いを失ったかのように止まった。

 

「ふ、ふふふははははははははは! スピードには驚いたが、俺の筋肉を突破するにはパワーが足りん!」

 

 一瞬で浮かび上がった多量の冷や汗を忘れるように、筋肉を締めて刀を抜けないように固定した男が目の前の桃子の首を掴もうと手を伸ばす。

 自身に接近してくる手を見つめて焦りもしない桃子が薄く笑う。

 

「いいや、十分だ――――爆血!」

「ギャアアアアアアア!! も、燃え――」

 

 突如として刀身の根元から血が燃え上がり、その炎は男にも燃え移る。

 桃子が大きく踏み込み、男の体を鞘に見立てて構える。

 

「雷の呼吸、霹靂一閃」

 

 ズバン、と今度こそ男の体が真っ二つにされる。

 切り裂かれた男の体から血が噴水のように噴き出すも、その大半は男の体と桃子の刀身から広がった炎によって燃やし尽くされる。

 

「う」

 

 数少ない血の一滴がヒコの目に入った。

 

「燃え尽きろ、魂の欠片に至るまで」

「い、嫌だ。俺はまだ」

 

 全身に燃え広がった炎に焼かれて行きながら男が呟くも既に運命は決していた。勢いを増した炎があっという間に男を燃やし尽くす。

 

「今までの報いを受けるがいい。人食い鬼には地獄の底こそが相応しい場所だ」

 

 やがて男だった塵を見下ろし、桃子が刀を軽く振ると炎は残滓を残しながら消えていく。

 炎の残滓が刀を鞘に納める桃子と成り行きを呆然と見守るしかなかったヒコを照らしていた。

 

 

 

 

 




現代コソコソ話

名前:我妻桃子
年齢:17歳
家族:両親、兄がいた
備考:現代まで続いていた残り少ない呼吸の戦士の末裔。祖先に我妻善逸・竈門禰豆子と煉獄千寿郎がいる

追記の可能性あり。





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