仄暗い深海からのヴィランコレクション   作:ターンアウトエンド

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前話とセットにしようとしていたお話です。

次回も金曜日に。


第八話

「ふっ!」

 

地を滑るような動き。緩急のついたそれは、時折視界から消える。

間合いを撫でるが、不用意には飛び込んでこない。

仕合って最初に投げられたのを警戒しているのだろう。

 

速い動きに、此方の体勢が整わなくなったタイミングで。

 

「…っ!」

 

 

打撃は気が引けたのか、掴む仕草で距離を詰める彼女。

私の死角から、まばたきの間で手が届く程に。

 

生まれたてとは思えない敏捷性、身体能力。

 

だが、

 

 

 

甘い。

 

「くっ!?」

 

力を抜く事で体勢を変化させる体術。

それは、振り向きと、迎撃、掴んで極める、これを一呼吸で行う。

 

私が迎撃することを予想してたのだろう、極めた腕を抜かれる。

まぁ、抜けやすいように掴みは甘くしていたが。

 

学習能力が凄まじい。

 

先程まで見た父の吸収力はまだ人の範疇だったが、これはもうコンピューターの域だろう。

まるで、毎秒毎にパッチ当てと最適化のアップデートを行っているようなものだ。

 

自身の動きを、人体工学的視点から高効率動作を模索し続ける。

間違えた動作は二度としない、前より今、今より次の動作がより速く、無駄なく。

 

 

 

故に、分かりやすい。

 

「がぁ!?」

 

間合の外で様子を見ていた彼女と距離を詰める。

その位置からだと、逃げ道は二つ、誘導するのは難しくない。

後は来るとわかっていれば、タイミングを合わせるだけ。

そこに速さは関係ない。

 

()()()()()()()()()()()()

 

掴む仕草を見せることで警戒を上に引き上げ、強引に間合いを取ろうとする彼女の、まるで差し出されたように存在する体重の乗った蹴り足に、足先を引っ掛ける。それだけだ。

 

 

 

うわぁ、今顔面からいったなぁ…

 

大丈夫?

 

「だ、だいじょうぶれふ」

 

Mr.アメリカン(オールマイト氏)が訓練しても大丈夫だと自慢された床は、その謳い通り傷ひとつ無い。

 

彼女の鼻も、無事なようだ。

 

私と相対するは、コーカソイド系美女の欧州水姫『ネル』。

 

彼女の身体能力を見てみようと、まずは模擬戦をしてみれば。

パワー、スピード、敏捷性に耐久性。どれも一般的に高い、と言う程度のレベルを遥かに超えていた。

 

人の中では飛び抜けた身体能力を持つ父と比べても、スペック上では数倍の開きがある。

 

下手をすると、オールマイトと同等?

いや、それはないか。私の“勘”もそう言ってる。

しかし、下位互換、それも少し劣る程度のレベルであるのは確かだろう。

 

私が別に確かめたかった事も、大体分かった。

 

 

 

「私は、ご期待に添えたでしょうか?」

 

身だしなみを整えたネルが、やや不安そうに問いかけてきた。

良いとこなしだったもんね。不安にもなるか。

 

 

十分満足の能力だったよ。

思った以上に高かった。

 

「それは良かった、です」

 

 

私相手に、良いところを見せられなかったからか微妙な笑顔で答えてくれた。

 

悪かったね。

でも上司としてはさ、こう、不甲斐ないところを見せられないというか、意地があるわけで・・・

 

 

 

オマエラみみっちいって言うなし。私の能力確認も兼ねていたんだ。自分の個性に負けたらそれは不味いだろうに。

 

 

でもまぁ、これで予想していた個性の()()()に、確証に近いモノを得られた。

 

 

 

前世、漫画としてこの世界(ヒロアカ)を楽しんでいた時から思っていた事があった。それはオールマイトの個性、『ワンフォーオール』についてだ。

 

ワンフォーオールは、継承する度に強くなる肉体強化系の個性の性質を持つ。シンプルに言えばパワーが上がる。

 

オールマイト氏はそれを用いて様々な超常行動を成していた。

 

だが普通に考えれば、いくら超人的な力を手に入れたとはいえ、殴った車が空高く吹っ飛んだり、銃弾並みのスピードで移動するのは無理がある。

 

車は殴れば変形する。が、吹っ飛びはしない。何故なら殴った部分には応力が掛かるが、車両全体には静の慣性力が働いているからだ。

特に現代の車は、クラッシャブル構造をとっていることが多い。この構造は、動的エネルギーをスポイルさせる。

車体が()()のように変形はしても、空高く飛ぶことはまず無い。

そこまでのエネルギーを伝達できない。

 

普通ならば。

 

想定と結果が乖離している。

漫画ならそういうもの、で納得出来たが、自分がその中に生まれ生きているとなるとせめて確認はしたい。

 

ということで今回、ネルを使って地上での移動を実験し、観察をしてみた。

 

この地球上で動くには、どうしても空気の抵抗が入る。それは上下だろうが前後だろうが変わらない。

真上ならともかく、前に進むために後ろに蹴り出して進もうとすれば、空気による抵抗で起きる抗力によって、蹴り足が滑るだろう。

つまりは摩擦が負けるはずなのだ。

 

遅い銃弾で秒速190メートルほどだと言う。

時速換算でおおよそ700キロ、旅客機の翼に立つのと同じ空気の圧力が、踏み込みの瞬間本人に掛かるわけで。前に進める気がしないんだよなぁ。

 

しかし現実は違う。

 

オールマイトも、ネルも。

残像が残るような超スピードでの移動を可能としている。

現実が理屈を凌駕している・・・ならば何処かで補完している筈だと、私は考えた。

 

結果として、私の考えは正しかった様だな。

 

 

ネルは高速機動で地面を蹴る際、滑りを防ぐために微細な念動力(サイコキネシス)を発動させている。

いや、蹴り足だけじゃない、体勢を整える際にも使っている様だ。

 

恐らく車を空高く飛ばす原理も似たようなものだろう。

 

そしてこれはネルが持つ能力、という訳じゃ無い、

 

個性の、本質に関わる部分。

 

 

 

個性とはなんなのか。

 

私たちは個性を本当の意味で理解できているのか?

 

個性を、ただの身体的な能力の延長で考えるのは間違いなのかもしれない。

 

個性が能力を形作っているのではなく、

『能力』が“個性”を形作っているとしたら。

 

 

 

 

 

 

 

 

ネル、そろそろ帰るから片付けしようか。

 

「はい、分かりました」

 

 

これからの方針、方法の模索、情報の収得。

やること、考えることは一杯ある。後に回せることは後に回すしかない。

 

 

 

 

 

 

 

私の“個性”は何をもたらしたいんだ?

 

 

(おまえ)は、何処へ行きたいんだ?

 

 




新たな問題提起。



そして、









さむい
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