レッドQ ~赤いアイツを追え!~   作:雁野 命

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第5話:後編

「──というわけで、今日は散々な目に遭いました。はぁ……」

 

『なるほど。道理で浮かない声をしているわけだ。しかし、後輩君にしては随分と軽率な行動をしたね?』

 

「……おっしゃる通りです。はい……」

 

あの後、刑事さんと天王寺さんに謝り倒した僕は、警察の事情聴取を受けて今に至るが、事件は解決したけど天王寺さんを危険にさらしてしまった事実は変えようがない。正直、これはここ最近で一番堪えたかもしれない。

 

『まぁ、小言はこの辺にしておくとして──そんな落ち込んでいる君にピッタリの情報があるんだ』

 

「なんですか?くだらないことだったら切りますよ?」

 

『それは君次第かな?実は君が今日遭遇したような事件がここ一月ぐらいで頻発してるんだよ。それも、()()()()()()()()()()()()()()でね』

 

何だって?僕の取材場所で?いや、今日の件を考えれば──

 

「転生者が居た場所で転生者がらみの事件、ってことですか?」

 

『さあね?そこまでは分からない。けど、私の知る限りではこれらの事件は取材場所の近くにある学校、それも女子の比率の多い所を中心に多発していることが分かっている』

 

「何というか、作為的なものを感じる場所選びですね」

 

『そうだね。でも、これは偶然という可能性もある……まぁ、数学を信じないなら、だけどね』

 

先輩、それ必然って言ってるようなものですよ?まぁ、それには僕も同意だけど。

 

「場所はいいですけど、他の共通点は何ですか?転生者を見極めるのは難しいですよ?」

 

『それは私も重々承知さ。でも、この場合誰がやったか(フーダニット)に意味はないよ、ワトソン君?』

 

「犯人じゃない……?あ、被害者ですか?」

 

『その通り。全ての事件で被害者には男性が多く、事件の中心には必ず少女が存在している、ということさ』

 

なるほど、確かに今日の事件もその傾向にある。しかし、他の事件に気付かない自分に腹が立つが、それを取り返すには真実を突き止めるしかない。

 

「この一連の事件、調べたいんですけど、他に情報はありますか?」

 

『もちろん、もう送ってあるよ。ただし、今回は今まで以上に危険だ。それを踏まえて行動するように、いいね?』

 

「はい!先輩、ありがとうございます!」

 

『ああ、そういえば、山梨では事件は起きていないみたいだね。うん、お土産が無いのは残念だな』

 

「……先輩……」

 

何でこう、地味に僕のやる気を削ぐのか……まぁ、おかげで気負いはなくなった。あとは、真実を追うだけだ。

 


 

それから数日後、空振りが続く中、僕は知り合いの記者が取材後に行方不明になった事件を調査しに283(ツバサ)プロダクションに向かった……んだけど、取材はNG。

 

仕方なく付近の聞き込みをしていたところ、幸か不幸か、取材の成果はその日の夜に現れた。そして、訳があって今の僕は山に向かう道路をバイクで必死に逃走している。

 

「その頭、食わせろぉ!!」

 

「うおっ、と!」

 

で、その訳というのは僕の真後ろから迫っている(ヒョウ)のような怪物だ。ちなみに、なぜ追われているかと言うと、怪物の怒りと興味を買ったからだ。

 

まぁ、夜まで取材を続ける中で豹の怪物に襲われる男性を見つけた僕が、ジャックナイフターンの後輪で怪物の顔面をぶん殴ったのが原因だろう。

 

その後、なぜか僕の頭に興味を持った怪物に追われる羽目になった、という訳だ……正しくは追い込まれていると言う方が正しいかもしれないが。

 

「シャアッ!!」

 

「ぐぇっ!?」

 

……めちゃくちゃ痛い。うん、死んだかと思った。ギリギリで躱したつもりだったけど、どうやら後輪を切られていたらしい。で、そのままクラッシュしてガードレールに引っかかった僕は道路から崖下に落っこちずに済んだみたいだ。

 

とりあえず、動かなきゃ死ぬ。とはいえ、この間とは違って痛過ぎて動けそうもないし、怪物は目の前だ。くそっ、まだ死ぬ訳には──

 

「それじゃ、いただきま──」

 

『ユニコーン!マキシマムドライブ!』

 

「──あぎゃっ!?」

 

寸でのところで僕を食べようとしていた怪物を白い影が殴り飛ばす。ん?もしかして……

 

「ハァ……またネコかよ?」

 

やっぱりエターナルか。というか、いつもタイミングよく現れるなぁ。

 

「テメェ──俺の邪魔をするなぁ!」

 

「やれやれ、<待て>もできないんじゃ、()()はやれないな」

 

『エターナル!マキシマムドライブ!』

 

「グオ──」

 

「さぁ、地獄を楽しみな!」

 

それ、気に入ってるのか?ともかく、今回は彼がさっさと倒したおかげで、無事に助かったようだし、ちゃんとお礼を言わないとな。

 

「何かと思って来てみれば、またアンタか……つくづく縁があるみたいだな」

 

「そうみたいだね。今回は助か──」

 

「……モブのアンタを助けてもなぁ……あ、悪い、何か言ったか?」

 

前言撤回、コイツは変わってない。というか、一般人をモブって、また妙な言い方だな。

 

「……いや、なんでもない。それより、君の()()()()()()()を見て気になったことがあってね、一つ聞いてもいいかな?」

 

「……そうだな、うん、今日は時間もないことはないし?まあ、少しぐらいならいいだろう」

 

いや、チョロいな!まぁ、僕としてはそれぐらいの方が助かる。

 

「君が戦っているのは転生者なのか?」

 

「っ!?なぜその名前を知っている?」

 

「僕は記者でね。超常的な事件を調べているうちにその存在を知った、というわけさ」

 

「なるほど……お前のようなモブも存在する、ということか……」

 

まただ。小声だけど、また僕のことをモブ、と呼んだ。名前を憶えていないにしては不自然だ。

 

「それで、君は転生者と戦う転生者狩りなのか?」

 

「……ああ、その通りだ。だが、まさかそこまで知っているとは……」

 

「なら教えてくれ。君はなぜ転生者を殺す?」

 

「奴らはクズだ。だから殺す。これでいいか?」

 

……コイツは何を言っているんだ?クズだから殺す?なら、そのクズを虫けらのように殺すお前は何なんだ?

 

「……君は、人の命を何だと思っているんだ?」

 

「クズを殺して何が悪い。それとも何か?アンタ、犯罪者の命も平等、とか言うタイプか?」

 

「そうだ。人には人権がある。少なくとも犯罪者なら法律で裁くべきだ」

 

「ハッ!アンタが言ってるのは机上の空論だ。目の前で人を殺す怪物になるなら殺すしかないだろ?」

 

うん?何か嚙み合わないな。ともかく分析は後だ、この意見には賛同できない。

 

「じゃあ、その怪物を簡単に殺す君は何なんだ?君はどんなルールで自分を縛っている?」

 

「ルール?俺は転生者狩りだ、転生者を狩る、それ以外は好きなように生きるだけだ!」

 

「それなら、転生者と君の違いはどこにあるんだ?」

 

「あぁ?どういう意味だよ?」

 

意味?無自覚に自分と他者の間に絶対の違いを確信している?

 

「君が殺した相手も君自身も超常的な人間だ。どちらも法やルールに縛られないなら、そこにどんな違いがある?」

 

「っ!?そ、それは、て、転生者狩りは俺に与えられた使命だ!奴らとは違う!」

 

なるほど、コイツの意見が空っぽな理由はそれか。

 

「与えられた使命?なぜそんなことをする?誰がその使命は与えた?」

 

「世界を混乱させる怪物を殺す!それが神様に選ばれた俺の使命だ!」

 

ダメだコイツ。与えられた使命だの神様に選ばれただの、とても正気とは思えない発言だ。だが、これが事実なら?いや──

 

「だとしても……僕には君が怪物に見えるよ」

 

例え神の使命だとしても決めたのはコイツだ。だが、コイツは責任を取る気がない。なら、怪物と同じだ。

 

「怪物だと?!奴らと一緒にするな!俺はヒロインに無理やり迫ったりしない!」

 

「ヒロイン?僕をモブと呼ぶことと関係があるのか?」

 

「だ、黙れっ!お前には関係ない!俺は転生者狩りだ、お前たちとは次元が違うんだよ!」

 

ついに逆切れしたか!?答えは期待してなかったけど、迂闊だった。この距離じゃ逃げきれない。最悪、こっから落ちるしかないか?

 

「レッドナイフ!」

 

「うおっ!?」

 

「まさか!?」

 

エターナルの足元に刺さるレッドナイフ。つまり、彼が来た、ということだ。予想通り、道路から一段高い崖の上に立ち、いつもの構えをするレッドマンの姿があった。

 


 

「レッドファイト!」

 

エターナルがレッドマンに気を取られている間にその場から距離を取る記者。そして、レッドマンがエターナルの前に降り立った。

 

「アンタがレッドマンか?俺もアンタと──」

 

「レッドパンチ!」

 

「あぶねっ!おい!なんで転生者狩り同士で戦わなきゃならないんだ!?」

 

話し合うつもりで構えも取らずに立っていたエターナルはいきなり放たれたパンチに驚きつつも紙一重で回避する。抗議の声を上げるエターナルだが、レッドマンは何の反応も示さなかった。

 

「チッ、踊るぞ、死神のパーティタイムだ!」

 

呼びかけに応じないレッドマンに苛立ち紛れにエターナルエッジで切りかかるエターナルだが、その斬撃は紙一重で回避される。

 

「よく避ける!だが、避けてるだけでは──」

 

「レッドナイフ!」

 

「グッ……!」

 

連続して切りかかるエターナルだが、その攻撃の合間を縫ってレッドナイフが閃き、エターナルローブの胴体に攻撃の跡を示す火花が散る。

 

「やるじゃないか。だが、俺にはこのローブが──」

 

「イヤッ!」

 

「あぐぅっ!?」

 

不利を悟ったエターナルはあらゆるエネルギーを無効化するエターナルローブで防御しつつ戦おうとする。だが、その動きを読んでいたレッドマンはエターナルを投げ倒し、その勢いのままローブを引きはがした。

 

「なっ!?俺のローブを──おげっ!?げふっ!?ふぎゃっ!?」

 

驚愕するエターナルが起き上がる前にマウントを取ったレッドマンは強烈な拳を何度も振り下ろす。本来なら脱出できるはずの拘束だが、初めて一方的な攻撃にさらされて混乱するエターナルには難しい話だった。

 

「トォーッ!」

 

「がはっ!?」

 

あえてマウントから離れたレッドマンはエターナルを無理やり引き起こすと再度、投げ飛ばして執拗にダメージを与えつつ距離を取る。

 

「ぐ、この、野郎……」

 

「レッドアロー!」

 

「うぐっ……」

 

なんとか立ち上がったエターナルに対してレッドアローを脇に構えたレッドマンが突撃、全力の一撃がエターナルの胴体を貫く。そして、うめき声をあげたエターナルは倒れて動かなくなる──だが、レッドマンの動きはそこで終わらなかった。

 

レッドアローを地面に突き刺したレッドマンはエターナルの頭を引きずって小走りで崖の方へと向かっていくとそのまま頭上に持ち上げる。そして──

 

「レッドフォール!」

 

レッドマンは既に死んでいるエターナルを渾身の力で崖下に投げ落とした。そのまま無言で崖下を覗いたレッドマンは地面に叩き付けられたエターナルが死んでいることを確認すると、右手を高く掲げて空を見上げた。そして、いつものようにどこかへと歩き去って行くのだった。

 


 

今回は特に大変な事件だったが、その分、大きな収穫もあった。それは、エターナルという転生者狩り──いや、転生者に直接取材ができたことだ。

 

というのも、エターナルをレッドマンと同じ転生者狩りとするにはいくつか違いがある。一つはエターナルは写真に写る、という点だ。これは、ライオンとの戦いの写真が証拠だ。

 

二つ目は倒した後だ。エターナルが倒しても戦いの跡は消えないが、レッドマンは周囲の異常事態を止めている可能性がある。もっとも、こちらは確証がないため、僕の推測でしかない。

 

そして、最後は一般人──モブの扱いだ。エターナルや転生者は人間をこれまでの事件の中心にいる少女たちのような<ヒロイン>を重要視し、僕らのような<モブ>を軽んじているようだ。

 

しかし、先輩の情報で僕のようにレッドマンに助けられたモブがいることが判明したことでレッドマンはモブを守る、と言っていいだろう。

 

つまり、以上のことから、エターナルは神様と呼ばれる何者かに転生者狩りと誤認させられた転生者であり、レッドマンこそが真の転生者狩りだと言えるのではないだろうか?

 

もしくは、僕の推測が間違っていて、エターナルが正しい転生者狩りでレッドマンは怪物を狩る転生者や転生者狩りを狩る、恐ろしい怪物なのかもしれない。

 

どちらにせよ、この世界にはまだ僕らの知らない神秘がある。ならば、好奇心の続く限り真実を追求するのが僕の仕事であり、ルールなのだ。

 

というわけで、以上で今回の取材を終了とする……人には選ぶ権利がある。その結果も責任も己が背負うしかないのだ。

 

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