レッドQ ~赤いアイツを追え!~   作:雁野 命

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第1話:後編

夜、春になったとはいえ寒いものは寒い。おまけに夕方まで追加取材をしていた僕はすでにそこそこに疲れていた。まぁ、それだけの価値があったようには思えないが。

 

というのも、今日一日で冴島少年について分かったことは交友関係が広いが、特に花咲川高校の三年生で同じクラスの氷川(ひかわ)紗夜と白金(しろかね)燐子という少女たちと仲が良いことぐらいしかなかったからだ。

 

しかも、当の本人たちに取材したところ、どうやら彼女たちRoseliaのファンで生徒会の仕事を手伝ってもらう関係で仲良くなったらしいが、連絡先も知らないらしく事前の聞き込み以上の情報は得られなかった、となれば僕の心情もわかってもらえるだろう。

 

「……にしても寒いなぁ……あ?」

 

という訳で流石に愚痴が漏れてしまってから気づいたんだけど、何かの気配を感じる。というか、何かに見られているような気がする……なんだろう、非常にマズい予感がする。よし、1、2の3でダッシュしよう。1、2の──あ、ダメだ。

 

「……この話は本物だったかぁ……」

 

どうやら間に合わなかったらしい。見なきゃいいのに、不気味な鳴き声のする方を見ると証言にあった黒い悪魔のような怪物がこちらを見ていた。しかし、アレだな。突然のこと過ぎて自分が思ったよりも冷静なことに驚いているが、正直、一歩も動けない、というか、動いたら一息にやられるなコレ。なんて考えている間にも怪物がじりじりと距離を詰めてくる──

 

「うおっ!?」

 

だが、途中でその怪物が突如爆発した。怪物が消えてるから爆死した、と思うけど……何だったんだ今のは?というか、後ろから何かが飛んできた気はするけど、その辺には何もないみたいだし……ダメだ、何が起きたのかさっぱりわからん。まぁ、何はともあれ助かった、ということでいいんだろうか?

 

「大丈夫ですか!──ってあれ?もう終わってる?」

 

「おかしいぞ、ホラーの気配は確かにあったはずだが……」

 

飛び込んできた影は白いコートの少年で何やら困惑した様子で立っていた。見れば左手のスカルリングと会話しているようだが、彼が冴島少年だろうか?というか、しゃべるスカルリングってなんだ?

 

「キミ、もしかして──」

 

「っ!?そこの人、下がっててくれ!」

 

少年に確認を取ろうとしたが、急に何かに警戒しだしたようだ。先ほどの怪物か?いや、どちらかというとあの影は黒というより──

 

「なんだ、あの赤いのは……!?」

 

「邪気はない!奴はホラーじゃないぞ、涼牙」

 

「だが、味方でもないようだ!」

 

なんか盛り上がっている冴島少年と指輪だが、確かのその人影の正体は赤かった。まぁ、腕とか足に銀色だったりする部分はあるけど、おおざっぱに言って赤いと表現すべき存在だった。そして、その赤い人物(?)は両手を真上に伸ばしてからゆっくり円を描くように下ろし、片手の拳を握ると胸の前で両手を打ち合わせた。

 


 

「レッドファイト!!」

 

「何言ってんだコイツ──ぐあっ!?」

 

赤い人物──レッドマンは一方的にレッドファイトを宣言すると困惑する涼牙に対して走りより、そのまま勢いを乗せたパンチを放つ。戦士としての直感か、かろうじて両手を交差させてガードした涼牙だが、轟音ともに数mほど殴り飛ばされる。

 

「涼牙、大丈夫か!?」

 

「ああ、何とかな……だが、勢いは殺したはずなのに少し腕が痺れる。コイツはなかなか強いかもな」

 

危なげなく着地して腕を軽く振りながら答える涼牙はその間も油断なくレッドマンを見据えると、レッドマンはすぐ近くの記者を無視して涼牙へ追撃するために走り出していた。

 

「お前は一体何者だ?!」

 

「……」

 

「くっ!ガン無視、かよっ!」

 

涼牙の問いかけにも答えず掴みかかると連続してパンチを放つレッドマン。轟音を響かせるその猛攻をなんとか凌ぎつつ悪態を吐く涼牙だったが、徐々に追い詰められている状況を改善すべく、隙を見てレッドマンを掴み無理やり投げ飛ばす。

 

「よっ、と──ったく、死んでも恨むなよ!」

 

何とか距離を取った涼牙は呼吸を整えると、コートから取り出した赤鞘の魔戒剣を抜き放ち、立ち上がったレッドマンへと切りかかる。

 

「ふっ!はあっ!」

 

闇夜に白刃が二度閃きレッドマンへと襲い掛かる。常人では捉えることさえ難しい剣(げき)だが、軽やかな身のこなしで潜り抜けたレッドマンは跳躍して一度距離を取った。

 

「このっ、ちょこまかと──」

 

「レッドナイフ!」

 

「うおっ!?一撃が、重いっ……!?」

 

自身の剣が避けられたことで怒りを覚えた涼牙は剣を構え直して追撃しようとするが、レッドマンがどこからか──彼らは知る由もないがミクロ化して手袋の中に収められている──レッドナイフを取り出し、涼牙に対して投げつける。何とか切り払った涼牙だが、ただの大ぶりのナイフにしか見えない外見に見合わぬ威力に驚き思わずひるむ。そして、その一瞬の隙をレッドマンは見逃さなかった。

 

「マズっ──うぐっ!」

 

涼牙に飛び掛かったレッドマンはそのまま組み付くと腹部へ膝蹴りを叩きこむ。いかに魔戒騎士として鍛え上げられた肉体を持とうとも、人間である以上は痛みから逃れられなかったのか上体が丸まってしまう。

 

「ぐっ!がっ!があっ!」

 

それを好機と見たのかレッドマンはそのまま二度、三度と涼牙の背中に真上から容赦なくエルボーを叩きつける。徐々に膝をつきかけていく涼牙の姿にレッドマンはとどめとばかりに飛び上がる。

 

「涼牙、今だっ!!」

 

「っ!?──うおおっ!」

 

「……!?」

 

飛び上がったレッドマンに対して今にも倒れそうだった涼牙がザルバの合図で剣を切り上げると、無防備な状態のレッドマンは剣戟を食らって後ろに倒れこむ。だが、力の乗り切っていない片手の一撃だったためか、レッドマンはすぐに立ち上がった。

 

「ま、そりゃそうか。でも、助かったぜザルバ」

 

「気にするな。それより、コイツはヤバいぞ。どうする涼牙?」

 

「決まってるだろ?──」

 

レッドマンが起き上がる前に後方に跳躍して距離を取った涼牙はザルバに礼を言うと一度、深呼吸をして自然体になる。

 

「──本気でやるだけだ!」

 

レッドマンを見据えたまま涼牙が自らの頭上に剣先で円を描く。すると円の中の空間が割れて中から鎧が飛び出し涼牙の体に装着され、その姿は狼の意匠を持つ輝く鎧を纏った黄金騎士・ガロへと変わり、持っていた魔戒剣が幅広で両刃の大型剣、牙狼剣へと変化した。

 

「黄金の、狼……!」

 

「さぁ、ここからが本番だ!」

 

蚊帳の外で驚愕する記者を気にも留めずに相対する金と赤。先に動いたのは金──ガロだった。

 

「くらえっ!」

 

一足でレッドマンの目の前に来ると大きく振り上げた大上段の袈裟切りを放つ。弾丸の如き速さで放たれた一撃だが、予想しやすい単調な動きだったためかレッドマンは半身になって回避し、お返しとばかりにパンチを放とうとする。しかし──

 

「甘いっ!」

 

一撃目をあえて避けさせたのか、振りぬいた速度のまま一回転して二撃目を叩きこもうとするガロ。遠心力と速度乗ったその一撃はこれまでで一番の威力といっても過言ではない一撃──のはずだった。

 

「トォーッ!」

 

「な──ぐあっ!?」

 

驚愕するガロ。それも当然である。必中のはずの二段構えの攻撃がそのまま受け流されて自分が地面に投げ飛ばされていたからだ。

 

「ぐえっ!がはっ!」

 

状況を理解できず混乱するガロに対してレッドマンは叩き落すような拳を放つと、そのまま動けないガロを頭の上まで持ち上げる。

 

「レッドフォール!」

 

「がああっ!!」

 

「おい!立ち上がれ、涼牙!」

 

渾身の力で相手を地面に叩きつけるレッドマンの必殺技──レッドフォールをまともに受けたガロはかろうじて鎧を着ているが、ザルバの叫びもむなしく、すでに指一本動かせないような状態であった。そして──

 

「レッドアロー!」

 

「がはっ……」

 

またもやどこからともなく取り出した十字架型の石突を持った赤い手槍──レッドアローを手にしたレッドマンは渾身の力で振り下ろし、ガロの心臓を貫いて地面へと縫い留めた。

 

「おいっ!涼牙!涼牙っ!!」

 

力尽きたのか鎧が解除された涼牙は既に事切れていた。ザルバの叫びが響く中、数秒ほどその様子を見て涼牙がピクリとも動かないことを確認したレッドマンは一度うなずくと呆然とする記者には目もくれずどこかへ歩き去っていった。

 

「……まさか?赤い、通り魔……!?──って、アレ?死体が、ない?」

 

そして、目を離した隙に涼牙の死体や戦いの痕跡の無くなった公園には呆然とする記者のつぶやきと風の音が聞こえるだけだった。

 


 

<赤い通り魔>──これも都市伝説の一つだが、ここ最近、といっても数年前から語られるものでいくつかのパターンはあるが、概要は単純である。

 

レッドマンと呼ばれる赤い通り魔が現れて何かを殺す、というものだ。だが、殺す対象には大きな違いがあり、それによって語られる正体が変わる。曰く、悪人を殺す正義の味方、目にしたものを全て殺す殺人鬼、人に擬態した怪獣を殺す怪獣ハンターなど、多くの説がある。

 

しかし、この話には都市伝説にありがちな大きな弱点がある。それはどこにも証拠がないことだ。なんせ、この僕だって今の今まで眉唾だと思ってたぐらいである。

 

ともかく、僕は今、ものすごく後悔している。だって、あの赤い通り魔の正体を掴めたかもしれないのに、僕ともあろうものが突如始まったバトル展開に圧倒されて完全に空気になってしまうとは!

 

しかも、<まぼろしのオオカミ>の正体が冴島少年だったことまでこの目で見たのに、インタビューすら出来なかったなんて……まぁ、少年の死体も消えたし、証拠写真もなし。完全に収獲ゼロ、だもんなぁ……

 

だけど、まだ調べることはある。なぜ、冴島少年が殺されなければならなかったのか、ということだ。

 


 

さて、ここからは後日行った追跡調査の話だ。まぁ、結論だけ言えば彼の自己責任、というか身から出た錆、のようなものだと思われる。

 

これは、僕の知人から聞いた話だが、なんでも、<まぼろしのオオカミ>に類する都市伝説は古くからあったらしく、人狼伝承や魔女狩りも関係があったりするらしい。

 

実はこの、らしい、というところがポイントで、本来は僕の遭遇した悪魔みたいな怪物を倒す組織があるらしく、その組織が事実を隠蔽するために記憶を消したりしている、とのことだ。

 

結局、知人もそれ以上の理由や実情といった詳しいことはわからなかったらしいが、おそらく僕の推測では<まぼろしのオオカミ>こと、冴島少年がその組織の人間で記憶を消し忘れたことから都市伝説として広まったのではないか、と考えられる。

 

さらに、あれからしばらく経ったが、彼の死亡したころから行方不明者数の増加が減少しており、おそらく、冴島少年の怠惰が一連の騒動の原因で代わりの人員が事態を解決している、というのが僕の見解だ。

 

つまり、レッドマンは冴島少年を粛正する目的で殺害した可能性がある、とは思うのだが、いかんせんそこまでの証拠がないため、僕の推察にしか過ぎない。

 

まぁ、単にレッドマンが強敵と戦いたかったのかもしれないが、ともかく、冴島少年が青春に明け暮れていたことは同級生へのインタビューで判明したため、彼についての考察は間違いないだろう。

 

というわけで、以上で今回の<まぼろしのオオカミ>についての取材を終了する。

 

なお、今回の取材費用はヤマブキベーカリーの記事で何とか回収できたため、その旨も記す……次回こそレッドマンの写真か映像を記録してやるからな!

 

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