レッドQ ~赤いアイツを追え!~   作:雁野 命

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第2話 古龍のよびごえ
第2話:前編


「……寒い……」

 

おっと、開口一番で愚痴が出てしまったが、それも仕方がない。なんせ、僕が来ているのは山梨県の四尾連湖にあるキャンプ場だからである。

 

さて、寒いのが死ぬほど苦手な僕がどうしてわざわざ12月のキャンプ場なんかに来ているかと言うと、昨日の昼に例の情報通の知人──先輩からの情報があったからだ。

 


 

『なあ、後輩君。面白い話があるんだが、聞いていかないかい?』

 

電話口から開口一番に聞こえてくるどこか楽しそうな先輩の声。こういう声の時は大概、碌でもない話を持ってくる時だ……まぁ、都市伝説ネタを追う僕としては願ったりかなったりなのだけれど。

 

「どんな話ですか?」

 

『何、君の気に入りそうな話だ。後輩君は恐竜は好きかい?』

 

「恐竜……パークとかワールドの話ですか?まぁ、映画は嫌いじゃないですけど」

 

あれ?思ったより普通の話題?あの辺の映画に都市伝説とかあったかなぁ……

 

『違うよ。君は現代に生きている恐竜がいる、と言ったら信じるかい?』

 

ありゃ、違ったらしい。現代に生きる恐竜、ねぇ。眉唾ものだが……この人が言うなら()()を掴んでいるんだろう。

 

「うーん、ネッシーとかクッシーみたいな奴ですか?」

 

『まぁ、概ねそんなところだが、ちょっと事情が違う。これを聞いてもらえるかい?』

 

急に静かになったので何かと思ったら、電話口から大きな鳴き声──そう、恐竜、いや、怪獣とも呼べるような轟音が聞こえてきた。先輩、耳が痛いっス。

 

『──とまぁ、今のがその恐竜の声、の録音らしいんだけど、君はどう思う?』

 

「耳が痛いです。あと、流すんなら一言言ってください」

 

『ふふっ……済まない、後輩君が相手だとつい、ね。許してもらえるかい?』

 

くっ、声と顔がいいからって何やっても許されると思いやがって!

 

「……まぁ、いいですけど。それで、僕には本物の恐竜、というか怪獣の鳴き声みたいに聞こえましたけど、これはどうしたんですか?」

 

これで文句の一つも言わずに許す僕も大概だけど、この人には恩と借りしかなくて頭が上がらないのだからどうしようもない。それよりも今はこの音声についてだ。もしかしたらいい記事が書けるかもしれないし、何より、めちゃくちゃ面白そうだ。

 

『ふむ、怪獣か。やはり、君はいい感性をしているね。これは先週、知り合いのキャンパーが山梨県の四尾連湖で録音したものだ。あぁ、もちろん、私の分析だとこの音声は本物だ』

 

「なるほど。四尾連湖……湖ってことは富士山のあたりでしたっけ?そういえば、龍か何かの言い伝えがあったような……」

 

一応、仕事柄それなりに地理、というか伝承には詳しいつもりだが、あの辺りは都市伝説っぽい言い伝えもそれなりにあったはず……なんだけど、何だったかなぁ?

 

『そうだね、四尾連湖には龍神伝承や牛鬼の亡霊の言い伝えがあるんだけど……まぁ、関係があるとすれば龍神の方かな?』

 

そうそう、確か、そんな話もあったっけか。というか、この口ぶりだと──

 

「先輩はそう思ってない、ってことですね?」

 

『その通り。まぁ、あくまでこれは仮説だけど、この恐竜──いや、怪獣はここ最近までこの音声以外に一切情報がない。つまり、伝承で語られる龍神とは別物の可能性があるってことさ』

 

なるほど。確かに、あの音声が龍神のものならこれまで一度も情報がないのはおかしい。正直、僕も今の話だけで考えると同じ結論に行き当たるだろう。んで、先輩と付き合いの長い僕にはこの後の展開にも大体予想はついてる。

 

「まぁ、筋は通ってますね。で、僕にこの話をするってことはいつもの如く、この件を調査しろ、ってことですか?」

 

『その通り、察しがいい後輩を持って私は幸せだよ』

 

うん、知ってたよ。まぁ、ここ最近はネタもなかったし、グルメ系の記事も書き飽きた所だ。たまには遠出するのもいいだろう。

 

「わかりました。でも、お土産は期待しないでくださいね?」

 

『ありがとう、後輩君。私は信玄餅か饅頭系がいいかな』

 

期待するなって言ってんでしょうが……まぁ、僕のことだからどうせ買って帰るんだろうが。

 


 

さて、そんなこんなで新幹線とレンタカーでここまで来たわけだが……正直、お手上げだった。なんせ、この時期のキャンプ地なんて人が少ないわけで、取材どころじゃなかったからだ。

 

まぁ、一応、いくつかのキャンプ場を回って管理人さんに話を聞いたところ、なんでも、件の怪獣は一度しか現れなかったらしく、その後の遭遇情報はないとのことだ。だが、だからと言って完全な無駄足、とはならないのがこの手の取材の基本だ。

 

なぜなら、少なくともこの情報の裏は取れた、ということが大事なのだ……決して、負け惜しみとかそういうのではない!ともかく、この件については情報が足りなさすぎる。もしかしたら、ここにはたまたま立ち寄っただけでどこか別の場所に生息地がある、という可能性もある。

 

だが、ぶっちゃけ四尾連湖での情報収集には限界を感じるわけで、この辺で何か手掛かりが欲しい所だし、最悪、中間報告にはなる。というわけで、こういう時は先輩に連絡するのが一番だ。

 

『おや、後輩君か。首尾はどうだい?』

 

数コールもしないうちに聞こえてきたのは揶揄(からか)うような先輩の声。まぁ、これぐらいはいつものことだ。

 

「この時間に僕が電話してるってことはどういうことか分かってて言ってますよね?」

 

『ふむ、ということは、やはり、四尾連湖は本命じゃなかったか』

 

知ってたんかい!いや、まぁ、あの情報だけで行けって言われて素直に行く僕にも問題があるんだろうが……ともかく、情報を出し渋られるとこっちも動きようがない。

 

「……わかってたなら、僕を来させなくてもよかったんじゃないですか?」

 

『まぁ、そう腐るなよ後輩君。私だって何の考えもなしに君を行かせたわけじゃないさ』

 

「そりゃそうでしょうよ。というか、そこまで頼りにされても困りますよ?」

 

まぁ、頼られて悪い気はしないが、正直、この人に頼られても成果を出せる気がしないので、出来れば勘弁してほしい。

 

『そういうなよ、私は君にはかなり期待しているんだ』

 

驚愕の事実。まぁ、十中八九、揶揄われているだけだろう。もしくは、いいように使われているだけか?

 

「まぁ、そういうことにしておきましょう。それで、何か情報でもあるんですか?」

 

『そうそう、君に連絡してからもう少し調べてみたんだけど、今回の怪獣らしき目撃情報が山梨県の各地で多発しているらしい』

 

「よく今まで見つかりませんでしたね?」

 

『そりゃそうさ。なんせ、ただの轟音だったり、巨大な影を見たって話だったり、一貫性のない情報だったからね。怪獣の存在を念頭に置かなきゃ同一の存在だと思わないさ』

 

なるほど。まぁ、一見何の関係もない事象が一つの出来事をきっかけに繋がる、なんて話はこの分野に限らずよくあることで、時には意外なことが真実ということもあるものだ。

 

「ということは怪獣、ないし、そう見える何かが今も山梨中を動き回ってる、ってことですか?」

 

『そうとも限らないさ。例えば、誰かの悪戯か個人の研究か、はたまた政府の極秘プロジェクトって可能性もあるよ?』

 

……もっとも、あんまりにも荒唐無稽な場合は陰謀論と呼ばれることもあるが。

 

『それに、山梨中、ってほどじゃないみたいだ』

 

「?どういうことですか?」

 

『今、全ての情報を分析にかけてたんだけど、ほとんどの情報が見延町を中心に分布していることが分かったんだ』

 

なるほど。これで次の指針は決まった。

 

「それじゃ、僕は見延町に行って取材してくればいいんですね?」

 

『ああ、そうしてくれると助かる。それと、地図は君のスマホに送ってあるから、確認しておいてくれ』

 

「わかりました。それじゃ、そろそろ出発しますね」

 

『それじゃ、気を付けて。ああ、お土産は──』

 

おそらく追加のお土産の要求か何かを言っていたが聞かなかったことにして通話を終えると、先輩から来ていたメールに同封された地図を確認する。

 

「……確かに、見延町が中心っぽいなぁ……」

 

これは信玄餅だけじゃ足りないかもしれないな……いや、そもそも買う必要もないのだけど。ともかく、現地で調査を続けよう。

 


 

「怪獣?アキちゃんとあおいちゃんは聞いたことある?」

 

「あ、なんか聞いたことあるかも」

 

「私もバイト先でウワサぐらいは」

 

見延町に着いた僕は夕方まで取材をしてみたが、具体性のない情報が多く、取材に行き詰っていた。そこで、気分転換を兼ねて訪れたみのぶまんじゅうの店で出会った三人の少女たちに話を聞いてみることにした。

 

「ええと、そのウワサ、というのは?」

 

「なんでも、夜の湖で巨大な龍を見た!とか」

 

「そうなん?私が聞いたのは夜中に大きな黒い影が空を飛んでた、って話やけど」

 

「へぇー、そんなウワサがあったんだー」

 

これは有力情報、か?まぁ、具体的な情報なだけマシだと思っておこう。というか、この子──各務原(かがみはら)さんだっけ。情報料代わりのまんじゅう、めちゃくちゃ食ってない?いや、別にいいんだけど。

 

「……なるほど、もう少し具体的な場所とか時期って分かったりしますか?」

 

「えっと、確か、一か月ぐらい前の本栖湖、とか言ってたような……すんません、ちょっと詳しいことはわからなくて」

 

「私の方は二週間に一回ぐらいで見るらしいですよ。でも、私も詳しくは……」

 

「そうですか……いえ、参考になりました。どうも、ご協力ありがとうございました」

 

うーむ、それなりに役に立ちそうな情報ではあるが、勘が鈍ったか?まぁ、いっそのこともう何日かこの辺りで逗留して取材するのもありかもなぁ……

 

「あの、記者さん、ちょっといいですか?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「さっき、リンちゃん──えっと、私の友達に聞いたんですけど、最近、夜の11時以降に大きな物音を聞いたとか大きな影を見た、って話が多い、って言ってました!」

 

お?みのぶまんじゅうがまさかの有力情報になって帰ってきた!これならある程度、調査場所が絞れるかもしれない。

 

「なるほど、ありがとうございました。そのご友人にも感謝していると伝えていただけますか?」

 

「はい!あ、それと、おまんじゅう、ごちそうさまでした!」

 

「なでしこ、お前……」

 

「全部食うとる……」

 

……まぁ、だいぶ高くついた気がするが、気にしないでおこう、うん。

 


 

各務原さんの友達の情報では怪獣は夜中に動くらしい。それと、先輩からの情報を突き合わせて少し調べに来てみたんだけど……

 

「……寒い……」

 

真冬の夜中に森の中をうろついてれば凍えるのも仕方がない……やっぱ、街の中で待ってた方がよかったかなぁ……

 

まぁ、その分、よくわからない棘のような物とそれが付けたと思われる古い傷のある場所を見つけたのは僥倖だけど、コレ、何なんだろう?持って帰って先輩の伝手で調べてもらうか?

 

「お?」

 

今、なんか見えたような……あれは、黒い影、って、でかっ!?飛行機?いや、羽ばたいてる、ってことは、怪獣、というよりドラゴンか?

 

方角は……あっちか。足には自信あるけど、飛んでる相手に追いつけるかなぁ……ともかく、このままだと確実に見失うし、走るしかないか。

 

しばらく走り続けてドラゴンの降り立ったと思われる場所にたどり着いた僕。だが、そこで僕が目にしたのは大きな黒い刺々しいドラゴンと相対する()()()()()()()()()()()()()()のレッドマンの姿だった。

 

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