レッドQ ~赤いアイツを追え!~   作:雁野 命

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第3話:後編

MVを見た翌日、僕の目覚めは最悪だった。なんせ、先輩からの電話の後、そろそろ寝ようとしていた僕の携帯で勝手に呪いのMVが再生されたからである。おまけに、同じようなタイミングで高咲さんもMVを見たらしく、話しているうちに撮影場所の調査に行くことをしゃべってしまったのだ。そして、その結果がこうである。

 

「あの、高咲さん、こちらは──」

 

上原歩夢(うえはらあゆむ)です、よろしくお願いします!」

 

「すいません、どうしても一緒に来るって聞かなくて……」

 

そう、高咲さんも調査に同行すると言い出した。おまけに、幼馴染でスクールアイドルの上原さんまで着いて来る、という予想外の事態になってしまった。一応、危険かもしれないと忠告したけど、聞いてもらえず、言い合う時間も惜しかった僕はなし崩し的に了承してしまった、という訳だ。

 

「それじゃ、出発しますけど、本当にいいんですね?」

 

「はい」

 

「よろしくお願いします」

 

一応の最終確認をするが、後部座席に座る二人の決意は固いようだった。まぁ、なってしまったものは仕方がない。こういう時こそ冷静に、だ。

 

とりあえず、時間ももったいないので出発した僕は移動中に今回の事件と呪いのMVの話を説明したところ、興味深い話を聞けた。

 

「──つまり、僕はこの一連の事件の犯人はこの<呪いのMV>だと睨んでいる、という訳です」

 

「ねぇ、侑ちゃん、これって悠解(はると)くんの言ってたことと関係ないかな?」

 

「あ!言われてみればそうかも?」

 

「まぁ、流石に突拍子もなくて信用できないかも──え?」

 

そう、どうやらその悠解という人物はこの事件のきっかけである何かを知っていそうだ。

 

「えっと、その、悠解という人は?」

 

「はい、私たちの幼馴染で霊感?みたいなものを持ってる不思議な男の子なんです」

 

「それで、先月ぐらいから心霊現象みたいなことがあったらすぐに自分に言うように、って」

 

うーん、怪しい。けど、どちらかと言えば、犯人というよりも犯人に心当たりがある、または単なる自称霊感少年か……ともかく、気になる話だけど、この件には直接関わりはない、と思う。

 


 

そんなこんなで藁にも縋る思いで現地に着いた僕らだったんだけど、そんな僕らの目の前には撤去された鉄塔の跡が残っているのみだった。

 

「……こりゃ、まいったなぁ」

 

「記者さん……」

 

しまった、つい癖で口に出してしまった。いかんいかん、ここで不安にさせてどうする、僕!……いや、よく見れば、ここは──

 

「ええと、とりあえず、ここが撮影場所、だったみたいですね」

 

「鉄塔もないのにどうしてわかるんですか?」

 

「そうですね……()()()()()()()が証拠でしょうか」

 

「「鉄塔がないこと?」」

 

「はい、普通、鉄塔を撤去するためには業者が必要です。しかし、ここは簡単には車で入れず成長した樹木で作業もしにくい。ここまではいいですか?」

 

よし、二人ともうなずいている。とりあえずは大丈夫そうかな?

 

「さらに、ここには鉄塔ぐらいしかないためほとんど人は来ません。となれば、わざわざ撤去するよりも、この辺りを立ち入り禁止にした方が早いし、安く済むはずです。それでも、撤去されている、ということは何か理由があるはずです」

 

「なるほど……」

 

「そして、その理由はおそらくMVの事故でしょう……まぁ、多少は僕の推測が入ってますが、それほど間違ってはいないはずです」

 

うむ、二人とも納得したみたいだし、とりあえずはこれでいいだろう。それより、ここで何か情報が手に入ればいいんだけど……

 


 

まぁ、世の中というのはそうそう上手く行かないもので、結局、あそこが撮影場所の可能性が高い、ということ以外は何もわからなかった。

 

その後、学校に用事があるという二人を送った僕は少し気になったことがあるため、夜になってからもう一度、撮影現場らしき場所に来てみたんだけど、どうやら、これがアタリだったらしい。

 

「っ!?何の音だ!?」

 

もう少しで到着、というところになって突如、目的地辺りから空気を震わせる爆音が響いてきた。おそらく、ここまで来た衝撃や立ち上る土煙から考えると何かがあの場所を吹き飛ばしたとしか思えない。それで、目的地まで走った僕の目の前には予想通り──いや、それ以上に大きなクレーターが広がっていた。

 

「なんだ、コレ……爆破、いや、爆撃でもしたみたいじゃないか……!?」

 

「アレ?アンタ、こんな所で何してんの?」

 

「っ!?……私は雑誌の記者をしている者で、ここには取材に来ました。それで、君の方は?」

 

何だ、この少年?今、クレーターの方から来てなかったか……?というか、こんな夜更けにサングラスとか、怪しい……

 

「あぁ!アンタが侑たちの言ってた記者さんか!俺は五条(ごじょう)悠解。んで、呪霊、いや、呪いの核はさっき俺が何とかしたから安心していいよ」

 

「なんとかした、って……」

 

なんてことないように言うけど、もしかして、この惨状は五条少年がやったのか?どうやったらこんなことが……?というか、聞きたいことが多すぎて──ん?何か動いたような……

 

「それより、アンタ、早く逃げた方がいいかもよ?」

 

「え?」

 

五条少年が言うが早いか、少年の背後、僕の視線の先には赤い影──レッドマンが姿を現していた。そして、レッドマンは例の動きをすると──

 


 

「レッドファイト!!」

 

「さ、どっからでもどうぞ」

 

レッドファイトを宣言して構えるレッドマンに対して自然体のまま余裕そうに立つ悠解。先に動いたのはレッドマンだった。

 

「レッドキック!」

 

悠解に走り寄るレッドマンはその勢いのまま飛び蹴り──レッドキックを放つと、棒立ちの悠解はその直撃を受ける。

 

「レッドパンチ!」

 

組み付いたレッドマンはそのまま流れるように二度、三度と連続してパンチを放つ。優勢に見えるレッドマンだが、その動きが突然止まった。

 

「お、もう終わり?それとも気づいたかな?」

 

「……!?」

 

それもそのはず、あれだけの猛攻を受けたはずの悠解は無傷のままその場を一歩も動かず立っている姿に気付けば、流石のレッドマンも困惑するのは必然であった。

 

「まぁ、簡単に言うと当たってないんだ。アンタが殴ってたのは俺とアンタの間にある<無限>。だから、その攻撃は俺の手前で止まってる、ってわけ」

 

とても楽しそうに語る悠解だが、それも無理はない。彼の語る説明は特典の元となった五条悟の説明を踏襲しており、敵に対して説明することが彼の楽しみの一つでもあったからだ。

 

「んじゃ、こっからは俺のターンだ」

 

不敵に笑った悠解は目にもとまらぬ速さのパンチで正面からレッドマンの顔面を殴り飛ばす。当然、ガードの間に合わないレッドマンはのけ反りながらも踏ん張って反撃しようとするが、その拳は不可視の障壁──無限によって防がれてしまう。

 

「無限はいたるところに存在する。()()術式はそれを現実に持ってくるだけだ」

 

反撃の隙を見逃さずにレッドマンの胴体を蹴り上げつつ説明を続ける悠解は自身の目の前で人差し指を立てる。

 

「収束、発散……この虚空に触れたら、どうなると思う?」

 

胴体への一撃でたたらを踏んでいたレッドマンは体勢を立て直す。だが、説明を続ける悠解の指先に無限を収束させた小規模な虚空が生まれるのはそれより早かった。

 

「術式反転”赫”」

 

笑みを浮かべたままの悠解は指先の無限を発散させてビームのように打ち出す──術式反転”赫”を隙だらけのレッドマンに向けて放つ。回避することもできず、その直撃を受けたレッドマンはクレーターを越えて崖の近くまで吹き飛ばされた。

 

「ま、こんなもんかな──んじゃ、そろそろ終わりにしようか」

 

倒れ伏したレッドマンの元へ跳躍する悠解。勝負は決したかに見えた──だが、レッドマンの闘志は消えていなかった。

 

「レッドナイフ!」

 

「お?まだやる気なんだ?」

 

突如、跳ね起きたレッドマンがレッドナイフを投擲する。当然の如く無限に阻まれて空中で止まったナイフは悠解に掴まれて近くに放り投げられるが、立ち上がったレッドマンはまっすぐに悠解を見据えていた。

 

「レッドアロー!」

 

「だから、そんな攻撃は──おっと」

 

レッドアローを腰だめに構えて突撃するレッドマンだが、その攻撃を受け流した悠解はレッドマンを地面にたたきつける。しかし、レッドマンの本命はその攻撃ではなかった。突如、悠解の目の前──落ちていたレッドナイフを中心に小さな爆発が起こった。

 

「なるほど、さっきのナイフか……ま、目くらまし程度には──っ!?」

 

冷静に爆発を分析する悠解だったが、その余裕が命取りであった。レッドナイフの爆発を隠れ蓑に立ち上がっていたレッドマンは悠解を担ぎ上げていた。

 

「くそっ、放せっ!ってか、無限はどうしたんだよ!?」

 

驚くのも無理はない。先ほど本人が説明した通り、呪術によって現実へ持ち込まれたすべての攻撃を防ぐはずの無限を越えてレッドマンは悠解の肉体を直接掴んで担ぎ上げていたからだ。パニックに陥る悠解だが、その間にもレッドマンは崖に向かって歩いていた。

 

「っ!?まさか、呪力で中和を──」

 

「レッドフォール!」

 

相手の攻撃にあたりを付けた悠解だが、時はすでに遅かった。崖に辿り着いたレッドマンは担ぎ上げていた悠解を崖の下へ向かって渾身の力で投げ落とした。

 

「……」

 

無言で崖下を覗いたレッドマンは地面に叩き付けられた悠解が死んでいることを確認すると、右手を高く掲げて空を見上げる。そして、そのままどこかへと歩き去って行くのだった。

 


 

という訳で、今回の事件は最初からとんでもないことになっていたが、追加調査も含めて最後まで驚かされっぱなしだった。

 

まず、あの日以降、僕も高咲さんも<呪いのMV>を見ることはなく、一週間後も生きていたため、それに関しては五条少年が解決したらしい。また、連続不審死事件の方もそれに類似した事故死や自殺も特に見当たらないことから、こちらも解決したとみていいだろう。まぁ、<呪いのMV>が連続不審死の犯人という確証はないが、心臓麻痺も極端に増えてはいないし、解決した時期を考えるとおそらく間違いないだろう。

 

それと、こちらは関係があるかは不明だが、先日、僕がすれ違ったスクールアイドルの子たちが憑き物が落ちたように緊張感がなくなり明るくなったらしい。なんでも、何人かが五条少年に執着していたらしく、それが原因だったかもしれない、とも聞いたが、詳細は定かではない。

 

まぁ、なんにせよ、今回の件については解決した……んだけど、いくつか不明な点もある。

 

それは、五条少年についてだ。彼はなぜ今回の事件を即座に解決できたのか?そして、無限や術式といった彼の能力は一体何なのか?などなど彼についての謎は尽きない。

 

だが、彼が()()()()となったことでこれらの謎を解明することはほぼ不可能となってしまった。もっとも、高咲さんらは何も知らないらしいが、彼は時々、フラッとどこかへ行ってしまうため、いつか帰ってくると思っているらしい。

 

……これは、個人的な見解だが、おそらく、五条少年は既に死亡していると思われる。というのも、これまでのレッドマンの戦いやその結果を見ていると、執拗に相手の死亡を確認している彼が見逃すはずがない、と思っているからだ。もっとも、この件も僕の推測のため、彼女たちには黙っておくことにする。

 

また、今回までの件でレッドマンが戦った、または殺した相手が痕跡も残さず消えていることから、これはレッドマンの能力、または殺された人間の特徴なのではないかと思う。まぁ、これには何の確証もないし、推測にも満たないただの感想として記しておく。

 

今回も事件の割には判明したことは少ないが、唯一の成果として、レッドマンの写真──ではなく、レッドナイフとレッドアローの写真を撮ることができた。といっても、現物は消えていたし、念のため持っていたフィルムカメラで撮ってた写真に偶然、映り込んでいただけなのだが……

 

ともかく、レッドマンについての記録は一歩前進したとして、今回の取材を終了する。

 

なお、編集部にはいくつか記事を送ったが、当たり障りのない記事が採用された旨も記す……まぁ、いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず今は生きてることに感謝しておこう。

 

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