敗北は、拭うこと叶わず。
それでも。
裏側の、気遣いを。
凹むどころか、全力で引きずり続けている。大喜を見ていると、前向きなのも良し悪しだと実感させられてしまう。大喜はバカな分前向きで、何があろうと進み続けて振りきってきたから。どうやっても振りきれない、あまりにも重い圧力で完全に足が止まってしまい、そのせいで今まで忘れてきた色々なものにまで絡みつかれてしまっている。
大会が終わって即期末試験の期間だから、そっちに集中して振りきるとも思ったんだが。さすがにそうもいかないらしい。……無理もないか。家へ帰れば、千夏先輩がいるんだから。
ただインターハイ行けなかった、ってだけならここまで引きずらないだろう。一年でインターハイ行くなんて奇跡みたいなもんだし、普通なら切り替えて先を見られたかもしれない。でも大喜にとって、インターハイへ行く理由は千夏先輩なんだ。千夏先輩の期待を裏切った、とか本気で思っている。そこまで重く考える事も無いんだけど、千夏先輩自身はインターハイ出場が決まっている。同じ家にいれば、嫌でも思い知る。自分の力が足りなかった、と。
当の先輩とも殆ど話せていないようだし、劣等感のスパイラルに嵌まっている。バカのくせに頭使うから。
友達としては、どうにかしてやりたい。でも、正直俺じゃ大喜は救えない。大喜を救えるとしたら、それは千夏先輩だけだろう。いくら雛でもあれは手に余る、無理だ。しかし千夏先輩は、劣等感の元凶でもある。そこに向かい合うほどの度胸があのバカに備わらない限り、どうにもならない。堂々巡りだ。
何も出来ないまま、期末試験は迫ってきている。まったく、どうしたものか。
期末試験全日程、ようやくの終了。
我等男子バド部一同、西田先生の奢りでファミレスへ繰り出そうと言う話になった。……のだが。
「俺、パスするわ」
大喜は明らかに窶れた顔で、帰り支度を始めている。まさか夏風邪でも引いたんじゃないか、なにしろバカだし。
「ちょっと寝不足でさ。明日からまた、部活頑張らないといけないし」
そう言って背中を向けた大喜は、――やっぱり様子がおかしい。
まったく、世話が焼ける。
ファミレスに行く途中、忘れ物したフリして一旦離脱した俺。目指すは体育館、練習を延長しインターハイに備えている女バスの所だ。
インターハイまで二ヶ月を切った事もあって、その熱気は凄まじい。毎日九時過ぎまで練習を続け、更に自主トレも当然のようにやっているスゴい人たち。……努力の量なら大喜だって、ここ数ヵ月に限ったら負けてはいないだろう。ただ、総量では余りにも違いすぎる。競技は違えど、インターハイというのはこういう猛者のぶつかり合いなんだ。
――いや、気にしても仕方無い。
「すいません、鹿野先輩って今います?」
適当に理由をつけて、千夏先輩を呼んで貰う。丁度休憩中なのか、千夏先輩はすぐに来てくれた。
メールやLINEだと部活終わるまで見ないし、何より文面を残したくない。大喜はバカだけど勘は良いから。
「千夏先輩、今日って早めに上がれませんか。大喜のやつ、だいぶ調子悪いみたいなんです」
実際そこまでではないけれど、大袈裟に言う方がいい。大喜を心配して貰わないと。
千夏先輩は、聞き終えるなり真剣な顔で俯いてしまう。……バスケはチーム競技だから、自分一人が私用で抜けると言うわけにもいかないんだろう。でも、それでも。こうして悩んでくれるというのは、先輩にとって大喜の存在が大きいと言う事だろう。それが「家族」なのか「友人」なのか、それとももっと別のなにかなのか。それがきっと、二人の間を埋める肝になるんだけど。
「……大喜くん、最近ずっと思い詰めてて……。でも私、何も……」
千夏先輩の口から絞り出される声は、まるで泣き声のように掠れている。不味い、これは自己批判スパイラルに陥るパターンだ。そうなると救うどころか、纏めて共倒れになる。まったく、お似合いというか似た者同士というか。結構先輩もバカかもしれない。
「いや先輩が悪いとか、そういうのは無いですから。大喜はバカだから、きっと夏風邪拗らせてるんです多分」
まあ夏風邪くらいなら、と軽く思われちゃうと良くないんだけど。でもここはフォローしておかないと。いくらなんでも二人同時に面倒見切れるか。俺が過労死してしまう。
「――私、上がれないか頼んで来る。笠原くん、ありがとう」
駆け出した先輩の背中に手を振り、俺も走り出す。一応ファミレスに合流しておかないと、妙な勘繰りをされて面倒だ。ああ、色々と世話が焼けるったら無い。
あの二人がどうなるか、それは俺が考える事じゃないけど。
でも、願いはする。友達として。
「上手くいってくれると、良いんだけどな」
久しぶりにメガネです。