剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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アニメ3期のPV第二弾が公開されましたね!
エリス、カッケェ!
ニナと一緒に魔物退治とかしてるし、あんなん原作にあったっけ? もしやアニオリ!? それか私の記憶力がガバガバなだけ!?
という感じで、楽しく大混乱しながら久しぶりの投稿です!

時系列は剣の聖地での滞在後半。
ウチのアホのせいで一番割を食ってるエリスさんなので、せめて、それゆえの輝きだけでも足しておかねば……!(遅すぎる決意)


番外 妖精剣姫と狂犬

 甲龍歴425年。

 中央大陸、北方大地の最西端、剣の聖地。

 

 時刻は深夜。

 覇気あふれる剣豪達も、その殆どが眠りにつき、村は静寂に包まれていた。

 

「…………」

 

 そんな闇夜の中で、揺らめく影が一つ。

 剣神流門弟の道着を身に纏う、長身の人影。

 

 その瞳は、暗闇の中で爛々と輝き。

 餓えた野獣のような、あるいは、さまよう亡霊のような、危うい威圧を周囲に撒き散らしていた。

 

「すー…………はー…………」

 

 人影は、ほんの少しだけ立ち止まって、大きく深呼吸をする。

 そして、何かを思い出すように、ニマニマと、気色の悪い笑みを浮かべた。

 

 すると、撒き散らされていた威圧が、収まっていく。

 消えたのではない。隠したのだ。

 これから挑む相手には、そうしないと勝負にもならないから。

 

 結果、出来上がったのは、ニマニマと笑いながら、瞳だけを爛々と輝かせる、危ない人。

 ……そんな自分を客観視できたなら『彼女』はどう思っただろう。

 さすがに、これはないと我に返るだろうか。

 

 ──否。

 この戦術が有効であればそれで良いと、細かいことは気にしないだろう。

 それほどまでに、今の彼女は強くなることしか頭に無いのだから。

 

「…………」

 

 人影は歩く。

 目指すは剣の聖地の中枢、『剣神』の座す本道場の一室。

 最強の男が大イビキをかいている部屋……ではなく、とある客人に貸し与えられた小さな一室。

 そこの扉をソロソロと開け、気配を殺して標的の姿を探る。

 

「すー……すー……」

 

 目当ての人物は、布団の中で静かに寝息を立てていた。

 普段はひと纏めにしている長い金髪。

 それを下ろして、あどけない寝顔を晒す、外見年齢十代前半ほどの幼気な少女。

 

 しかし、見た目に騙されてはいけない。

 こいつの中身が、見た目とは真逆の極まった剣キチであることを、嫌というほど、よく知っている。

 

「…………」

 

 少女は、こちらに気づいていない。

 今までの状態では眠っていてもわかると断言していたし、実際そうだったのに、今は緩み切った寝顔を披露している。

 

 よって、この戦法は有効。

 ニマニマ笑いの効果を実感しながら、人影はおもむろに手にしていた木刀を振り上げ──無言のまま少女に振り下ろした。

 

「すぴー…………ふぁ!?」

「チッ!」

 

 少女は、木刀が直撃する寸前で飛び起き、剣撃を回避。

 さすが、何度挑んでも勝てない化け物。

 そうでなくては。

 

「またか! ありえる、しゃま!」

 

 寝ぼけてるのか、呂律の回ってない謎の台詞を叫びながら、少女は反撃に出た。

 枕元の剣ではなく、襲撃者に直接手を伸ばしての攻撃。

 

 拳すら握ることのない、掴みかかって動きを止めようという、拘束技。

 傷つけることなく終わらせたい、そんな温い意思を感じる。

 

 ──舐めるな。

 

「ガァアアアアアアアッッッ!!」

「うぇ!?」

 

 剣を振るう。

 実力差は弁えている。

 だからこそ、卑怯だとか不意打ちだとか、そういう後ろめたさや遠慮の一切を排した、全力全開の攻撃。

 

 剣神流の真骨頂、致命の速度と威力の乗った必殺剣『光の太刀』を振るう。

 積年の恨みを込めて、その可愛らしい顔面を粉砕するくらいのつもりで、剣を振るう!

 

「『(ナガレ)』!!」

「ッ……!」

 

 水神流の技で受け流された。

 寝ぼけてるくせに。剣も持ってないくせに。

 素手で繰り出した、普段よりキレの失われた動きで──こっちの渾身の一撃を当たり前のように防ぐ。

 

「痛ッ……!?」

 

 しかし、さすがに、この不意打ちを完璧には防ぎ切れなかったようで。

 少女は腕の痛みに顔をしかめ、その痛みで眠気が吹き飛んで、襲撃者の正体が想定していた人物ではないことに、ようやく気づいた。

 

「アリエル様じゃ、ない……? あ、エリスさんか」

「ガァアアアアアアアッッッ!!」

「ぬわっ!?」

 

 襲撃者──『狂犬』エリス・グレイラットの攻撃を、少女『妖精剣姫』エミリーが防ぐ。

 防ぎながら考える。

 なんで、どうして、こんなことになっているのか──

 

(ん? あれ? エリスさん、なんか昨日までと違う。動きが良い……いや、読みづらい? あ、ダダ漏れだった殺気が収まってるんだ。腕痛いし、思った以上に苦戦しそう……! ヒャッホウ! テンション上がってきた!)

 

 …………などという当然の疑問を抱くことなく、瞬時に予想外の強敵が現れたことに歓喜し始めた。

 エミリーが剣の聖地に滞在して、しばらく。

 濃厚なバトル空間の空気を吸い過ぎ、狂犬による夜討ち朝駆けに慣れた彼女は、もはや混乱という無駄を省いて、バトルをエンジョイできるまでに仕上がっていた。

 

「イイね……! エリスさん!!」

 

 バク宙で回避しながら距離を取り、枕元の愛剣バースデーを引き抜く。

 さっきは見事に気配を消した奇襲のせいで、日に日にベッドサイドでのスニーキングスキルを上げていった、とある最恐の刺客と間違えるという不覚を取ったが、もう目は覚めた。

 

 相手は剣士。

 遠慮する必要はない。

 エミリーの顔に、バトルジャンキーの笑みが浮かぶ。

 殺気を消す技術として笑っている女と、純粋にハイになって笑っている女が、夜の道場にて激突した。

 

「…………楽しそうにしてんじゃないわよ」

 

 胸の奥からせり上がってくる感情が、エリスの笑みを歪ませる。 

 奇襲のアドバンテージで体勢は崩れ、思った以上にダメージがあるのか、見るからに動きの悪い片腕。

 それでも、剣を持ったエミリーを、エリスは全く突き崩せない。

 

 エミリーの足が予測困難なステップを踏む。

 北神流『幻惑歩法』。

 これを使われるだけで、剣撃の狙いが定まらなくなる。

 

 最適の位置を外れ、対応可能な位置とタイミングに誘導された光の太刀を、あっさりと受け流される。

 水神流『流』。

 ただでさえ相性最悪の鉄壁の剣技が、もう泣きたいほど無情にエリスの流れを断つ。

 

 反撃の一太刀が、エリスの腹を強かに打ちつける。

 剣神流『無音の太刀』。

 光の太刀の下位に位置する技。

 両腕が万全じゃないからこそだろうが……殺さないように剣の刃ではなく腹を使われては、手加減にしか感じない。

 

「ッッッ……!!」

 

 歯噛みする。歯を食いしばる。

 まるで『北帝』オーベールを、『水王』イゾルテを、『剣王』ギレーヌを、そのレベルの達人達を一度に相手しているような感覚。

 

「アハハッ!」

 

 エミリーが笑っている。

 不殺の上とはいえ、奇襲を受けた結果とはいえ。

 まだ勝負がつかない戦いに、倒れない敵に、歓喜している。

 

 エリスはもう、こんな風には笑えない。

 圧倒的格上を知ってしまった。

 倒さなければならないのに、己の全てを懸けても届かないだろう高みを知ってしまった。

 強くなりたいのに、焦りばかりが積み重なって、笑ってなんていられない。

 

「──エリスさん」

「!?」

 

 気づけば、エミリーに顔を覗き込まれていた。

 剣撃を掻い潜って、キスしそうなくらい近くで、見つめられていた。

 

「集中、乱れてる。今は、私だけ、見て」

「ッッ!!!!!」

 

 イライラする。

 そのキラキラと輝く瞳が、鬱陶しくて仕方がないッッ!!

 

「うらぁぁぁッッ!!」

「痛ッ……!? そう……! それで、イイ……!」

 

 全力の頭突きを食らわせた。

 仰け反ったところに繰り出した剣が、エミリーの頬を掠めた。

 裂けた頬で笑う剣鬼に、勝つために頭を回す。

 

 ルーデウスとの幸せな記憶を思い出す。

 ニマニマとした気色の悪い笑みが浮かんでくる。

 

 生来の勝ち気で負けず嫌いな性格からくる殺気を、これで覆い隠す。

 殺気が隠れれば、エミリーの感知を一つ潰すことができる。

 それでも彼女には観察眼も魔眼も危機察知の本能もあるが、明確な弱点が一つ消えれば、確実に一歩、彼女に近づく。

 

「最、高……!」

「ガァアアアアアアアッッッ!!」

 

 剣を振るう。

 剣を交える。

 剣をぶつけ合う。

 

 深夜の決闘は激しさを増していき──そして、やがては決着の時を迎えた。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……!」

「お疲れ、様」

 

 剣を手放し、大の字で倒れ伏すのは、エリス。

 その上に跨り、拘束しながら首筋に剣を突きつけているのは、エミリー。

 

 結局、また勝てなかった。

 与えられた傷は、不意打ちを防ぎ損ねた腕のダメージと、あの自滅同然の頬の裂傷だけ。

 それすら治癒魔術によって既に跡形もない。エリスの完敗である。

 

「なんなのよ……! どうして、そんな強いのよ……!」

「…………」

 

 悔し涙が滲む。

 必死に堪えていたものが、少しだけあふれてしまう。

 言ってもどうしようもない言葉が、こぼれてしまう。

 

「身も、フタも、ないけど。多分、才能」

「……………………チッ」

 

 せめて誠実にとでも思っているのか、神に選ばれたような剣の申し子の口から出てきたのは、本当に身も蓋もない真実。

 

 残酷なまでの才能の差。

 今、エリスが必死に見つけようとしている殺気を消す技術だって、エミリーは当たり前のように習得している。

 エリスが一歩進む間に、エミリーは十歩は先に行く。

 ああ、本当に、腹立たしい。

 

「────あんたには、負けないわ」

 

 突きつけられた剣を払いながら、搾り出すように、そう強がる。

 

「いつか、ぶっ倒してやる」

 

 ふらつきながら立ち上がって、ふらふらと、幽鬼のような足取りで去りながら、捨て台詞を残す。

 

「そっか。──嬉しい」

 

 去りゆく狂犬の背中を見送りながら──エミリーは笑った。

 バトルジャンキーの笑顔ではなく、本当に嬉しそうに微笑んだ。

 

 前世でも、才能の差に苦しんで辞めていく剣士達は何人も見た。

 剣以外の才能は皆無とはいえ、その分のスキルポイントを全振りしたかのごとく剣の才覚に恵まれた彼女は、真の意味でその苦しみを知らない。

 

 決定的な挫折を味わった時。

 倒さなければいけないのに倒せない強敵が立ち塞がった時。

 楽しんでる場合じゃないほど追い詰められた時。

 

 叶うことなら、彼女(エリス)のように強くありたいと願った。

 

「……仲良くは、なれない、よね」

 

 それだけが少し残念だ。

 エリスはエミリーを嫌っているが、エミリーはエリスのことが嫌いではない。

 睨まれるのが苦手ではあるが、好きか嫌いかと言われたら、むしろ好きだ。

 尊敬しているとすら言っていい。

 

 だが、エミリーの好きなエリスは、この逆境にも牙を剥いて抗う強い女なわけで。

 喰らいつかれる側に立っている以上、どうあがいても仲良くはなれないわけで……。

 

 というか、それ以前にエリスには、グレイラット家問題というか、ルーデウス問題というドデカイ爆弾が眠っている。

 本当なら、姉のためにも姪っ子(天使)のためにも、頭を抱えて悩み倒さなければいけない状況。

 

 ゾクゾクしながら斬り合ってる場合じゃない。

 でも、楽しい……!

 難しいこと考えずに競っていたい……!

 

「頭が、おかしく、なる……!」

 

 治癒魔術でも治らない知恵熱にうなされながら、剣の申し子はひとまず、中断された睡眠をしっかりと取り直した。

 

 そして、起きた時には、難しいことが全部頭から抜けていた。

 

 こうして、全ては先送りにされ、剣の聖地での滞在がズルズルと長引いていく……。




アニメ3期、本当に楽しみ……!
楽しみ過ぎて、久しぶりに半日足らずで四千字強が書けた。
良い息抜きになった。ありがとう。
次はニナさんやイゾルテさんをアニメで見て、三人娘との絡みが書きたい……!(切実)



・エリスさん
原作でもめっちゃ頑張ってたけど、こっちでは更に頑張ってる。
頑張る奴が一番カッコイイ。
つまり、エリスさんが一番カッコイイ!


・エミリー
実は内心、エリスを苦手に思いながらも、それ以上に好きだったりする。
未来の戦いで絶望した時、あるいは日記のIFルートとかでは、頻繁にこの頃のエリスさんが脳裏に蘇ってると思う。
色々と歯車が狂ってたら、初恋の可能性すらあったかも。


・最恐の刺客
もはや説明不要。
エリスさんが人妻じゃなかったら、この人にとって最強のライバルになってた可能性が……。
……いや、この人の場合、エミリーやシルフィ含めて、全員纏めて美味しくいただいてしまいかねない。恐ろしい。


・某三世
……話題にも出なかった。
ごめんよ。作者が予想外にアリエル様推しになっちゃったのが悪いんだ……。
未来編では最恐も寿命死してるから、そっちで頑張ってくれ。
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