舞台は原作場面へ。
人知れず動き出した彼等に
待ち受ける運命はいかに…!
15.神隠し(挿絵有り)
【前章までのあらすじ】
10月1日に突如前世を思い出したスレ主。そして彼の掘っ立てた
▼10月3日(水)午後 鯉ノ口渓谷付近の山中
コテハン集会が行われる前、
「山じい、これから俺達は
「うむ、それは理解したくなかったが概ね把握した。だが前提としてその呪霊と人の間の子は本当に存在するのか?晴彦の言っていた話がにわかに信じがたい。あとその報酬、承諾した」
パチリと火花が宙を舞う中、フレンズと山じいは焚き火へ放り込んでいたサツマイモを取り出しながら話し合う。アルミホイルに包まれたそれはほくほくに焼かれ、香ばしく甘い匂いが辺りへ広まる。フレンズが焦げ目の付いた焼き芋を2つに割ると黄金へ輝く中身が見えた。片方を渡された山じいはごくりと息を飲み、それにかぶりつく。
平安時代では食べたこともなかったしっとりとした食感にほろほろと解けていくような甘さ。なんと美味なことか。山じいはフレンズと出会ってから現代の食材に感動を覚えていた。
「一人なら俺自身信じなかったと思う。でも実際に同様の知識を持っている者達が不特定多数存在しているから否定はできない。勿論集団幻覚かもしれないけど、それにしては妙に知識が偏っている。そして呪霊と術式、更には分家の存在であまりにもこの前世由来の知識と現状がリンクし過ぎてるんだよね。今まで知らなかった事実を此処まで妄想するかと言われたら俺はないかなって」
「成る程。しかしな、晴彦が使っているその四角い箱。それでその前世を持つと言う人間達と連絡を取り合っているとは言え、顔すら合わせたことのないもの達であろう。何故それらを信用する?わしと主のように縛りを結んでない。危険を冒すには曖昧過ぎる関係性だ」
「逆だよ逆。曖昧な関係性、匿名だからこそ何でも話せる。現実世界だとあまり理解者がいない事多々あるんだよね。そして異端は除け者だ。でもこの箱、インターネットと言うもうひとつの世界はありとあらゆる場所に存在し、これまたありとあらゆる人が活用している。顔を合わせたことのない関係は今では当たり前なんだよ。まぁ、山じいが言った通り危険も多い関係性だ。簡単に裏切ることや消えることが出来る」
少しフレンズの昔話をしよう。フレンズは幼い頃から変わった少年だった。普段から片手に図鑑を装備し、休みの日は料理の研究をすると言う日常生活を送っていたのだ。しかし周りの子供達はそんな彼の熱意を怖がり仲間外れにしたこともよくあった。
そして周囲と話が合わない事からインターネットを使用するようになった。そこでフレンズは遠い国の人へレシピを贈ったことがある。当時の彼にとって最高傑作の代物だ。その異国の人はレシピを見るとこれは凄い、君は素晴らしいものを考えたと喜び褒めてくれた。何より嬉しかったのはフレンズがこだわった細部まで読み解いてくれたことだ。
始めて自分と同じ領域にいる生物と話しているような感覚。フレンズはこの時漸く世界に認められたような気がしたのだ。こんな自分を受け入れてくれる場所や仲間は確かにあった。勿論、虚偽や虚構も多々あるだろう。だが、インターネットの繋がりは決して嘘偽りだけでない。此処だからこそ繋がれた世界があり、此処だからこそ生まれた未来がある。
「結論から言えば、やってみないと分からないって事。前へ進みたいなら積極的に動かないと機会は中々訪れない。使えるものは何でも使うべきだ。それを実感したからこそ俺は危険を承知で飛び込むことにした。何たってその方が面白いし」
「くっ、かか!その思考、無謀な愚か者である。だが傍観者より余程愉快極まりない!主の生き方実に潔いな。一先ず記憶の是非は良いだろう。この作戦引き受けようぞ」
こくりと山じいは頷いた。この時点でかなりの無茶振りを吹っ掛けられている。しかし数時間後、龍を筆頭にフレンズの愉快な仲間達から更なる無茶振りが追加されるとは思いもしていなかっただろう。のちに山じいは彼らの事を"伊達や酔狂ではないとは言え狂気の沙汰"と真剣な声で語った。
「そりゃ良かった。あとさっきの報酬、うちの知り合いに旨い懐石料理を出す旅館があるんだ。ちなみにこれがその写真。気に入ると思うよ」
「ぬぅ!これまた良き趣あるものを出しよってから…無論、温泉付きか?」
「勿論、源泉掛け流し」
フレンズと山じい、人間と呪霊。縛りを通しての主従制約があるとはいえ此処まで意気投合することは度重なる奇跡によって成されている。ふとフレンズはこれらが本当にただ奇跡なのか疑問が浮かんだ。
スレ主から始まった一連の出来事は全て偶然の産物なのだろうか。それとも"何か"によって織り成された必然か。熟考しようが今の段階では埒が明かない。フレンズはこの思考を振り払った。
そこへ3個目の焼き芋を食べ終えた山じいが話し掛ける。
「しかし、主らは誠に珍妙な人間よな。真否は定かではないが乗りかかった船だ。わしの興味が尽きるまでは付き合ってやろう。さて、残りの焼き芋も食べて良いか?」
「おう、改めてよろしく。次の芋にはこのバターを付けると良いよ。更に美味しくなる」
「それを早く言わぬか…!」
何はともあれ、この奇跡に感謝を。今この瞬間を後悔せぬよう最善を尽くそう。フレンズは密かに心で呟いた。
▼10月5日(金) 某スレにて
241:何処かのエンジニアさん
あははは!!!!こりゃ良いもん出来るぜ
242:何処かのデザイナーさん
うっひょ~!!!!!たのち~!!!
243:何処かの名無しさん
狂ってやがる
244:何処かの名無しさん
アプリ開発チームのテンション既にヤバい
245:何処かの名無しさん
何か情報まとめアプリかつ
新しいSNS的な要素があるらしいな
246:何処かの名無しさん
マジか…つまり新規の
コミュニティーってこと?
247:何処かのエンジニアさん
そんな感じになる…多分。
今日の呪霊目撃情報トピックとか
呪霊とあった時の対応策もいれようかなと。
目撃情報を地図上に表示できたりアプリを通して伝達網を構築できたり色々やってる
248:何処かの名無しさん
呪術用SNS!?と言うかアプリ制作班精鋭すぎる…!歴戦の猛者かな?
249:何処かの名無しさん
そのアプリ渋谷事変終わった後、呪術界隈に売り込もうぜ。運営費ぶん取ろう!時代はデジタル化。書類上のやり取りより高速で動けるインターネットだわ。特に人命がかかっている呪術絡みの緊急案件は迅速な対応が求められてる筈や!
250:何処かの名無しさん
それもう制作班で起業じゃん
251:何処かの名無しさん
確か呪術高専は国がお金出してるんだったよね。つまり呪術界隈は政府公認、そこへ仮にアプリが導入されたら公式アプリ(?)になるのでは
252:何処かの名無しさん
それ国家プロジェクトの域だわ…
いや、そもそも渋谷事変攻略は
規模で言えば国の存続懸けてるから同じか
253:何処かの名無しさん
全国で呪霊見えちゃってる系な人達が気軽に相談できる窓口としても存在できたら良いよね。
私、実は前世関係無く幼い頃から呪霊が見えてたけどこうして仲間がいるとほんと心強いよ。まぁ今はその機能無くても大丈夫だし作成班さん達が過労で倒れるから現時点で必要最低限の機能があれば良いと思う。
254:何処かのエンジニアさん
我々は夢を創ってるんだな
255:何処かのデザイナーさん
すげぇ社会貢献!?尚更力入る
256:何処かのエンジニアさん
てかクラファン数十万円集まってはわわ
257:何処かのスレ主さん
俺もはわわしてる!!どうしよ!?
258:何処かの名無しさん
>>257
スレ主がアプリの要だぞ。術式拡張のために
最強の自分をイメージしてけ!
259:何処かの名無しさん
俺達は俺達で引き続き情報収集だな
事前に出来ることは可能な限りしていこう
260:何処かの名無しさん
避難ルートや籠城できる箇所とか確認しときたくない?改造人間や呪詛師、呪霊からの被害をなるべく抑えたい。
261:何処かの名無しさん
何か革命前夜みたいだな
262:何処かの名無しさん
>>261
ある意味当たってると思う
渋谷事変後の世界大きく変わるかも
特に呪術界隈はめちゃくちゃじゃね?
263:何処かの名無しさん
今まで隠していたものが公になるかもしれないってことだよね。これからの現代社会はSNSがどんどん発達していって呪霊っていう見えざる脅威を隠し通すのが難しくなってきてる筈。隠蔽してきたことへ誰もが世界中に疑問として発信できるんだ。既にそう言った疑問を検索したらかなりの件数ヒットするよ
264:何処かの名無しさん
プロパガンダや情報規制をしているんだろうけど、世間の発信能力が上回って来るだろうな。何時の時代もそう言う抜け道を掻い潜って来た奴ら居るし。科学や技術の発展が呪術の存在を解き明かす時が来るかも…?
265:何処かのエンジニアさん
もしかしてそれの先駆者、私達的な感じ?
266:何処かの名無しさん
かもしれない…知らんけど
267:何処かの名無しさん
科学と呪術の融合!浪漫の塊やな
268:何処かの名無しさん
>>267
これメカ丸やんけ!
269:何処かの名無しさん
>>268
…確かに!メカ丸はパイオニアだった!?
270:何処かの名無しさん
メカ丸パイセンの力を御借りしたら
更なる科学と呪術の技術革命起こるのでは
271:何処かの名無しさん
つまり…?
272:何処かのスレ主さん
何か凄いことが起こる…ってコト!?
273:何処かの名無しさん
>>272
もっと考えろ
274:何処かの名無しさん
渋谷事変後の世界か~
275:何処かの名無しさん
漫画とかアニメでよくあるヒーローが救ってめでたしめでたし…なんてもんは現実だと難しいからねぇ。問題山積みだろうよ…!
▼10月5日(金)午後 分家宅
コテハン集会の後、分家を含むコテハン達はどうにか渋谷事変までの約1ヶ月間を家族、知人、学校や仕事等から邪魔されないようにしなければならなかった。そうは言っても急に学校や仕事を休んだり辞めたり出来ないので各々どうにか対応するしかない。
吸血鬼宅から帰ってきた後、分家は学校を休む為にやむを得ず家の者へ呪術高専に行くと言う意思を話した。元々は呪術高専ではなく普通の高校へ通う計画をしていたのだ。しかし、今の現状では残念ながら厳しいと判断した。ならば呪術師へなると宣言し、その為の特訓だとでも言って自由時間を取った方が余程建設的だろう。話し合いは無事終わり、呪術師になって欲しいと願っていた家の者はそれを承諾した。
現在、分家は屋敷の一角にある自室でイヤホンを着けながらスーツケースへ荷造りをしている。コテハン集会で話していた合宿の準備中だ。ちなみに合宿では術式を分析できる"眼"とこれまで培ってきた呪術の知識を買われ先生役をすることになっている。
そして彼の背後には半透明の五条袈裟を着た男が壁へ寄り掛かっていた。勿論その男は夏油傑の事だ。あの同盟をしてから分家と夏油は大体何時も一緒の空間にいる。理由としては対渋谷事変の協力関係であるため。また
『五条覚君』
「その呼び方、寒気がする。呼び捨てで良い」
話しは合宿の件に戻る。呪術の先生役は分家以外にも二人。一人は特級呪霊の烏天狗こと山じい。山じいと雇用契約を結んでいるフレンズによると先生役を前向きに検討してくれているらしい。今まで呪霊と殺し合いをしてきた分家はそれを聞いてなんとも言えない気持ちになった。もう一人の先生役である夏油はその術式も相まってもっと複雑な気持ちだろう。故に不満が出てくるのも無理はない。
『そう、じゃあ覚。君は本当に呪霊と人間が分かり合えると思っているかい』
「基本的に
『思ってないのに後押ししたんだ。薄情だね』
「確かに思ってない。だが理性で本能を抑えられる例外は存在する可能性があると思う」
『あの天狗が?』
「それもあるが
分家は誰がこの会話を聴いても良いように言葉を変えつつ話をしている。耳に着けているイヤホンもカモフラージュのためだ。仮に問い詰められても知り合いとゲームや漫画の話をしていたのだと言い訳出来るようにしている。
それにしても夏油は分家の予想以上にお喋りだった。割りと頻繁に話し掛けてくる。元々の性格か、もしくは約一年間誰にも認識されず孤独にぼっち生活を送ってきた反動かもしれない。
分家はそれもあって日常生活へサングラスと共にイヤホンも欠かせなくなった。絵面が大変悪い。
『…気になっていたけど、君達が言う前世の世界はどんなものだった?』
「知らない方が良いこともあるだろう。そんなものを知ってどうするんだ」
『どうもしないさ。私はもとより死んだ身。どうこうすることは出来ないよ』
分家の言葉に諦観を感じる微笑みで答えた夏油。それを尻目に違う世界を知れば辛くなるのは夏油自身だろうと分家は考えていた。隣の芝生は何時だって青く見えるものだ。
「何も出来ないなら余計知らない方が良いだろ。巧く成仏出来なくなっても知らないからな」
『はは、何を今更な事を…私のような人間が綺麗に成仏できる訳ないだろ』
分家に夏油の心情ははっきりとはわからない。でも生前の行動を顧みれば自ずと察せるものがある。だからと言ってどうしようもないのがこの世界だ。平気な顔をする裏で苦しんでいる奴なんて大勢存在する。夏油だってその一人に過ぎない。
「自虐的だな。じゃあ話すが、前提として彼処に超能力と言うものは明確に存在しない。此方で言う
『…へぇ、呪霊が居ない世界か。とても良い世界だ。その世界で"私達"は物語だったらしいね。つまり君達にとって此処は決まり切った運命を辿る娯楽と言う訳か』
「そうだな、物語だった。娯楽と言われればそうとしか言えない。批判は甘んじて受け入れよう。だが俺が考えるに
分家はそこまで言って、とある違和感に気が付く。今此処で確認が取れている転生者達の知識や記憶が2021年の10月頃で止まっているのだ。つまり多くの者がその時期に死亡し、此方へ来たことになる。
節目にある10月と言う存在。死んだ時期、記憶を思い出した時期、そして渋谷事変と言うこの世界での転換期。此処まで来ると因果関係を疑わざるを得ない。
何故この世界に分家達は存在しているのだろうか。何故このタイミングで連鎖的に記憶を思い出したのか。何故心許ないとは言え対抗するための力を持ち合わせているのか。
分家達が動くことで誰が得をするのだろう。分家達転生者の目的は渋谷事変の終息及び、その原因である羂索の討伐。ならば羂索を敵対視している何らかの存在にでも呼ばれたのか?いや、そんなものが居ればもっと早くに接触してきても可笑しくない筈だ。
思考に陥りかけた頭へ冷めた声が響いた。分家は即座に思考を切り替える。
『改めて聞くと気味が悪い話だ。私達の過去も知られているのだろう?』
「知っている過去なんて末端の末端だけと思うし記憶通りだとも考えてない。それに俺達はあんたらの日常を知らない。あんたらの大切な思い出もな。仮に読み物だろうが此処で生きている事実は変わらん。誰もが此処で血を通わせて生活している。残念ながらあんたは過去形だが」
『皮肉好きかい?嫌われるよ』
「あんたもな」
分家自身、お前の人生は物語だと言われれば気持ちが悪いと思うだろう。此処にいるものは皆生きている。それを実感しているからこその発言。それに向こうの世界はもはや過去の出来事であり此方から観測するのは困難だ。これ以上彼方の話をしていてもお互いにそこまでメリットはない。
分家は話題を変える為、違和感について気になっていた質問を投げ掛けた。
「ひとつ聞いて良いか。時空間に影響を与える事は偶発的、または故意的に可能?」
『良いけど、急な質問だね。呪力の事なら場合によって可能だ。稀な現象だが限定的な領域で時空間への歪みが生まれる事がある。でも故意的に呪力を作用させるのは至難の業だよ』
「さっきの話題を続けても特段良いこと無いからな。ご教授どうも」
『そこ正直に言っちゃうんだ。それで何か分かったことでも?』
「いや、何も。それに今は関係ない事だ」
正確な事は何もわからない。ただ、分家は幾つかの仮説を立てた。おそらくまだ議題に上げるべきものではないだろう。今は個々の能力を底上げし、それに対応した策を講じるのが先である。
それにしても分家達へ協力的な姿勢になった夏油の真意を読み取れなかった。分家はこの内情が分からない男と今後も私生活を共にしなければならない。分家は渋谷事変開催前にストレスで己が倒れないか心配になってきた。
一方、夏油は思案している分家の姿を見て何だか可笑しな気分になっていた。それもそのはず、分家の姿は五条の2Pカラー。真面目に受け答えする五条とは大変面白いものである。
『君ってさ、悟に見た目は似てるけどまるで別人だ。重要な事は言葉にしないタイプかな。私の様に二の足を踏むよ』
「あっそ」
『ふふ、今のは似てた』
「懐かしむのは良いけどちゃんと働けよ」
『私も今の状況は本意じゃないし希望通りに働くさ。でもまさか呪霊やさる…おっとそう睨むなよ。非術師とも協力するとはね。君達にとって私は大量殺人犯だと思うけど良かったのかい?』
夏油は己が死ねば必ず地獄へ堕ちるだろうと確信していた。後へ引き返さないように両親を殺し、多くの非術師を虐殺。過去の自分からすれば弱きを淘汰する大罪人だろう。決して許されることではない。しかし地獄にも行けず、現世に留まってしまうとは思わなかった。更には死者である己を受け入れ、同盟を結ぼう等と言う者が現れるのも予想外。死んでから新たな可能性が溢れているなんて世界は残酷極まりない。
もうその世界に夏油傑は居ない。だと言うのにどうして希望が目の前へ現れるのか。
分家は何ともないような顔で夏油に背を向けた。そしてスーツケースへ蜂蜜紅茶を大切そうに詰めながら話す。
「善悪の話なら切りないぞ。人殺しも大多数にとって正しいと認識されれば正当化されてしまう。誰が正義とか何が悪だとかそんなもの主観にすぎない。ある程度の倫理観があったとしても結局は生き残ったもん勝ちだろ。その為にあんたを利用するだけ。お互い様って奴。俺は俺の日常を守る事ができれば良い。あとは何時も通り行き付けの喫茶にでも行って紅茶を嗜めればそれで満足。俺は今の世界も好きなんだよ」
もっと早くに出会っていれば何か変わっていたのだろうか。あの時…いや、こんな考えをするなんて全てを否定することになる。夏油にとって此処が今まで生きてきた世界なのだ。後は夏油の大切なもの達が幸せになれるよう動くだけ。今の夏油の存在意義はそれだけで良い。
『…今時の中学生はそんなことを考えてるのか。ずいぶんと達観しているね』
「二度目だからな。合計すれば此方が上だ」
『えー、なら敬語使おうか』
「それはやめろ。絶妙に腹立つ」
それと死んでから一頻り想うことがある。それは誰かと対等に話すのはとても楽しいと言うことだった。
▼10月6日(土)午後 鯉ノ口渓谷付近の山中
数日間の野営を経て、遂にその時が来た。
山じいが連絡用にと懐柔していた渓谷周辺へ生息する烏達から報せを受けたのだ。フレンズ達は急いで野営設備を片すと道路沿いへ向かう。
「思ってたより派手にドンパチしてる」
「ぬぅ、あれが呪霊と人間の間の子。なんとも奇妙な存在だ」
「インパクトめちゃくちゃあるね。是非ともウェイターになってもらいたい。間違いなく!絶対!面白い!」
フレンズは木々の隙間から双眼鏡を使い戦闘を覗き込む。例の原作場面、丁度虎杖達が壊相らと戦うその辺りだ。ちなみに山じいは双眼鏡無しで眺めていた。老眼とは無縁の存在らしい。
「そして彼処に居るのがあの宿儺の器か」
「みたいだね。山じいは直接対面した事はないらしいけど、宿儺の力とか感じたりする?」
山じいは先程よりも目を細め険しい顔付きになる。警戒心からか羽毛も逆立っているようだ。それほどまでにおぞましい何かを感じるのかとフレンズは虎杖へ注視する。しかしフレンズには何も感じ取る事は出来なかった。
「強力な悪意の気配が居るわい。昔、坊主から聞き及んで居たが…成る程、これがかの有名な宿儺か。其処らの悪鬼と比べ物にならんな。しかし此処まで晴彦の記憶通りとはのう。本当にその様な術式を持っておらんのが未だに信じられん」
「俺からしたら山じい達の存在が信じられないくらいだよ。でもこうして現実にあり得ないが散々起きてるんだからホント面白い。だからもっと探求しないと損だ。こりゃまだ見ぬ価値がたくさん眠ってるぞ。さて、機会は一度きり。瀕死になった二人を山じいが神隠しする。どうかな、いけそう?」
「…ふむ、可能だ。予定通り裏山で落ち合うことにしよう」
「じゃ、後程」
フレンズは山中へ潜むように入っていく。反対に山じいは"漆黒の翼"を広げ天に駆け昇った。その身体は暗闇へ溶け込んでいく。さて、これから天狗の仕業作戦開始である。
▼同日同時刻 鯉ノ口渓谷 八十八橋付近の道路
虎杖と釘崎は特級相当の呪霊と会敵していた。本来であれば橋下の呪霊を伏黒も含めた3人で祓う予定だったのだが、突如二体の呪霊が乱入してきたのだ。伏黒はその場に残り、虎杖達は乱入者とそのまま戦う事になったのである。
橋下から場所を変えつつ戦っていく最中、呪霊の術式が判明した。その呪霊達はどうやら強力な分解の術式を持っているようだ。普通なら有毒の効果を持つそれに、そのままなすすべなく殺されていたかも知れない。しかし毒に強い耐性を持つフィジカル特化の虎杖と芻霊呪法が使える釘崎は両者共にその呪霊達と相性が抜群に良かったのだ。
虎杖と釘崎は互いの場所を入れ替わり各々先程とは異なる呪霊と相対していた。より相手と相性の良い同士で一気にけりを付けるつもりだ。そして相手を揺さぶり分解の術式を解かせる事にも成功。あとは思う存分呪いを祓うだけである。
極限の状況下での命を懸けた戦い。そのやり取りの刹那、研ぎ澄まされた意識によって黒い花火が飛び散る。2人の黒閃は相手の命を瀬戸際まで追い詰めていた。
そのまま止めを刺そうとした時、一陣の風が戦場を囲む。そして瞬く間に彼等の間合いへ一体の"純白の烏天狗"が姿を現した。
「あ"?んだこの烏みてぇなのは。こんな奴も居るなんて聞いてないわよ」
「このタイミングでまた別件!?」
虎杖と釘崎は突然現れた呪霊に警戒を強める。これまで彼等は二体の呪霊へ何とか優位に立てていた。しかしそこにイレギュラーな存在が出てくるとなれば話が変わる。負傷した2人で果たして倒せる相手なのだろうか。否、倒さねばならない。
烏天狗は空中に留まったまま人間の姿に近い呪霊の方を指差した。
「そこの無様に片腕が捥げた呪霊。汝がこの地へ毒を撒いたな」
「…っ!いきなり酷い言い様を」
「術式の痕跡が見える。見窄らしく転がるその呪霊もだ。やはり汝らの仕業で間違いない」
「先程から何を言っている」
「汝等は我が気に入った土地を汚した。見よ、この地へ毒が滲み草花が枯れ果てた姿を。この大罪どうしてくれようか」
このまま混戦状態へ縺れるかと思いきや烏天狗の呪霊は二体の呪霊に対して怒っている様だった。まるで虎杖と釘崎に興味が無い。その点も気になるが、問題は烏天狗の呪霊が流暢に言葉を話す知能を持つこと。つまり、そんじょそこらの呪霊とは一線を画す。特級相当の可能性が高い。
「アレ、もしかして呪霊同士で喧嘩してる感じか。それにあの烏の呪霊ってかなりヤバい?」
「私にもそう見えるわ。チッ、次から次へとめんどくせぇな。虎杖、警戒を緩めんじゃないわよ」
「おう…!」
虎杖達の表情へ冷や汗が落ちた。極めて不味い状況だ。先手を取られないように烏天狗の呪霊の一挙一動を注視する。それでも烏天狗の呪霊は此方に目線すら向けない。
「それで私達に何か?」
「分からんのか。ならば簡潔に話してやろう」
烏天狗の呪霊はゆっくりと地へ降り立つ。それと同時にとてつもない威圧感。虎杖達もそして二体の呪霊もその凄まじい呪力に圧倒され狼狽える。
それはこの場にいる全員が烏天狗の呪霊を明確な脅威だと認識した瞬間だった。
虎杖は火山の呪霊と相対した時の事を思い出す。これは駄目だ。この烏天狗の呪霊は生物としての格が異なる。圧倒的力の格差。だが体が動くより先に烏天狗の呪霊が場を制する。
「早う去ね」
呪詛と共に呪いの暴風が吹き荒れた。
次回、場を引っ掻き回す純白の烏天狗…!
─────────────────────────
「皆さん我々のスレへようこそ、
私は吸血鬼現状を纏めるおじさん」
「吸血鬼現状を纏めるおじさん!?」
「では今回の登場人物を纏めますよ」
○今回の登場人物
・フレンズ─本名:
今回の作戦発案兼実行人。大衆の思考回路と感覚が異なり、色々な意味で異端を認めるやべぇ奴。
・山じい
作戦実行の重要呪霊。人間全体を殺意の対象として見ていたが、フレンズやコテハン組と言う存在を通して人間面白いかもと楽しくなってきた。
・分家─本名:五条
夏油によってプライベートが死滅した。お気に入りの喫茶で買った蜂蜜紅茶でストレスを相殺している。
・夏油傑(幽霊の姿)
約一年ぶりに話し相手が出来たのでお喋りが止まらない。死んである意味解放されたかも。
・虎杖悠仁(+宿儺)&釘崎野薔薇
突然現れた純白の呪霊へ警戒を強めている。
宿儺は何をしてるか不明。
・伏黒恵
橋下の呪霊と戦闘後、気絶中。
・壊相&血塗
虎杖達と戦闘した二体の呪霊。壊相は片腕が取れ、血塗は瀕死。そんな状態で突然純白の呪霊に喧嘩を吹っ掛けられた。
・スレ民達
科学と呪術の可能性について語っていた。呪術サイドに染まっていないからこその発想。彼等が時代の最先端になるかもしれない。それと渋谷事変で生き残れるかは別。