キン肉マン世界古代転生   作:ウボァー

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立ち上がれスーパーヒーロー! の巻

 魔を屠る銀の弾丸だが、その一撃でサマルを倒すまでには至らなかった。膝をつくことなく相手を睨みつける。

 ……が、ふらつきと頭からの流血が痛々しい。並の超人であれば肉も骨もまとめて吹き飛ばされる攻撃を真正面から受けたのだ。いかに始祖といえど無事では済まない。

 

 意識は保っているが、試合の流れは完全にザ・ワンへと傾いてしまったのは誰が見ても明らかであった。

 

「ああっ!」

 

 思わず漏れ出た悲鳴の主は誰かはわからなかったが、その試合を見る者全員の心の声を代弁していた。

 

 ――バベルの塔の頂上へと集められた超人達は唐突に始まったエキシビジョンマッチの映像を見せられていた。

 相手は調和の神、ザ・ワン。先に戦ったバッファローマンはどうなったのか、どうして始祖のあの人が戦うことになったのか。画面に向けていくら疑問を叫ぼうとも声は届かず、試合は進んでいく。

 

 不安要素は多い。

 しかし、火事場のクソ力を使えるのならばきっと奇跡の逆転劇を見せてくれるはずだと皆が信じている。

 

 

 ……そんな期待だが、他ならぬサマル自身が知ったならば間違いなく否定しただろう。

 

 

 第三段階目の火事場のクソ力によりロンズデーライトパワーを発揮した悪魔将軍で、やっと師匠越えは成し遂げられた。

 ここにいる調和の神ザ・ワンは慈悲の神ザ・マンと同格の相手。これまでまともに鍛錬してこなかったサマルが付け焼き刃の力で勝てるはずがない。

 

「ハァッ、ハァッ――」

 

 荒い呼吸と頭部への痛み。……辛いはずなのに、どこか懐かしくもある。

 思い出すのはガンマンとの邂逅、突然始まった生死を賭けた戦いのこと。あの時はどうやり過ごそうかと逃げ腰だった上、戦う覚悟を持っていなかった。

 

 今は違う。何があろうと引けない理由がある。

 故に膝はつかず、倒れず、戦うべき相手を見据える。

 

 長く息を吐き呼吸を整える。体外に流れ出た血はそのうち凝固するため出血は止まるが、力負けはどうしようもない。

 

 悲しいかな、現在使っている火事場のクソ力では対抗できない。更に上の段階を使おうにも、ザ・ワンの一撃を受けて消耗した体力では、発揮させるだけの溜め時間が作れない。

 この身に吸収させた大魔王の力を早速消費するしかないのか。そう思案する視線の先に……リングロープの向こう側に、見覚えのある顔が笑っていた。

 

 

 

『――シャババ、全く仕方のないやつだ』

 

 

 

 バッファローマンの目にもヘラジカの角を持ち嘘を嫌う男の姿が見えた。

 幻覚を疑い思わず目をこする。

 

「今、のは」

 

 再び目を開いた時、その姿は消えていた。

 死んだはずの男が見えたのは気のせいか? いや、そんなはずはない。

 

 ――なぜなら、サマルの操る光が、友情の磁気波がその輝きを増しているのだから。

 

 突然に予期せぬパワーアップをしたサマルは思考していた。……何故、力を貸してくれるのが彼なのだろう。

 

 彼との仲は初対面の最悪から、まあ、そこそこ改善できてはいたがそれでも嫌われていた。

 封印から解放されてやっぱり殺しておけば、なんて感想を言われるくらいには。いやあの時は味方するのが完璧超人側ではなかったのもあったけども。

 

 さっき見えた表情は俺しかいないのかしょうがねえなしぶしぶイヤイヤではなく、満を持して登場! みたいな余裕があった。どんな変化があれば、ああも真っ直ぐに生きていた男が人が変わったような顔になるのだろう。

 

「どうして…………いや、そうか」

 

 彼と戦い勝利したバッファローマンを見て思考する。

 

 個人では成し遂げられなかった師匠越え、それと同等の敵を相手にしたい――死者となっているため叶わぬ願いだが、火事場のクソ力は死者の力も借りることができる。

 なら、ザ・ワンと戦っているサマルへ始祖一人がまるっと力を渡せば、実質本人が相手をしていることになるのではなかろうか。

 

 トンデモ理論が混ざった仮定だが……うん。やる。あいつらは可能性があるなら間違いなくやる。

 超人閻魔がザ・マンに戻った今、この世を去った始祖達はしがらみから解き放たれている。未来を託せる相手を見つけた上に自由を得たらそりゃこうもなるかぁ。サマルは一人納得する。

 

 ここにいる中で一番サマルに近く、また始祖と戦った経験があるバッファローマンを触媒にして参戦した結果……ガンマンが力を貸した。そんなところだろう。

 

 いくら火事場のクソ力だとしても、力が使えるのは永遠ではない。

 短期決戦、あと数分へ全てを注ぎ込む!

 

「いくぞォッ!!」

 

 超人強度の低さを活かした加速ではなく、脚を力強く押し出す重さの伴う加速。一歩ごとにリングが揺れる。

 

「ゴァアアーーッ!!」

 

『シャババーーッ!!』

 

 真実を絶対とした彼の生き写しのような咆哮と共に突っ込んでいく。

 様々な強化を施してようやく戦場に立てていた先程までとは全く異なり、無双の剛力が宿った攻撃を繰り出す。

 

「ぬうっ……!」

 

 風を切って迫る拳はザ・ワンに防御を選ばせた。

 突然の変貌だが9999万パワーを凌駕したわけではない。神の優勢を崩すにはまだ遠い。

 

「調子に乗るな!」

 

 追加の直線の攻撃をしてくる拳を掴み動きを止めようとしたが、サマルは技ではなく力で振り解き、眼でしっかりと見て追撃を見切った。

 背を逸らし回避のバク転。オマケの爪先がザ・ワンの顎にヒットする。

 

「グオッ」

 

 そのまま二、三回ほど追加のバク転をし距離を稼ぐ。

 誘ったのはサマルの方からだった。頭を下げ、頭部のツノを相手に向ける。

 

「ほう……いいだろう」

 

 その意味がわからぬザ・ワンではない。

 互いに前傾姿勢になる。ぎらりと鈍く光る聖なる杖は不敬な輩を貫くべく研ぎ澄まされる。

 

「ホーリーロッド・アクセル!」

 

「ブランチアントラーゲイル!」

 

 突進。ザ・ワンの兜とサマルのツノの衝突。

 

「フンーーーーッ!!」

 

 材質の違いから即座に粉砕されるかと思われたサマルのツノだが、枝のしなりを活かし正面からの力を逃して耐えている。

 しかし、いくら耐えられていてもサマルが生やしているのは戦闘用のツノではない。ザ・ワンが上半身を振り上げてサマルを空中に放り投げた。

 サマルは体勢を戻そうとしたが、相手に背を向けた状態で地に手を突いた中途半端な姿勢で着地することとなった。

 

 追撃のためザ・ワンが猛進してくるが、サマルは立ち上がることなく顔のみを後ろに向けて距離を測っていた。

 

「まだだっ!」

 

 友の魂が傷ついた男を強くする。

 

 体を手だけで支え下半身を浮かせ、両足を後ろに蹴り上げる――カンガルーキックを放ちザ・ワンをロープへと吹っ飛ばす。

 

 飛んだ相手を追うようにサマルは立ち上がって駆ける。ロープの反動で戻ってきた相手のみぞおち目掛けカウンターの膝蹴りを、キッチンシンクを叩きこむ。

 

 流石に連続した衝撃には耐えきれず、ザ・ワンの体がくの字に曲がる。下がった頭を掴み、キッチンシンクの勢いが無くなる前ぐるりと回転し背後に回り、後ろ向きに倒れマットへと押し倒す。DDTだ。

 

「K・K・Dコンビネーション!」

 

『なんと鮮やかな技の繋ぎ! これぞ火事場のクソ力を使う始祖の逆転ファイトだーっ!!』

 

 ピンチをチャンスに。称賛の言葉が実況から聞こえてくる。

 

 一方、観戦するバッファローマンはうろたえていた。

 相手の動きを読み切り、真正面からフィジカルにて蹂躙する。

 あの戦い方は、まるで――完璧・漆式(パーフェクト・セブンス)ガンマンそのものではないか。

 

 体に染み付いたファイトスタイルはそう簡単には変わらない。火事場のクソ力によるものだとするなら、相当な無茶をし続けている。

 ……荒々しい扱いに身体は耐えられず、いつか限界がやってくるだろう。

 

「どうかこのまま勝ってくれ……!」

 

 バッファローマンの祈りは男たちの攻防の音にかき消される。

 サマルはザ・ワンを押し倒したまま寝技に持ち込もうとしたが神の9999万パワーにより振り解かれた。

 だが、接触の時間は十分だ。既に彼の鎧は磁力を帯びている。

 

「マグネティカボンバー!」

 

 引き合う磁力の勢いで威力を増したラリアットにより調和の神はコーナーポストとサンドイッチにされ、大音量が響いた。

 

「その身に宿した力、そして火事場のクソ力」

 

 何度も攻撃を与えたが、未だ決着はつかない。ザ・ワンと手四つに組み合ったサマルはリング中央へ押し戻される。

 

「宇宙を滅ぼす力を振りかざし、お前は何を望む!」

 

 強い語調の問いかけ。ぎちり、と力が強まる。

 

「確かに一つは危険だとしても、火事場のクソ力は超人の可能性そのものだ――だからこそ、ザ・マンも認めた可能性を! 貴方へと見せたい!」

 

 数値だけを見ればあり得るはずのない拮抗。

 

 友情の磁気波による強化をしたときと同じく再び黄金色に発光し始めたサマル。

 目を奪うような煌めきと接触しているためわかりにくいが、よくよく見れば気付けたことだろう。

 

 ぼんやりとザ・ワンの手のひらも光り始めている……つまり、光が伝播していることに。

 

 ――サマルが初めて火事場のクソ力を発露した際、正体に気付けるものがいなかったため、十全に使いこなすことはできなかった。

 が、同一であると認識してからは早かった。どう使うのか。何が必要か。転生者のため知っている知識を全て使い、自在に発動できるようになった。

 

 

 キン肉マンを中心に超人界へ広がったそれが今――最大の敵として立ちはだかる神の一人へと届いた。

 

 

「この力は……!?」

 

 ザ・ワンのうちに湧き上がる感情。

 それは恐怖。

 

 宇宙を揺るがす力として敵視していた火事場のクソ力が自身にも影響を与えたからか? 縁もゆかりもない友情パワーに巻き込まれたからか? どれも正解だが、正確ではない。

 

 三段階目である『敵のために出す力』の対象となり、友情を起因とする火事場のクソ力の真実について真に理解したが故の恐怖だった。

 

 こちらは全力で殺すべく一撃を放っているのに、何故、そんなことが出来る。何故、こちらを信用し切っている。

 慈悲の神からの言葉があったのか? ……違うだろう。やつはそんな事をする男ではない。

 

 サマル……この超人は異常だ。前もって神々が下天してきた真の理由が分かっていた、としか思えない。

 

 そうだとすれば、なんと恐ろしく……また、悲しき者であろうか。調和を望みながら混沌をもたらす者、と過去に評価したがそれを訂正しよう。

 この男は生まれついてのはぐれものだ。異物、完全に馴染むことはない。故に世が掻き乱され、結果として混沌が生じた。

 

 彼の行動の根幹とは、異物である彼を受け入れてくれた世界に向けた返礼なのだ。生じたのが堕落の知識による発明であっても、願っていたのは邪悪ではない。

 

 それは、この世界を愛するが故に。

 その視座は、きっと神に相応しいもので。

 

 試合中別のことを考えてしまったが故に隙が生まれたザ・ワン。このチャンスを逃すわけにはいかないとサマルは自身より体躯に恵まれた神を担ぎ持ち上げ、跳躍する。

 

 繰り出す必殺技はプリンス・カメハメが編み出した殺人技の一つ。元の名前は五所蹂躙絡みであったが、使い手であるキン肉マンにより相応しいよう改名して披露された。

 

 その名は――キン肉バスター。

 

「アアアアァア――!!」

 

「なっ、ここでキン肉バスターを!?」

 

 弱点も多く、6を9にするキン肉バスター返しが確立されている。完璧超人が使うにしてはおかしい――そうバッファローマンが思っていたのも束の間。

 落下を開始した必殺技によりザ・ワンへと異常なGがかかり、まるでヨットの帆が風で膨らむように胴体が反りだす。

 

『これは一体!? ただのキン肉バスターではないのでしょうか!?』

 

 アロガント・スパーク、キン肉族局中秘伝 罵苦怒髏投(バックドロップ)に見られる現象が発生していた。このままであれば内臓、骨への衝撃も加わり威力は倍増したキン肉バスターとして完成するだろう。

 

 極まればどんな超人でも一撃で屠れる必殺技は――、

 

「ァアぅ、ぐぁっ……………!」

 

 ――成りきれなかった。

 

 光は消え、握力は薄れ、必殺技は空中分解。

 ……残念ながら時間切れだ。

 

「これで終わりか? ならば、こちらも応えよう」

 

 腕を掴まれる。

 抵抗できる力は無かった。

 

 互いの上下は反転し、身体は聖なる杖に貫かれる。

 十字架へと磔刑にされた罪人のように。

 

「ハルモニアデストラクション!」

 

 繰り出されたのはザ・ワン最大の必殺技。

 地上へ落下すると同時にサマルの頭部はザ・ワンの膝へと叩きつけられた。

 

「ゴハァッ…………!」

 

 マットに赤い血の花が開く。

 ダウンカウント……その必要はなさそうだ。

 力の抜けた手はピクリとも動かない。

 

 外にいたハラボテ・マッスルとノックは苦しげな顔をしつつも判断は正確だった。槌を振り上げ、下ろす。

 ゴングが何度も鳴る。試合終了の合図だ。

 

 この試合は誰が勝ったのか? それは最後に立っている一人の男のみ。

 

『ま……まさか、連戦でありながらまたしても勝利! これが神の実力!』

 

 信じられない、信じたくない、そんな思いと視線が中継映像に集まっていく。

 観客のざわつきを意に介さず、神は動く。

 

「貴様の覚悟、確かに見せてもらった」

 

「やめろ!!」

 

 倒れたサマルに手を伸ばす。

 その姿は力尽きたサマルへとトドメを刺すようにしか見えず、バッファローマンが怒鳴るのも仕方のないことだった。

 痛む体を引きずるようにして向かうが間に合わない。

 

「オレはどうなってもいい、だからその人だけは……!」

 

 懇願が効いた様子は見られなかった。

 しかし、調和の神はサマルの手を掴み引き上げ、彼の体を起こした。

 

「ハハ、ギリギリ赤点は回避できたってところ……ガフッ、カフッ」

 

 意識が戻ったサマルは口の端から血を流し、咳き込む。

 

「馬鹿なことを言うな。……文句無しの合格だ。試合に負けて勝負に勝つ、とはまさにこの事よな」

 

「さあ、なんの話だか……」

 

 知らんぷりをしているが今回の試合にてサマルが勝ちとして設定したのは超人の価値を見せること。神々が危険視する火事場のクソ力を正しく認めさせることが第一だった。

 

 時間超人の力を使ってなりふり構わず勝ちを取りに行くこともできたが、それをしなかった。

 さらにはこの世を思う超神へ友情を抱き、世界の破滅を目論む時間超人へ決して堕ちることはない、と刻の神との繋がりを命懸けで否定した。

 ……これほどの決意を見せられたのなら天界に残る神々も文句は言えまい。

 

「ラプラス!」

 

 ザ・ワンの呼びかけにより怪鳥が舞い降りる。

 向かうはバベルの塔の頂上。本来の歴史にはいない一人を加え、怪鳥は羽ばたいていった。

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