だいぶ昔に読んだ原作8巻くらいまでの知識と読ませてもらった二次創作の知識オンリーなので多分原作乖離過多だと思いますので、ご了承よろしくお願い致します。
清々しい朝だった。
空には雲ひとつなくて、見渡す限り真っ青の気持ちいいほどの晴天だった。
ちょうど物資が足りなくなって来ていたし、こんな日にダンジョンに潜るのは勿体無いと思い俺は久し振りに街を見て回った。
足りない物資を買い、バカ高い武器や防具を冷やかしながら時間を潰してジャガ丸くんを食べてる所だった。
「あっ、ジンさん!」
「よっ・・・」
振り向くとそこにいたのはベル・クラネルだった。
俺とベルとの出会いはダンジョンの中だ。まだ駆け出しだったベルをたまたま助けたのがきっかけだった。それから、先輩と言うこともあってかダンジョンに関する色々な事を教えたしパーティーも組んだ。
まあ、その後すぐにレベルを越されて先輩ヅラが出来なくなり、今や世界最速記録レコードホルダーという記録を持っているまさしくトキの人と呼ぶに相応しい少年である。
ここまで長々と説明したがそんな事はどうでもいい。問題はベルの横に立っている少女だ。
少女は早足で近づいてくるとそのままタックルしてきた。
俺がレベル5の突進を受け止めるわけがなく、そのまま押し倒されてしまった。
「いってぇな」
「ジャガ丸くん」
俺の食べかけを奪い、少女アイズ・ヴァレンシュタインは頬張りながら屋台に指を刺した。
「えー!ジンさんってロキファミリアだったんですか!!」
頭にハテナマーク浮かべていたベルに説明をするとテンプレートの言葉が返ってきた。
「まあ、俺は名前だけ登録してる何ちゃってみたいなもんだよ」
「うん、ジンは何ちゃって」
人に言われると物凄くムカついてくる。
「てかさ、何でお前俺のジャガ丸くん食べてんの返せよ。しかも奢らせてるし。お前の方が稼いでるんだから普通逆じゃない?」
「お前の物は俺の物ってジンが教えてくれたからセーフ」
「アウトだよ。どこのジャイアニストだお前」
アイズは両手に持っているジャガ丸くんを幸せそうな顔して頬張っている。
「ジャガ丸くんそんなに食べると太るぞ」
「…大丈夫。いつもその分動いているから」
「なら、そんなに食べると夕飯食えなくなってリヴェリアに怒られるぞ」
俺の一言でアイズは止まり、持っているジャガ丸くん差し出してきた。
「なら返す」
「いや返すって、それ元々俺のですから。てか、俺が買ったのそっちだし」
半分も残ってないジャガ丸くんを一口で食べると立ち上がった。
「悪かったなベル。二人の邪魔をして」
「いえ、僕は別に大丈夫です」
去ろうとするとアイズが服の裾を掴んできた。
「ファミリアに帰ってこないの?」
「ああ。悪いな」
それだけ言い残すと俺はその場を去っていった。
今日の稼ぎは少なかった。モンスターの出が悪いのか、たまたまモンスターと接敵しなかったのか、取り敢えず今日の儲けは少なかった。いや、諸々の掛かった費用を引いたら赤字であろう。そんなタダでさえキツキツのお財布事情に火が燃えようとしているのに何故俺が食事処でテーブルなんて囲んでいるのかと言うと、全ては横に座る少女のせいだ。
「なあ、アイズ。何で俺はお前と飯を食おうとしてるの?」
「私がジンと食べたいから」
理由になってねぇよ、と言う声は心の中に留めておく事にした。
コトンとアイズは頭を俺の肩に乗せて、身体を預けてきた。
「こうして2人で食べるの久しぶりだね」
「つい最近ジャガ丸くん食べただろ」
「ちゃんとしたこういうところで」
「そんな事は言ったらいつも食べてた所もいつもホームだろ。ちゃんとしているのかと言うと疑問だぞ」
「…ねえ、私はーーー」
「飯が来たぞ」
そこから先の言葉は聞きたくなかった。
料理を食べて食事処から出てアイズのホームである黄昏の館を目指し歩く。
しばらく歩くと黄昏の館が目に入った。この辺りでも一際大きいホームからは微かに声が聞こえてくる。
「ほら、着いたぞ」
そう言い、繋いでる手を離させようとするが一向に離す気がない。
「…私はジンと一緒にいたい。ジンの側にいたい。だから、ジンも帰ろ。ホームに」
アイズはさらに言葉を続ける。
「この一年、ジンが側にいなくて寂しかった。ロキもリヴェリアもフィンもガレスもティオナもティオネもレフィーヤもベートも皆んな側にいたけど寂しくていつも1人で慰めてた。だから、ホームに帰ろ」
アイズは俺の唇に軽くキスをしてくる。
「ごめんな、アイズ。あの日お前の事を抱いてごめん。何の覚悟も度胸もないのにお前の初めてを奪って、弄んでごめん。だから許してくれ。もうこれ以上、お前を直視させないでくれ」
輝いて見えた。
最初は俺と同じ所にいたはずなのに、気がつくとアイズは2歩3歩と足速に歩みを進めていた。そんなアイズを見るのが辛かった。アイズだけじゃない。ティオネもティオナもベートもおんなじスタートだったはずなのに、気がつくと順調に歩みを進めているのに俺は未だにスタートラインにいる。その事実に何度も枕を濡らした。その現実に何度も打ちひしがれた。そして俺はホームから、ロキファミリアから、アイズから逃げた。
「嫌だ。そんなの嫌だ。私はジンの側にいたい。私はジンと一緒に寝て起きてご飯食べて買い物をしたい。苦しくても辛くてもジンと一緒に楽しいを共有したい。だから、ジンが帰らないなら私も帰らない。お願い、一緒にいさせて」
先ほどよりも強くアイズは俺を求めて身体をくっつける。
「ジンはどうしたいの?私はジンの物だよ?」
「俺だって、お前の事が大好きだよ。この一年は眠っても朝起きても寂しくていつもあの日の夜を思い出してた。いつもお前を思い描いてたよ」
「なら、一緒にいよ。今日はホームに帰りたくないから」
アイズのその言葉を皮切りに、2人は加速度的に熱を上げた。
その日、アイズがホームに帰ることはなかった。
あの日アイズを自分が寝床にしている部屋に連れて行き 二人して激しく盛った。
朝を迎えても抱き合い気力を使い切って眠りにつく頃には1日がすぎていた。
その事に目が覚めてから気づいてしまった。俺、避妊もロクにしないでやってたんだよな。しかも、アイズと。
ふと横を見ると満ち足りた表情で眠りにつく少女が一人。その顔を見ると今まで考えてた事がどうでも良くなってしまう。
「本当にこれで良いのかよアイズ」
眠りつく少女に尋ねるが突然返答なんかあるわけがなく、帰ってくるのは寝息だけだった。
「取り敢えず飯を食べに行くか」
リヴェリアは街を歩き回っていた。というか、アイズを探し回っている。
アイズが2日前にダンジョンに行ってからホームに帰ってきてないのである。
最初の1日はダンジョンに行ったと言うこともあって帰ってきたら説教だと考えながらホームで待てた。だが、1日経っても帰ってくる気配がない。これは流石に堪忍袋の尾が切れてしまい。リヴェリアが自身で探し始めた。
探し始めてからかれこれ5時間程が経過した時についに見つけた。
街外れにある芝生が生い茂る公園で長い金髪をたなびかせている少女が座っているのが見えた。
「アイズ!」
リヴェリアは声を挙げて勇足で近づいていった。
アイズが公園でジンの事を膝枕しながら寝顔を楽しんでいる時のことだった。
「アイズ!」
背後から怒気を孕ませた聞き覚えのある声を聞いて振り向くとそこにいたのはリヴェリアだった。
「り、リヴェリア」
「アイズ、2日もホームに帰って来ずに一体何を…それはジンか?」
リヴェリアはジンの寝顔を見て呆気に取られるながら訪ねてきた。
「うん。今ちょうど深く眠ったから大きな声を出さないで」
「えっ、ああ。それはすまない」
リヴェリアは少し困惑しながら話を続けた。
「この2日ホームに帰って来なかった理由はジンの所に居たからか?」
「うん、ジンの側にいたかった」
「にしても、ジンは未だにこの街から出て行ってなかったか。私も去年探したが何処にいた?」
「別に変な所にはいなかったよ。普通に冒険者をしていてダンジョンに潜っていたらしいから」
「この1年間更新もせずにダンジョンに潜っていたということか」
「うん、そうみたい。それに今のジンの部屋のベッドが物凄く硬くて安眠が出来てる寝顔じゃなかった。それなのにジンはいつも下になってくれた。硬くて大変な筈なのに私の事を気遣ってくれた」
アイズはジンの顔を撫でながら話をする。その姿がリヴェリアには母のように見えた。
「……どうした、アイズ」
「おはようジン」
「膝枕されてよく寝ていたなジン」
覚醒しない意識でも声が一人分多い事に気づいてもう一人の方、リヴェリアを見る。
「リヴェリア⁉︎」
ジンは一瞬で意識を覚醒させて飛び起きる。その挙動にアイズとリヴェリアはクスッと笑みを溢した。
「何で、てかどうしてここに?」
「アイズを探しにきたんだ。全く2日もホームに帰らずに。ロキ何て部屋中を歩き回っていたぞ」
「その事に関しては本当に申し訳ないと思っています」
芝生の上でジンはすぐさま正座した。
「私はアイズに言っているんだからな」
「はい、ごめんなさい」
アイズも続けざまに正座する。
リヴェリアは「全くこいつらは」と頭を少し抱え、話題を移す。
「それで、これからどうするつもりだ」
真剣な眼差しでリヴェリアはジンを見つめる。ジンもまた真剣な眼差しで見返す。
「当然責任は取るつもりだし、おいおいファミリアにも顔を出すつもりだ。出て行けと言われるかもしれないがそれも覚悟の内だ」
「そこまで分かっているなら私は何も言わんが、いつロキに言うつもりだ。私は早い方が、なんなら今日した方がいいとすら思うのだが?」
リヴェリアの言葉にジンは固まり、伸ばしていた背筋を丸める。
「やっぱ今日かー。ちょっと今日はあれじゃん。あの心の準備とかその他色々あるからさ、また後日という事には…」
「そんな事言ってたら一生行かないだろ」
「そうだよ。ジンは色んなこと先延ばしにするから。私も一緒に居るから」
ジンも流石にそこまで言われてたら引くわけにも行かずに覚悟を決めた。
「1発殴られる覚悟もしておくか」
そうしてジンは1年振りにロキファミリアのホーム、黄昏の館に帰宅して、1年振りに帰ってきた事にロキを驚かせて、更にアイズと付き合い始めた事を伝えるとロキは倒れて失神した。
「こんなロキ初めて見た」
「それほど驚いたという事だろう」
アイズとリヴェリアはベッドに横たわるロキを見ながらジンはフィンとガレスに問いただされている。
「一年前何も言わずに出て行った君は、今度あろう事か我らの主力戦力も引き抜こうとしているのかい?」
フィンのその言葉にアイズが反応した。
「それは違う。別にジンと私はファミリアを抜けるつもりはない」
「確かにそうなのかもしれない。けれど、いつかは結婚して子供を作り所帯を持つ。アイズもいつしか剣を手放すだろうし、ジンも冒険者を止めてより安定した収入を求めるかもしれない。僕は今までそういった冒険者をたくさん見てきた」
「それはつまり、アイズに結婚するなと言っているのか?」
リヴェリアは鋭い目つきフィンを見つめる。フィンは首を横に振り鋭い目つきをいなした。
「そういう訳じゃない。アイズも女性だ。いつかは恋人を作るし、結婚もする。これは全ての女性冒険者がそうであり、僕たち男性冒険者にも訪れるものだ。もちろんリヴェリアにもいつかは来ると思っているよ」
「なっ、私は別にっ!―――なら、一体何が問題だというんだ?」
「相手が俺であるという事ですよね、団長?」
ジンの言葉にフィンは静かにうなずく。
「どういうこと?」
アイズは首をかしげる。
「俺はこの一年間ロキファミリアに居なかった。つまり俺はこのファミリアから脱退したも同じ事だったんだ。そんな奴が急に戻ってきたと思ったらこのファミリアの看板冒険者と付き合うと言い出したんだ。そんなの団長として認められる訳が無い」
「その通り。しかも君はこの一年間団員が課すべき義務を何一つやっていなかった。これを見逃せばファミリアの規律に、敷いてはロキファミリアの沽券に関わる。このファミリアを預かる団長としては見逃すことは出来ない。そして、なにより君はレベル1だ。確かにこの一年間君はダンジョンに潜っていた。当然ステイタスも上がり、もしかしたらレベルも上がっているのかもしれない。けれど、それは所詮1か2だ。レベル5の冒険者を手放すデメリットには釣り合っていない」
それはそうだ、とジンは苦笑する。ジン自身も言われるだろうなとは思っていた。同じ選択を強いられたら誰だってこういう判断をするのは当たり前だ。
ジンはアイズを見る。色が白く、線が細い金髪碧眼の見目麗しい少女。こんなエルフにも神にも勝る美貌をもつ少女をついさっきまで抱いていたと思うとにやけてしまう。
「団長の言葉はよくわかる。言われると思っていた。けれども、俺はもう責任を持つとアイズに誓ったんだ。だから、どうかもう一度俺をロキファミリアの一員に入れてください」
ジンは静かに頭を下げた。
「フィン、お願いします」
アイズも続いて頭を下げた。
「私からも、頼むフィン」
リヴェリアもまた頭を下げた。
フィンは深く息を吐いた。ジンにとってその間が心臓を直接殴ってきたように思えた。
「なら、ロキファミリアの団長としてジンには一年間のファミリアに支払う税を2倍に、そして黄昏の館内での作業義務を半年間命ずる。また、税に関してはアイズも一年間2倍だ。連帯責任として受け取ってくれ」
その言葉に一同は顔を上げる。
「いいのか団長」
「僕個人としては君が戻ってきたことは歓迎すべきことだと思っているし、アイズとのことも祝う事だと思っているけど」
「まあ、そういう事だな。アイズもジンも頑張れよ!」
ガハハハッ、と大声で笑いながらガレスは言う。
「よかったねジン」
「ごめんな、迷惑をかけるようになって」
「いいよこんなの別に」
ジンはアイズの手を握りアイズもジンの手を握り返す。
5人がそれぞれ円満に解決したと思った時、一つの言葉が場に響き渡った。
「ウチは反対や」
5人がそれぞれ声を発した1神の方を振り向く。
「目が覚めたのかロキ」
「覚めたで。もう、これでもかというほどに大覚醒や。ジン、アイズたんを恋人にしたっちゅうのは嘘じゃないんやろな」
「ああ、俺はアイズの事を愛している。もう一生手を離さない」
ジンの言葉にロキは思いっきり立ち上がり指を刺した。
「認めんでっ!ウチの目が黒い内はアイズたんを嫁にはやらんでっ!」
「はい、それじゃあアイズとの事はともかくジンが帰ってきたことをファミリアの全員に伝えるから、ガレスとリヴェリアは今ファミリア内にいるメンバーを食堂に集めて」
「えっ、ちょいまちっ……」
「とりあえず、僕たちも食堂に向かおうか」
それぞれが立ち上がり部屋から出ていった。
「無視かいな。ウチこのファミリアの主神なんやけど……」
ロキの言葉に返答するものは誰もいなかった。
「あー疲れた」
「うん、疲れた」
俺は一年ぶりに自分の部屋に入るとベッドにダイブした。あー、ベッドやわらけー。
ベッドの上で横になっていると滑り込むようにアイズが入ってくる。
あの後、食堂でファミリアの面々に挨拶をした後、そのまま男性衆の手によって宴会と化していた。
「……ねえ、ジンは本当に帰ってきてよかったの?」
食堂から微かに聞こえてくる騒ぎ声を聞き流しながらアイズの金髪を梳く。
「よかったんだよ。いつかはどういう形にしろケジメをつけなきゃいけない問題だったしな。むしろ、本当に俺とでいいのか?」
「うん、ジンとがよかったから」
アイズはそういうとさらにくっついてきた。
アイズヴァレンシュタインという少女にとってジンという少年が最初は嫌いだった。ダンジョンに行くにも、何処か行くにもついてきて鬱陶しかった。
そんな時、アイズがレベル2に上がってしばらくが経ったとき少年の両親がダンジョンで亡くなった。色々な人が残念だと言ったが、二言目には冒険者ならよくあることだと続けた。最初はアイズ自身何も思わなかった。他人事だと幼心に思った。これで静かになるだろうと。
けれども、少年は泣いていなかった。両親の死に、少年は泣きも喚きもせずに淡々と処理していた。
「ねえ、どうして悲しくないの?」
「別に悲しくないわけじゃないが、泣いて喚いたところで俺がやることが変わるわけじゃないだろ」
その言葉がその姿、アイズにとって輝いてカッコよく見えた。不覚にもこれがアイズ・ヴァレンシュタインという少女にとっての初恋だった。
俺がいつからアイズの事が好きだったのかというと多分出会った時からだろう。
幼心のままに一目惚れして初恋だった。
自分でもあっさりと恋に落ちていた。
最初は間違いなくウザがられていたのだろう。それでも、両親がダンジョンで亡くなった時、大人たちは一歩引いていたのにも関わらず、アイズだけが近づいてきてくれた。そのことがただただ単純にうれしかった。
「ありがとな、アイズ。一緒に居てくれてありがとな」
眠り着く少女を見ながら窓から夜空を見上げる。
あの時も夜空から月は消えていた。