ChapterⅡ【神浜うわさファイル】
いろはが神浜市を訪れ、ウワサの調査を始めるようになってから数日が経った。
人をさらうウワサが、妹の失踪に関わっている。
メルの占いが提示したそれは、神浜で知り合った魔法少女であるかえでが『絶交階段のウワサ』に引き込まれ、ももこ達と共に退治したことで可能性の高い話となった。
いろはは新たなウワサの情報を得るべく、放課後に駅前での聞き込みを行ってみたのだが、一向に収穫は無かった。
「声を掛けるのも緊張しちゃって……ダメダメでした」
「あちゃ~、困りましたね」
調整屋を訪れ、意気消沈するいろはをメルが慰める。絶交階段のウワサによる騒動を通じて二人の仲はより深まっていた。
「半端な気持ちで関わろうとするからそうなるのよ」
「あっ、七海先輩」
調整のために訪れたやちよがいろはに手厳しい意見を投げる。
彼女は生半可な心持ちではウワサの餌食になるだけだという忠告を残し、さっさと店の奥に行ってしまった。
「……?」
「七海先輩は世話焼きですから。昔はボクやももこさんを含めて、五人チームのリーダーを務めていたんですよ」
「そうなんだ……」
そう誇らしげに語るメルだが、あの冷徹で孤高な姿からはちょっと想像できないいろはだった。
とはいえ、確かにウワサの討伐でも決して後輩たちを見放すことはなく、突っかかる態度のももこにも常に冷静な物言いで発破をかけていたあたり、頼れる存在であることに違いはない。メルを間に挟んで毒気を抜けば、きちんとリーダーとして振舞えるのかもしれない。
さて、やちよの忠告を受けたとして実際どう改めたものか。悩むいろはにみたまが助け船を出した。
「いろはちゃん、水名区にまで足を伸ばしてみたらどうかしら? あのあたりは神社の噂があったはずなのよ」
情報源として、水名区の学校である水名女学園の場所も教えてもらったのだが、ここで問題が一つ。
「むむ、水名女学園ですか……お手伝いしたいですが、ボクはちょっと厳しいかもしれません……」
「メルちゃんは大東だから、水名の子達とはちょっ~と相性が悪いのよ」
「いろはさんには関係ないことなんですけど、神浜市は大雑把に西と東で分けられるんです。それで、お互い昔から色々と対立してきた歴史がありまして。流石にボクたち世代だとそこまでガッツリってほどではないんですが、水名に大東の生徒が行くのは緊張感があるです」
大分オブラートに包んだ表現をしながら、メルはちらちらとみたまの顔を伺う。微笑みを絶やさないのが却って不気味である。
勿論、調整屋には水名に属する魔法少女たちも普通にやってくるので大げさに気にする話ではない。鏡の魔女を解決したことで当人の気持ちの整理も付いている。が、それはそれとしてデリケートな問題なので大分言葉を選んでいた。
「そうなんだ……」
「でもでも! ボクだってお役に立てることはあるです! いろはさんの力になってくれる人を知ってるですよ!!」
ということで、メルはその魔法少女を誘いに向かい、その間にいろはは水名の生徒たちに聞き込みを行うこととなった。
見事に交渉ロールを失敗したいろはが黄昏ていた頃、ようやくメルが合流した。
「君がいろはちゃんだね! うわさのことなら、この最強の魔法少女、由比鶴乃にお任せだーー!」
連れられてきたサイドテールの少女、由比鶴乃は兎にも角にも威勢の良い少女であった。
「メルから事情は聞いたよ! 妹さんを探してうわさを調べているんだって? それなら丁度いいうわさを知ってるよ!!」
鶴乃の口から語られたのは、口寄せ神社の噂。
会いたい人に会うことができるというそれはまさにいろはが求めていたうわさであった。
「私も探しているから、三人で一緒に調べよっか!!」
「はい、よろしくお願いします。由比さん!」
「っ、何で私の名前を!? まさか最強の魔法少女として名前が売れている……?」
「最初に名乗りましたよ!?」
「あっ、そうだったね」
「すみません。この先輩頼れるんですけど割とノリで動くんです」
割と辛辣な事を言うメル。
この程度の軽口はお互いにブーメランなので気にすることは無い。
そして翌日。
いろはたちは口寄せ神社の手がかりを得るため、手分けして調査することとなった。
各地の神社はフットワークの軽い鶴乃が担当し、いろはは非恋によって死に別れた男女が一時の間再開する昔話を辿る縁結びスタンプラリーを調べることにした。メルは道案内のサポートだ
「でもこれただの町おこしイベントだよね……?」
「いやいや! こういうものは案外馬鹿に出来ないんですよ! うわさっていうのはこういうジンクスがある場所によく出ると聞きます!」
聞いただけである。
「まあダメならダメで験担ぎってことにすればいいんですよ!」
「うん……そうだね」
というわけで、逢瀬をした路地裏に、南門通り、旧宅邸跡(水名女学園が建っている)と各地を巡っていく二人。
「そういえば、今日は私服なんだね」
「昨日も言いましたけど、水名の中で大東の制服は目立っちゃいますから」
「可愛い……」
「えへへ……実はこれ七海先輩から頂いたおさがりなんですよ」
「そうなの?」
「モデルのお仕事で色々貰ってきてまして……あ、ボクやももこ先輩も一度撮影させてもらったことがあるんですよ。その写真がこれです」
「それじゃあ……わぁ、ももこさんも鶴乃ちゃんも可愛い……!!」
「ここ、教会? 大きい……」
「水名教会です。それなりに有名なスポットでボクもたまにお世話になりますが……今回は関係ないのでまた今度です!」
「……結構歩くね……」
「昔の城壁とか残ってるせいで無駄に入り組んでいるんですよね……」
「……あれ? なんだかいい匂いがする」
「本当ですね……あれは、和菓子屋さんですね」
「この音、何か揚げてるのかな?」
「のぼりに揚げみたらし団子って書いてますね……あっ」
ぐぐう、と腹の虫が鳴る。いろはとメルは互いに顔を見合わせて苦笑した。
「折角だし、食べよっか」
「いいですね! すいませーん! このお団子ください」
「いらっしゃい。何本?」
「一本……いえ、二本でお願いします!!」
「じゃあ、私も」
「はは。お嬢ちゃんたちの年頃ならそれぐらい普通だね。今から揚げるからちょっと待っててね」
そうしていろは達が待っていると、店内の飲食スペースから誰かが歩いてきた。
「失礼」
「あ、すいません……」
「いえ、いえ。お二人で仲良く散歩ですかね? ここの菓子はどれも絶品ですよ。それでは店主、ご馳走様でした」
「いつもありがとうね」
恭しく礼をしたその客――深緑のドレスを纏った少女はそのまますたすたと歩き去っていった。
「……さっきの人、ガッツリキメてましたね……」
「うん。あんなにドレスを着こなしてる人初めてみたかも……」
「はい。揚げみたらしお待ち! 揚げたてだから気を付けてね!」
「おおっ、来ましたね! それでは食べましょういろはさん!」
「うん……」
「「美味しい~!」」
そこそこ余計な寄り道をしつつ、いろはは最後に水名大橋のスタンプを押した。
これで縁結びスポットの場所が分かる……といったところで問題が発生した。
「Aと、B……!?」
このスタンプラリーはA、Bの二つのルートが存在した。
かつて分かれた二人が再開するのに準えて、二人が別々の道を辿るという企画で、お互いの色紙を重ねることで最終地点が分かるという物であった。
二人いたのだから二手に分かれて巡れば解決だったのにと、完全に見落としてやっていなかったメルが頭を抱える。
「これならボクもやるべきでしたぁ~! すみません……」
「メルちゃんは悪くないよ……」
とはいえどうしたものか。
割と駄弁りながら歩いていたため、それなりに時間が経っていた。今から戻ってBルートを辿るには、流石に日が暮れてしまう。
途方に暮れるいろは達。そんな二人の耳に勢いのある声が飛び込んできた。
「最後の場所、ここだー!」
「これで縁結びスポットの場所がわかる……あれ? これAとBの二枚を重ねるって……」
「私たちの紙はBだけだね……」
声の方向を見ると、そこでは青色の髪を一つにまとめた少女と、緑色の髪で二つの団子を作った少女の二人組が項垂れていた。どうやら彼女たちもスタンプラリーの参加者のようである。
「……向こうの人たちも同じ間違いをしてますね」
「あっちがBで、私たちはA……それなら」
いろはは勇気を出して、二人組に声を掛ける。
「あの……すいません。よかったら私たちの紙、使いませんか?」
「え?」
「実は私たちも参加してるんですけど、Aだけだったので……」
「ああ、そういうこと……それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます。ほら、マツリもお礼」
「うん! ありがとう二人とも。マツリは日向
「私は詩音
青髪の少女――千里と緑髪の少女――茉莉はA用紙を受け取り、B用紙と重ね合わせた。
「あ、本当に地図になってる!」
「えっと……どこだろう?」
「ん~……あっ、分かりました!」
「メルちゃん、知ってるの?」
「はい、有名な場所ですから。というわけで皆さん、ボクについてきてください!」
メルの案内でたどり着いた水名神社では、景品として縁結びのお守りが配られていた。
「用紙は二枚だったから、お守りも二つだったね」
「ボクは大丈夫なので、いろはさんが貰ってください!」
「私も、マツリに譲るわ」
「ありがとうチサト!」
「ありがとう、メルちゃん」
こうしてスタンプラリーは終了した。
本当に願掛けのお守りを貰うだけのイベントだったが、決して無駄ではない行動だったといろはは思っていた。少なくともこうしてイベントになるぐらいには縁結びの噂が根付いている。それはつまり実際に神社のうわさも存在しているはず。手の中のお守りは決して願掛けだけではない、妹と再会できる自信を与えてくれているような気がした。ついでに言えば、友人と街を歩き回るというこれまでの人生で数少ない体験は素直に楽しかった。
そんな想いを抱いていると、千里と茉莉が何かを話し合っていた。
「それにしても……縁結びの神社だったけど」
「お目当ての噂話じゃなかったわね……」
「うん……でもきっと見つかるよ!」
いろははその会話の内容に思わず疑問を口にしていた。
「あの……もしかして、千里さん達も口寄せ神社のうわさを探しているんですか?」
「え?」
「いえ、その。会いたい人に会える神社のうわさを探しているような感じだったので……」
「もしかして、あなたも?」
「はい……実は、いなくなった妹を探しているんです」
「えぇっ!?」
「そうなんだ!? マツリと同じだね」
「……そのお話、もうちょっと聞かせてくれませんか?」
いろははこの二人の詳しい話を聞きたくなった。
本当になんとなくだが、目の前の少女が他人だとは思えなかったのだ。
「えーと、もしかしてお二人も誰かいなくなった人がいるんですか?」
「ええ。私はその、もののついでと言うか……会ってみたい人に会えればいいなぐらいの気持ちだったんだけど。マツリはもうちょっと別の事情があって」
「うん。マツリは探してるんだ。お姉ちゃん!」
「突拍子もない話だけど、これまでずっと一緒にいたはずのマツリの姉がいなくなっていたのよ」
「双子だから、見た目は私に似てると思うよ。神浜市にいたっていう話を聞いたから探しに来たんだ」
「私と同じだ……」
神浜市に突如として姿を消した姉妹の手がかりを求めてきた。そんな共通点を持った子がいたことにいろはは驚き、シンパシーを抱いていた疑問が氷解した。自分の一部と呼べるほどの身内を探し求める眼をしていたからだ。
『こんな偶然があるんですね……』
『どうしよう。マツリちゃんのお姉さんもうわさが関わっているのかな……』
『わかりません。でもうわさの事を迂闊に教えるわけにはいかないですよ』
メルと念話で話し合う。
うわさについて教えてあげたい。けれど、うわさは危険だ。口寄せ神社のうわさも同じように襲い掛かって来ることがあるかもしれず、そんな事に一般人の二人を巻き込むわけにはいかなかった。
悩んだ末、メルが話題を少し変えることにした。
「千里さんの方は誰を探しているんですか?」
「え? ……うーんと、有名人ってわけじゃないんだけど。一部では有名な人だけど……」
「紺染音子って人だよね。教会に行ったけどいなかったんだ。もしかしたらお姉ちゃんの事を知ってるかもしれないってキュゥちゃんが言ってたから」
「えっと……知らないです」
いろはには聞き覚えのない名前だったが、メルは驚愕に目を見開く。
「そうですよね。流石に知らないか……」
「音子さん……ってことはお二人とも、もしかして魔法少女ですか!?」
次から次へと更新されていく事実に、さっきから驚きっぱなしのいろは。
茉莉も目を白黒させており、千里が手を上げて切り出した。
「……ちょっと別のところで落ち着いて話しましょう」
・日向茉莉
外伝『すずね☆マギカ』のキーパーソン
彼女たちが神浜に来た経緯の詳細は次回
ウズメと宴と葛葉のイラストを更新しました。
流石にここに全て載せるのは圧迫するので表紙に置いてあります。
以下、後付けの余談
Q.クレセントメモリアで魔女化を一時停止できる状態が判明したけどその時につばめが『反魂』を使うとどうなるのか。
A.適性がない99%が魔女化するか蘇生しても内包する魔女の側面に侵食されて発狂する。(ドッペル症と同様のもの)。さらにそこから数年規模で自我を保てるのは数えるほどもない。屍人化とは10000人に1人ぐらいでしか起こり得ない現象といえる。魔法少女の真実を知って魔女化するぐらいの心の弱さだとまず無理。